メビック発のコラボレーション事例の紹介

マチオモイ帖の“これから”がみつめる人のつながり、オモイ、深まり
マチオモイ帖

「マチオモイ帖」メンバー
左から築山万里子氏、清水柾行氏、村上美香氏、廣瀬圭治氏

マチオモイ帖、はじまりの物語

人はさまざまなものに“思い入れ”を持つもの。オモイの注ぎ先は、音や色に、物に、そして場所に。自分の思い入れのある場所を選び、その思いをそれぞれのクリエイターが詰め込んだ「my home town わたしのマチオモイ帖(以下、マチオモイ帖)」。全国に大きな反響を呼び続けるこのプロジェクトのはじまりと現在、これからについて、制作委員会の清水柾行さん、村上美香さん、築山万里子さん、廣瀬圭治さんに話を聞いた。
「メビック扇町で開催する“Social Propose︱クリエイターが社会に対してできること︱”での展示について村上さんに相談したのがはじまりでした。ちょうどそのころ、村上さんが自分の故郷をつづった“しげい帖”を制作していて」と清水さん。それは、村上さんが故郷・重井町の方から、町で開くイベントのために何かつくらないか、と相談されて「しげい帖」を作った時のことだった。「ちょうど東日本大震災が起きたときで、ニュースで流れるのは、私の知らないたくさんの町の名前。ふるさとが消えないように、手にとった人が自分で町への思いを書き込めるように手帖にしようと考えました」と村上さんは言う。
その後、村上さんは大阪に戻り、メビック扇町での展示の相談に訪れた清水さんにたまたま「しげい帖」を見せる。ひと目で「これだ!」と感じた清水さん。「ひとつのものごとを多角的に見る、これをクリエイターたちが大勢でやったら、すごくおもしろいフォーマットになると考えたんです」。だがこの段階で村上さんは「“しげい帖”は、私が私のためにつくったもの。大阪に暮らすクリエイター全員が田舎出身ではないだろうし、都会でもこれができるのか」と不安に思っていた。
ちょうど同じころ、築山さんは村上さん他数名のクリエイターと一緒に結成したユニット・プロジェクト629で、世界でまだ誰も見たことのない本をつくろう!とアイデアを出しあっていた。「“誰も見たことのない”という部分にみんな悩んでいて、それなら、私たちの住む大阪のこと、天神祭のことをテーマにしてみよう、と。でも図書館で資料を集めてアイデアを出してもおもしろくないんですよね、そこに温度がない。自分の責任で自分勝手に町を紹介する本があったらおもしろいよねという考えに至ったとき、マチオモイ帖につながりました」。こうして、清水さんのひらめきと、築山さんのアイデアがつながり、「しげい帖」をつくった村上さんのオモイが自然に「マチオモイ帖」となり、大きな物語を描き始めた。

広がり始めたたくさんのオモイ

2011年6月、制作委員会が発足。それぞれがクリエイターたちに思いを伝え、参加を呼びかけ、集まった34冊の「マチオモイ帖」が「Social Propose︱クリエイターが社会に対してできること︱」としてメビック扇町に展示された。10月にはブリーゼブリーゼで再展示され「マチオモイ帖」への注目が高まる中「メビック扇町のコーディネーターさんから、これを東京でも展示しよう!という驚きの言葉をかけられたんです」。そして東京ミッドタウン・デザインハブでの展示が2012年の2月、34冊から始まった「マチオモイ帖」は、映像も含め合計300組を超えるエントリーとなり、どんどん育っていく。「これもコーディネーターさんのきめ細かいアプローチの賜物ですね」と村上さんは笑顔を見せた。
委員会メンバーの一人、デザインハブでの展示を企画していた廣瀬さんは、「Social Propose〜からいろんなクリエイターが作ったマチオモイ帖を見ていると…すごいんです、オモイが。あぁ、この人普段は無口だけど、こんなに自分の故郷について饒舌にしゃべるんだ、とか、あっ!この方はこういう風にこの町を思っているんだ、とか、そこで紹介される町を通して、たくさんの人が見えてくるんですよね、映像になってもそこがおもしろいんです」と笑顔。村上さんも「普段、私はデザインもコピーもビシッときまっていないと嫌なんですけど、マチオモイ帖の中には“なんじゃ、コレ?”という楽しい発見がある。それがまた味わい深くておもしろいんです」と頷く。クリエイターが自分の思い入れのある町に向ける「オモイ」が詰まった作品たち。それが300以上もあふれる会場は、それだけで300人以上がその場に集まったような、たくさんのオモイの熱気に包まれた。

マチオモイ帖の現在とこれから

今回お話をうかがったのは、2013年の早春。今年は全国13カ所それぞれの地域で実行委員会を作り開催されている。ポスターには「日本中の人の心に眠る 誰も知らない宝物を いっしょに見つけましょう」というコピーが。デザインした清水さんは「マチオモイ帖に込められるオモイはまさに“宝物”。ビジュアルに使っている編みものを編むように、丁寧に丁寧にオモイを深化させることを目指しています。だからこのプロジェクトを大きくしたいという気持ちよりも、各地の実行委員会の方がそれぞれの地域で町に対するオモイを深めてもらうことが大切だと思います」と、マチオモイ帖を見つめる。きっかけを生んだ村上さんは「“しげい帖”をつくった時に芽生えた町へのオモイを忘れないことが大切。はじまりをつくったからこそ、そのオモイがずっと純粋でなければいけないと思っています」と、マチオモイ帖のこれからについて話してくれた。
展覧会コンセプトの中には、村上さんの「しげい帖」が、重井町に「やさしい波紋を拡げた」とある。ひとりのクリエイターの町に対するオモイのしずくが拡げた、やさしいオモイの波紋。その波紋が人と人とをつなぎ、これからも全国にあたたかな拡がりを見せていく。

たくさんの「マチオモイ帖」

わたしのマチオモイ帖

青空株式会社

代表取締役 / アートディレクター
清水柾行氏

http://www.aozora.cc/

アサヒ精版印刷株式会社

プリンティングディレクター
築山万里子氏

http://asahiseihan.jp/

株式会社一八八

コピーディレクター
村上美香氏

http://188.jp/

キネトスコープ社

ディレクター
廣瀬圭治氏

http://www.kinetoscope.jp/

公開:2013年7月23日(火)
取材・文:大竹麗氏(コヤ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。