想像できることは創造できる。着るロボットで世界を変える。
I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会

メビック扇町で開催されている、「I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会」。これはクリエイターの力を活かし、専門領域の知識を修得してクリエイティブニーズを探ろうというもの。今年度は製造や研究の場におもむき、最先端の現場を見学。専門家との交流を深め、産業、経済、社会のさまざまな分野でイノベーション創出をめざす。今回訪問したのは「パワードウェア」をはじめとする着用型ロボット機器の開発・販売を手がける「株式会社ATOUN(アトウン)」。「ロボットを着て、人間がもっと自由に動き回れる世界をつくる」をミッションとしている。古都・奈良でロボテックスに取り組み、イノベーションを起こす同社。その現場は驚きの連続だった。

人の仕事を奪うのではなく、人の可能性を伸ばすロボットを。

パワードスーツといえば、古くは『エイリアン2』から『アイアンマン』といった映画や小説、アニメに登場し、未来を予感させるメカとして知られている。そんなパワードスーツをはじめとするロボット開発で知られる、株式会社ATOUN。奈良にある本社を訪れた人は、最先端ロボテックスの現場が瓦葺き平屋の純和風建築、というギャップにまず驚かされる。建物に近づくと、ガラス張りの正面玄関に超近代的なロボットが一列に並んでお出迎え。瓦屋根の建物とロボット、この組み合わせだけでもうワクワクしてくる。社名の由来は「阿吽の呼吸」。人間とロボットの調和する社会からつけられた。同社はパナソニックが出資するロボットのスタートアップ、代表取締役社長の藤本弘道氏が社内ベンチャーを利用して株式会社アクティブリンク設立、2017年に社名をATOUNに変更した。

藤本氏は創業した2003年の段階で、パワーアシストスーツに着目。「これから訪れる超高齢社会で求められるのは、人手不足を補うためのロボット。そこでニッチなマーケットを狙うならパワーアシストスーツ、つまり着るロボットになると考えました」。ちなみに同社の製品はパワードスーツではなく「パワードウェア」と呼び、シャツを羽織ったり、パンツを履くようにロボットを着ることで、人間の力を引き出す。これによって性別や年齢による体力差が障壁にならず、人がもっと自由に動ける「パワーバリアレス社会」の実現をめざしている。つまりAIやロボットの台頭に対して人々が恐れを抱く、「仕事を奪われる」のとは真逆の発想だ。「パワードウェアの狙いは、ロボットによる省人化ではなく、ロボットが人間の可能性を高め、人がロボットと働ける社会をつくることです」

技術ありきの考えではなく、仕事や生活でリアルに役に立つロボットを。

最初に狙いを定めたのは医療関係で、リハビリテーション用のパワーアシストスーツ「着るロボット」は世界中で評価された。プロトタイプはニューヨーク近代美術館に展示され、『TIME』誌にも「2006 BEST INVENTIONS」として取り上げられほど。ただ実用化は難しく、その後は作業支援ロボットに方向転換。動力源をモーターに切り替えて、「ATOUN MODEL A」として商品化できたのが2015年。そこから改良を重ね、価格も重量も半分近くスリム化した「ATOUN MODEL Y」が2018年に販売された。「MODEL Yは、JALグランドサービス、九州電力をはじめ物流や工場、農業などの現場で使っていただいています。よく福祉や介護の現場でもと言われますが、この分野の作業は多岐にわたるため、衣服のように軽くずっと身につけられるものでないと難しい。ほかにも農業分野で普及させるには、もっと価格を抑えなければとか、そういった課題を一つひとつクリアにしていきたい」。藤本氏の名刺には同社の代表とともに「社会実装家」の肩書がある。多くのベンチャー企業が陥る技術ありきの考えではなく、人間の機能拡張のように、現在困っているところに丁寧に応えていくとことをめざしている。「私たちがやっているのはゼロイチ事業。0から1をつくるには何か言葉を信じるしかない。ひとりで起業したとき自分を奮い立たせた言葉が“想像できるものは創造できる”。それを信じて実装を繰り返しています」。18年から累計で約600台販売した「MODEL Y」は、現在追加パーツも開発中だ。ひとつは腕への負担を軽減するための小型ユニットで、今後も用途に合わせて、組み合わせることで作業ごとに最適化したサポートを実現したいという。

ロボットの導入で雇用の可能性も広がる。
それこそがめざすべき、バリアレス社会。

ひと通りの説明を受け、いよいよ体験へ。ここからは開発者の中野氏が解説。まずはパワーアーム。これは車の塗装や溶接用ロボットとベースは同じだが、人間と接触して人がどの方向に荷物を持ち上げようとしているかを検出しながら動くという。「パワーアシストのいいところは、力加減が人間の肌感覚でできるところ。この力加減ができることで扱えるものが劇的に増えます」(中野氏)。

サンプルとして用意された鉄塊26kgを男性はもちろん小柄な女性でも軽々と持ち上げ、意識することなくそっと戻せた。ちなみに肉体運動をともなう作業現場では扱うものの重量を「労働者の体重の約40%以下となるように努めること」という労働省通達がある。「これにあてはめると体重60kgの人で24kg。つまり24kg以上のものを扱う現場では体重60kg以下だと雇用対象外。しかしこのマシンを1台入れることで、そういう人たちの雇用の可能性も広がる。それこそバリアレスな社会だといえます」(中野氏)。

次は世界最大サイズのパワードスーツ「NIO」。映画『エイリアン2』に登場するヒト型の重作業ロボット「パワーローダー」にインスパイアされてつくられた。装着は20~30秒で完了。有事の際にすぐ脱げるように設計されおり、電源を落として完全に脱ぐまで2、3秒程度。「NIO」の技術は清水建設と共同開発したパワーアシストアーム「MODEL K」に落とし込まれている。さらに移動に特化した重作業パワードスーツ「KOMA」。足腰をサポートして斜面を上ることに特化し、林業用として開発「TABITO-04」などが紹介された。

人を超人化させるパワードウェアはカラダだけでなく、ココロにも好影響。

次はさまざまな現場で使われているMODEL Y。軽量なカーボン樹脂製で、登山用アタックザックのようなスリムなデザインだ。これはウエスト、両足のベルトとバンドで固定し、左右のショルダーストラップをチェストストラップで連結するだけ。「重量物を持ち上げる」「運ぶ」「降ろす」などの3つの動作モードを設定、それぞれの動きを補助してくれる。これを装着すると、空のビール瓶20本が入ったケースが苦もなく持ち上がる。中腰姿勢で止まっても、背中や腰に痛みがないのにも驚く。

最後は「HIMICO」というコードネームで呼ばれる、歩行支援パワードウェアを体験。これは歩くときの足の屈曲、進展角度を測定して、利用者の歩行パターンを推定。腰のユニットと両膝のプロテクターを結んだワイヤを伸縮させることで歩行を補助する。筋力や運動機能が低下した高齢者の歩行を助けることを目的に開発され、すでに近畿日本ツーリストとクラブツーリズムを傘下に持つ旅行会社KNT-CTホールディングスとともに、体験ツアーをベースに実証実験を開始している。装着して階段やスロープも体験。前日のマラソンで筋肉痛だった参加者からもラクに歩けると好評だった。これなら誰にも訪れる、「体力が落ちる→歩くことが嫌になる→意欲が薄れる」、そんな負のスパイラルも遠ざけてくれそうだ。藤本氏は「機能拡張とは超人になる技術」と語ったが、身体の機能拡張だけでなく、ロボットを身につけることで、やる気モードになる面白さもあった。

2028年までには自立型ロボットも。
そのためにも「着るロボット」を普及させる。

実機を体験したあとは質疑応答へ。「最終形はどういう形をめざしているのか」(WEBディレクター)という質問に対しては、「どんな作業で使われるかによりますが、もっと小さく、軽くしたい。構造から見直して今のMODEL Yよりも3~4割小さくなります」と藤本氏。さらに「最終的にTシャツのようになる可能性もありますか」と問われると「人工筋肉が発明されればできると思います」とも。現代美術ギャラリーの運営者からは、アートと最新技術の融合が進む現在、コラボについてどう考えるかとの質問が。「コラボの話は時々あります。社内では芸大の卒業展覧会を手伝った経験を持つ森川さんと中野さんが、その領域に近いのではと思っている」。それを受けて中野氏は「アート系の人はしっかりしたコンセプトは持ちながら、技術的な壁を超えられずアイデアで止まることが多かった。それを技術の力で実現して、これが商品として存在したら、実際に動いたらどんなインタラクションが得られるのかということを提供しました。このやり方ならコラボは可能だと思います」と語った。また「自立型ロボットはつくらないのか」(プロダクトデザイナー)という問いに藤本氏は、「着るロボットが普及したらやります。それは着るロボットともっとも相性のいい自立型ロボットになります。まだ先の話ですが、2025年から2028年ぐらいには実現したいですね」と心躍る答えを返した。

夢と現実をベストミックスさせるのが社会実装家。
大好きなSFの世界に少しでも近づきたい。

ATOUNは、企業名の変更をはじめ、プロダクトやカテゴリーの名称、ビジョン・ミッションの策定などを含めたブランディングに、伊藤直樹氏率いるPARTYをパートナーとして取り組んでいる。ほかにもSNSでゲームデザイナーやクリエイターと積極的に交流するなど、「クリエイターとは対話しながら、自分たちの未来像を発信していく方針」だという。今後、出会いたい人材を尋ねた。「今『テクノ女子会』に力を入れているので、女性の工学に対するイメージを変えることに手を貸してもらえる人」を挙げた。『テクノ女子会』とは昨年、奈良女子大学で開催された「異能VATION(イノベーション)女子発掘プロジェクト」。工学の楽しさについて語り合い、女性エンジニアを支援していく内容だ。

最後に「夢というか自発的につくりたいものはありますか」(プロダクトデザイナー)という質問があった。それに対してSFが大好きだという藤本氏はこう答える。「自分の子ども時代である40年前に思い描いていた世界と、今目の前に広がる世界がまったく違う。40年前に考えられた未来では、車はチューブの中を走っていたわけですから(笑)。だから今は何をつくっても、やりたかったことにつながっています。過去に描かれた輝かしい未来を自分で実現しようとは思いませんが、ただ自分が死ぬ頃には“これがSFに出てきた未来だ”と思える世界に近づけたいとは考えています」

公開日:2020年02月06日(木)
取材・文:町田佳子氏

株式会社ATOUN

奈良県奈良市左京6-5-2
0742-71-1878
http://atoun.co.jp/