メビック発のコラボレーション事例の紹介

エンタメとクリエイティブの幸福な出会い
エンタテインメントとクリエイティブの出会い

かわぐち氏イラスト
「とっとり・おかやま新橋館」で販売されたグッズ

クリエイターを求めて、企業プレゼンによしもとが参加

大阪で活躍するクリエイターと企業のマッチングを図る「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」。毎回、多くのコラボレーションが生まれるこのイベントだが、昨年の夏、大きな反響を呼んだのが、日本のエンターテインメントを支える株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー(以下よしもと)の参加だ。クリエイターと出会いたい企業5社がプレゼンを行ったこの回は、定員を大幅に上回る参加者が集まり大盛況となった。しかし、よしもとほどの企業であれば、すでに取引のある広告代理店や制作会社、またはそこからの紹介も多いはず。東京からわざわざこのプレゼンに参加したのはなぜなのか。
「確かに知っている方にお願いすることもできたのですが、このプレゼンではいろんな方に出会えるし、即商談ではなく、案件が発生した時点で声をかけられるような繋がり方ができるのでよい機会だなって」と、担当者の前原まさみさん。実際、イベント当日は普段よりも参加人数が多かったことから名刺交換をするのが精一杯で、一人ひとりとじっくり話す時間まではなかったという。

クリエイターを決めるのは“個人的な好み”

今回、よしもとと恊働したのは、漫画家・イラストレーターのかわぐちまさみさんとイラストレーターの日比野尚子さん、そしてライター・編集者の狩野哲也さんだ。かわぐちさんと日比野さんはイベント後に、ポートフォリオを送付し、前原さんの目に留まった。「お二人とも名刺にイラストが入っていてインパクトがあったので覚えていました。イベントでは一度にたくさんお会いするので、シンプルすぎる名刺だとやっぱり記憶に残りづらいんです。その上で作品を見たら、かわぐちさんのイラストはおもしろいし、日比野さんの絵も好きな感じだったので、ぜひお願いしたいなって」。実際、CMなどは広告代理店を通して制作されるが、単独ライブや書籍などは、芸人本人や社員が「ぜひ、この人で」とライターやイラストレーターを提案することも多いという。「この人の絵とか文章が好きっていう個人的な感情で決めた方がわりといいものができるし、できあがったとき私もうれしいんですよね」。前原さんは言う。

日比野氏イラスト
ミラノ万博認定イベントで配布されたフライヤーのイラスト

大阪、東京、東北で進むプロジェクト
ゴールが明確なら距離があっても問題ない

ポートフォリオを見た前原さんは、かわぐちさんにはココリコ・遠藤氏と千鳥の二人を起用したプロモーション企画「とっとり・おかやま新橋館」で販売するグッズのイラストを、日比野さんにはミラノ万博の認定イベントで現地のイタリア人に配布するフライヤーのイラストを依頼。そこからはほぼ、顔を合わせることなくメッセージアプリなどでコミュニケーションを取りながらプロジェクトが進んでいく。「距離があってもやりにくさとかは一切なかったです。指示も明確ですし、レスポンスもめちゃくちゃ早くて。すごくスムーズにできました」とかわぐちさん。「私も自分のサイトや作品集の中から具体的に“こういう感じが好きです”って伝えてもらったので、イメージが沸きやすかった」。日比野さんも口を揃える。
一方、狩野さんとはプレゼンではなくメビック扇町からの紹介で出会い、ペナルティのワッキー氏を起用した宮城県栗原市の移住定住ガイドブックの取材・ライティングを依頼。「最初の印象は“東北のお仕事をなんで僕に?”でしたね」。取材チームは狩野さんをはじめ、普段はクラシックカーの撮影をしているアメリカ人カメラマンなど東北に関連のないメンバーばかり。県外の人たちへの発信ツールだからこそ、外からの視点がなによりも重要だと考えた前原さんの戦略だった。
制作にあたり狩野さんが最初に疑問を感じたのは市役所のホームページ。市の経済の中心である農業について調べようとしても、詳しい情報を得ることができなかったのだ。なぜなら、自治体で働いているのは、実家が農家だったり、親戚が農業をやっているなどすでに知識がある人ばかり。さらに市役所内でも県外に栗原の魅力を発信する部署と農業などを扱う部署とのコミュニケーションが少ないことも課題だと感じた狩野さんは、まずは関わる人たちがみんなで話せる状況をつくることからはじめたという。まさに“部外者”の発想だ。

くりはら田舎暮らしガイドブック
栗原氏×よしもと 宮城県栗原市移住定住ガイドブック「くりはら田舎暮らし」

SNSやブログを見ればその人がわかる

企業とクリエイターが恊働してモノを創るとき、始まってみないとわからない部分が非常に多い。プロジェクトがスタートしてから“こんなはずじゃなかった”と後悔した経験のあるクリエイターは多いだろう。企業にとってもそれは同じ。作品を見ても、それがどんなプロセスでできたのか、仕事のやり方はどうなのかということまではわからない。「連絡をもらったときは、ありがたいなー、私が誰かもわからんのにって思いましたもん」。日比野さんの言葉に、かわぐちさんも続ける。「私も、直接やるんやってびっくりしました」。よしもとの企業規模であれば手がけるプロジェクトの規模や予算も大きいはず。依頼には慎重になるのではないのだろうか。「今の時代、SNSとかブログとか何かしらありますから、それを見るとだいたいわかりますよね。日比野さんのFacebookとかほんとおもしろくて。かわぐちさんの“テケトー絵日記”も大好きですし、狩野さんにいたっては、いろんなことを発信されていて、地域のことにも取り組まれているのがわかっていたので頼みやすかったです」。栗原市のプロジェクトにいたっては、全員がFacebookのメッセージ機能でやり取りしていたため、互いに人となりがわかった上でプロジェクトがスタートできたという。

モノをつくるだけじゃない
どう発信するかが求められる時代

今回のコラボレーションは、当然プレゼンの場で出会えたことがきっかけではあるが、それ以上に、それぞれが様々なツールを通して、仕事だけではなく個人的に興味のあることやライフワークをパブリックな場で発信しつづけたからこそ実現した。クリエイターにとっても、“自己発信の大切さ”を大きく感じる事例だと言えるだろう。「今後も日本中のクリエイターに出会って、一緒にいろんなことができたらいいなと思っています」。前原さんは言う。

かわぐちまさみ氏、前原まさみ氏、日比野尚子氏、狩野哲也氏
左から かわぐちまさみ氏、前原まさみ氏(株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー)、日比野尚子氏、狩野哲也氏(狩野哲也事務所)

かわぐちまさみ氏

http://kawaguchimasami.jimdo.com/

株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー

前原まさみ氏

http://www.yoshimoto.co.jp/corp/info/group.html

オカダデザイン

日比野尚子氏

http://www.sashie-design.net/

狩野哲也事務所

狩野哲也氏

http://kanotetsuya.com/

公開:2016年8月18日(木)
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。