DTPオペレーターの地位を確立したい
宮地 知氏:WORK STATION えむ

DTPオペレーター。デザイン・印刷業界に身をおく人ならば、知っているだろう。では、どんな人がその職に就いているのだろう?専門学校卒業したての新人、それともデザイナーをめざして転職した未経験者…。今回、取材をさせていただいた宮地さんは、写植・版下業を経てDTPオペレーターに転身した人物。その道のプロフェッショナルである宮地さんに、DTPオペレーターの現状と、これからの目標を伺った。

職種として認められていないDTPオペレーター

宮地氏

大量に印刷されて一定期間で消費されていく、例えばカタログや冊子といった複数のページで構成されている印刷物。そのデザイン、レイアウト、DTPをこなし、印刷するまでのデータをつくるのが宮地さんの仕事。「チラシやポスターといったツールに比べ、ページものは、まだスケジュールがきちんとしているから、一人でやるのには都合がいい」という宮地さんは10年以上、DTPオペレーターをしている。クライアントが望むものを印刷会社の営業または編集プロダクションを通じて聞き、その内容を具現化。「誰が作ったのか、表に出ないもの」を制作する、いわゆる印刷業界を陰で支えるプロフェッショナルだ。そんなベテランの宮地さんでも解決できない問題がある。それは、「DTPオペレーターが職種として認められていない」ということ。業界ではオペレーターって、すぐに補充できる、または、デザイナーになる前の段階のポジションだと思われているという。「でもそれは間違っている」と宮地さんは語る。宮地さんの持論では、「DTPオペレーターの進化の先がデザイナーではない。DTPオペレーターは、まずパソコン、アプリケーションの使い方を覚え、デザイナー指定のとおりにデータを作る。そして、経験値を積んでデジタルワークフローの全体を見通す力を身につけ、やがてDTPディレクターになる」という。その誤解や認知不足を解消するために、DTPに携わる人たちに呼びかけて、勉強会を行い、意識と知識の向上のために努めているのだ。

写植・版下業界の崩壊。そして新しい道へ


電算写植機の版

17才のときに写植・版下業界に入り、1991年に独立。その頃の宮地さんは、まだ電算写植機を使い、写植・版下を請け負っていた。しかし、POWER Macが登場し、デザイン・印刷業界が一気にデジタル化の波に押されると、写植・版下の価値が薄れ、次々に撤退、転職していく会社が増加。そんな中で宮地さんは、同業者とは異なり、Macを使ったDTPオペレーターの世界へと進む。「業界がなくなってしまったんです」というようにやむをえない選択だった。アナログからデジタルへの転換は大変だったのではないだろうか。そう尋ねてみると「版下上でやるのと、Mac上でやることは同じこと。ベースがパソコンになっただけ」という答えが返ってきた。「もともと機械やコンピュータを触るのが好きだったんです」それも理由のひとつだが、応用力と柔軟性に富んだ人物だと感心した。

印刷業界ではあらゆることがデジタル化し、便利性やクオリティも上がった。その反面、印刷事故、いわゆるミスが多くなってきていると宮地さんは語る。「昔は分業がきちんとなされていて、校正がしっかり行われていた。今はデジタル、パソコンに頼りすぎて、ワークフローのルールが徹底されていない。携わった人の数だけデータができてしまう。結局、ミスが発生するのはパソコンではなく、作業する人間が原因なのです」。どれだけデジタル化が進もうと、その良し悪しを決めるのは人間なんだという言葉は、業界に関わる者としてとても考えさせられた。

中学生の部屋こそが、癒しの空間


DTPオペレーターの現状について熱く語る宮地さん。話をお聞きしていると、過酷なことが多くあり、ストレスが蓄積しているのではないかと思った。「1日18時間、それが1週間続くこともある」という。そんな宮地さんの疲れやストレスを癒しているものは、なんとフィギュアらしい。そういえば、部屋に通された時から感じていたけれど、まじまじと見回してみると、小さなフィギュアがそこかしこに。そしてフィギュア以外にも大量に本が置かれている。本が好きで、出力を待っている時などの合間があれば、すぐに開けて活字を追いかけるという。それも宮地さんにとってのストレス発散のひとつなのだ。大量の本とフィギュアに囲まれた空間は、「中学生の部屋みたい」と言われたことがあるらしく、的確な表現だと感心したと同時に、宮地さんの気持ちもよく理解できる。

デジタルワークフローの確立をめざして

宮地氏

現在、宮地さんは本職以外でもさまざまな活動を行っており、その一つが沖縄のデジタルコンテンツ産業の活性化をめざすプロジェクトだ。オブザーバーとして沖縄の映像コンテンツ人材育成事業を主催する友人のサポートをしている。これからは大阪でデジタルワークフローの確立をめざした勉強会を開きたいという。現場の声を拾い上げ、課題についての解決策や、ミスをケアするための知識、技術を広める。そしてDTPオペレーターという職種を認知させるのが宮地さんの目標だ。東京や名古屋ではDTPに関する勉強会が盛んに行われているという。“このクリ”歴が長く、「この地が好きで、居心地がいい」という宮地さんは、この街で、もっと多くの勉強会を開き、DTPの現場の人々に伝えていきたいと願う。

公開日:2008年08月26日(火)
取材・文:株式会社レグ 三島 淳二氏
取材班: 廣瀬 圭治氏