世界に届け、日本発「カワイイ」のチカラ
クリエイティブサロン Vol.52 玉井恵里子氏

多岐にわたるジャンルのクリエイターを招き、その創造の原点や思いを聞くことができる「クリエイティブサロン」。今回は、デザインコンシャスな空間やライフスタイルを企画提案し、少量プロダクト(ハンドメイド)を通じて国内外に「カワイイ Kawaii」を発信してきたタピエの代表取締役・デザイナーの玉井恵里子氏をゲストスピーカーに招いた。1999年、大阪・南船場にオープンした雑貨のギャラリー&セレクトショップ「タピエスタイル」はハンドメイドブームの草分け的存在で、2008年にはガイドブック「Zakkaな大阪」を出版。2012年以降パリで、日本のカワイイ作品とクリエイターを紹介する展覧会を2回成功させた。「カワイイ」をどのように競争力のあるビジネスとして広げていくのか、デザイナーとしての視点と課題を聞いた。

玉井恵里子氏
「自分の好きなものが身のまわりにあり、気持ちが豊かであることが大切」と玉井恵里子さん。

斬新なデザインで空間とライフスタイルを企画提案

京都に生まれ、大学で日本画を専攻した玉井恵里子さんは、アルフレックスジャパン社で10年間、家具とインテリアの仕事に就いた後、独立。1994年、東京・代々木にタピエを創業した。デザインコンシャスな人々に向けて、個人の住宅やゲストハウス、家具・照明、マンションのモデルルーム、展示会のディスプレーなど、さまざまな空間とライフスタイルを企画提案してきた。代表作の「曹洞宗大宮山東光寺涅槃堂」(埼玉、大宮)は、礼拝堂の天井を全面、欄間(らんま)の透かし彫り天井でつくりあげた斬新で魅力的なデザイン。訪れる人が仏と間近に対面し、自分と向かい合う時間を過ごせるよう敢えて小さな空間にして美を凝縮した。位牌堂には四方に日本画を描き、「絵が歩く道しるべ」の役目を果たしひとが自然と周遊したくなるよう設計した。

「曹洞宗大宮山東光寺涅槃堂」正面
「曹洞宗大宮山東光寺涅槃堂」

群馬県のゴルフ場内にある「水上高原レジデンス」は、家具はもとより沖縄の琉球ガラスやミンサー織りを生かした小物まで全ての調度品を選び特注した、ストーリー性のあるインテリアデザインを常に思い描く。「人が集ってどう寛ぎ喜びを感じられる場にするか?シミュレーションする編集作業という点では、お寺もゴルフ場も同じ」と玉井さんは話す。京都の伝統工芸職人とコラボレートしたプロダクトも多数発表し、2008年以来毎年、ミラノサローネ国際家具見本市に出品。木工から組紐、こよりなど日本の伝統工芸に、玉井さん独自の視点を加えている。

「出品したからといって目先の仕事が増えるわけではありません。自分がさらされることで自由さとヒリヒリ感を同時に味わう。それが私を成長させてくれるのです。それが自己発信の大切なところ」と玉井さんは話す。

「水上高原レジデンス」ロビー
「水上高原レジデンス」

この世に残るべきものを「目憶力」で選別

もう一つの柱は、撮影用小物のレンタル事業「タピエマテリアル」。コマーシャルフィルムやカタログの撮影に使われる家具や照明、ファブリックなどさまざまなインテリア小物を広告業界のデザイナーやスタイリストに貸し出している。小物のコレクションはおよそ4万点に及ぶ。国内外問わず自分の足でアンテナが働く場所に訪れて買付けをする。商品を選び、目で記憶し、情報をストック、仕事の依頼があるたびに記憶から取り出し、編集し、活用していく。そんな一連の仕事に必要な資質を、玉井さんは「目憶力(めおくりょく)」と呼んでいる。仕入れたモノだけでなく、海外の情報やこれから何が流行りそうかも提供する。
「コレクションの一つひとつには、それぞれ大切にされてきたストーリーがあります」と玉井さんは言う。モノはたくさん作られ、どんどん捨てられていくが、そんな中から残るべきものを直感的にセレクトしていく。それが目憶力の神髄だ。

ハンドメイド雑貨を世に送り出す

99年、大阪・南船場に25坪の「タピエスタイル」をオープンした。この頃、パリへ旅行して、店主が好きなもので構成し、店主の顔が見える店が多いことに触発された。故郷の京都には知恩寺の“手作り市”(手作り作品のフリーマーケット)があった。タピエスタイルでは、自分がみつけたクリエイターの作品を扱ってみよう。こんな想いを経て、カワイイ手作り雑貨のギャラリー&セレクトショップというコンセプトが決まった。99年当時には、クリエイターズギャラリーもハンドメイドも時代の先駆けだった。南船場には次第に高感度な女性やデザインに興味がある人が集まってきた。
「タピエスタイルは大阪での自分の居場所であり、実験的空間で、人が交流する場でした」と玉井さんは言う。百貨店や商業施設からの出店のオファーが転機となり、事業は発展した。
また、タコ焼きや通天閣、阪神タイガーズだけでない、おしゃれでカワイイ大阪を発信しようと「Zakkaな大阪」(西日本出版社発行)を2008年に出版。店に携わっていたスタッフやアーティスト、そして自らも取材に出かけ、読者が自転車で回れるよう大きな地図をつけた。今もロングセラーだ。

「Zakkaな大阪」表紙
「Zakkaな大阪」(西日本出版社2008年)

Kawaiiのプロデュースと商品化

2012年1月、大阪市とパリ市の人材交流事業の事業者に選ばれ、スタッフの石山暁さんをパリに派遣、パリ市のインキュベーション施設「アトリエ・ド・パリ」の支援を受けながら、手作り雑貨の展覧会「Kawaii Zakka」をマレ地区のギャラリーで開いた。

タピエがセレクトした大阪のクリエイター9人を紹介し、作品を展示。来場者は400人と小規模だったが、現地のル・モンド紙は「カワイイとは何か」と取り上げ、文化・デザイン・ファッションを担当するパリの副市長が「日本には古い伝統文化とムジ(無印良品)とマンガ以外にこんないいものがある。カワイイ雑貨は奥深い」と評価。2012年7月、帰国報告展覧会「Kawaii Zakka」が大阪・中之島デザインミュージアムで実施され、1000人以上が集まった。
この人材交流事業は打ち切られたが、玉井さんは再び渡仏し、アトリエ・ド・パリの所長に会って相談する。パリ市が支援してくれ、2014年1月、2回目の展覧会「Kawaii et cetera」をバスティーユ駅近くのギャラリーで開いた。今度は日本全国から出品者を募り、パリの審査員に選んでもらった。モスリン、和装素材のアクセサリー、蜜蝋、陶芸、人形、かばん、コスチューム、ジュエリーなど、素材や製法にこだわった日本ならではのカワイイプロダクトが選ばれ、1350人が来場した。パリ在住のライター、清水友顕さんの記事が「装苑」(2012年)で配信されたことで、展覧会に出品した人形作家の入江優子さんと、東京のイデアインターナショナル社が組み、商品化することになった。手作り作品をプロダクト化する事例がなかったために、タピエがプロデューサーとなって両者の間に入り、作家のニュアンスを崩さないように設計・制作する上での細かな作業を積み重ねた。音を聞くと踊り出すカワイイ人形「KUCHI-PAKUアニマルスピーカー」は3種類で15000体を売り上げ、2014年10月にはシリーズの新作を発表した。

「KUCHI-PAKUアニマルスピーカー」
パリでの展覧会がきっかけとなって、タピエ、人形作家(IRIIRI入江優子)、メーカー(イデアインターナショナル)がコラボして完成した「KUCHI-PAKUアニマルスピーカー」。

カワイイを世界発信する時の課題とは

今、カワイイは日本文化のカテゴリーの一つとして注目されている。
「カワイイには豊かさと品格があり、人を傷つけません。カワイイの対極は『ファシズム』だと思っています。世の中には苦しいこともたくさんありますが、カワイイものに目をむけると、そこに救いがある。カワイイは世界に類をみない、日本人のもつやさしさであり、日常生活を通して人と人をつなげるコミュニケーションツールになりつつあるのではないでしょうか」と玉井さんは分析する。いまや小さなアトリエにいる1人の作家でも、世界市場を見据えてメーカーになりうる時代だ。カワイイをビジネスとして成長させるには何が鍵だろうか。

ハンドメイドは一品物で、補充が効かない。日本からフランスに輸出すれば、卸値の2倍から3倍の値付けをしなくてはならない。超有名ブランドの高級品か、格安品しか売れていないパリの市場では、「カワイイけれど高い日本製」は中途半端な存在だ。アトリエ・ド・パリの所長にも「カワイイには日本のスピリットを感じるが、もっとフランス市場をマーケティングし、営業力をつけ、適切な価格設定に」と言われた。

「難しいから海外に出たくないと考えるのではなく、企画者であるタピエ、作り手である作家、行政、ディストリビューターの4者が手を組み、知恵を出し、国際競争力のあるプロダクトにしないと。現地の専門家の力も借りなくては」と玉井さんは考えている。

「デザインの原点には強い好奇心があり、課題を調べるために厚かましくキーパーソンを訪ねてきました。インターネットで調べるだけでなく、それぞれの現場に行く。そこで自分が実感し、相手の発想に触れ、人とつながっていくことが大切。これまで多くの人的ネットワークに支えられ、タピエは成長してきました。これから人と人をつなぐ役としてタピエの存在意義があると考えています」と玉井さんは話す。

「Kawaii et cetera」開催風景
「アトリエ・ド・パリ」ビル1Fギャラリーで開催された「Kawaii et cetera」。
こちらは元はジャン・ポール・ゴルティエのブティックだった。

イベント概要

デザインできりひらく「カワイイの力」
クリエイティブサロン Vol.52 玉井恵里子氏

〜タピエ流『目憶力』 〜お寺からおもちゃデザインまで〜

2014年1月パリ市主催のもと、日本のクリエイター14組を紹介する展示会「Kawaii et cetera」を実施しました。
15年前、大阪にギャラリー「タピエスタイル」をオープンしてから、パリに至るまでのストーリーを明かします。
なぜいま「ハンドメイド」が人々に愛されるのか?

  • デザイナーとして見つめ続けてきた「Kawaii」の本質とビジネスの可能性
  • 世界市場に輸出する次のステップの課題
  • 誰もがメーカーになりうる時代、その可能性と展望

開催日:2014年8月6日(水)

玉井恵里子氏(たまい えりこ)

デザイナー / 株式会社タピエ代表取締役
大阪成蹊大学環境デザイン学科非常勤講師

タピエは、大阪・東京を拠点に、インテリア・グラフィック・プロダクトなど、文化・アートのジャンルを越えライフスタイルデザインを考えるクリエイティブな会社です。

1992年
アルフレックスジャパンより独立し東京代々木に「タピエ」設立。
1999年

大阪・南船場にオープンしたギャラリーショップ「タピエスタイル」は、現在のハンドメイドブームの草分け的存在として広く知られている。

2008年

「カワイイ大阪」を全国発信するためのガイドブック「Zakkaな大阪」(西日本出版社)を監修。

2012年・2014年

「Kawaii et cetera」をパリ市のアトリエ・ド・パリで開催。

玉井恵里子氏

公開:2014年10月20日(月)
取材・文:鶴見佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。