メビック発のコラボレーション事例の紹介

兄妹の個性あふれる「マチオモイ」が偶然を呼んだ日本と台南市、二つの国をめぐる物語
台南市観光プロモーションイラスト

イラスト

街の魅力がぎっしり詰まった躍動感とシズル感たっぷりの「台南帖」を制作

イラストレーターのヤマサキタツヤ氏と妹のハナコ氏。二人の兄妹に巻き起こる二つの国をめぐる物語は、2014年2月からメビック扇町を中心に行われた「わたしのマチオモイ帖」展をきっかけに始まった。「偶然が偶然を呼んだかのようなドラマチックな展開でした」と語る兄のタツヤ氏は、イラストレーターとして大阪を拠点に活動。画面からあふれ出すようなエネルギッシュなイラストと手描き文字を持ち味に、街ネタや旅紀行などを中心に活動してきた。一方、妹のハナコ氏は、台湾に本店を持つマンゴーかき氷店の大阪支店でアルバイト。そこで働く現地の人たちとの交流の中で台湾に興味を持ち、2012年から一年間、台湾へワーキングホリデーに出かけた。滞在したのは主に南部の街、台南市。物語はその台南市を舞台にはじまる。

小冊子
2014年「わたしのマチオモイ帖」展、「台南帖」から生まれた小冊子。台南のエネルギッシュな街の様子が紹介されている。ヤマサキ氏独特の視点も新鮮で、読み物としても楽しめる。

「ハナコが台湾にいるとは聞いていましたが、私は特に台湾に興味がありませんでした。ところがある日、母親から『ハナコの様子を見に行ってきて』と言われたんです。2013年10月のこと。それが僕と台南との出逢いでした」と語るタツヤ氏。母親からの頼みでなんとなく出かけたという台南は、古い建物が多く、雑多な印象。しかしそこでの5日間は、タツヤ氏をすっかり魅了した。「街全体が古めかしくて何もない。はじめは早く帰りたいと思ったほどでした。けれど過ごしてみると物価が安く、食べ物はおいしく、気候がいい。そして何よりも人がめちゃめちゃ親切。帰る頃にはすっかり台南が好きになっていました」。歩くほどに街や人の暮らしの奥深さ、魅力に気づき、持って行ったクロッキー帳がスケッチでいっぱいになったというタツヤ氏。台北に比べるとまだまだ知名度が低い台南の魅力を多くの人に伝えたい。そんな気持ちで帰国後、台南での体験を持ち味のイラストと手描き文字で表現した。それを2014年の「わたしのマチオモイ帖」展に向けて「台南帖」として制作。台南事情に詳しいハナコ氏が監修として関わった。タツヤ氏は、仕上がった「台南帖」をなにげなく自身のFacebookに投稿。それを見たハナコ氏は自身のFacebookに兄の投稿をシェアした。物語はここから急展開する。

イラスト

「台南帖」から生まれた国と国、人と人のつながり
二つの国をめぐる物語はさらに続く

ガイドブック
小冊子と同時進行で制作していたガイドブック。なんと台南滞在中に、出版社から「本のネタを探している」との問い合わせが。「なんやこの偶然は!と思いました。そこから生まれた本です」とタツヤ氏。

「その投稿が、台南市政府に勤める友人の目にとまって、観光プロモーションに使いたいと言われたんです。日本人から見た台南という視点が、新鮮に感じられたんでしょうね。そこで観光冊子用に、少し改訂をしてお渡ししました」というハナコ氏。台南は17世紀清朝時代初期に首府として栄えた街。由緒ある建物や史跡が今も多く残る。観光事業に力を入れる台南市長の意向もあり、「台南帖」は現地でも大変喜ばれ、制作発表記者会見まで行われたという。現在冊子は台湾の観光拠点におかれているほか、日本では東京・大阪の台湾観光協会事務所などでも配布中だ。

ポスター
大阪市営地下鉄構内に掲示される、台湾観光協会大阪支部のポスター。これも「偶然の縁から制作することになった」という。大阪ホワイティうめだの台湾観光宣伝電照看板にも採用。

「台南帖」だけにとどまらず、最初の渡航をきっかけに、台南の旅行ガイドブックを同時進行で制作していたという二人。さらに観光PRポスター、改訂版冊子の制作依頼など、国と国、人と人の輪は広がる。「なんとなく出かけた旅行がこんなことになるとは…」とタツヤ氏。二人が語る「不思議な偶然」。それは単なる偶然ではなく、日々真摯に制作に取り組むタツヤ氏と、人とのつながりを大切にするハナコ氏だからこそ、つながり続けた輪なのだろう。これから二人は物語をどのように描くのか、続きを見てみたい。

ヤマサキハナコ氏、ヤマサキタツヤ氏、頼清徳氏、台南市政府職員
小冊子の出版を記念して開かれた制作発表記者会見にて。左から、ヤマサキハナコ氏、ヤマサキタツヤ氏、台南市長・頼清徳氏、台南市政府職員。

ヤマサキタツヤイラストレーション

ヤマサキタツヤ氏

http://www.yamasakki.com/

台湾観光協会 大阪事務所

https://jp.taiwan.net.tw/

公開:2015年5月25日(月)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。