こころを持ったロボットで人とロボットが共存する社会を
I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会 Vol.9

昨年からメビック扇町で開催されている、「I-LABO−クリエイターのためのイノベーション創出研究会」。ここではクリエイターがもつ創造力や表現力、課題解決力などを活かし、専門領域の知識を修得してクリエイティブニーズを探るとともに、専門家との交流を深め、産業、経済、社会のさまざまな分野でのイノベーション創出をめざしている。
今回は先進的ロボット開発のトップランナー、ヴイストン株式会社の大和信夫氏が登壇。2003年に世界初の量産型の二足歩行型ロボットキットを発売以来、数々のロボッを手がけてきた同社からみた、ロボットビジネスの課題や将来展望を語り、クリエイターの果たすべき役割や参入の可能性について意見交換した。

大和氏からの話題提供

こころを持ったロボットで人とロボットが共存する社会を

本当はロボットで儲けるのは大変なんですが、あえてタイトルにつけてみました(笑)。私が代表を務めるヴイストンは2000年に設立しました。会社の話をする前にまずは自己紹介を。私は高校卒業後、防衛大本科理工学部に進学して、陸上自衛隊、産業プラントメーカー、不動産仲介業と渡り歩いてきました。経歴の話をすると「何でお前がロボットをやっているんだ」って話になると思うんですけど(笑)。私には「世界一の会社をつくる」という夢がありまして。不動産業界に入ったのも営業力をつけるためで、退社後はさまざまなビジネスプランを練り、多くの方にプレゼンを繰り返していました。

そうするうちにある上場企業の社⻑と出会い、「大学の先生が面白い技術をもっているから君も参加しなさい」と言われたんです。設立メンバーにはアンドロイドの研究でも世界的権威である石黒浩特別教授、その教え子で二足歩行ロボットの研究をしていた前田武志氏がいて、あとからロボットクリエイターの高橋智隆氏も参画と、ロボット業界の錚々たる顔ぶれが揃っており、しかも資金は先の社長が出してくれるという状況でした。ここで自分のテリトリーである企業経営に専念して、石黒先生や前田くんがやりたいことができる会社をつくろうと決めました。

設立当初は、石黒教授が特許を持つ全方位センサをはじめとした独創的な製品開発を進めましたが、2003年からロボットの世界に本格参入、ホビー用ロボットという新しい市場を開拓してきました。ちなみに先のビジネスプランを考えていたときに、どんな会社でも変わらない経営理念もつくっていまして。それは「技術を使って人を感動させることで、世の中を変えていく。それで世界一の会社をつくる」というもの。また会社はそこで働く人にとって自己実現の場なので、それを叶えるためにも限りなく発展し続けることをめざそうと。そのためには次の3つが大切です。「楽しくなければ会社じゃない」「面白くなければ仕事じゃない」「儲からなければ事業じゃない」。ベンチャー企業って、お金を集めてなんとなく使ってダメだったら、「ハイ解散」というイメージでしょ。でも儲からない事業はありえないので、この3つをちゃんと掛け算できるしくみをつくりました。

「潰れない会社にするための工夫」が経営戦略。

話はさかのぼりますが、そもそも防衛大学に進んだのは実家の会社が倒産したからです。就職を考えたんですが「進学率100%」を保持したい学校のすすめもあって、学費が不要の防衛大学へ。そして自衛隊にいた頃、再建中だった父親のプラントメーカーを手伝うことになるのですが、 その会社も31歳のときに2度目の倒産。その経験から「潰れない会社にしよう」と資金繰りも工夫しています。基本的に支払いも受け取りも現金で、手形は振り出さないし受け取りません。おかげで自己資金による無借金経営を続けています。また開発投資の回収も、先に払ってくれない顧客とは取り引きしないと最初に決めました。

私が考える理想の会社とは第一に、「外から見ると何やっているかわからない、でも儲かっている会社」。そういう意味ではロボットは、あまりやりたくないんです(笑)。儲からないのに微妙に脚光を浴びるから。するとワケの分かんない参入があって市場が荒らされます。ちなみにロボットビジネスは過去3回ブームがありましたが、そのどれにも当社は関わっていない。AIBOやASIMOがでたのが、参入前の2000年。次が2005年の『愛地球博』。これはロボットがテーマでしたが、参加していません。当時はもっとお金を産まない自律型ロボットサッカーの世界大会『RoboCup』に没頭していて(笑)。そっちのほうが楽しかったんです。最近だと2年前にSoftBankのPepperがでました。今回は市場規模も大きいし、それなりのビジネスになっていくとは思いますが、前の2つはブームで終わっています。

もうひとつは「営業しない会社」。数字を取りにいくと人間性がなくなっていく気がして。だから社内には営業部門がないし、売上目標もつくったことがないんです。そして3つめが「市場調査をしない」。うちはマーケティングもしません。誰も見向きもしなかったら、私たちも早く忘れる。順調に見えるのは氷山の一角でその何十倍も失敗があり、黒歴史の山です(笑)。結果的に現金商売でまわせる会社になったので、製品ができた時点で開発コストは支払い済みで、会社はちゃんと回っているので、「市場に出して反応がないものを売る努力をするくらいなら、もっと楽しいものを開発しようと」いうスタイル。さらに「需要(仕事)は探すものではない。需要(仕事)はつくるもの」ということも大切。この「ないのであれば、つくりだせばいい」という文化は、社内に浸透しています。



自律型ロボットによる世界規模のサッカー競技会「RoboCup」に「Team OSAKA」の中心メンバーとして参戦、世界大会で5連覇。

今、起きている世の中の大変化。

ロボットビジネスを語るうえで大きく関係してくる、今起こっている大変化をまとめておきたいと思います。世の中では3つの大変革が起こっていて、まず第4次産業革命。第1次は蒸気の発明にはじまり、その後、第2次、第3次とありましたが、今までは単一技術によるイノベーション。それが第4次ではAI・ロボット、FINTEC、ブロックチェーン、シェアリングエコノミー、セキュリティ一と、ひとつだけでも世の中がひっくり返るようなイノベーションが同時多発的に起こっている。これによって、世の中は凄まじい勢いで変わっていきます。ほかにも「評価」を仲介としてモノ、サービス、お金が交換される評価経済社会や、人生を従来の3ステージ(教育→仕事→引退)という概念ではなく、マルチステージととらえるべき「人生100年時代」もあります。

第4次産業革命のなかで、私はロボットとAIに関わっています。現在急速に普及するAIを支える技術のひとつがディープラーニング。これは人間が介在しなくても、自動的に何が重要かを見つけ出して上達するもので、今さまざまな分野で活躍しはじめています。ロボットはこれからAIの進展にとても大きな意味を持っています。ただ性能の高いAIがあっても、ロボットの性能が弱いんでまだまだですけど。たとえば移動系機能は素晴らしく発達しましたが、ピッキングは弱い。物をつかめるようになると、移動+ピッキングで自分で環境探索をして、ロボット自身が強化学習するので、人間が自然環境の中で体感するものの多くはロボットが勝手に探索できるようになる。さらにマルチモーダル化することで言語の問題をクリアすれば、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティは、予想される2045年より早くやってくる気がします。

AIに関して日本は進んでるのか遅れてるのか、今ひとつよくわからないのですが、ただ「使いこなす」という観点からみると、優位かもしれない。長らく日本は産業ロボットで世界の頂点にいました。そもそも産業用ロボットはアメリカで1960年代に開発されましたが、自動車の工場に持ち込む際に労働問題になり、開発した会社は日本の会社に特許を売ったんです。当時の日本は好景気に湧いていた頃。効率が上がるのであればと、市場にスムーズに導入されました。日本人はロボットの開発にも向いており、ロボット大国へと発展したわけです。AIに関してもアメリカは、雇用の問題でナーバスになっていて。それに対して日本はゆるやかに受け入れられる気がします。

きちんと尖ったものをつくれば、商売は成立する。

ようやくロボットビジネスの話に入ります(笑)。ヴイストンではこれまでさまざまなロボットをつくってきました。2003年には世界初の量産型二足歩行ロボットキット「Robovie-M」を発売、2004年からは「TeamOSAKA」の主要メンバーとして『RoboCup』の世界大会で優勝し、以降5年連続で優勝を果たします。2005年には映画のタイアップで『鉄人28号』を製作。まだロボットの世界に参入して2年目で、実績もなく知名度も低い会社の製品で、しかも1体40万円もするのに、200体があっという間に完売したんです。このとき、きちんと尖ったものをつくれば商売は成立すると確信しました。その後は受託開発を辞め、自分たちが面白いと感じるオリジナルロボットをつくっていく道を選びます。

ロボットの製作に関してはハードやソフトもほぼ内製化し、最近ではテーブルトップサイズのコミュニケ―ションロボット 「CommU」や「Sota」、教材用も含め数多くのロボットを市場に送り出しています。ほかにも日清食品のキャンペーン賞品「カップヌードルロボタイマー」や村田製作所のCMに使われた「村田製作所チアリーディング部」、組み立てロボットキット「Robi」などは、みなさんもご覧になったことがあるかもしれません。「ロボホン」では、モーションをつくるためのミドルウエアを手がけました。

うちのような小さな会社にすごく優秀な人間がくるんです。自作のロボットを持参し、目を輝かせて「ぼくはここでロボットの仕事をしたい」と。彼らはそこに人生をかけたいほどの熱い想いを持っている。そしてその想いに共感する人は意外に多いんです。誰も理解しないすごく尖ったところ、100万人に1人とか10万に1人ぐらいの割合で、「すごい」と感じて、買ってくれるんですね。



可搬重量40kgで容易に取り扱いが可能な研究開発用台車ロボット「メカナムローバー」

「こころ」を持ったロボットを世に送り出そう。

会社ではロボットをつくるとき、何か考えるときは「こころを持ったロボットをつくる」という発想でやってねと言ってます。私たちは「道具としてのロボット」ではなく、「役に立たないロボット」をつくりたいんですよ。ただそこに「こころ」的な要素があると、人と共存できる社会ができるんじゃないのかなと考えていて。「こころ」があれば技術的に高度でなくともロボットは興味を持ってもらえますし、人間との距離を縮められる可能性があります。それは恐怖感を与えない、親しみやすい、人にやさしい、一緒にいてくれる存在。同じ時間や空間を過ごしながら、体験や経験を共有できるロボットです。

ビジネスの進化を、ローカルとグローバル、リアルとバーチャルが対立するマトリックスで考えると、実在する人から人へと「ローカル・リアル」ではじまり、「グローバル・バーチャル」の方向にどんどん拡大していきました。それを引っ張っているのがデータやAI。しかしこれから先は変わってくる。ロボットは「身体性を持ったコンピュータ」なので本来、ローカルでリアルなもの。ロボットによって、グローバル・バーチャルに向かっていたものが、人間がいる実社会=ローカル・リアルに引き戻される可能性がある。その意味ではロボットって、今までのビジネス感覚からは想像しえないビッグビジネスをつくる可能性があって。そこで重要になってくるのは「ストーリー」や「存在感」。ここらへんはクリエイターの力が必要になってくると思います。そしてロボットと人が一緒に暮らすことによって綴られるストーリーとか、プライスレスな部分に価値を生み出すようになれば、経済規模も計り知れないほど大きくなります。



人と関わるロボットを広く普及させることを目的に開発されたコミュニケーションロボット「Sota」

ロボットと共存する社会へ。

ところでロボットと共存する社会ってどんなものでしょう。人間には、「知りたい」「仲間に入りたい」「生き続けたい」という3つの本能的欲求割があると言われています。先の2つはGoogleやFacebookがやっているけど、「生き続けたい」はピタッとくる会社やサービスがない。だからヴイストンは「いきいきと生き続けるため」を叶える会社になろうと。独居老人の問題だけでなく、日本では子どももすごく孤独だというデータもあります。これはとても重大な社会問題。孤独は人間の最大の悲しみですから。もちろん人間対人間の関係性によって解決できれば問題ないのですが、そうはならないのでロボットが孤独を少し緩和させられたらいいかなと。

人間は限定された時間を生きていますが、ロボットはメンテナンスや修理することで、ずっと存在し続けられます。そういう人間とロボットの最大の違いに着目して、生まれたときから死ぬまでかたわらにいつもロボットがいてくれたら、ニコニコと過ごせる人生なんじゃないのかな。「ロボット+IoT+AI」、この3つを組み合わせて、そういう社会を実現していけたらと考えています。

最後に今後の展開について。当社の収益モデルは、これまではハード中心でしたが、現在はデータビジネスの方向に移行しつつあります。ロボットはほかでは取れない情報をたくさん集められるので、そこから得たデータを蓄積・解析、データベース化し、新たなアプリケーションやロボットの開発、ビッグデータから得られる付加価値の提供によって、ビジネスモデルの拡張を図ること考えはじめています。従来の教材とかホビーのロボットに関しては、今まで通り面白そうなものをつくって、誰も振り向いてくれなかったら「なかったこと」にして次に行く、このスタイルを貫いていこうと思います。

大和氏との質疑応答

A氏(ウェブ制作):
私はウェブ関係の仕事をしていて、これまでもロボット関連のサイトを制作した経験もあります。そのときも感じたのですが、ロボットの制御というのは、具体的にはどうなっているんでしょうか?

大和氏:
コミュニケーションロボットの「Sota」の場合、クラウド側のロボコネクトのなかに対話制御が入っていて、そこに感情情報を持っています。動きそのものはいくつかのパターンでつくっていて、中間的なものは自動制御します。対話のなかで認識する言葉が入っていたときに、こういう言葉を返すという、おおもとの言葉が持っている「感情のファクター」に対して、動く要素=モダリティを増やしてコントロールしています。
あとロボットの一つひとつの動作のつくり方というのは、アニメーションの制作をイメージしてもらうと分かりやすい。こういう状態とこういう状態をつくって覚えさすと、スピードなどを計算して、間の動きを補完します。ほかにも動的なシミュレーションをして、干渉しないようにもします。それが二足歩行型になると、より複雑になって大変なんです。

B氏(企画):
ヴイストンさんがつくられているロボットは、二足歩行型などホビー用が中心ですが、そのいっぽうで日本が強いと言われている分野に産業ロボットがあります。どちらかというと後者のほうが「儲かるビジネス」という感じがするのですが、あえてそちらを選ばずに、むずしい方を選択されたのには理由がありますか。

大和氏:
理由はすごく単純です。産業ロボットは止まることが許されないからです。24時間動き続けることが前提になるので、何かトラブルがあれば、誰かがケアをしに行かないといけない。私は社員にそんなことさせたくない。自分もしたくないし。それと役に立たないロボットでも、やりようによっては儲かる。そういうビジネスにこだわっています。うちの社員もそういうものをつくりたいと思っているから。私は「企業は儲けて、利益を出さないといけない」と考えていますが、そのために誰かを犠牲にするようなやり方や、儲けること自体を目的にしたくないんですよ。だから今後も産業用ロボットは手がけないと思います。嫌なことはしない主義なので。

B氏(企画):
台車ロボットは産業用ではないのですか?

大和氏:
台車型ロボットの多くは研究用で販売しているもので、24時間の連続稼働をさせるといった耐久性が保証されているものではありません。

C氏(プロダクトデザイン)
さきほどのお話で「マーケティングはしない」と言われていましたが、それはヴイストンさんが長くロボット市場に接しているから、市場調査などしなくても「何が売れるかは感覚で分かる」ということでしょうか?

大和氏:
うちの会社ではひとつの製品が、1万台も売れなくていいんですよ。だからロボット好きな社員が熱く語って、なんとなく回収できそうだなと思ったらとりあえずつくる。それと1万台売るためのマーケティングって、実際できないんですよ。日本の人口でいうと買う人が100万人に1人しかいないから。マーケティングをしないというより、できない。かりに100万人を集めて、そのなかの1人が買いたいかという調査ができたとしても、今度は「ここを変えたら買うのに」とか余計なノイズが入る。だからシンプルに情熱を持った社員の意思を形にして、それで評価を受けるほうがいいと考えています。

エピローグ

ロボットの本当の進化は「道具を超える」こと。ロボットづくりのキーワードに「こころ」を挙げ、「ロボットで人間の孤独を解消したい」と語る大和氏。コミュニケーションにこそ重要な意味があり、ロボットが人間と一緒に行動し、何をしたかを記憶して、その人とのストーリーをつくっていく。そこで重要になる「ストーリー」「存在感」「親しみやすさ」というキーワードこそ、クリエイターの力が求められる領域ではないだろうか。

イベント風景

公開日:2018月12月20日(木)
取材・文:町田佳子氏

大和信夫氏(やまと のぶお)

大和信夫氏

ヴイストン株式会社 代表取締役

陸上自衛隊、産業プラントメーカー、不動産仲介業の勤務を経て、2000年、ヴイストン株式会社を設立、同代表に就任、現在に至る。自律型ロボットによるサッカー競技会ロボカップにおいて、ヒューマノイドリーグ世界大会5連覇(チーム監督)。経済産業省「第2回ものづくり日本大賞 優秀賞」受賞、ものづくり名人に認定。著書に『ロボットと暮らす』『はじめてのロボット工学』(共著)など。