メビック発のコラボレーション事例の紹介

コラボレーションは3次元を越える
BIMを使っての某工場の建築設計

森のおくりもの

メビック扇町の空間が繋げた建築家とBIMのプロ集団

建築家である遠藤秀平さんと株式会社BIM LABOとの出会いは2011年のこと。建築家をめざす全国の学生に向けてのコンテスト「建築新人戦」の実行委員会の活動拠点として、審査員を務める遠藤さんらがメビック扇町のプロデューサーサポートオフィス(PSO)に入所。同じ時期に入所したのが株式会社BIM LABOだった。
「BIM」とは、「Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)」の略称で、コンピューター上に設計している建築物の3次元モデルを再現し、可視化するアプリケーションのこと。建築物の幅・奥行き・高さだけでなく、使用する壁や柱、鉄骨の素材から設備機器などまで、建築要素とそれが持つ情報をコンピューター上で再現することが可能で、建築後のメンテンンスや資材管理などにも使える革新的なアプリケーションとして注目を集めている。BIM LABOは、「建築設計のプロセスを変える」という目的のもと、BIM実装化に向けて、これまでさまざまな企業のBIM導入時の支援や運用のコンサルティング、作業環境サポートを行ってきた。最近では大手ゼネコンや建築設計会社、設備工事会社などに導入され始めているが、2011年当時はBIMを扱うプロフェッショナル集団は珍しく、遠藤さんの中で印象に残っていたという。その3年後、「建築新人戦」実行委員会はメビック扇町から退所するのだが、この偶然の出会いにより、遠藤さんの中にBIM LABOの存在が刻まれたのだった。

作業画面
BIMは、今後の建築界では主流になっていくであろう次世代のアプリケーションだ。

本格的にBIM化に挑戦するべくBIM LABOにコラボを依頼

2016年頃から、遠藤秀平建築研究所にBIMを使って建設したいという相談が舞い込むようになった。「そこで思い出したのがBIM LABOさんです」と遠藤さん。さっそく企業とBIM LABOの橋渡しをしたすぐあとに、今度は遠藤さん自身がある企業の工場設計を手がけることに。「工場は、建築後に設備を入れ替えたり、補強や移動が必要だったりと、いろんな改修工事が必要という建築上の性質があり、運営段階に入っても設計図面が非常に重要な役割を担います。こうした建築物には、すべてのデータをコンピューター上で管理できるBIMが非常に適しているんです」。遠藤秀平建築研究所でもBIMは導入していたが、あくまでも建築物の一部分という状態で、建物一棟を丸ごとBIM化するのは初めてのこと。「私自身、BIMが今後の社会で重要な役割を果たすだろうという考えもあり、このプロジェクトで本格的なBIM化に挑戦してみようとBIM LABOさんに相談しました」と遠藤さん。
BIM LABOのCEO・河野誠一さんは、「当社は依頼を受けて自分たちでBIMを仕上げてきたんですが、今回は遠藤さんとひとつのチームとして設計をやり遂げることができ、非常に良い経験になったと思います」と振り返る。

BIM LABOのオフィス
内藤さんは「自分が以前から憧れていた遠藤先生と一緒に仕事ができるなんて」と感激だったという。

お互いに挑戦し、工夫して学びあいながら前進した4カ月

プロジェクトは2017年から始動。まずは遠藤秀平建築研究所が建築物の基本的なデザインをつくり、基本計画が固まったあと、BIM LABOとチームを組んで、意匠と構造・設備をBIM化していくというプロセスだ。遠藤秀平建築研究所からは畠山直也さんが担当となり、BIM LABOからは意匠を新貴美子さん、構造・設備を鈴木裕二さんと内藤友貴さんが担当。BIMを使って本格的な作業をするのは初めてだった畠山さんは「苦労の連続でした(笑)」と苦笑い。意匠・構造・設備にはそれぞれ作るべき図面があり、違うソフトを使い分けて互換性を確認しながら全体の詳細設計をBIMに仕上げていくという初めての実務に悪戦苦闘。新さん、鈴木さんらは、ネットワーク回線を繋いで畠山さんと共同作業しながらBIMを調整したり、BIMで表現できる方法をレクチャーしたりと、作業環境をサポートした。

作業画面
BIMを使えば建築物に使用する建材や鉄骨の材料も細かく設定、再現することが可能。

しかし苦労ばかりでなく、BIMの作業効率の良さに改めて気づかされたという畠山さん。「普段、僕は2次元で図面を描いているんですが、BIMは2次元で描いた線に高さを入力すると、あっというまに3Dになる。それはBIMの持ち味ですし、すごいと思いましたね」。一方、新さんは、畠山さんのガッツに驚かされたとか。これまで新さんは、BIMに興味を持ちつつも導入に繋がらない事例を何度も見てきた。「設計者の方にとって、手慣れた道具を突然変更するというのは非常に辛いこと。人数が多い企業だとなおのこと様々な意見が出て、なかなか導入が進まないのかもしれません」。今回、遠藤秀平建築研究所とコラボしたことで、「道具が変わっても果敢に取り組むチャレンジ精神に驚かされました」とにっこり。また、共同作業の中で新さん自身、そしてBIM LABOの今後の役割を見出すことができた、とも。「まず設計者のデザインを、どのようにBIMで表現するかというスキルがストックできたのは大きな収穫でした。また、畠山さんが細かい実務の中でどういうことで困っておられるのかがわかったことは、今後のBIM導入コンサルティングに生かせると思います」と話す。

BIMで作成した外観イメージ
BIMで作成した内観イメージ
外観・内観ともにコンピューター上で再現できるため、施工に関わる人たち全員がタブレット端末等で確認できる便利さも。

BIMの持ち味を活かせる場面で今後も導入していきたい

約4カ月を経て、工場設計のBIM化は成功。現在、着工に向けての準備を進めている最中だ。今回のプロジェクトで、遠藤秀平建築研究所で先陣を切ってBIMを使った畠山さんは、「まだ課題はあるかもしれませんが、今後必ず主流になるでしょうし、機会があればもう少しマスターしたいですね」と充実した表情。一方、河野さんも「お客さんをどうサポートしたら良いのかがよく見えた事例でした。そして、これまでの『受け身で待つ』から一歩進んで『どういう方法を使えばいいか』を提案できるコンサルティングができるきっかけになったと思います」と収穫が多かったよう。遠藤さんは、「テストケースとして、まず中規模の建築物でBIMにトライできたのはよかったです」と話す。そして、今後のBIMの可能性に期待も。「BIMを、最もいいチャンネルで使えるのは何か、ということ。一番能力を発揮できる場面を見つけて、また次のプロジェクトでも使いたいですね」。メビック扇町での出会いから始まった今回のコラボレーションは、建築業界の未来をより活発にするに違いない。

遠藤さん、畠山さん、河野さん、新さん、内藤さん

株式会社遠藤秀平建築研究所

建築家
遠藤秀平氏

一級建築士
畠山直也氏

http://www.paramodern.com/

株式会社BIM LABO

3Dクリエイター
河野誠一氏

建築設計(構造)
鈴木裕二氏

建築設計
新貴美子氏

BIMオペレーター
内藤友貴氏

http://www.bimlabo.jp/

公開:2019年6月4日(火)
取材・文:中野純子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。