近未来の長寿社会モデルは、日本の愛と知性を問う
クリエイティブビジネスフォーラム「クリエイティブは旅に出よ。」Vol.4

社会や産業のあり方に地殻変動が起きている今、私たちクリエイターも越境し、「クリエイティブのOS」を鍛え直す対話を始めよう。そんなコンセプトから始まった公開ブレスト企画「クリエイティブは旅に出よ。」、第4回目のテーマは「アンチエイジング」。人生100年時代に向かい、これまでの文脈を塗り替えるような「生き方の意識改革」が求められている日本が、新しく豊かな長寿社会モデルを世界に提案する場が、2025年大阪・関西万博。その具体化検討会委員でもある医学博士を迎えた、領域横断的トークをレポートする。

ゲスト
森下竜一氏

森下竜一氏
大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 教授

大阪大学医学部卒業後、米国スタンフォード大研究員、大阪大学助教授を経て現職。日本抗加齢医学会副理事長をはじめ各学会の理事を務めるほか、内閣官房健康医療戦略本部戦略参与、2025大阪・関西万博具体化検討委員会などを歴任。

スピーカー
江副直樹氏

江副直樹氏
ブンボ株式会社

米穀店店員、工場作業員、釣り雑誌編集者、コピーライターを経て、商品開発や広報計画を柱とするプロデュース会社を設立。農業、商業、工業、観光、地域活性など、多分野においてコンセプト重視の事業戦略提案を行う。

三木健氏

三木健氏
三木健デザイン事務所

話すようにデザインを進める「話すデザイン」と、モノとコトの根源を探る「聞くデザイン」で物語性のあるデザインを展開。今、話題のデザイン教育プロジェクト「APPLE」をまとめた書籍が、英・中・日・韓の4ヶ国語で上梓されている。

服部滋樹氏

服部滋樹氏
graf : decorative mode no.3

美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にgraf設立。クリエイティブディレクターとして数々の空間デザインやブランディングを手がけているほか、近年は地域活性などの社会活動も多い。

「高齢者」という概念に囚われない生き方をデザインしよう

江副直樹氏
江副
今日のゲスト森下さんとは初対面ですが、アンチエイジングの研究者であって、大学の教員であって、ベンチャー企業も率いておられて、お話がとても楽しみです。今日はどうぞよろしくお願いします。

森下竜一氏
森下
大阪大学の森下です。今日はここ(カンテレ扇町スクエア)で「アンチエイジングフェアin Osaka 2019」が開かれていますが、アンチエイジングとは不老不死ではなく、いわゆる健康長寿を実現することですね。今日は大阪の吉村知事と松井市長がサプライズゲストで来られてましたが、2025年の大阪・関西万博のテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」なんです。もともと万博を提案した時のテーマが「健康長寿」でした。その後、健康だけでは間口が狭いということでもう少し広いテーマに変わりましたが、松井市長からは「来るだけで10歳若返るパビリオン」をつくれと言われています。

今後日本の人口は、2050年には約1億人まで減ると言われています。中でもとくに生産年齢人口に当たる15歳以上65歳未満が減るんです。ちなみに日本の都道府県の中で、生産年齢人口が増えてるのは、沖縄県しかありません。生産年齢人口が減って何が起こるかというと、18~64歳で65歳以上を支える場合、今はふたりでひとりを支えてるのが2065年には1.3人でひとりを支える、いわゆる肩車社会になります。ここを変えようというのが今の働き方改革で、75歳まで働くと考えるなら、2065年でも2.6人でひとりを支えることになり、今よりましなわけです。働きたい方、働く力のある方にはできるだけ働いてもらいましょうというのが今の働き方改革であり、女性活躍推進ですね。


伸び続ける「老後期間」を支えるためにも、働き方改革が必要。

森下竜一氏
森下
100年前の平均では、男性は61歳、女性は61.5歳ぐらいで亡くなってましたから、夫婦が同い年くらいとすると、老後の蓄えは1年分あれば何とかなりました。それが今は定年が伸びて65歳になり、夫が亡くなるのが81歳、妻が亡くなるのが87歳。そこで出てきたのが「健康・医療戦略」です。私は安倍内閣で「健康・医療戦略推進本部」の戦略参与になっていますが、平成26年にいくつか成果目標を定めた中で、「2020年までに国民の健康寿命を1歳以上伸ばす」と決めました。男性も女性も、平均寿命で亡くなる前の約10年間は、何らかの病気を抱えた不健康な状態が続いているので、できるだけ健康な期間を延ばそうというわけです。健康寿命を1歳延ばす目標はすでに達成できましたが、平均寿命の延びになかなか追いつかないという状態です。そうなるとそもそも65歳って本当に高齢者か?となりますよね。高齢者の定義も変えていこうということで、65~74歳を準高齢者、75歳以上を高齢者と呼ぼうという議論も進んでいます。

これからICTの進化が急速に進む中で、医療や介護も大きく変わってきます。たとえば個人の医療情報を蓄積して個別に管理したものを、全国どこでも生体認証でダウンロードできるとか、ウエアラブルの体調測定機、遠隔操作によるTV診療、仮想空間のリハビリなども現実になりつつあります。そういう中で、根本的な発想を転換しながら、これからの社会をどう考えるかなんです。そこで「いのち輝く未来社会のデザイン」の万博につながるわけでして、2025年の5月から半年間で3000万人を集めます。せっかくやるんだから、キャッシュレス化やエキスポコインのような地域通貨の発行、生体認証、AIによる自動案内、自動配送など省力化の仕組みも取り入れた実験場にしようと言ってます。2025年から見た2030年の未来社会をお見せして、長生きできるまちや暮らし方を提案する「People’s Living Lab(未来社会の実験場)」というコンセプトで、これから7年かけて作っていきます。


本フォーラムの直後に開設された、一般社団法人2025日本国際博覧会協会の公式ウェブサイト。

江副直樹氏
江副
「高齢化先進国である日本が、健康寿命を延ばしつつ生きていく未来を、万博を通じて大阪から世界にメッセージしていく」ということですね。

森下竜一氏
森下
アンチエイジングって別に健康・医療だけじゃなくて、住居や移動環境など生活の全部にからむんです。高齢化して免許返納すると、公共交通のない地方では外出もできなくなっちゃいますから、必然的に自動運転のクルマが必要になりますし、行政手続きをインターネットでできるようにするのも、役所に行けないお年寄りが増えたり、役所で働く人が減っていくことに対する備えです。政府が推進するスーパーシティ構想というのがあって、キャッシュレスとかオンライン医療とかオンライン教育などを取り入れた新しい地区を作る構想ですが、安倍政権になってからスピードが上がってるのは、もう追い込まれてるからなんです。日本がものすごく大きく変わりつつあるという意味では、これからは日本全体が「People’s Living Lab」になって、世界に対して一つの答えを示せるんじゃないかと思います。


2025年の大阪・関西万博は、政府が推進する「スーパーシティ」の実験場にもなりうる。

江副直樹氏
江副
生き方の思想哲学が問われてるんですね。

森下竜一氏
森下
そうなんです。アンチエイジングはまず「考え方を変える」ことですね。昔の日本のように、大学入って社会に入って60歳か65歳で引退して老後を過ごすっていうシングル路線に縛られずに、50歳からは働きながら大学へ行くとか、副業をするとか、子どもと何かやるような塾を開いてもいい。残りの人生をどうデザインするかですよね。

三木健氏
三木
これからのライフデザインって、生きがいをいかに見つけるかはもとより、経済や産業、医療やテクノロジーなど、少子高齢化社会における社会構造をいかにインフラ化するかが課題ですね。

服部滋樹氏
服部
僕はまだ50歳手前ですけど、本当に平均寿命まで生きるんですかね?

森下竜一氏
森下
たぶんもっと生きますよ。今はがんで亡くなる人が多くて、平均寿命の足を引っ張っていますが、がんは画期的な治療法も出始めているので、おそらくもっと延びます。

江副直樹氏
江副
クオリティオブライフが大事ですよね。僕は以前、老人保健施設の仕事をしたときに、何より人をボケさせるのは「もう何もしなくていいです」って言われた時だと知りました。

三木健氏
三木
自分の存在が必要とされないっていうのが一番不安ですね。僕は64歳だけど、フリーランスだから定年はないし、自分もまだまだやれると思っているけれど、むしろ社会に「世代交代なのであなたのような年齢の方にお願いするのは……」と言われてしまうと、どうしようもない。

森下竜一氏
森下
新しい仕事とか動きをつくっていくことが大事だと思います。たとえば高齢者によりやさしいユニバーサルなデザイン。年を取ったがゆえにこういうものが欲しいってニーズがあるはずで、それは本当にわかる人がデザインすべきなんだけど、企業は若い消費者を追いかけるから、そこが置き去りになっちゃう。

服部滋樹氏
服部
たとえば昔だったら、レタスのパッケージにはおいしそうなレタスサラダの写真が添えられてましたが、今はそれが生産者の写真だったりしますよね。「誰がどう作ったか」の方が重要で、食べ方の説明はもういらない。そういうふうに人が求める価値は時代とともに変わっていきます。だから今のつくり手は、もっとストーリーやヒストリーを体験できる価値として伝えていくべきで、それが成熟していくと、「モノを語る」時代から、「モノが語る」時代に、もう一度戻っていくんじゃないかと思っています。

「省力化テクノロジー×体温を伝えるデザイン」が暮らしを変える

三木健氏
三木
最近、少子高齢化のせいか、僕の事務所でも仕事はいっぱいあるのに人材が集まらないっていうことが起き始めてます。今までだったら事務所のウェブサイトやSNSでデザイナーを募集すれば、すぐに30~40人から履歴書が届くような感じで、リクルートというものに悩んだことがなかったのに。学生たちと話してても安定した大企業に身を置きたいという声が多くて、それはここ2~3年、とくに顕著です。だから人材不足で開店休業みたいな中小企業も多くなってきています。

森下竜一氏
森下
デザイン業界だけではないですね。大企業はそういうのに早く気づいちゃったので、今一生懸命若い人を採用しています。60歳とか65歳で辞める人の数を計算したら、もうどんどん採用しないと追いつかない。もちろん、入社後3〜5年で辞める人も出てきますが、その人たちはそこから中小企業に入るより、ベンチャーつくる方に行っちゃいそうですね。そういう意味で黒字倒産が今すごく多いです。飲食の世界でも、繁盛してるのに人手が確保できなくてお店やっていけなくなって、結構有名なシェフの方が雇われに戻るケースが増えてます。でもこれもひとつの働き方だと思うんです。オーナーシェフで頑張ってきたけど、60歳ぐらいからは気楽な立場でお金の心配せずにやりたいと。


アンチエイジングの正しい知識の普及を目的とした「アンチエイジングフェア」を2016年から主催する日本抗加齢協会で、副理事を務める森下教授。

江副直樹氏
江副
僕は人を雇わずに地方で仕事をしていますが、僕がいる大分県日田市は人口約7万人で、平均年収が200万ぐらい。でもみんなそこそこ暮らせてて、飲み屋もいっぱいあるんです。

三木健氏
三木
それって豊かな暮らしってなに?ってことですよね。経済では測れない満足度や幸福度が、日本ではまだまだ低いなあと。確かフィンランドが1位で日本は50位以下だったように思う。

森下竜一氏
森下
医者もこれから働き方改革が必要です。医者の数が足りないから残業時間の上限が1860時間とかになっちゃってますけど……。深刻な症状でないならオンラインで診療するとか、医療のあり方も変えていかないといけないんですが、なんとなく生身の人に見てもらいたい、みたいなのは根強いんです。でもその人のところに往診に行ってる間に、誰かが死ぬかもしれないってことはあるわけです。便利な世界に慣れすぎると、人が足りなくなった時のダメージが大きいですね。

三木健氏
三木
そこでは「ケア(看護・介護)」と「キュア(治療)」の違いがとても重要で、メンタルな部分を支えてくれるケアの安心感や満足感がおろそかにできません。

江副直樹氏
江副
医療の世界って、遠隔医療とか随分前から言われてるけども普及は進んでるんですか。

森下竜一氏
森下
今は遠隔医療ではなくオンライン医療と呼んでいます。去年解禁して、これまで「僻地のみ」とか「保険対象外」とかいろんな条件がついて消極的だったのが、積極的に進めていこうという流れに変わりつつあります。本当はもっと24時間心電図をモニタリングしたり、AIで見守って、悪くなったら医者に診てもらうというのがいいんですけど……。

江副直樹氏
江副
オンラインで便利なツールはいっぱいあるけども、さっき三木さんがおっしゃったように、そこでケアの質をどう担保していくのかというのはありますね。

三木健氏
三木
人のぬくもりが感じられないとケアにならないのよね。医者と患者の絆をいかに結ぶかっていうのがとても大事。医者との信頼感によって病気への向き合い方が大きく違ってくる。


未来を「今日の延長線上にあるもの」としてとらえたいと話す三木氏。興味があるのは農などプリミティブなものと先進のITが融合した世界。

森下竜一氏
森下
思うに、医療はまだデザインがないんですよ。そこは今後必要だと思いますね。医療器具もそうだし、オンラインであってもお互いを感じさせられるようなしくみ……たとえばお腹に手を当ててもらってる気がするとかね。そういう発想って医療には意外にないんです。最近アメリカではバイオデザインと言ってやりだしてますけど。

三木健氏
三木
まさに西洋医学と東洋医学が交じり合ったようなニューサイエンス的、自然と科学の融合が求められてくると思うんです。

森下竜一氏
森下
介護の現場ももっと改善して、お互い楽しくなるような仕組みを取り入れないと、リハビリも効果が上がらないし、介護を受けたいって気持ちが起きません。今一番問題になってるのは老老介護ですよね。介護施設に入れるお金がないわけじゃないけど、介護施設に入れると冷たいと思われるから、入れたくない、と。介護の世界は非常に冷酷だとみんなが思ってるから、介護によけい手間がかかるんです。そこにはもっとデザイン力があってもいいと思います。

江副直樹氏
江副
ほんとですね。僕は昔、福岡の大川という家具産地にあるメーカーさんとプロダクトデザイナーと組んで、木製の美しくて機能的なリハビリ器具をつくろうとしたことがありました。結局完成するまではいかなかったんですけど、そういう試みって必要だなと思います。お聞きしたいのが、老人施設と幼児保育施設を同じ敷地内で、っていう取り組みは最近増えているんですかね。

森下竜一氏
森下
一時増えたけど、横ばいじゃないでしょうか。お年寄りの方がいやがるんですね。杉並区でもありましたけど、保育園ができるのはうるさいからいやだとか。そういう、大人の寛容性が減ってるケースは目につきますね。

江副直樹氏
江副
切れる老人がニュースになったりもしますね。そういう意味ではお年寄りの意識も変えていただかないと……。


通信技術が4G回線から5G回線へと進化することにより「生身のコミュニケーションにどこまで近づけるのか」に興味があるという江副氏。

森下竜一氏
森下
そういう方には認知症の人も結構な割合で混じってますね。認知症の境界域の人っていうのはむずかしくて、全部均等に認知症になるわけじゃなく、部分的になるので、急に怒りやすくなったり、態度が尊大になったりします。意外にインテリの方ほどむずかしいですよ。あるところではしっかりしているので。

江副直樹氏
江副
いわゆる認知症になりやすい方というのはいるんでしょうか?

森下竜一氏
森下
生活習慣病のある人、とくに糖尿病の人はなりやすいですね。アルツハイマーというのは神経の障害が原因なんですけど、純粋なアルツハイマーの方っていうのはそんなに多くなくて、脳血管の異常との混合型が多いですね。だから一番いい認知症予防は、生活習慣病の予防なんです。あと問題なのは、認知症は見つけるのがむずかしくて、我々は研究者として認知症の検査方法を研究開発してますが、普通の病院の認知症検査ってまだまだ前近代的な方法なんです。ここはどこですか、今日は何日ですかっていう質問をしたり、簡単な計算をさせて、普通にやると50分ぐらいかかるんですけど、小学校の入学テストかっていうような内容で、だいたいみなさんキレますね。医者の聞き方ひとつで診断結果が悪くなるので、見極めがむずかしい。

「年齢を超越する未来」を考える、2025年大阪・関西万博の課題とは

江副直樹氏
江副
次の万博には、今までなかった、今の日本ならではのメッセージって何かあるんですか?

森下竜一氏
森下
実はまだないんです。それを今日ここで何かありませんかとお聞きしたかった。70年万博の岡本太郎さんなんてよくやりましたよね。

三木健氏
三木
後に書籍で読んだのですが、丹下健三が作ったお祭り広場の大天井を岡本太郎が「縄文の強いエネルギーがないとダメだ」とぶち破ったんですね。古典的なものが現代や未来を貫く、それこそアートというか、ある意味大阪のシンボルになってますよね。そういうエネルギッシュな大阪の力みたいなものが、先進技術と合わさって表現されてるといいなあと思いますね。

森下竜一氏
森下
そう他人事みたいにいわずに(笑)。大阪は松井さんと吉村さんだから冒険はできる。新しくて面白いアイデアがどんどん大阪から出ないとしょうもないものになりますよ。

服部滋樹氏
服部
70年万博を改めて継承するってのもあると思うんです。70年万博から健康にどうつながるのか、誰か道を引いてるのかなっていうのは気になります。


若手デザイナーやクリエイターと一緒に、万博の歴史や世界各国の万博事例を学ぶ勉強会を行っているという服部氏。

森下竜一氏
森下
僕はレガシーの継承より、もっと新しく面白いことを期待したいですね。

三木健氏
三木
スティーブ・ジョブズが若いころに刺激を受けたという『Whole Earth Catalogue(ホールアースカタログ)』って雑誌が60年代から70年代にありました。次の万博で、新しい地球の価値を丸ごとぎゅっと詰め込んで、暮らしとか生きるといったビジョンが編集された環境が提案できるとワクワクするでしょうね。70年万博の大きな遺産は国立民族学博物館ですが、あれは民族学をテーマとして、エスノグラフィといったフィールドワークに基づいて人間社会の文化を可視化させた環境なんです。よって、次の万博では、エスノグラフィ的発想に自然とテクノロジーを絡めたインフォメーションアーキテクチャ(情報の建築化)による「暮らし生きがい健康社会」のインフラができれば……。

森下竜一氏
森下
次の万博の対象エリアは関西全域になるんです。メイン会場は舞洲ですが、淡路島や和歌山や京都にサテライト会場を設けるという話は出ていて、あとはそれをどうつなぐかです。ロンドン五輪では、インターネットで60億人がつながったと言われてますが、次の万博では100億人をつなぐことができる。ではネットを使って何をやるのか、たとえば世界中で1億人が一斉にヨガをやって、大きな世界地図上で、どのエリアから何人参加してるって見えるようにするとか。面白いアイデアを出してもらえたら、どんどん上に上げますので。

江副直樹氏
江副
これまで数十年の傾向として、だいたい先行モデルは海外にあったじゃないですか。そろそろ日本独自の指針を示し、それで世界を救うような流れを大阪からつくりたいですね。

服部滋樹氏
服部
食の話をすると、発酵文化ってかなり世界中で注目されてるじゃないですか。最近「ノーマ」(註:デンマークにある“世界で最も予約のとれないレストランのひとつ”)のメインシェフが発酵の本を書きましたし、世界のトップクラスの人たちが日本の発酵をお手本にしてる。ほかにももっとあるんじゃないかなと思いますね。

江副直樹氏
江副
僕は、東洋哲学やその作法に乗っかった形で、死生観を問うてみたいんです。

三木健氏
三木
テクノロジーはこれから、もっと見えなくならないといけないですね。例えば、医療で言えば血管や心臓の一部にテクノロジーが使われて健康を取り戻し自然体で暮らせるような……。それは、自然の中で過ごしてるような心地になれる環境を、実はテクノロジーが支えてた、みたいなもの。一見何もない原っぱのような自然だけど実はいろんなテクノロジーが組み込まれていて、自分のからだをかざすだけで健康情報や若返れる何かの情報が飛び込んでくるような……。

森下竜一氏
森下
提案内容を実現するには、そういう技術を持つ企業がいればいいわけですから、アイデアを持つ人と、技術を持つ企業に組んでもらってプロジェクトにし、それを万博協会に上げていく、という流れをつくろうと思っています。

服部滋樹氏
服部
アンチエイジングに格納されてるカテゴリーってどれだけあるんですか? 医療や美容、健康器具とかファッションなんかはそうですよね。だから、まだそのカテゴリーに収まっていないものをアンチエイジングに引き寄せていくと、新しさが生まれていくんじゃないかなと思うんですよね。

森下竜一氏
森下
カテゴリーとしては全部入ります。住居も社会経済システムも……。ただ住居もそうだとして、じゃあどう入れるか、なんです。香りとか光とかもアンチエイジングの要素に入るのは間違いないんだけど、具体的に事例に落とし込まれるまでは、ないのと一緒で、そういうところはプレイヤーも足りてないですね。松井市長は、万博で「10歳若返るパビリオン」をつくれって本気で言ってます。たとえば館内でいろんなもの見て楽しんでる間に、ウエアラブルの生体検査デバイスが自動的に疲労度とか血管年齢、肌年齢、いろんなものをスキャンして診断し、それをもとにAIが「これからこんな食生活をして、こういうふうに生活習慣を変えれば何年までに10歳若返りますよ」とアドバイスするのはできると思います。ただ松井さん的にはそれじゃだめなんです。出た瞬間に若返ってないとだめだと。

服部滋樹氏
服部
つくらない万博というのもいいかなと思ったんだけど……。

森下竜一氏
森下
たしかに「モノ」じゃなくても、今日は30億人が〇〇に参加しましたっていう「コト」をネットで共有するのもありだと思います。ただ実際に世界から人が来るのに何もないというのももったいない。

江副直樹氏
江副
「脱・モノ」で、哲学・思想的な話がテーマになるのは面白いですね。ただそれは表現されて可視化されないと面白くないので、どんな表現形態になるかですね。

服部滋樹氏
服部
ちょっと思ったんですけど、地球上の100億人の情報をビッグデータで蓄積することが次の万博の役割ととらえると、もうちょっと次のステップに行けそうですよね。

森下竜一氏
森下
今は来場者数を3000万人と見積もってますが、実際は4000万人ぐらい来ると思うんです。さっき言ったエキスポコイン・地域通貨は必須ですね。ボランティアが両替したりカード切ってたら全然間に合わないですから。それから入場時に国籍とか使用言語といった個人情報を入力してもらって、それに対してAIが自動応対で会場内の案内をしようと。さらにビーコン(註:Bluetooth信号を発信する発信機)とウエアラブルデバイスを装着してもらえば、来場者がどんなふうに動いて、何を買い、どんな心理状況かが全部ビッグデータとして取れます。ビーコンは位置情報も把握できるので、迷子対策になりますし、体温を見張って熱中症対策もできます。たとえば37℃超えたら屋内に避難してくださいって指示が出るとかね。ただ「入って出るだけで10歳若返るパビリオン」っていうのをどうすればいいか、頭を抱えてるんです。でもそれが可能になれば、世界中から富裕層が来ると思いませんか?


経産省が制作した、2025大阪・関西万博の夢洲会場のイメージ動画。あえて中心をつくらない離散型のデザインが特徴。

江副直樹氏
江副
基本コンセプトが明確に決まってれば、なんとかやれそうな気がしますよね。技術屋さんエンジニアさんにもがんばってもらって。

森下竜一氏
森下
iPhoneだって、「指一本で動かせる」っていうスティーブ・ジョブズの無茶から始まってますから。

日本は「未来都市」の輸出国になれるか

三木健氏
三木
まずビジョンがあって、何となく浮かんだイメージに近づいていくためにテクノロジーや知恵が働いていきますから、まず最初に「あったらいいな、こんな社会」というのを掲げることですね。そのためにも、今の「いのち輝く未来社会」って言うテーマは大きくて漠然としているから、もうちょっとわかりやすく語れるものづくりに落とし込む必要があるんじゃないかと……。

森下竜一氏
森下
万博全体の裏テーマは、おそらく「未来都市の輸出」です。人工島ですし、あの都市全体が輸出できるようなインフラをつくることだと思うんです。

江副直樹氏 三木健氏 服部滋樹氏
一同
へえー!!

森下竜一氏
森下
世界の中で、携帯電話の普及は、電話線がないところほど顕著でしたよね。同じように、都市インフラがないところは世界にまだまだ多いんです。そういうところにああいう未来都市が丸ごと輸出できるようになったら、日本経済はものすごく活性化するはずです。

三木健氏
三木
未来都市を輸出するためには、領域横断的に知恵を集めざるをえなくて、そこで日本の持ってる愛と知というフィロソフィー(哲学)が産業構造を変えていくように思えるのです。それによって世界における日本の理念が明快になって世界での立ち位置がすごく変わってくると思うのです。

森下竜一氏
森下
食のこともエネルギーのことも、あらゆるものを入れた全体のコンセプト、そこに、さっき愛という言葉が出ましたけど、付け加えるならやっぱり楽しくないといけないですよね。

江副直樹氏
江副
希望を与えないと、ってことですね。素朴な疑問ですけど、ビジョンができて、それを実現できる技術を持った人が参集してくる時って、それは海外の人でもいいんですか?

森下竜一氏
森下
もちろん。海外に対しても募集をかけるんじゃないですか。アイデアを実現するにはお金がかかるから、その資金を出せる企業は別として、面白いプロジェクトならクラウドファンディングで世界からお金を集めちゃうのもありだと思うんです。万博協会がまとめ役になってクラウドファンディングをやれば、公的な立場だから安心感があるし、企業からも集められると思います。とにかくすべてにおいて、今までできなかったような新しいモデルを提案できるチャンスなんです。

江副直樹氏
江副
そういう「未来都市の輸出」というのは明確な戦略として裏で共有されてるんですか?

森下竜一氏
森下
考えてる人はけっこういると思いますよ。政府のスーパーシティ構想には2つのモデルがあって、ひとつは既存の町を使って住民投票で進めるモデル、これは実際にはむずかしいと思います。でももうひとつの、誰も住んでない白紙の場所で始めるという考えは実現性が高い。そういう新しい実験場でSDGsを突き進めて、できるだけコンパクトでサステナビリティな未来都市にしていく。おそらく市長はそういう考えをお持ちだと思います。

三木健氏
三木
企業でもテクノロジーを使ってそういう未来都市を考えてるところはたくさん出てきてますよね。

森下竜一氏
森下
そう、それを取りまとめないといけない。一企業の個々の技術はパーツでしかないので、そこにデザインがいるんです。だから僕はウエアラブルデバイスはピカチュウとキティちゃんにしてくれって言ってます。そういうワクワクがないと世界的に広がらないと思うんです。

江副直樹氏
江副
最後にわかりやすく直接的な質問をしたいと思います。みんながボケないで若くい続けるためにはどうしたらいいんですか?

森下竜一氏
森下
さっきも言いましたが一番の認知症予防というのは生活習慣病の予防なんです。それからこういうセミナーにくること。社会的な活動してる人はボケないです。それも聞いてるだけはダメで、自分もしゃべるほうがいいです。

三木健氏
三木
自分の耳で聞いて自分の目で見て受け止めたことを、自分の言葉に置き換えてしゃべった時に初めてものごとを理解したといえるので、聞く以上に話すということはすごく頭を活性化しますね。

森下竜一氏
森下
お年寄りを引っ張り出して三木さんの事務所に入れちゃうとか(笑)。

服部滋樹氏
服部
ミナ ペルホネン(註:皆川明氏が率いる服飾ブランド)の事務所って、求人の年齢制限とっぱらったんですよね。上も下も全然関係ないって。80歳ぐらいの素敵な女性が店員として立ってらっしゃったりしますし。

江副直樹氏
江副
そういうことを大阪的センスで面白くやりたいですね。

三木健氏
三木
雇う側の負担を軽減する税務などのしくみを国がつくるとかね。

江副直樹氏
江副
僕は個人的に、年寄りもプライドにあぐらかいてないで、もっとちゃんとしないと、と思います。若い奴と話が合わないとか俺のときはこうだったとか、自分基準で言ってたら話は成り立たないので。年寄りにも意識改革がいると思います。

三木健氏
三木
あったらいいなのビジョンを絵にすることで、テクノロジーも情報も企業もお金もそこに集まってきますから、まずはそこですね。

服部滋樹氏
服部
大阪らしい近未来を見たいですよね。がんばろう。

江副直樹氏
江副
アンチエイジングって、単に歳をとる・とらないの話じゃなくて、寿命が延びる中で一人一人の生き方が問われてるんですね。万博に向けて、できれば世界がなるほど!って共感するようなメッセージを育てたいし、そこに向かって我々クリエイターとその周辺が力を出せれば、願ってもないことだなと思います。今日はどうもありがとうございました。

公開日:2019月06月24日(月)
取材・文:松本幸氏(クイール

イベント概要

デザイン、老いを学ぶ。
クリエイティブビジネスフォーラム「クリエイティブは旅に出よ。」Vol.4

これからの若いクリエイターが競争力を持って活発に活動していくためには、自分自身の殻を破って、積極的に異業種・異分野との関わりを持ち、互いに知の共有や技術の融合等を通して、新しいビジネスや事業を生み出していく姿勢や能力が必要となります。

「クリエイティブは旅に出よ。」は、クリエイティブの世界で発信力を持つ3人のスピーカーと、異分野・異業種で活動するゲストとのトークセッションです。
このセッションを通して、クリエイターが異業種・異分野と関わる際に必要な意識や行動様式等についてヒントを得るとともに、異業種・異分野の人々とのリアルなコミュニケーションを深める場になればと考え、継続して開催しています。

第4回のテーマは、「老い」と「クリエイティブ」。
人間誰しも「老い」を避けて通ることはできません。「老い」は心身の能力低下や病気との関わりなど豊かな生活を阻害する要因ともなります。しかし、近年、多くの人が、いつまでも若々しい心身を維持したい、実際の年齢よりも若く見せたい(見られたい)、できるだけ長生きしたいという希望を持ち、元気に長寿を全うできるよう、「アンチエイジング」の思想のもと、様々な取り組みを進めてきているのも事実。産業界においても、医療・健康分野だけではなく、様々な分野で新しい商品やサービス開発が進められています。

今回は、クリエイティブ業界にとっても不可避であるこの問題をテーマに、NPO法人日本抗加齢協会副理事長 森下竜一氏(大阪大学大学院医学研究科臨床遺伝子治療学教授)をゲストにお迎えして、幅広いセッションを行います。

開催日:2019年5月26日(日)16:30〜18:30
会場:メビック扇町