ドローンが拓く未来 ~ドローンって、30年前のパソコン?~
I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会

メビック扇町では、クリエイターが持つ創造力や表現力などを活かし、産業や経済、社会などの分野でイノベーションを創出することをめざし、クリエイター自身が各専門領域の知識を修得しクリエイティブニーズを探るとともに、専門家と交流を深める機会として、「I-LABO クリエイターのためのイノベーション創出研究会」を開催している。今回のスピーカーは、産業用ドローン開発に取り組まれている菱田技研工業株式会社代表取締役の菱田聡氏。ドローンの活用事例やドローン開発に至った経緯、開発した製品についての話題などが提供され、クリエイターとの意見交換も活発に行われた。

菱田氏からの話題提供

ブロック塀の鉄筋棒鋼づくりから事業転換。

今は菱田技研工業という社名ですが、以前は菱田伸鉄工業でした。1920年に私の曽祖父が始めた会社で、ブロック塀に入っている鉄筋棒鋼などを作っていました。私は大学院でロボットについて研究し、卒業後メーカーに入りましたが、入社した年からロボットの部署への配属がなくなり、研究所で4年間エアコンの制御などの研究開発に携わりました。その後、菱田伸鉄工業に入った途端にバブルが弾けて、1995年に会社は伸鉄業から撤退。2004年に大阪市が作ったロボットラボラトリーにロボットでビジネスをしたい人が集まった際に、私も参加して仲間と一緒にロボットを作るようになりました。
当初は玄関見守りロボットやキャラクタロボットなどを開発しましたが、リーマンショックもあり売れませんでした。その後、大阪産業創造館のセミナーで知り合った大学の先生と一緒に飛行ロボット(ドローン)の開発に取り組むようになりました。

大学との産学連携は、同床異夢。

大学と組むことは難しいことではありませんが、秘密保持や知的財産などの契約内容については丁寧な確認が必要です。産学連携は、一言でいえば「同床異夢」です。“スピード観”も“面白い観”も“出来た観”も“報連相観”も異なります。例えば、大学側の“面白い”は論文になるか、学会発表できるか、といったところですが、企業側は特許や新事業になるかどうか、が基準になります。学生の活用も一長一短です。共同研究費で研究活動をしてくれるのでそれなりの費用対効果が期待できる反面、卒論や修士論文を書く時期には研究が止まってしまいます。

無人飛行機や地上の車両を含む無人機を指す。

ドローンとは、無人飛行機や地上の車両を含む無人機を指す名称で、自動操縦や遠隔操縦を含みます。ドローンには①自ら判断し動作する②移動の制約が少ない③機器の搭載や物品の運搬ができるという長所と、①暴走する②墜落する③飛行時間が短く可搬重量が小さい、などの特徴があります。また、ドローンに関する法律としては、航空法、小型無人機等飛行禁止法、道路交通法、電波法などがあります。市場予測としては、市場を機体、サービス(ドローンを使うサービス)、周辺サービス(パーツやスクールなど)に分けた場合、2019年から2020年はサービスの売上が倍になっていくようです。
現在は、空撮や農薬散布、測量で盛んに利用されています。今後は、物流では宅配、災害対応では情報収集への導入が検討されています。また、農林水産業では育成状況のセンシングや害獣駆除、インフラ維持管理では橋梁点検や送電線点検などで使われようとしています。

売れなかったドローンと特許出願中の最新作。

当社では試作1号機と2号機を作り、カメラを機体上面に搭載した橋梁点検ドローン、アルバトロス(商標登録済み)を完成させました。2016年には日本経済新聞でも紹介されましたが売れず、シーズ志向(技術を生かす新たな価値提案)のロボットビジネスに限界を感じました。
そこで、菱田技研工業と社名を変更し、お客様の問題解決をするというニーズ志向を全面に押し出すことにしたところ、開発案件を依頼していただけるようになりました。建築解体現場のホコリ飛散を防ぐ散水ドローンや焼却炉内で炉内を点検するドローンを開発したり、お客様企業が保有するキャラクタのラバーダックをドローンにしてイベントで飛ばしたりしたこともあります。
今、神戸市立工業高等専門学校と共同研究しているのは、吸着グリッパを装備する壁面吸着ドローンです。壁面に吸着してプロペラを停止できるので長時間の運用が可能で、機体を固定することにより安定した状態で各種の作業ができます。このドローンは特許も出願しました。

さて、ドローンに何をさせましょう?

~ドローンって、30年前のパソコン?~と今日のタイトルの副題にあるように、今から30年ぐらい前の昭和の終わりの頃に「パソコンは何でもできるけど、さて何をさせましょう?」といった時代がありましたが、今まさにドローンがそういう状態だと思うのです。ドローンは飛ぶロボットなので扱いが難しい反面、秘めたる可能性があるはず。だから、今日ご参加くださったクリエイターの皆さん、「こんな使い方は!」というのがあったら、ぜひお聞かせください!

菱田氏との質疑応答

A氏(ライター):
開発されたドローンに8つのローターが付いていると言われましたが、それらはフル稼働しているのでしょうか?

菱田氏:
ローターは最少4つ有った方がいいですね。ただ、4つの場合は、一つが壊れると回転方向の2対2が2対1になってしまいます。でも今は2対1になってもたちまち墜落というわけではなく、キリモミ状態になって降りていくような技術が開発されています。6つ、8つのローターは、安全性を向上させたり、より大きな可搬重量を得たりするためのものです。

B氏(映像クリエイター):
ドローンに搭載されているカメラは、どれぐらいの解像度ですか?

菱田氏:
最高性能のカメラは1億画素です。これなら例えばダムの点検写真を撮る時に枚数が少なくて済みます。ダムは危ない場所なので、少ない枚数で済んだらそれだけ危険度は下がります。

C氏(プロダクトデザイナー):
ドローンは、どのくらいスピードが出るのでしょうか?

菱田氏:
時速30・40キロや間違いなく出ると思います。ラリーカーの横を追いかけて写真を撮ることもできるようです。がんばったら時速100キロが出るかもしれません。

A氏(ライター):
散水ドローンは水の反力で戻るのでは、と思いますが、あらかじめローターが傾けてあるのですか?

菱田氏:
いえ、水の勢いに応じでてローター軸の角度を制御します。実は、最初に開発したドローンはそのような仕様にしていなかったので、機体は18度傾きました。スキー場斜面の斜度18度を想像していただけるとわかると思いますが、かなりきつい角度です。

C氏(プロダクトデザイナー):
海外では人が乗れるドローンがあるようですが、危険度が高いのではないでしょうか?

菱田氏:
ドローンは飛んでいるものなので、どこまで信頼性を高めていけるかがポイントになります。経済産業省の「空の産業革命に向けたロードマップ2019」では、型式証明や飛行証明など、飛行機と同じだけの信頼性・性能を出さなければいけないことになっています。

E氏(映像クリエイター)
水中ドローンはどのような構造になっているのですか?

菱田氏:
水の中は電波が届きにくいので一般的には有線になっています。ダムの中や下水処理場の中を撮影する時に使います。当社も工場をしていたときのプールがあり、水を貯められるので、そのような話が来るのを待っているのですが、まだ来ませんね。(笑)

C氏(プロダクトデザイナー):
事故とか怖い話だけでなく、何か明るい話はないでしょうか?(笑)

菱田氏:
そうですね(笑)。ドローンは便利なツールで、映像を撮るにはこんな便利なものはないと思います。農薬も以前から耕地面積の3分の1を大型ラジコンヘリコプターで撒いていましたが、ドローンを使えばもっと細かい範囲で散布でき実用化がすすみます。

エピローグ

菱田氏は、最後に問題提起として一つの動画をスクリーンに映し出した。ある動画のメイキングムービーで、若い女の子たちが学校の中で歌い踊るものだが、その中でひとりの女の子の髪に小型ドローンが巻き付いてしまい、墜落してしまう場面があった。女の子は笑っていたが、それに対して菱田氏から「クリエイターの皆さんはどう思うか?」という問いが投げかけられた。「別に何も問題がない」と思った人や「髪の毛でよかった」と思った人、「女の子を含め、危ないということがわかっていないのが怖い」と考えた人がいるかもしれない。菱田氏は「ドローンは飛ぶものだから“絶対に墜ちない”ということはない。だから、できるだけ堕ちないようにドローンの性能や信頼性の向上が不可欠です。また、墜ちても大事故、大事件にならない安全な機体の開発だけでなく、法整備をはじめさまざまな整備が必要」と語る。ラジコンヘリよりも扱いが簡単なので「勇気があって“常識”がなかったら、あっという間に飛ばせるが、飛ぶものなので必ず墜ちる、と考える“常識”を持つことが大切」と続けた菱田氏の言葉は、言われてみれば当たり前のことだが、ついつい忘れてしまいがち。“常識”をわきまえた上で“常識”を超えていく。クリエイティブの世界にも通じるメッセージは、参加者にとっての貴重な気づきになったはずだ。

公開日:2020年02月21日(金)
取材・文:中島公次氏(有限会社中島事務所

菱田技研工業株式会社

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