アクセス解析 その醍醐味は「宝探し」にあり。
クリエイティブサロン Vol.172 斎藤隆一郎氏

ウェブマーケティングにおけるアクセス解析の重要性は年々高まり、アクセス解析の利用・活用が一般的になってきた。広告の効果測定をする、サイトの現状を把握する、経営陣や関連部門にレポートで報告するなど、アクセス解析の用途も広がってきている。今回のサロンはクリエイティブコーディネーターが聞き手となり進行する初の試みとして、ウェブアナリストの斎藤隆一郎氏とウェブディレクター柳田将一氏が登壇。ふたりが解析データを眺めながら、参加者と一緒にライブ感覚で展開された。

斎藤隆一郎氏

アクセス解析こそウェブ運営の要。
宝探し感覚でミッションをクリア。

ウェブサイトはつくっただけでは終わらない。効果を見ながらつねに改善が必要だ。そのためにはサイトのアクセス解析の数値を見て、改善ポイントをつかんでおく必要がある。そんなアクセス解析活用の現場で活躍するのが、ウェブアナリストの斎藤隆一郎氏だ。本日はウェブディレクターである合同会社ホームランオフィス代表柳田将一氏が聞き手となって、楽天ショップの解析ツールとGoogleアナリティクス(GA)による店舗の解析データを見ながらトークは進行。斎藤氏はキックボクシングジムのウェブ担当という異色のキャリアからスタートし、そこでSEOやアクセス解析に興味を持ちはじめた。コンサルティング会社や制作会社などでGA・Googleタグマネージャー(GTM)の設定・運用サポート、レポート作成などの経験を積み、2018年に独立する。

「いちばん好きなのはGAやGTM、Googleデータポータルなどのツール関係」という斎藤氏。飽きることなくアクセス解析に惹かれ続けてきたのは、「宝探しゲーム」のようだからと語る。ゲームのミッションは3つ。ひとつめは「ポイントになる数字を探せ」。ポイントとなる数字が見つかれば、そこをどう改善すべきか考えレポートティングしていく。膨大なページ数があるGAでポイントを見極めること、それこそまさに宝探し。ふたつめは「落とし穴を探せ」。検索エンジンから売上につながらないと思ったら実は設定がおかしかった、チューニングが悪かったというのはよくあること。「設定をチェックしてどこがおかしいかを探し、Cookieなどを通して当たりをつけ、それがバシッと直ったときの、まあ気持ちのいいこと(笑)。PCに向かってガッツポーズをしてしまいます」。最後は「改善点を探せ」。アクセス解析は改善提案まで出すのがふつうだが、斎藤氏の働き方は特殊。「柳田さんのようなディレクターやプロデューサーといったパートナーがいるので、改善提案は彼らが出します。その際に求められる仮説を証明するのに、納得のいく数字を出すところまでが自分の仕事。宝探しというゲーム感覚で、楽しみながら仕事をしています」

イベント風景

ウェブの特性、ポイントとなる項目をいち早く見つけ出すには。

顧客との商談中、解析画面を見てリアルタイムの分析を求められることが多いという。それを公開の場でおこなうのが、本日の「フリースタイルアクセス解析」。まずは柳田氏がウェブの業務改善に携わる、株式会社工房ほたるの楽天市場ショップ「ハンドメイド手芸材料のココット」をサンプルに、「ポイントになる数値を探せ」がスタート。楽天市場の場合はネットショップ開業をサポートする独自のショップ管理ツール「楽天RMS」があり、そのなかの店舗チェックシート(R-Karte)を見ながら進む。「まったくの初見で、あえて本家サイトも見ずにきた。だからとても緊張しています」。予備知識もないまっさらな状態で数値だけを見て、どこがポイントになるかを探っていく。柳田氏も楽天の解析ページはほとんど見たことがなく、「最近ハロウィン特集というランディングページ(LP)をつくったので、売上につなげていくキャンペーンの基軸になる数値を見たぐらいです」

冒頭からツールマニアであることを公言してきた斎藤氏、はじめて見る画面に興奮状態。配送クオリティ欄まであるのに驚く柳田氏。売上とアクセス数、デバイスの一覧が出て、こまかな数値の羅列に「ここはお酒でも飲みながらじっくり見たくなる(笑)」と柳田氏が言えば、斎藤氏も「気になるところしかない。楽しすぎて朝までかかりそうですね」と満足気。さらに売上、客単価、アクセス人数、PV数、転換率という重要な項目が出る。「よく言われるのが数字を見過ぎるなということ。それをやりだすとほかのことができなくなる。だからポイントとなる項目だけ見ようとしており、その項目はサイトによってバラバラです」。数多くのサイトでアクセス解析をしてきた斎藤氏でも秘訣はなく、ポイントとなる点をそのつど見つけるようにしているとか。

柳田氏

比較することでいろんなものが見えてくる。
数値化するためにはテストも。

店舗全体の集計からさらに細かく、今度はカテゴリー、商品ページ、ランキング、時間帯などのアクセスが表示される。斎藤氏はLPからの流入でどれだけ商品ページに飛んだか、そして最終的に購買に結びついたか。サイトの特性を知るためにまずはそこが知りたいという。「ページがあって、商品があって、お金になる。その流れを把握することでサイトの特性が見えてきます」。次に店舗全体のアクセス数、男女比率、年齢層、会員ランクの数値が出て、メインターゲット像が導かれた。施策としてはここに絞って展開するのもいいが、逆にメインではない層に訴求して、ボトムアップしていくことも大切だという。

「楽天などのモールの場合、ヘビーユーザーはモール自体のファンだからアクセス数が多いのは当たり前で、その人たちが実際購入したのかが気になる。だから同じセグメントで売上や転換率も見たいですね。またヘビーユーザーは他社と比較するのも特徴」。この比較データが取れない場合、仮説をつくるために斎藤氏が試した実験がある。製作会社に在籍していた頃、幅広い年齢層の社員にやってもらった「商品を検索して購入する」というユーザーテストだ。それに対して柳田氏はターゲットに響くようなセットをつくり、他社の似たセットと比較すると言う。「ファストフードにたとえるならマクドナルドとモスバーカーのセットを比べてみれば、前者は早い安い、後者は時間はかかるが丁寧につくるという違いがある。手芸用品店は扱う商品が似ており、例にあげたような違いは出しにくい。だから他店と似たセットをつくり、最終的に出される同一カテゴリーのランキングで数値を取るというやり方もあります」。それには斎藤氏も同意。「ぼくの仕事は数値化することですが、ふわっとした提案は検証しづらい。だから柳田さんの検証方法はベストアンサーだと思います」

最新ツールを使いこなして膨大なデータを簡単に可視化。

はじめて見る楽天の解析ツールを堪能した後は、「落とし穴を探せ」へ。直営オンラインショップで売上増加をめざす雑貨店のサイトをGAで解析する。売上に注目するとほとんどがメルマガなどのダイレクトで、自然検索の報告が上がっていないことがわかった。しかしこれは偏りすぎだと斎藤氏は指摘。デフォルトチャネルグループという項目に流入元のデータが出るが、アクセス順を収益順に変えてみると、ショッピングカートが別のドメインであることがわかった。だから自然検索でサイト流入しても、ここでセッションが切れてしまう。「GAで見て8割以上がダイレクトからとか自然検索が多いのに売れていない場合は、設定がおかしいこともあり、ASPではこのような形になることが多い。これもクロスドメインを設定すればその流れを拾えます」。

また最近のツールの動向として、SEOに関わるGoogleサーチコンソールとダッシュボード作成ツールGoogleデータポータルとの連動についても語った。「データポータルを使えばGAやサーチコンソールと連携して、自動で最新データを取得しグラフや表にしたウェブサイトの解析レポート作成が可能です」。斎藤氏も最近はアクセス解析のレポート作成より、データポータルを設定する仕事が増えているとか。

さてふたりとも「まだまだやりたい」と声を揃えつつ終盤へ。「ツールマニアなので今日は大興奮の一日。こんな風にディレクターと一緒になって、彼らの仮説をどう数値化するか、データの見方をふくめた顧客へのレクチャーや証明するための解析をしており、現場感をつかんでもらえたのではと思っています。今日のやりとりを見て、アクセス解析って面白いなと思ってくれる人が増えると嬉しいです」と斎藤氏。「アクセス解析は宝探し」。その言葉通り、羅列する数字に目を凝らし、落とし穴や改善点を発見する。そのたび声は弾み、とても楽しげだ。複雑で難しいアクセス解析のイメージを覆す、そんな時間だった。

斎藤氏、柳田氏

イベント概要

フリースタイルアクセス解析
クリエイティブサロン Vol.172 斎藤隆一郎氏

アクセス解析活用の現場で働いているウェブアナリストとウェブディレクターが、楽天ショップの解析ツールとGoogleアナリティクスによる実店舗の解析データを眺めながら「どのデータが気になるか?」「どのデータが企画や改善につながりそうか?」などについて、参加者の皆様と一緒にライブ感覚でお話ししていきます。
普段アクセス解析をされていない方でも楽しんでいただける座談会ですので、お気軽にご参加ください。

開催日:

斎藤隆一郎氏(さいとう りゅういちろう)

サイトウ オンライン

神戸商船大学卒。2004年にウェブ業界に転身し、キックボクシングジムのウェブ担当、株式会社TAM、株式会社パワー・インタラクティブにて、GA・GTMの設定・運用サポート、レポート作成、ウェブ運用サポートなどの経験を積み、2018年に独立。また2014年から「Web担当者ミーティング@大阪」という勉強会グループ(Facebookグループメンバー数148名[2019/8/1現在])を主宰し、大阪・天満橋で2ヶ月に1回勉強会を開催。

聞き手:柳田将一氏(やなぎだ しょういち)

合同会社ホームランオフィス

1978年生まれ。大阪府枚方市出身。2015年ホームページ制作会社合同会社ホームランオフィス設立。これまで手がけてきたウェブ案件は100以上。プロデューサーからプランナー、ディレクター、デザイナーをこなすマルチウェブクリエイター。外資系ファストフードショップのオープン時に採用された道案内ラップ動画「アクセスラップ」といった一味違った動画コンテンツを生み出すなど、企業のプロモーション活動に尽力している。またWordPressセミナーやウェブディレクターセミナーの講師を務めるなど多方面で活動している。

柳田将一氏

公開:
取材・文:町田佳子氏

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