メビック発のコラボレーション事例の紹介
ブランドと会社に新しい風を吹き込んだクリエイターとの出会い
パッケージ、Webサイトなどのリニューアル

事業と人への共感がクリエイティブの起爆剤に
自動車に不可欠なエンジンオイル。大阪市に拠点を置くザーレン・コーポレーション株式会社は創業60年以上の歴史を持つ老舗企業であり、世界的なモーターレースでも輝かしい実績を誇るリーディングカンパニーだ。伝統と信頼を有する同社だが、それゆえに悩みもあったと代表取締役社長の工藤達也さんは言う。「商品パッケージをはじめとして、ブランドのデザインが長年にわたって変わっていなかったんです。変えたいという思いはあったものの、長きにわたって同じ体制で仕事をしていたせいで、変えるためのノウハウも人脈もありませんでした。そんなとき、たまたま足を運んだ大阪産業創造館でメビックの看板が目に止まりました。『探していたのはこれだ!』と思い、すぐにメビックのオフィスに行き、悩みをぶつけました」
その結果、2021年7月に「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に登壇することに。多くのクリエイターから提案を受け、クリエイターたちの思いや個性に接したうえで、工藤さんはプランナー・ディレクターのロックオン柳田さんとグラフィックデザイナーの浅倉りかさんにブランドの新たな一歩を託すことを決めた。「工藤社長の話を聞いていて、『リーダーとは、こういう人のことをいうんだ』と感じました。そして、『もっと話を聞かせてほしい』という気持ちがわき上がりました。それが結果として、事業や会社を深く理解したうえでのクリエイティブにつながったと思います」(柳田さん)「初めてお会いしたときから、ザーレン・コーポレーションさんの温かくて優しい社風に魅了されました。その源泉は、言うまでもなく工藤社長の人柄です。後日談になりますが、実際のデザインを行う際にも、デザインで社風を表現することを心がけました」(浅倉さん)
クリエイターたちが抱いた共感と同様のものを、工藤さんも2人に対して感じていたという。そのことが、工藤さんが柳田さん、浅倉さんとタッグを組む決め手となった。

過去の財産を未来へと進化させたクリエイティブは、顧客の誇りをも刺激
プロジェクトの核となるのは、同社の主力製品であるエンジンオイル「ザーレン・ガイア」のパッケージデザインをリニューアルすることだ。それにともなって、ロゴマークとコーポレートサイトを新たにし、ブランドサイトも制作することになった。グラフィックデザインを担った浅倉さんは、「既存のデザインは秀逸だったし、ブランド自体に歴史も信頼性もある。リニューアルだからといって、それらを否定する必要はない」と考えた。一方で、自動車やオイルにありがちな力強さや重々しさとは違った視点を取り入れてもいいはずだと考えた。それが、前述の社風をはじめ、歴史などをデザインに反映するという発想につながった。この点について、工藤さんは次のように語る。「まったく新しい発想でした。それに、私たちの過去の歩みを活かして、未来へと進化させてくれたように思いました。とてもうれしかったです」
一般的にデザインをはじめとしたクリエイティブは、「きれい」「かっこいい」など、見た目の良さを担うと考えられがちだ。しかし実際には、機能性を高めるという働きも持つ。ザーレン・ガイアが主に使用されるのは、自動車の整備工場だ。薄暗いことが多く、使用する資材や道具を間違えることなく選ぶには、手元を照らすなどひと手間かかることもあった。

「それに対して新たなパッケージデザインは、オイルの種類がパッケージの色で区別できるようになっているんです。ひと目でわかって便利だと、整備スタッフの方から好評の声をいただいています」(村川さん)
Webサイトを担当した柳田さんも同様に、情報の見やすさや伝わりやすさという、デザインによる機能性に心を配った。特に、多種多様な情報を発信する必要があるブランドサイトでは、それらを自ら徹底的に学び、的確に整理整頓して伝える方法を考え抜いたと言う。また、同社にとっては初めてとなる動画を使った見せ方も導入した。
2人のクリエイターによるこれらの取り組みは、予想もしていなかった効果を生んだ。「顧客である整備工場の若いスタッフから、すごく好評なんです。パッケージやWebサイトを見て、『これが俺たちの売るオイルなんだ』と、誇らしい顔をしてくれているんですよ。がぜん、仕事へのモチベーションが上がっているようです。これこそがクリエイティブの力なんですね」(工藤さん)

ブランドリニューアルを機に社内体制を刷新。空気感も変わり始めた。
クリエイターは、奇抜なアイデアを提案する存在だと考えられがちだ。しかし発想の柔軟さやユニークさの背景には、自身が見聞きして学び、感じた何らかの事実がある。それは、デザインなどのクリエイティブの背景となる「ストーリー」とも呼ばれる。「背景まで含めて提案してくれたことが、とても印象的でした。いまでは、クリエイターさんが私たちに説明してくれたことを、私たちがお客さまに説明しているほどです。それぐらい、納得度が高いんです」(村川さん)
「変えたいけど方法がわからない」と悩んでいた工藤さんはプロジェクトを通して、「会社に新しい風が吹いてきた」と語る。「クリエイターさんという、これまではあまり接点のない人が会社に出入りしてくれるようになりました。すると、社員も『何かが動き出しているぞ』と感じてくれます。なかにはその動きをキャッチして自分も動きだそうという人もいてくれます。『チャレンジするぞ』というメッセージが、今回のコラボレーションを通じて社員みんなに発信できたように思います」
実際に同社では、プロジェクトを機に社内体制を刷新。情報発信や広告を専門に受け持つ部署を設置し、意欲ある人がやりがいと責任を持って取り組むことができる体制を整えた。その部署の一員こそ、村川未歩さんだ。
同社では今後、SNSでの情報発信を活性化していきたいと考えている。また、従来の「オイルの会社」というイメージを脱却し、明るく華やかな会社イメージづくりにも取り組んでいきたいという。工藤さんも村川さんも、「それらの取り組みに、柳田さんと浅倉さんの力は不可欠です」と語る。一方でクリエイター2人は「ザーレン・コーポレーションのオイルを、1台でも多くの車に使ってもらいたい。そのために役に立ちたい」と口をそろえる。一連のプロジェクトを通して工藤さんは、クリエイターのことを「私たちの思いを形にしてくれる、大事な家族の一員」と語るようになった。60年あまりの歴史に、クリエイティブという新たな力が加わった“ザーレン・ファミリー”。これらの挑戦に、要注目だ。

公開:2023年5月15日(月)
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。