メビック発のコラボレーション事例の紹介

「ええ感じに」を合い言葉に、使い方まで含めて空間をデザイン
ウェディングカフェ「circle」

ウェディングカフェ「circle」店内
中立公平さん(左)と、久田カズオさん(右)。
背景のキッチンカウンターを覆う家型の仕切壁は、人形劇の舞台をイメージして久田さんが自作したもの。

劇団「KIO」の芸術監督であり、自社「PHI」に所属する俳優やスタッフが運営する劇場&カフェのオーナーでもある中立公平さん。デザイン事務所「9」を代表し、店舗や住宅のリノベーションを得意とするクリエーティブディレクターの久田カズオさん。二人の出会いから生まれたのが、ウェディングカフェ「circle」。二人が口をそろえて「奇跡のコラボ」と呼ぶプロジェクトについてお話を聞かせていただいた。

メビック扇町が出会いのキューピッド

二人の出会いのきっかけは、メビック扇町の「クリエイターズファイル」。久田さんの記事を目にした中立さんが「この人と一緒に仕事がしたい」と直感。メビック扇町に紹介を依頼し、コンタクトを取ったことが始まりだった。
コラボレーションの舞台は、大阪府立江之子島文化芸術創造センターの地下1階。ここにカフェをプロデュースしてほしいという話が中立さんの元に舞い込む。「江之子島って、西区の端の角地にあって人通りが少ない。ここを目指して人に来てもらうには、ウェディングプランをやってみたらどうかと考えました。公共の館で、元々は大阪府庁舎があった場所。そこから若者たちが結婚して旅立って行くというイメージにもぴったり合うんじゃないかと思ったんです」と、中立さん。この提案を聞いた久田さんは、「正直、ここにカフェというのは立地的にしんどいんちゃうかなと最初は思いました。でも、中立さんからコンセプトを聞いて、それならいける!やりましょう!」と、協働を快諾したという。

中立「アーティストの感覚を信じて、まかせた方がうまくいく」

店内のデザインイメージに関しては、すべて久田さんに一任された。これは、中立さんの「プロデューサーがあれこれ細かく口出しするよりも、アーティストにおまかせした方がうまくいく」というモットーによるもの。「舞台の演出をやっている経験上、例えば、舞台美術家さんとか衣装さんに対して演出家が自分の思うとおりにしようとハンドリングすると、だいたい良くない方向に行くことが多い。それって結局は、相手の頭脳を無視した形でただの手足にしてしまうから。僕はそういうのは好きじゃない。いいものをつくるためには、自分の感覚だけははっきりと伝えて、あとはなるべく自由な形がいいと思っているので。久田さんがやりたいと言うことには二つ返事でどうぞ!というスタンスでお願いしました。そしたら、久田さんがどんどんアイデアを出してくれはって。僕は予算管理や館との契約交渉など外側の事だけやっていればよかったので、非常に楽でした」と、中立さん。

久田「カタにはまらないウェディングを演出したい」

偶然にして過去にレストランウェディングのマネージャー経験があった久田さんは言う。「いろんな式を見ていて、すごく盛り上がる時と、そうじゃない時があった。それって、来ている人たちのテンションの高さとかではなくて、演出にすごく左右されていたんです。いい映画やいい舞台を見たときにすごく盛り上がるのと一緒で、プログラムがしっかりしていれば、ウェディングってすごく盛り上がるし感動する。中立さんから今回の話を聞いた時に、劇団には、プロの役者がいて、演出家がいる。プロの役者が式を一つの舞台のように演じれば、今までにないウェディングができるんじゃないかと思ったんです。海外では、高度に演出されたウェディングプランって結構あるんですけど、今の日本にはカタにはまったものしかない。結婚式場にしろ、ハウスウェディングにしろ、全部がカタログ的。そこになんのオリジナリティもない。結婚式とはこういうものというカタが決まっていて、選択肢がないんです。中立さんと一緒なら、今までのカタを破る新しいことができるんじゃないか。これは面白いぞってピンと来たんです」

広がるイマジネーションをセルフビルドで形に

劇場型ウェディングというコンセプトを象徴するのが、まるで人形劇のセットのようなカウンターオブジェ。これは、久田さんの手作り。実は、店内のほぼすべてがセルフビルドでできている。
久田さんいわく、「お店をつくるときって、僕らが設計図を書いて、工務店に工事を依頼し施工管理をするというのが通常の流れ。それが中立さんは『絵だけ描いてくれたら、あとは自分たちでやります』って言うから驚きました」とのこと。
「劇団をやってると、舞台の大道具とかも自分たちで作るんで、たいていのものは作れるんです。劇場の上の階にカフェをセルフビルドした経験もありましたし。電気やガスなど免許が必要な部分だけ業者さんに頼んだ以外は、すべて自分たちで作りました」と中立さん。

白で統一された空間にカラフルな彩りを添える「あめ玉シャンデリア」も、もちろん手作り。こちらは、「いろんな個性が集まって円を作る」という「circle」のシンボルマークを立体化したもの。昔懐かしい駄菓子屋さんの糸引きあめに、一個一個ウレタンコーティングを施してある。その数なんと600個。完成した写真を久田さんがフェイクブックにアップしたところ、「いいね!」が1500もついたという。そして、設計開始からわずか3週間たらずという奇跡のスピードで、2013年1月23日、大安の日にめでたくオープンを迎えた。

新たなコラボへ続くパートナーシップ

通常、お店が完成したら建築家としての役割も完了となるが、そこで終わらないのが二人のコラボレーション。久田さんは、「circle」の演出や運営にも積極的に関わり、「オペレーション的なことも含めて、一緒に話しながらやっていけたらなぁと思っている」という。さらに今後については、「今は、社会性があって、なおかつインパクトのあるものをつくるには、個人や会社単体では非常に難しい。いいところを持っている人たちが組んでプロジェクトごとに求められるものをつくっていかないと、やっていけないと思います。そういったことを、中立さんたちと試しながらやっていきたい」と考えているのだそう。

一方、中立さんも久田さんとのコラボを続々と企画中。「circle」オープンの次の日には、ギャラリーの設計を依頼していたという。「僕自身のテーマが、“人の生活の豊かさ”なんです。町に住まう人たちが、どうしたら豊かになるだろうということをいつも考えています。それで、みんながもっと身近に芸術にふれられる場を提供したいと考え、劇場の上の階にギャラリーを作ることにしました。1階が劇場、2階がカフェ、3階がギャラリーのアートビルディングとして全体をプロデュースしてほしいと久田さんにお願いしました」。また、この春から、大小2つの劇場を持つ阿倍野区民センターの指定管理を任された中立さんは、ここを公立拠点劇場とすることを目標としている。「劇場を中心としたクリエイティブな都市作りをやってみたいんです。もちろん僕一人の力ではできないことなので、久田さんにも一緒になってやっていきましょうという話をしています。久田さんが持っているデザインの感覚と、僕らの劇団が持っている領域は見事に別々の部分。これが、町という大きなサイズに入れたら、ええ感じになるんちゃうかなと思ってるんです」

「circle」のロゴ、シンボルマーク
「circle」のロゴやシンボルマークは久田さんによるもの。さまざまな人が集まってつながる様子をイメージした。

有限会社PHI

CEO / ゲキダンキオ(THE KIO)芸術監督
中立公平氏

http://www.officephi.com/

9株式会社

代表取締役
久田カズオ氏

http://www.ninedesign.jp/

公開:2013年7月22日(月)
取材・文:清家麻衣子氏(C.W.S)

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。