ローカルビジネスを切り拓く行動派の「つぶれない仕事術」
クリエイティブサロン Vol.169 島直哉氏

「プロデュースのお仕事の作り方話します」というタイトルのもと、169回目のクリエイティブサロンに登壇した株式会社ロコールジャパンの島直哉氏。福祉、医療、食など、さまざまな分野で、クライアントの経営の最深部にまで踏み込んだプロデュース業を行う、どこか謎めいた人物の正体とは? パンクロッカー発バックパッカー経由で身に着けた雑草魂と、「長期・分散・積立」という投資の王道になぞらえた「つぶれない仕事術」の真髄をのぞいてみよう。

島直哉氏

パンクロッカー発バックパッカー経由の放浪児、ビジネスの世界へ。

「15歳から20歳まではパンクロッカーでした。20歳から24歳ぐらいまではバックパッカーで旅をしていて、3回ぐらいは死にそうな目にもあいました」

若かりし頃の写真と、こんなセリフから始まったサロン。バックパッカー時代には、バリのギャラリーで発表した作品が、ある人の目に留まり思いがけず商品化された経験も持つ島氏だが、独立して創業したのは、そんな放浪期を卒業した24歳の時。グラフィックデザインや店舗デザインの仕事をこなしながら、次第に企業のブランディングに軸足を移していく中で、大きな転機となったのが、約10年前に関わったJRのエキナカ活用ビジネス。

「僕らは、JR東日本さんの開発チームとエキナカに入る店子との契約を仲介し、店舗の施工設計から商品企画、パッケージデザイン、販促まで請け負うというスタイルで、いろんなスイーツ屋さんの出店をお手伝いしました。JRさんにすれば、開店後も継続して店子をフォローできる僕らのような存在を求めていたわけです」

たい焼き屋“鯛プチ”のフードトラック、店舗
JR東日本との提携ビジネスでプロデュースしたたい焼き店。

何年か継続して取り組んだこの案件の成功により、一時はこのまま東京に居座ろうかとも考えた島氏。しかし島氏が選んだのは、この経験から築き上げたビジネスモデルを、地方で展開することだった。社名を現在の「ロコールジャパン」に変更したのもそんな決意の表れ。

「僕らの社名は“LOOK”と“LOCAL”と“ALL”から来ています。地方企業のビジネスを丸ごと見ていけるような会社にしたいんです」

その言葉のとおり、近年の実績を見ると、近江牛を扱う滋賀県の精肉店と「ミートラボ」なる新業態を開発したり、広島の歯科クリニックでは室内サインのリニューアルを入口とした長期ブランディング計画に携わったり。日本のローカルと海外のビジネスを橋渡しするコーディネート業務をこなすこともしばしば。クライアントの地域や業種、こなす仕事の内容が多岐にわたっていて驚かされる。

地方で光る企業をつくるコンサルティングカンパニーとして。

そんな島氏が約8年関わっている企業に、静岡の製茶会社がある。斜陽化する業界での生き残りを賭けて、2017年に自社店舗をオープンさせているが、その準備段階では土地買収の資金計画から関わった。さらに店舗のデザイン施工はもちろん、商品開発やパッケージデザイン、店頭販促と集客、カタログ&ウェブ通販などをプロデュースしながら、スタッフ育成、人事評価の見直しにも踏み込んでいる。それらはすべて財務諸表をにらみつつ、5年10年先を想定してのことだ。求められる業務範囲はクライアントによって異なり、一概には言えないというが、この静岡の案件は、意匠デザインにとどまらず、経営そのものをコンサルティングしながら長期的パートナーシップを築いている一例だ。

さらに規模の大きな案件では、2017年に総額15億円をかけて仙台にオープンした介護福祉施設の仕事もある。これは長年付き合いのある大阪の社会福祉法人からの依頼で、島氏は建築士やゼネコンからなるチームと基本設計を作成し、実際の工事が始まると意匠の総合監理を担当した。この施設は特養・小規模多機能型居宅介護サービス・クリニックに加え、カフェやライブラリーといった地域に開かれたパブリックスペースがあり、介護施設の枠にとどまらず、地域コミュニティのつながりを育む場をめざしているのが特徴。島氏はそんな施設のコンセプトに合致した空間をデザインするため、家具やインテリア小物、壁や床のしつらえ、ファブリック類もすべてセレクトし、施工現場と連携しながら仕事を進めた。

「リズムタウン仙台」2階ライブラリー
「おとなの毎日を、編集しよう」というメッセージを掲げる新発想の福祉施設「リズムタウン仙台」

さらに施設のコンセプトを正しく伝え浸透させるための広報戦略も島氏の仕事。キャッチコピーやステートメントの言葉を紡ぐコピーライター、ウェブサイトやパンフレットを制作するデザイナー、写真を撮影するカメラマン、カフェを監修する料理人など、ロコールジャパンの自社スタッフのみならず、大阪や仙台など各地からさまざまなプロを集めて采配をふるった。そして、いずれロコールジャパンがつきっきりで監修しなくても、現地サイドで適切な広報実務ができるようになることが重要と考えた島氏は、関係者に配布するクリエイティブのルールブックを作成。現地スタッフや外部パートナー向けに、ブランディング視点にのっとった広報実務の講習会を開き、島氏みずからレクチャーを行っているという。

独自の流儀で「経済」「未来」「社会」にアンテナを張る。

では島氏にとって、「プロデューサーに必要なスキル」とは何か。下のスライドを見てほしい。

イベント当日のスライド
島氏とロコールジャパンの全方位ぶりが伺える12のリスト。

ここに島氏が挙げた12のリストを見るだけで、ジャンルにとらわれずに貪欲に自分の武器を増やしてきたことがわかる。もちろんすべてをひとりでこなすわけではなく、専門的知識や技能が必要な時には、その道のプロの力を借りる。それにしても、これだけの仕事をこなすにはオフィスはさぞ不夜城のような様相を呈しているのかと思いきや、まったくそんなことはないという。

「うちのスタッフは、みんな8時30時−5時30分頃で仕事して定時で帰ります。絶対に帰らなければならないから、仕事を終わらせる工夫をするし、売上に対してどれだけの労働生産性が発揮できてどれだけの利益があったか、そこをみんなと共有して評価できる形をつくってるんです。そうしないと、彼女たちがいつか独立した時に、際限なく時間をかけて仕事する体質になってしまう。それは将来的にしんどいと思います」

島氏がつねにアンテナを張っているのは、「経済」「未来」「社会」という3つに対してだ。
(1)国際金融政策も含めて、いま世界の「経済」に何が起きているのかを知る。
(2)目標となる「未来」を見定めたうえで、現在を振り返り、今何をすべきか考える「バックキャスト思考」でクライアントと議論を重ねる。
(3)「社会」を知るうえで、決して国内メディアの情報だけを鵜呑みにしない。リアルな現場を自分の目でウォッチし、肌で感じることを大切にするほか、発信側のメディアを品定めする目を持つ。

例えばアップル社がパソコン製造業から音楽配信業を経てクレジット業界に乗り出している現状や、メルカリなど旧来にはなかったサービスが業界地図を塗り替えている現状をどう分析し、ビジネスに生かすか。「経済」「未来」「社会」の視点なしにプロデュース業は成り立たないということだろう。

「つぶれない仕事術」は、長期投資の考えに通ずる。

最後に島氏は「大事にしていること」について語った。
「まずは体力。年齢関係なく、その人の体力が仕事を左右すると思っているので、規則正しい生活を大切にしています。重要な決断を下す場面が多い中で、自分自身を克服できるメンタルも大事。だからできるだけ、人と会うより自分と向き合う時間をつくるようにしてますね。ただのパンクロッカーがバックパッカーになって、ご縁のおかげで大きな仕事もできるようになってきたけど、何も一足飛びにここまで来られたわけじゃない。手札を分散して持ち、コツコツと一歩ずつ長く続けることが大事かなと思っています」

創業25年を経て身につけた「つぶれない仕事術」。それを島氏は「長期・分散・積立」という投資の極意と同じと考えている。この仕事をする前から、経済が一番の関心事だったという島氏らしい。依頼されるプロジェクトは、好条件だらけということはまずない。そんな時に、仕事を受けるか受けないか判断する際に重視するのは、経営者の資金調達力。そのうえでプロジェクトの実現性と自分にとっての難易度を考える。

「なんとか頑張ればクリアできそうな要素がいくつで、背伸びしても失敗するリスクが高い要素がいくつかあるか、そんなことを毎回考えながらやっています。失敗も価値ととらえる経営者もいるので、何が正解かはわからないですが、一番いいのは、オファーしてくれた人も自分も周囲の人も、最終的に“よかったね”と思えること。そこに向かっていかなきゃいけないのがプロデューサーだと思います」
したたかさを感じさせる表情で、島氏はそう締めくくった。

イベント風景

公開日:2019月09月30日(月)
取材・文:松本幸氏(クイール

島直哉氏(しま なおや)

株式会社ロコールジャパン

インドで開眼した10代、世界で学んだ20代、日本で成長した30代、日本と海外を繋いでいる40代。1996年にデザイン企画会社として創業。大手インテリア雑貨・食品分野・エキナカ業態等のディレクションに携わる。デザインプロデュース(商品開発戦略支援)から、ブランドプロモーション(デザイン開発支援)、クリエイティブ開発(デザイン制作)までトータルに展開。2014年、株式会社ロコールジャパンに改組し、海外マーケティングのグローバルな活動を本格化。Parisと昆山市に拠点を置く。近年は組織開発・経営戦略などの分野をサポートするブランド支援事業を展開する。

一般社団法人ローカフェイン緑茶推進協会 理事
神戸大学主催 大学対抗ゼミ実行委員長

経済産業省直轄事業 牧之原発酵茶釜炒り茶推進協議会デザインディレクター
2011年デザインプロデュース型商品開発促進事業 採択企業デザインプロデューサー
2012年近畿経済産業局主催デザイン道場 専門委員
2013年大阪府主催 クリアクティブ大阪 専門コーディネーター
2013年神戸大学主催選出大学対抗ゼミ実行委員長歴任
2015年~近江の匠WASHOKUプロジェクト
パルマ市~大津市提携支援 他

島直哉氏

イベント概要
プロデュースのお仕事の作り方話します
クリエイティブサロン Vol.169 島直哉氏

一緒にプロジェクトに関わってくれるディレクターさんやクリエイターさんに「プロデューサーって、一体何をして、どうやって仕事にしているの?」といった質問をよく受けます。この業界の皆様とかかわりが近いようで、遠いような立ち位置の職種に思われがちですが、実はリアルなところこんな毎日ですよ!みたいなお話をさせていただければと思っています。キャリア・ジャンルに関係なく、何かヒントになるようなお話ができればなと思っています。

開催日:2019年8月30日(金)19:30〜21:00
会場:メビック扇町