メビック発のコラボレーション事例の紹介

「デザインマルシェ」で新たな時代を生きるための品物や知恵を示したい。
デザインマルシェ

樋口寛人氏、鈴木信輔氏、清水柾行氏、浅野由裕氏
左から樋口寛人氏、鈴木信輔氏、清水柾行氏、浅野由裕氏

現場のライブ感と自由な発想を大切に、みんなでつくりあげた3日間だった。

「品物や知恵をトレードする」を合言葉に、2013年の11月29日から3日間、南港ATCのハーバーアトリウムで開催された「デザインマルシェ」。大阪デザイン振興プラザが主催するデザインイベントである。各界で活躍中のクリエイターがデザインの切り口を語るトークイベント「知恵マルシェ」と、デザインにこだわりのある品物がずらりと並ぶ雑貨市「品物マルシェ」の2パートから成る大型イベントで、3日間で約2000人以上を動員した。プロデューサーとして運営の中心となったのは、デザイン会社「青空」の清水柾行氏。そして、大阪発のクリエイティブなものやことを紹介するフリーペーパー「SUPER:」の編集長をつとめていた浅野由裕氏。さらに、フライヤーやポスターなどのビジュアル面は、アートユニット「トンネル」としてユニークな活動を展開するデザイナーの鈴木信輔氏と樋口寛人氏が担当。「メビック扇町」を通して実際に活動内容や人となりを知っているクリエイターに人脈や繋がりがあったことが、スタッフや出店者を集める際にも力を発揮した。
「今、市場にあるものとは違う考え方でつくられたものを、つくった本人が、お客さんと直接コミュニケーションしながら伝えていく、っていうのが基本。こういう市場みたいなものって、やっぱりその人自身が本当に楽しみながらやらないと、いい空気感が出ないと思うんです」(清水氏)

デザインマルシェ風景

そしてイベント全体のイメージを決定付け、アイキャッチとしてひときわ目を魅いたのは、「トンネル」の2人が提案した赤×白のストライプだった。
「ストライプには可愛らしさもあるけど、強さもあって。会期中はもちろん、1年経った後でもこのイメージを思い出してもらえたらと」(鈴木氏)
運営側としては初めての試みゆえ、会場のスケール感がなかなかつかめず、集客面での不安も大きかったという。告知をする時間がほとんどなかったこともあり、大阪市営地下鉄に協力を得てフライヤーを置かせてもらったり、スタッフや出店者同士でFacebookの情報をシェア。さらに、買い物や食事に来たお客さまを誘導するため、ひとつずつデザインの異なる28連ポスターもつくり、トレードセンター前駅から会場に行く通路に掲示するなどの工夫も。
「こんなのもあり、みたいなのが現場でどんどん増えていきました。たとえば各出店者さんのブースに青森から200個以上取り寄せたりんごの木箱を使ってもらったんですが、おもしろかったのは箱の並べ方とかも、皆さん勝手に崩し出すんです。りんご箱をテーブルにして、突然ワークショップをはじめたりとか。そういう自由な発想が、すごくお客さまに喜んでもらえて」(浅野氏)
「パラソルにガムテープでストライプ模様をつけたりとかも、出店者が自分なりにカスタマイズしてくれて。企画側がフォーマットをきっちりつくってその型にはめるんじゃなくて、現場感ってやっぱり、大切だなと思いましたね」(樋口氏)

デザインマルシェ風景
ガラス張りの天井から光が降り注ぐ、南港ATCの ハーバーアトリウムにて開催。
出店者のブースには青森から取り寄せたりんごの木箱を使い、どこか外国のマルシェを思わせる、可愛らしくセンスのある会場となった。

古き良き時代の公設市場のように、品物だけじゃない何かが得られる場に。

そして迎えた開催当日。「品物マルシェ」には約30組が参加し、手ぬぐい、ブローチ、木のおもちゃ、おにぎり……etcと多彩なラインナップに。一方、「知恵マルシェ」にはランドスケープデザイナーの山崎亮氏やCEMENT PRODUCE DESIGNの金谷勉氏などの顔ぶれが登場。清水氏がナビゲーター役をつとめ、リレートーク形式でそれぞれのデザインの切り口を提示していった。
「個人的に印象に残っているのは、山崎君との話に出てきた、『僕たちはいろんなことを、人に任せ過ぎていたんじゃないか』ってことですね。世の中の商品やサービス、全部人任せにしてきて、うまくいかないとクレーマーになってしまったり……。でもよく考えてみたら、今あたりまえにあるものって、昔はなかったものなんですよね。買い物するにしても、家の近くに小さい公設市場みたいなのがひとつだけあって、店のおじさんから『僕、大きくなったなあ』と声をかけられるところからはじまり、気のきいたパッケージがあるわけでもなく、新聞紙にくるんではいって渡して終わりみたいな。今は効率化がすすみすぎて、どんどん外のサービスに依存していって、みんなが生活者としての力を失いつつある。それを、自分の手に取り返していく、っていうのかな。そういう意味で、このマルシェはそこにいる人たちと生まれる会話とか、その場に漂う空気感含めてわくわくできる場をつくる、というのがテーマでもあって。僕の中でこのイベントのありようは、生活者としての原点に帰ることでもあり、なおかつちょっとだけ未来な感じもしてるんですよ」(清水氏)
なお、今年秋となる次回の開催ではフード、ワークショップをもっと充実させるほか、ミュージシャンによる生演奏や、イラストレーターによるライブペインティングなど新たな試みも考えているとか。
「あとはATCという場所柄、次はアジアなど海外の人にもぜひ来てもらいたいですね。僕としては大阪の新しいデザインを見てもらいたい、っていう気持ちがあります」(浅野氏)
企画の背景には、デザインに関わる人だけではなく、一般の人にもっとデザインに親しんでほしい、という思いがあったそう。デザインマルシェを通して見えてくるものは、デザインのためのデザイン、ではなく、すぐそばにいる誰かが笑顔になるデザイン。そんな場を意識することによって、デザイナーという仕事の領域や社会との関わり方も、少しずつ変わっていくかもしれない。

イベントフライヤー
赤×白のストライプでマルシェ感たっぷりのフライヤー。
フラッグとして会場内にディスプレイでき、商品をくるむ包装紙にもなる3wayデザイン。

mineral

グラフィックデザイナー
樋口寛人氏

http://www.mineraldo.com/

bold(ボールド)

グラフィックデザイナー
鈴木信輔氏

http://bold-d.jp/

青空株式会社

代表
清水柾行氏

https://www.aozora.cc/

株式会社ファイコム

代表取締役 社長
浅野由裕氏

https://www.faycom.net/

公開:2014年5月22日(木)
取材・文:野崎泉氏(underson

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。