メビック発のコラボレーション事例の紹介
一通のメールから動き出した、前例のないユニークなPR企画
交野市の歴史と文化財をモチーフにしたRPGゲームの制作

メビックのMLを通して、30社以上の事業者が説明会に参加
北川元昭さんが会長を務めるボランティア団体「交野市星のまち観光協会」がメンバー内で作成していた観光PRウェブサイトを、時流に合わせたものへリニューアルしたいと制作パートナーを公募。その告知が地域情報ポータルサイトに掲載されたのを見たメビックのスタッフが、「クリエイターのみんなに伝えたい」と2,000以上のクリエイティブ事業者が登録するMLにこの情報を送信したところ、同会の予想をはるかにうわまわる30社が説明会に参加した。Talonの田中久美子さんもそのメールを受け取ったひとりで、目を通してすぐにピンときたという。
「私は枚方出身で現在も枚方に住んでいるので、交野なら隣だし、楽しそうだなあ、と気になったんですね。独立してまもない頃で、応募しようかどうしようかとギリギリまで悩んで、締め切りの前日にこそっと応募しました。メールがきっかけでいろいろ興味がわいて、交野山ってあるんだなあ、ちょっと登ってみようか、みたいな感じで。ただ、説明会に行ってみると、大手のデザイン会社さんが多数参加されており、かたや、私たちはなんの後ろ盾もないフリーランス。これは100%じゃなくて120%の力を出さないと通過できないだろうなと。全力を尽くした結果がダメだったらあきらめがつくけど、中途半端なものを出して後悔することだけはしたくない、と思いました」(田中さん)
そこで、Talonの福田隆之さんとともに、ぎりぎりまで企画を練って挑んだ。通常、プレゼンテーションの段階ではイメージが伝わるダミー素材を用意することが多いが、両氏はみずから交野山に登り、巨岩から見える絶景が陽のうつろいとともに表情を変えていくさまなどを撮影。そのタイムラプス動画をウェブサイトのトップに盛り込むなど、実現化した場合と遜色ない段階までつくり込んだ。なお、後に動き出す8ビットのゲームコンテンツ企画はこの時点ですでに盛り込まれており、京阪電車が交野市駅に乗り込んでくるオープニングムービーなども披露したという。
「Talonさんのご提案がいちばんおもしろく、労力もかけていただき、熱意を感じたのが大きかったです。また、私自身がファミコン世代なので、8ビットのゲーム企画にも魅力を感じました。近年、リバイバルで8ビットが再注目されているので、コンテンツに組み込めたら絶対におもしろいだろうと。で、Talonさんにはとりあえずはウェブサイトを制作しますが、ゲームはいずれ必ず実現したい、それまではおつきあいいただきますよ、とお話ししました」(北川さん)

移住者が増えている交野市で、地元愛を深めるきっかけにも
ウェブサイトが2022年にローンチ後、いよいよ、企画段階で盛り込まれていたゲーム企画が始動。まずは2023年3月、交野市の産業振興を支援する補助金「ころんぶす」を活用し、交野市の難読地名をテーマにしたゲームをリリースした。さらに、交野市の社会教育課が文化財を守る補助金に応募することがわかり、第二弾として文化財を守るゲームをつくってはどうかと北川さんが提案したところ、大盛り上がりで話がまとまったという。
ここで文化財係の吉田知史さんがチームに加わり、きちんとした歴史的裏付けをサポートする役割を担うことに。こうして2024年2月、ついに「8ビットシティカタノ 歴史探偵と消えたレリック」が完成。古墳時代、平安時代、鎌倉時代、戦国時代、江戸時代、近世、そして今、我々が生きている現代という7つの時代を、プレイヤー=「歴史探偵」が、相棒の「星のあまん(交野市の観光振興キャラクター)」とともに旅しながら、消失した文化財を探すというRPGである。

ちなみに吉田さんは「ヨシーダ」として、クイズに正解するための知識を授ける重要なキャラクターとして登場。できるだけ地域に密着したコンテンツにしたいという想いから、今後も交野市に暮らす実在の人物がキャラクターとして登場する予定とか。
「実は私、ヨシーダとして自分が出演していることを知らなくて、後から教えていただきました(笑)。我々にはゲームをつくるという発想すらなかったのでびっくりして、始めは手探り状態でしたね。これまではかなりかたい路線のアプローチしかしてこなかったので、思い切った挑戦ではありました。ですが、結果的には地元の人に興味を持ってもらえる、おもしろいものができたと思います。というのは、ここ10年、20年のあいだに引っ越して来られた方が人口比率の半分ほどになり、交野市で暮らしていても、あまり地元のことをご存知ない方が増えているんですね。このゲームが地域の歴史や文化財の存在を知るきっかけになれば、という想いを込めています」(吉田さん)

ご当地RPGの好例となるべく今後は外国語対応なども検討
ちなみに、「8ビットシティカタノ 歴史探偵と消えたレリック」のプレイ時間は最短で約3時間半~4時間、道に迷えば5時間ほどかかる。かなりのボリュームがあるため、0からゲームを組み立てていくのは、楽しいながらも大変な作業だったという。
「予算も納期も限られるなか、僕らとしても、そこまでトリプルA級のゲームがつくれるわけじゃない。なので、どの時代をどうマッピングするか、どういうストーリー展開でおもしろくしていくのか、ドット絵でどれだけ実在の人やものや場所を表現できるかが勝負でした。僕は今回、システムのほうをやらせてもらったんですけど、少人数ということもあって、開発自体も大変でしたが、最後のデバッグも大変で。2人しかいないから、何が問題かというとゲームの構造を知り尽くしてしまっているので、イレギュラーなアクションができない。そのため、実は直前で地獄を見ました(笑)。次から次へとバグが出てくるので」(福田さん)

ご当地RPGが注目されている時機を捉えてのリリースとなり、好例となるべく、今後もますますバージョンアップしていく予定とか。ひとりでも多くの人に遊んでもらえるよう、広報活動にも力を入れていくほか、外国語対応なども検討中とのこと。
まちの歴史や文化財についてただ受け身に学ぶのではなく、ユーザー自らがアクションを起こし、古代人や戦国武将が生きていた過去の交野を思うままに旅する。そこで見聞きした知識が、実在の人、場所、文化財とリンクするとき、特別な親しみや思い入れがきっと生まれるに違いない。

公開:2024年3月29日(金)
取材・文:野崎泉氏(underson)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。