メビック発のコラボレーション事例の紹介
新しい価値観や文化をもたらす「日本人のための乗馬スタイル」を求めて。
EQULIBERTA

未知なるジャンルを開拓し、業界のスタンダードをめざす。
伝統的なチェスの駒のような馬の頭部、その周りにアシンメトリーに配され躍動感いっぱいに舞うリボン。これは日本人のための乗馬スタイルを提案する、ワールドマーケットの荒木剛氏が立ち上げた、EQULIBERTA(エクリベルタ)のロゴ。ラテン語で馬を意味するEQU(I エクイ)と自由のLIBERTA(リベルタ)を合わせ、自分らしいスタイルで乗馬を楽しんで欲しい、との想いが込められている。作成したのはコージィデザインスタジオの佐藤浩二氏。
荒木氏はプラントメーカー勤務時に培った貿易に関する知識をいかし、06年に起業。家具や雑貨などの輸入卸を経て、趣味であった乗馬用品の独自取引ルートを開拓。08年から自社小売に着手し、“乗馬用品・馬具専門店ジョッパーズ”として急成長を果たした。そこから日本人のスタイルにフィットしたオリジナルをつくろうと思うまで、時間はかからなかった。スポーツウエアの世界は進化の連続だ。機能性を向上させる素材の開発、ファッション性を高め新規の層を取り込む努力など、メーカーが切磋琢磨して進化している。そんな中で独特のポジションにあるのが、乗馬の世界だ。現在、国産の乗馬用品は一部の高級品を除くと皆無に近い状態。数々の商品を見てきた荒木氏からすれば、自分たちで手がけた方がいいものをつくれる自信もあった。

モチーフとしてよく使われるリボンをアシンメトリーに配置することで、紋章を踏襲しながらもカジュアルな雰囲気を演出。
オリジナルブランド設立に向けた動きが始まる。大阪産業創造館のアパレル商社出身のコンサルタントに相談してメーカーを紹介してもらい、ものづくりの土台はできた。さらにメビック扇町を介して佐藤氏と出会い、冒頭のロゴ制作に至る。その後、ウェブサイトや販促物の制作から、ブランディングも依頼することになる。「最初にブランドへの想いをお話して、イメージをしっかり共有できたという手応えもありました。それと本当にまじめな方なので、安心してお任せできたんです」と荒木氏。
初心者が手に取りやすい価格帯でありながら、品質にこだわったコストパフォーマンスの高いものをつくりたい。そんな荒木氏の想いを受け、乗馬というスポーツが醸し出す伝統や格式は継承しつつ、上質なカジュアルさも併せ持つブランディングを進めた。まだどこも手がけていないジャンルで、きっちりとアナウンスすれば消費者に必ず響くと感じた佐藤氏。「ストレートに“日本人のための乗馬スタイル”を打ち出すことで、この業界のスタンダードになれるんじゃないか。そこに大きな魅力を感じました」。先述したように乗馬ウエアや用具の9割は輸入物。サイズが多少合わないものを身に付けることが、長く続いてきた。そこに体型にあった機能性の高いウエアや道具をつくることで、ジャストサイズの心地よさを啓蒙していく。それは新しい文化や価値観をつくることでもある。

スタッフみんなでコンセプトを明確に共有できる場も用意。
外部ブレーンとしてかたちラボの田中裕一氏の協力を得て、ブランドコンセプトは“STANDARD OF JOBA STYLE”に決定。アルファベットだけどあえて日本語読みの“JOBA”とすることで、日本人のための乗馬用品であることを打ち出した。日本人の体型にあったサイズ展開、使い勝手のよさを追求し、高温多湿な気候に対応するCOOL MAX素材の採用、家で洗濯可能な素材を使ったジャケット、ロングブーツを入れるキャリーバッグも、土がついたままでは鞄の中が汚れるので内袋を付けたり。日本人が商品に求める、きめ細やかな配慮が至る所になされている。

このコンセプトをまとめる際に、田中氏からの提案で社内スタッフ全員と外部の商品デザイナーも参加するワークショップを開いたという。「僕たちだけの判断で、価値観や方針を一方的にお見せするのではなくて、いい部分を実際に商品開発に携わってらっしゃる皆さんから、あえて言語化してもらうという作業を一緒にやっていただきました」。結果、それぞれのアイテムの良いところ悪いところ、ブランドの発信すべき方向と、そこに向かって何ができるのかも共有でき、社内のモチベーションも一気に高まった。現在、今春のブランドデビューに向けて、ウェブサイトとコンセプトや商品紹介用のイメージブックを同時進行で制作中、と最終段階に入っている。
将来について尋ねると荒木氏からは「大阪は乗馬が盛んな地域なので、大阪発の乗馬ブランドとして、さらに盛り上げていければ。それと2020年東京オリンピックでは馬術の代表選手に、エクリベルタをぜひ身につけて欲しいですね」と力強い言葉が返ってきた。「そのためにはできれば長いおつきあいをして、ブランドが育っていくところを間近で見たいですね」(佐藤氏)。「ブランドはうちの会社のものですけど、関わった人全員が形づくっていくものだと思うんですよ。現在製作中のイメージブックにはデザイナー、メーカーや一緒に苦労した人たちにも出てもらっていて、どんな想いが込められたものなのかを伝えたい。関わった人みんなが主役のブランドにしていきたいので、末永くお願いします」。

公開:2014年5月16日(金)
取材・文:町田佳子氏
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。