メビック発のコラボレーション事例の紹介
コロナ禍を機にBtoCビジネスを立ち上げ、デザイナーとコラボ
地産廃材に新たな価値を。独自技術を活用した自社商品開発
BtoCビジネス挑戦のため、メビックに相談
プラスチック原料をベースに、異素材を最大80%まで配合できる独自技術「フリーブレンド工法」を武器に、多種多様な新素材や製品を開発、製造してきた株式会社第一精工舎。メインは大手メーカーを中心とするBtoBビジネスだったが、コロナ禍になってクライアント企業が生産停止の事態に陥ると受注が急減し、生産休止の危機に直面することに。そんな危機的事態の中、石田恭彦さんはある挑戦を決意する。
「生産が休止すると社員の働く場が失われてしまいます。この危機をチャンスに変えるべく、自社商品を開発してBtoCの市場に挑戦しようと考えました。殺菌性能を持つ銅を配合した素材などで自社商品を開発すれば、コロナ禍の世の中でも社会に貢献できるのではないかと考えたんです」
スピード感を大切にする石田さんはすぐにインターネットで検索して複数のデザイン会社と話をしたものの、商品化には至らなかった。
「デザイナーに仕事を依頼するのは初めてのことで、話を進めてみるとさまざまな課題を解決する必要があることを知ったんです。同時に、デザインの良し悪しよりも、人と人の相性を大切にしてコラボ相手を選ぶべきだ、と感じました」
なかなか良いデザイナーに出会えない中、インターネット検索で偶然メビックを発見した石田さんは、すぐに相談の電話を入れて訪問した。
「メビックは弊社の想いをしっかり聞いてくれ、その上で弊社ショールームで『クリエイティブクラスターミーティング』を開催することを提案してくださった。そんな親身な姿勢と敷居の低さを粋に感じて即決しました」
デザイン力に加え、金型や原料の知識が強みに
第一精工舎のショールームで開催された「クリエイティブクラスターミーティング」には、参加希望が殺到。プロダクトデザイナーの蛭間典久さんもミーティングはもちろん、その後のプレゼンコンペにも参加した。
「起業前に樹脂を使ったプロダクトデザインを担当した経験があるので、フリーブレンド工法の素材に興味がありました。今までに見たこともない素材で『この素材で作ったことがないものを作ってみたい!』と思ったんです」
間もなく蛭間さんに依頼が舞い込む。石田さんによると、蛭間さんへの依頼を決めた理由は明確だったという。
「デザイン力は当然のこと、原料の樹脂や金型に関する知識を持っていたのが大きかったですね」
最初の依頼は、殺菌性能を持つ銅を配合した樹脂素材を使ったトング。蛭間さんはデザインから製造までプロダクト開発に伴走した。
「開発期間が短くて、金型段階で修正が発生すると間に合わない状況でした。前職の大手メーカー勤務時代に金型の知識を得ていたので、第一精工舎の金型担当者と密に連絡を取りながらデザインを進めていきました」
無事に製品となって発売されたトングは、ホームセンターでヒット。一躍人気商品となった。以来、地産廃材で作ったペン&スタンドをはじめ、すでに約30アイテムのプロダクトデザインが商品化されている。さらに商品のヒットに加えて、想定外の事態が起こったという。
「最初はBtoCビジネスをめざして自社商品開発を始めたのですが、ホームセンターなどから『自社ブランド商品を作ってほしい』という依頼が舞い込むようになりました。BtoCを狙って立ち上げたビジネスなのに、BtoBの依頼が増えるという面白い状況が生まれたんですよ(笑)」
コラボの開発速度を上げるため、会社組織も変革
クリエイターとのコラボが成功した要因は「人」だった、と石田さん。
「デザイン力は当然のことで、最後は人と人の関係性がすべてですね。蛭間さんとも良い関係を作るべく、自宅に招待したり一緒にお酒を飲んだりと、仕事以外の面でもコミュニケーションを重ねました。結果、より良いものを作るために忖度のない議論ができる関係になれたと思います」
対する蛭間さんが、コラボにおいて最も意識したのは「スピード感」だった。
「今は慣れましたが、意思決定がめちゃくちゃ早いんです。『石橋を叩いて渡る』ではなく『石橋をダッシュで渡る』感じ。インハウスデザイナー時代はひとつの商品に1年掛けていたのが、今は開発期間1〜2カ月なんて普通。最初はこのスピード感について行くのに必死でしたね」
つい先日、石田さんは開発スピードを上げるため、デザイン部門を社長である石田さん直轄に組織改編したという。
「以前は、部門長経由でコンタクトを取っていましたが、今は直接やり取りしています。さらに2週間に1回の社内会議にも参加してもらい、商品や素材の開発に関する最新情報を共有するなど、さらなる開発スピードの向上をめざしています」
地産廃材を使った商品を全国へ、そして世界へ
「多くのクリエイターに出会えたのはメビックのおかげ」と語る石田さん。
「クリエイターのことを何もわからずに突然連絡したのに、親身になって対応してくれたおかげで今があります。それから多くのクリエイターに出会って話す中で気づいたのは、クリエイティブに関わる人は良い意味のプライドと悪い意味のプライドを持ち合わせていて、その両方が原動力だということです」
蛭間さんもメビックとの出会いがクリエイター人生の転換点になったという。
「第一精工舎をはじめとした多くの企業とつながれたのはメビックのおかげです。加えて、メビックを通じて多くのクリエイターの友達もできました。大人になってこんなに友達ができるのかと思うぐらい(笑)。人とつながるきっかけをたくさんもらえたことに感謝しています」
最後に第一精工舎の今後の展開についてお話をうかがうと、全国レベルでの展開をめざすプロジェクトについて語ってくれた。
「実は今、地域の学校とコラボして地産廃材を使った商品開発に挑戦中で、すでに静岡県焼津市にある焼津水産高校とコラボして、廃材となった漁網を使った商品を開発中です。この地産廃材を使った商品開発を47都道府県すべてで展開していきます。加えて海外の展示会に参加するなど、並行して世界戦略も進めていくつもりです」
フリーブレンド工法で生まれた素材に可能性を感じる蛭間さんは、石田社長の期待に応えながらクリエイターとして挑戦してみたいことがあるという。
「いずれはこのポテンシャルがある素材を生かした商品を、私自身の企画提案で生み出したい。そうすることで、自身のクリエイターとしての可能性をさらに広げたいですね」
公開:2024年3月29日(金)
取材・文:中直照氏(株式会社ショートカプチーノ)
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