技術はある。欲しいのはクリエイターのデザイン力。
I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会 Vol.12

メビック扇町で開催されている、「I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会」。これはクリエイターがもつ創造力や表現力、課題解決力などを活かし、専門領域の知識を修得してクリエイティブニーズを探ろうというもの。今年度はさらに一歩踏み込んで製造や研究の現場におもむき、最先端の現場を見学、専門家との交流を深め、産業、経済、社会のさまざまな分野でのイノベーション創出をめざす。
今回は創業から50年近く、ゴムや樹脂の精密加工部品を独自の加工機で打ち抜き加工や切削加工にて製作してきた、株式会社シナガワを訪問。数年前より医療機器の世界へ挑戦している企業が求めるクリエイターの力とは。

ゴムの打ち抜き加工、その技術が持つ可能性。

東大阪市は国内でも有数のものづくりのまちであり、高い技術力はもちろん新しいことに果敢に挑戦する熱い想いを持った企業が数多く存在する。今回訪問した株式会社シナガワは、ゴム・樹脂の精密加工部品を独自の加工機で打ち抜き加工や切削加工、クリーンルーム内での組み立てまで一貫生産する会社。1972年の創立以来、パッキング製作のパイオニアとして時代の先端を行く技術開発に取り組み、商品の心臓部に位置し重要な機能を発揮する超精密・極微部分を供給してきた。現在も創業者の思いを受け継ぎ、パッキン1個から数百万個まで生産できる体制を整えている。「日々チャレンジしている会社です。自動機に関しては世間に先駆けて自社開発してきました。数多くの機械設備を取り揃えており、それも当社の強みです」。そう語るのは取締役社長の品川敏幸氏。電気機器や精密機器に使われるパッキンや小型成型品、医療機器のチューブや水回りをはじめとする住宅設備、OA周辺アクセサリに生活雑貨まで、生産アイテム数も現在では10万を超えるという。

動画でひと通りの製造工程を見てから、いよいよ現場へ。豊富な材料を取り揃える資材部門から裁断機、タガネ手動機および自動機、難しい形状のもの抜き型で加工するトムソン自動機、エンドレス加工、型が不要なカッティングプロッター、マントル寸法精度のチューブカット、品質検査などの各部門を見学。手動と自動の機械は材料の厚み、形状、生産数で使い分けられていたり、カットしながら同時に斜めに削るドイツ製の高速カッターや、ゴムの直圧成形など、どの工程も興味深いものばかり。ゴムパッキンと聞くとシンプルな製造イメージを抱きがちだが、そこから派生した加工技術の高度さには驚くばかり。

医療品関係のエアシャワーを備えたクリーンルームは昨年5月に開設。素材の配合を独自に開発し、電気や熱、薬品に強く折れにくいチューブなどを製造している。現在、ゴム全体の需要は樹脂に取って代わられ減少傾向だという。「いろんなものが一体型になっており、パッキンを開けて修理するより使い捨てという流れ。世の中が雑になっていっています」(品川氏)。さまざまな製品が薄型化するにともなって、パッキンも薄くなり、新たな素材や加工法が求められるという。

部材の供給メーカーとして医療機器へ挑戦を決意。

工場見学を終え、医療機器への挑戦に関しては統括本部係長の後藤豊文氏が説明。「医療機器に関して日本は後進国」と後藤氏は言う。「国内市場2兆円の半分は輸入品。その輸入額は1兆4249億円に対して、輸出額は6226億円(平成27年)。世界市場ではアメリカに次ぐ2位ですがシェアは10%にすぎず、国内市場もあまり伸びていないのが現状です」。まずは高度な医療サービスを受けられる医療先進国日本を支えているのは、国内企業ではなく欧米企業であるという現実をつきつけられた。政府も危機感を感じ、2013年に「日本再興戦略 - JAPAN is BACK -」を打ちたて、課題解決型医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携支援策を施行。「2015年には医療機器開発は国の最優先課題となり、予算が組まれた結果、医療機器メーカーの新規開発が一気に進んでいます」。また東南アジアで日本製の医療機器が求められているという。特に性転換手術で世界的に知られるタイでは、すでにでき上がっているシステムを活用して他分野の医療の向上をめざしているとか。こういった流れを見て、シナガワも医療業界への参入を決める。自社の立ち位置を「医療機器メーカーに対する、部材の供給メーカー」と定め、新規ジャンルに取り組もうと決めた。

その足がかりとして、大阪商工会議所が2003年に設置した「次世代医療システム産業化フォーラム(MDF)」に参加。関西には世界トップクラスの医療機関及び優れた技術、特色ある製品開発を可能とする多様な企業が集積しており、MDFでは医工連携活動や事業化支援、さらには将来的に海外市場もターゲットとした医療機器の開発や事業化を促進している。また国内最大規模の「医工連携」として、全国の医師、研究者が参加し、リアルな医療現場のニーズを発表。こちらに参加し、すでに動き出している案件もある。ひとつは九州の医療機器メーカーと手術用補助器の開発で、今秋には完成にこぎつけるもよう。もうひとつは大阪医療センターのリハビリテーション科と共同で、ケガをしにくい車椅子を試作から開発。「将来的には車椅子メーカーを巻き込んで、販売まで持っていきたいです」

デザインを戦略的に活用し、自分たちの武器とするために。

このようにいくつかのプロジェクトが動き出したことで、あらためて自分たちに足りないものがわかってきた。それは「デザイン力」。医療機器やEMS腹筋ベルトのようなメディカルヘルスケア製品では、人間工学を含めてメーカー側が設計するが、そこにもデザイン思考がないという。だからこそクリエイターの力が必要だと言う。たとえば最近ヒットした聴診器がある。医療機器とは思えないスマートなもので、開発以来200年以上変わらなかった聴診器の常識を疑い、本当に医療従事者が必要とするものをつくりあげた結果だ。「クリエイターの力を借りて、デザインまで提案ができるようにしたい。そしてそれを足がかりに事業拡大できたら」(後藤氏)。

その後、クリエイターの自己紹介があり、プロダクトはもちろんウェブや動画、展示会での表現、それぞれの分野での医療との関わりを語った。実際に入院して「前時代的な発想とデザインが横行する医療現場」を体感したという声も。また医療ではないが「ゴムで折りたたみ式のフライパンはつくれるか」といった質問に対しても、「面白い! こういう発想が欲しいんです」と品川氏が反応すれば、後藤氏も「クリエイターに投げ、アイデアをもらって新しいものができる。それが想像以上に突拍子もないものだとしても、それこそが自分たちに足りない部分であり、求めているところ。とても期待しています」と語る。また「クリエイターとはどのような関係を求めているのか」という質問に対しては、「素材メーカーやデザイナーを巻き込んで、仲間としてものづくりをしていきたい。すでにほかのジャンルではこの方法で進む事例もあり、医療機器でもいろんな人と侃々諤々やりながらものづくりをする。そのために日頃からチームづくりができたら理想です」(後藤氏)。

良いデザインの医療機器には医師が求める機能性や先進性だけでなく、患者の不安感、威圧感を和らげ、安心して治療に臨ませるデザインも求められる。最後に参加者に対しておもしろい「宿題」が出された。それは「透明なマスク」。医療従事者の多くはマスクを着用しているが、患者とコミュニケーションが取りにくいという声が上がっている。患者はどこかしら体に不具合があり不安を抱えて病院にやって来る。そこで看護師や医師がみんなマスクをしていると「怖い」イメージを持たれるという。「コミュニケーションは図りたいが、衛生上マスクははずせない。なにかいいアイデアがいただければ」。この後藤氏の問いかけに一瞬、場内がざわめいた。みな、おのおのにアイデアが浮かんだのだろう。ここから何かがはじまる。そんな予感めいたものを感じさせる瞬間だった。

公開日:2019月07月04日(木)
取材・文:町田佳子氏

株式会社シナガワ

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