メビック発のコラボレーション事例の紹介

大阪のものづくり企業とクリエーターをつなぐ
+728(ナニワ)

+728メンバー写真
左から山中広幸氏、清水敬二郎氏、竹田亮子氏、松村裕史氏、矢吹潤氏

iPhoneケースのデザインで企業の技術をアピール

+728は、大阪のものづくり企業とクリエイターをつなぐことで新しい価値を生み出すクリエイティブチームだ。グラフィックデザイナーの松村裕史さん(マチック・デザイン)、テキスタイルデザイナーの清水敬二郎さん(彩飾案)、空間デザイナーの山中広幸さん(アッシュデザインオフィス)、ライターの竹田亮子さんの4人が中心となって活動している。
ことの始まりは、2011年の秋だった。
「iPhoneケースに水圧転写で塗装する技術をデザインでアピールできないか」
金属塗装や樹脂塗装など、あらゆる素材への塗装技術を誇る大阪の企業、オークマ工塗がメビック扇町に相談を持ちかけた。ケースの側面や角まで柄がきれいに出るのが水圧転写の強み。その技術を広く伝えるために、iPhoneケースのデザインを依頼したいのだという。
メビック扇町は、当時コーディネーターとして活動していた松村さんと清水さんに案件を引き継ぐ。「デザインやイラストができるということで浮かんだ2人」だったそうだが、2人が最初に考えたのはデザインでもイラストでもなく「ブランディング」だった。

大阪のクリエイターの力で商品にブランド力を

「最初はiPhoneケースの絵柄の募集ということだったのですが、単にデザインするだけでは、すでに世の中にあるほかのiPhoneケースとの差別化ができない。それに、オークマ工塗の担当者である矢吹さんと話していると“自社から発信したい”という想いを強く感じました」と松村さん。松村さんと清水さんは「ブランディング会議」を開き、「大阪のクリエイターがデザインするiPhoneケースの展示会」を提案。「大阪の会社の優れた技術に、地元大阪のクリエイターが加わることで新しい何かが生まれる」そんな想いから生まれた「+728(なにわ)」をキャッチコピーとして提案した。偶然にも、オークマ工塗の矢吹さんの結婚記念日も7月28日。「縁起がいいと、トントン拍子に決定しました(笑)」
展示会の開催が決まると、空間デザインの知識が必要になった。そこで新たに空間デザイナーの山中さんがメンバーに加わり、広報物をつくるためにライターの竹田さんも加わった。

「消費者」に向けた展示会をブリーゼブリーゼで開催

展示会場は、「クリエイターや、ギャラリーに訪れる層ではなく、一般の消費者に見てもらいたい」と、あえてメビック扇町ではなくショッピングや食事で不特定多数の人が訪れる「ブリーゼブリーゼ」に。
そして、メビック扇町で12月に開催された企業のプレゼン大会で+728として正式にiPhoneケースのデザイン募集を発表した。「もう後戻りできないと思いました」
締め切りまで1カ月足らずという短い応募期間にもかかわらず、最終的に大阪のクリエイター63人から70種類ものデザインが集まった。

展示ブース
大盛況に終わったブリーゼブリーゼでの展示会。

「展示会の開催が2月4日から14日の10日間だったので、展示会場はバレンタインを意識した空間をデザインしました。バレンタインプレゼント用に販売するという目的もあったので、iPhoneケース自体もそれを意識したデザインが多かったですね」と山中さん。

展示風景
期間中のバレンタインを意識した空間デザイン。

共感してくれる人がそれぞれにつながったイベントに

「今回、ひとつの展示会に多くの人が賛同してくれたことで、思ってもみなかった嬉しいコラボがたくさん生まれた」と松村さん。
オークマ工塗と関係のあるソフトバンクの代理店は、展示会場でiPhone契約者にデザイナーのiPhoneケースをプレゼントするというキャンペーンを開催。また、清水さんの話を聞いた大阪のコンテンポラリー•ミュージック•ユニットの「.es」は、展示会最終日のパーティーでライブ演奏を引き受け、会場を盛り上げた。清水さんのクライアントで飲食に携わる会社も、協賛という形でパーティーのアルコールを無料提供してくれた。
「どれもがすべて人と人とのつながりで実現できたこと」と清水さん。“大阪のものづくりと大阪のクリエイティブをもっと広く伝えたい”という想いを同じくした人が企画に賛同し、それぞれに持つ力を発揮した展示会は、当初考えていたよりずっと奥行きのあるものとなった。
気になるiPhoneケースの売上げも「5500円」という価格設定にもかかわらず100個も売れ、予想以上の反響だった。「優れた技術とデザインをつなげる場があれば、そこに新しい価値が生まれる」手応えのようなものを感じた瞬間だった。

次は堺の伝統工芸「注染」のハーフパンツをデザイン

「iPhoneケースの展示会をやったことで、“+728”として今後どう動いていくべきかという方向性が定まった」と松村さん。また、同時に大きな“実績”にもなった。
すでに現在、第2弾となる新たな案件が進行中だ。「次は、『左海壷人(さかいつぼんど)』というハーフパンツブランドを作り、堺の “注染”という伝統技術とデザイナーをつなげます。“注染”は、裏表柄が同じに出るのが特徴。インクが表面に乗るプリントと違って通気性がよく、肌にもやさしいという特徴を持っています。それを伝えるために、クリエイターがハーフパンツのデザインをしようという企画です」。しかし、何色使うかで工賃が跳ね上がるなど、染め独特の規定や縫製の都合で生じるデザイン上の制限も多い。デザイン時のルール決めなど、クリアしなければならない難題が多々あるという。「毎回が新しい経験」と松村さん。「商品企画からやらなければいけないので時間も手間もかかりますが、そこを私たちがやることで新たな大阪ブランドが生まれる。楽しさの方が大きいです」

ハーフパンツの作例

将来は、大阪から飛び出し全国へ、世界へ

将来について、「ゆくゆくは、“+728”というブランドができれば」と松村氏。「ショップを作って展開したいという夢もあります。大阪のクリエイターと大阪のものづくり企業のコラボにこだわったブランドとして、全国といわず世界へ展開できればいいですね」。
清水さんは、「“+728”の活動を通して、単純に大阪以外の人に大阪の技術を見てもらいたいという気持ちがわいてきた」という。そのためにも「今後は、広報や販促活動にもっと力を入れていきたい」と山中さん。
「今、私たちだけで十分に補えていない部分、例えば、広報や販促、カメラマン、プランナー…いろんなジャンルの専門家に+728にかかわってもらって、このプロジェクトを大きく成長させていければいいですね」

打ち合わせ風景
打ち合わせにも熱がこもる。

株式会社マチック・デザイン

グラフィックデザイナー
松村裕史氏

http://www.maticdesign.jp/

HDO/ache design office(アッシュデザインオフィス)

空間デザイナー
山中広幸氏

http://achedesign.com/

彩飾案

テキスタイルデザイナー
清水敬二郎氏

ライター
竹田亮子氏

公開:2013年7月17日(水)
取材・文:わかはら真理子氏(株式会社アールコンシャス)

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。