クリエイティブがITヘルスケアの立ち上げを加速させる
I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会 Vol.10

第10回を迎えた「I-LABO クリエイターのためのイノベーション創出研究会」。各分野の専門家から各領域の現状や課題を聞き、クリエイターが持つ創造力や課題解決力を活かし、イノベーションの可能性を探る本企画。今回のゲストスピーカーは、ウェアラブルITデバイスを核にしてヘルスケア分野で事業を立ち上げた株式会社Moffの代表取締役・共同創業者の高萩昭範氏。ITヘルスケアのスタートアップにおけるクリエイターの重要性について話題提供をいただくとともに、クリエイターの果たすべき役割や参入可能性について意見交換を行いました。

高萩氏からの話題提供

玩具の開発からスタートし、リハビリ支援のシステムへ

今日、お越しいただいているのはクリエイターの方がほとんどです。私自身、事業の立ち上げやヘルスケア分野でのビジネスにはクリエイティブの力が大変重要だと実感してきました。そういったトピックを中心にお話させていただきますが、その前にまず、当社のビジネスについてご説明いたします。
当社の代表的な製品は「Moff Band(モフバンド)」です。手首に装着できるITデバイスで、センサーを備えています。センサーが捉えた手の動きはスマートフォンなどに送られ、リアルタイムで動きが解析されます。このシステムをどのように利用しているかというと、ゲームのコントローラー的に使うのです。手の動きでゲームを操作できる、新感覚の玩具としてモフバンドはデビューしました。
ウェアラブルデバイス、センサー、通信、解析というモフバンドのコア技術を活用して新たな分野に、と考えて取り組んだのがヘルスケア分野です。具体的には、リハビリテーションの支援システムとして活用が進められています。
リハビリって、定量的な評価が難しく、とってもアナログな部分が多いのです。リハビリ前後の状態の記録なども、スタッフが用紙に記入するというスタイルが中心です。
これらを効率化するのがモフバンドと専用のアプリを用いたシステムである「モフトレ」と「モフ測」です。患者さんがモフバンドを装着してリハビリを行えば、体の動きはモフバンドが捉えて計測・分析し、さらに記録も自動的に行われます。エクササイズのインストラクターと生徒のようなイメージで、スタッフが前で示す体の動きを患者さんが真似れば、それでリハビリを行うことができます。1人対複数人、ビデオを使えばスタッフなしで複数人を相手にしたリハビリも可能です。これらの点が評価され、現在、リハビリの現場を中心に導入が進められています。

「わかりやすさ」はあらゆるシーンにおけるキモ

当社はヘルスケア領域において事業を行う会社です。また、スタートアップ企業です。この2つの観点から非常に重要になっているポイントは、「わかりやすさ」です。当社にとってクリエイターが極めて大切な存在である理由の1つが、ここにあります。
モフ測のようなヘルスケア機器を利用するのは、まず、医療従事者です。もう一方の主要なユーザーである患者さんを考えてみると、高齢の方が多いです。こういった方に使ってもらうには、デバイスの見た目、扱い方、アプリの設定や操作など、あらゆる角度から「わかりやすさ」を追求する必要があります。「ユーザーインターフェイス」「ユーザーエクスペリエンス」といったテーマが重要になるのです。これはまさにクリエイターが得意とする分野ですよね。モフバンドおよびモフ測の開発課程で私たちは、「技術的にすごいものを、いかにして簡単なものに見せるか」に注力していました。場合によっては、製品やシステム自体の機能性には何の影響も与えないのに、「ユーザーが使いやすいから」「ユーザーにとって心地いいから」という、デザイン上の理由だけで改良を加えたこともあります。
こういった「わかりやすさ」の追求は、スタートアップ企業、すなわち資金をはじめとした支援の獲得が重要課題である企業にとっては欠かせない要素です。スタートアップ企業は、さまざまな場面で自社の技術やビジネスの説明が求められます。説明次第で支援を得られるかどうかが決まり、事業のその後が左右されることもあります。このとき、技術の優位性だけを伝えていても支援者の心を動かすことは簡単ではありません。それよりは、「ユーザーにどんなメリットをもたらすことがきるのか」を端的に伝えることが重要です。「体験を作り出す」というユーザーエクスペリエンスの設計や、技術やビジネスの要点をコンセプトという誰もが共有できる言葉に落とし込むという作業は、まさにクリエイターの得意分野です。ここにしっかりとエネルギーを注ぎ込むことで、支援の獲得がスムーズになりました。

とにかく作る!それが事業化への道

アイデアを事業化するためにはいくつもの大切な要素があります。人もお金もプランも欠かせません。それらの中からまず1つ挙げるなら、「とにかくアイデアを形にしよう」というものがあります。
ヘルスケアを含む高齢者向けビジネスの開発の中で、「Development not for but with」という言葉に出会いました。日本語にするなら、「ユーザーのために開発するのではなく、ユーザーとともに開発する」といった意味合いでしょうか。これは非常に重要な言葉です。どういうことかというと、出来上がったものを「こんなものを作りました」と言ってユーザーへ提案するのではなく、開発の初期段階からユーザーの声を聞き、一緒に作るべきだ、という意味です。
そこで、先ほどの「とにかくアイデアを形にしよう」に話が戻ります。作り手は、どうしても“完璧なもの”を作りたくなります。でも、完璧を求めるよりも、たとえ不完全であっても、その時点でのアイデアを形にして試作品を作ってしまう方がいいのです。そして、試作品をユーザーに見せて評価してもらう。そうすることで改良の方向性が見えてきます。これが「ユーザーと一緒に開発する」です。そして、「とにかく形にする」というシーンで力を発揮するのがクリエイターです。クリエイターがすぐそばにいてくれることで、小さな改良から大規模な変更まで、具体的な「新しい形」がどんどん生み出されていきます。
「とにかく作る」ことは、マーケティング面でも効果を発揮します。作ってはテストし、評価して改良するというプロセスを繰り返すと、自然にデータが集まってきます。「何人に実証実験を行い、効果が確認されました」というPR材料が蓄積されていくのです。ヘルスケア分野は他の分野にも増してエビデンスを強く求める傾向にありますから、試作品による評価実験の重要性は高いと言えます。

「観察」が課題解決の出発点になる

社会に受け入れられる新たなビジネスとは、多くの場合、現状の課題を解決するものです。そのため、ベンチャー企業家や技術者は課題の解決策を探し求めることになります。そして、その出発点として「まずは課題を見つけよう」というテーマに取り組むことになります。私もそうでした。
私の場合、課題発見のためにユーザーインタビューを徹底的に行いました。困っていることや悩んでいることをとにかく聞いて回ったのです。その結果、確かに課題はわかりました。ただ、それを解決する策が浮かばないのです。行き詰まり感もあったのですが、このとき、「デザイン思考で考えてみよう」と発想を切り替えてみました。
デザイン思考における重要なプロセスは、ユーザーを観察することです。観察することでユーザーの気持ちが理解でき、そこからアイデアが浮かび上がってくるのです。私もこのセオリーにのっとり、40家族ほどの行動を徹底的に観察しました。リハビリが必要となっている患者さん本人や家族が、部屋の中でどのような動き方をしているのか、そもそも部屋はどうなっているのか、といったことを観察していきました。その結果、「困っていそう」「不便そう」という課題が自分でしっかりと描き出すことができ、同時に、「こうすれば解決できる」という解決策のアイデアも描くことができました。
アイデアが浮かべば、「とにかく形にする!」です。これも実はデザイン思考の重要なプロセスです。当社のビジネス創出において、デザイン思考は欠かすことのできない手法でした。そして、それを支えているのが、アイデアをスピーディーに形にしてくれるクリエイターなのです。

高萩氏との質疑応答

A氏(コンテンツ制作):
ユーザーニーズを深掘りする方法を教えていただけないでしょうか。

高萩氏:
よく用いられるのはインタビューですよね。私自身はインタビューで行き詰まってしまったという経験もあり、それを踏まえて言うなら、「ユーザーはインタビューでは嘘をつく」と考えています。じゃあ、どうするのかと言うと、「どうして今、この人はこういうことを言っているのだろう?」という、相手が発している言葉の奥を観察するように心がけています。そしてもう1つが、やはり現場を見ることですね。足を運ぶことは大切です。時には自分で体験するのもいいでしょう。現場を見ずに、話を聞くだけではニーズを見誤ると私は考えています。

B氏(デザイナー):
ビジネスプランのコンテストに参加しています。審査員からは辛辣な評価を寄せられることも多く、めげてしまいそうです。

高萩氏:
気にすることなんてまったくありません。あなた自身が可能性を見出しているプランなら、とにかく試作品を作ってしまいましょう。そして現場に持っていって使ってもらって、現場の声を聞きましょう。そして改良するのです。その繰り返しが説得力につながります。
私の場合もそうでしたが、最初に思い描いたアイデアと、製品化されたものがまったく別物になっているというのはよくあることです。むしろそれでいいと思います。現場の声を聞きながら試作品をどんどんブラッシュアップさせることが、事業化への道だと思います。

C氏(ウェブ制作・解析):
ヘルスケア以外の分野への展開もお考えですか?

木幡氏:
当社のコア技術は動作解析です。この技術は汎用性が高いと考えられますので、ぜひ、他分野にもチャレンジしたいです。

イベント風景

公開日:2018月12月13日(木)
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ

高萩昭範氏(たかはぎ あきのり)

高萩昭範氏

株式会社Moff 代表取締役 / 共同創業者

外資系コンサルティング会社、メルセデス・ベンツ日本で勤務後、デザイン・コーディングの独学、デザイン思考やリーン・スタートアップの勉強会などへの参加、シリコンバレー経験などを経て株式会社Moffを共同創業。2017年『Moff Band』を利用し、IoTリハビリ『モフトレ』・IoTリハビリ見える化『モフ測』など、高齢者向け、介護・リハビリ分野への展開を開始。日本を突破する100名の1人に選出(週刊AERA特集)。