デザインの責任、デザイナーの覚悟。
クリエイティブサロン Vol.79 南大成氏

毎回、さまざまなジャンルのクリエイターをゲストスピーカーにお迎えし、その人となりや活動内容をお聞きし、ゲストと参加者、また参加者同士のコミュニケーションを深める「クリエイティブサロン」。今回のゲストは、プロダクトデザイナーの南大成氏。HIROMINAMI.DESIGN代表/プロダクトデザイナーであり、合同会社アルルカンプロダクト代表社員、デザインプロデュース集団Iroyoriメンバー、メビック扇町のクリエイティブコーディネーターでもある南氏は、「デザイナーに求められるデザインの責任が《製造から販売まで》に及びつつあると感じている」という。合同会社を立ち上げ、自社商品の企画・デザイン・製造・販売まで、責任を持って手がけることになった経緯を、学生時代や修業時代のエピソードも交えながら語っていただいた。

南大成氏

大学の中で日本人は自分だけ。

1982年に鹿児島県で生まれた南氏の幼少期の夢は、バスケットボール選手か、宇宙飛行士か、料理の鉄人になることだった。だが、高校に通う頃には将来の夢は犯罪心理学者かアートに携わる人に変化していた。高校卒業後はその夢に近づくために1年間東京の英語学校に通って英語漬けの日々を送り、その学校の提携校があるイギリスに留学。1年間ケンブリッジにある美大でファンデーションコースと呼ばれる教養課程を学び、その後シェフィールド・ハーラム大学に入学し、プロダクトデザインを学んだ。
「高校時代は遊んでいたので、あえて厳しい環境に身を置こうと思ったんです。大学では日本人は私だけでしたね」

現地の学生に負けたくないが、あまり英語が話せるわけではない。だから、とにかくたくさん資料を作り、ビジュアルで見せるプレゼンを心がけたという。また、大学の成績評価で最高ランクの「ファーストクラス」が得られるよう、朝10時に登校し、夜9時に帰宅するという生活を続け、卒業制作の防犯ブザーデザインには半年以上の時間を費やして完成させた。
「イギリスでは、最終的なデザインの評価は30%。それに至る思考つまりデザインを導くプロセスの評価が70%なので、このときも警察署長に会いに行ったり、被害者の会の方に話を聞いたりもしましたね」
このような努力が報われ、3年間の成績を通して学生の1割に満たない人しか獲得できない「ファーストクラス」を得ることができた。

卒業式での記念写真
本当に帽子を投げるのか? 皆迷っている卒業式での一コマ。一番右が南氏。

メビックで広がったヨコのつながり。

卒業後はロンドンテロの影響もあり、一旦故郷の鹿児島に帰郷。その後就職活動をするため、大阪・千林に住み、自分の好きなテイストのデザイナーにポートフォリオを送り、2007年からは著名なプロダクトデザイナー、ムラタチアキ氏に師事するようになる。
「当時、日本と英国では使っているソフトウエアが違ったので、イラストレーターやフォトショップといったソフトはほとんど使えなかったですね。明朝体とゴシック体も怪しかったぐらいです。その後はレタリングを勉強しましたけど(笑)」

勤務先では、一つのプロジェクトを一人か二人で担当するプロジェクト担当制だったので、デザインに関する業務から取扱説明書の作成、お金やメールのやり取りまでの一通りのことを経験。英語がわかるので、海外での展示会の資料作成も任された。ただ、深夜まで仕事をしなければならない状況が続き、「暮らしに関わるものを作っているのに、自分自身がちゃんと暮らせていない」というフラストレーションや、「売れないデザインに対して誰も責任を取らない姿」への疑問や、「もっと人の役に立つデザインをしたい」という思いが募り退社。2011年にHIROMINAMI.DESIGNを設立した。フリーランスとして仕事をするようになって、クライアント候補と出会うべく積極的に異業種交流会に参加したが、なかなかビジネスには結びつかなかったという。
「デザインに興味がない人が多く、その人たちに説明するのに苦労しましたね」

その後、メビック扇町のことを知って登録。いまでは「クリエイティブコーディネーター」としてクリエイターや企業の事務所を訪問し、クリエイター同士やクリエイターと企業との顔の見える関係をつくりだす手伝いもしている。
「デザインに理解があるヨコのつながりができ、独立後3年目からは仲間からも仕事がくるようになりました」

デザインしたコード収納ケース
スマートコード収納TANGLESS(タングレス)。充電コードやイヤホンコードを絡めず、手軽に収納でき、長さの調整なども可能。
DESIGN:HIROMINAMI.DESIGN

覚悟と責任を共有できる仲間とモノづくりを。

2012年にはIroyoriの立ち上げに参画した。Iroyoriは、さまざまな視点を持つクリエイターが集い、そこで生まれるデザインによって、素材・技術を持つ生産現場とマーケットをつなぐことで新たなmonokoto(モノとコト)のストーリーを紡ぎだすプロジェクト型デザインプロデュースチームだ。生産・販路も含め、モノづくりの川上から川下までをマネージメントする。このチームで、米袋用の紙バンドを使ったFUJIYAMA BROOCH(富士山ブローチ)をプロデュースした。
「いままでのモノづくりは、作ってから売りに行くというものでしたが、Iroyoriは売り先を見つけてから、そこへ向けたデザインを一緒に考えるというスタイルなんです」

さらに南氏は昨春、合同会社アルルカンプロダクトをグラフィックデザイナーのゴトウシュウ氏と設立。代表社員として自社商品の企画・デザイン・製造・販売までを責任を持って手がけている。
トークの最中に、同社製品の素材の現物が参加者の手元に回ってきた。しっとりとした手に吸いつくような不思議な質感を持つハイブリッドレザーは、シンプルさを極めるために無縫製製法で財布や名刺入れに仕上げられるという。
「たとえ売れなくても誰のせいにもしない。そんな覚悟と責任をもったモノづくりを目標としました。企画という最初の段階から販売という最終段階までを自分ですれば、すべて責任を取れると思ったんです。ユーザーとして自腹を切ってでも買いたいと思えるもの、買える価格のものをちゃんと作りたかったというわけです」

素材の原産国に連絡を取ったり、商社を通して買い付けたり、製造工場を探したり。当初は商品の発送までみずから行っていたという。
「本業のデザインが疎かになってしまうといけないので、いまは発送のみ外部の人にお願いしていますが、自分自身が発注者の立場になるという経験は貴重ですね。立場が同じではないとわからない視点があるものです。やはりすべてを自分で行うのは無理なので、いまでは一緒に責任をもって仕事をしてくれる関係づくりが大切だと思うようになりました」

レザー製の財布や名刺ケースなど
ARLEQUIN(アルルカン)

最終的にめざすはキコリ。

今回のサロンでは、南氏の経験に基づく示唆に富む言葉が披露されたので、ご紹介しよう。

常識や根底は疑う
デザインするときには、まず、一度すべて情報をリセットして、導きたい結果から考えることが重要。

言葉の本意をさぐる
「斬新に」「シュッとしたデザインを」といわれても、それを鵜呑みにするとうまくいかない。言葉の裏にある本意を汲み取り、提案できるかが大切。

クライアントの先のユーザーへ
仕事の依頼はクライアントから来るが、その先のユーザーに向けたデザインをすることが大事。

ユーザーの最小単位は自分自身
一番信頼できるユーザーは自分自身だと思います。ユーザーとしての自分が良いと思えないモノは出さない。つまり、デザイナーである前に、ユーザーとしての自分がちゃんと暮らせていないと、デザインを正しく判断できないと思うんです。

トークは「最終的には、キコリになりたい」という言葉で締めくくられた。
「いまデザイナーという仕事は分業化されてますが、大元をたどれば、キコリが木を切り、家族のために箸や皿やテーブルを作り出すような仕事だったと思うんですよ。大量生産が前提のプロダクトデザインは、お客様の喜ぶ姿を見られる機会はほぼ無いですからね。僕は、家族はテーブルで育まれると思うので、かつてのキコリがしていたように、まずは一番身近にいる家族を幸せにするデザインをして、結果としてその先にいる友人や知人、お客様が喜んでくれたら、と思います」

この秋からは芸術大学でも教鞭を執るという。南氏の温かな目線とデザイナーとしての覚悟は、教え子たちにきっとしっかり受け継がれていくことだろう。

会場風景

イベント概要

デザインの責任とその先
クリエイティブサロン Vol.79 南大成氏

デザインの「責任」は一体どこまで及ぶのでしょうか?作れば売れる時代はとうの昔に終わり、デザイナーに求められるデザイン範囲は「モノとコト」へ、デザインの責任は「製造と販売」にまで及びつつあると感じています。現在、合同会社を立ち上げ、自社商品の企画・デザイン・製造・販売まで、「責任」を持って手がけることとなった経緯について、イギリス・デザイン学生時代、インハウス・修行時代、独立、グループ活動への参加、自社ブランドの設立などの経験を通してお話したいと思います。

開催日:2015年07月01日(水)

南大成氏(みなみ ひろなり)

HIROMINAMI.DESIGN プロダクトデザイナー

鹿児島県生まれ、大阪在住のプロダクトデザイナー。2006年、英国シェフィールドハーラム大学、BAプロダクトデザイン学部を卒業。ムラタチアキ氏に師事後、グラフィックプロダクション勤務を経て2011年に独立。アイデア先行型デザインが市場に溢れる中、自身が一生活者として実生活で使える「生活者視点のデザイン」を理想として掲げ活動中。

合同会社アルルカンプロダクト代表社員
デザインプロデュース集団 Iroyoriメンバー
メビック扇町 クリエイティブコーディネーター
創造社デザイン専門学校 非常勤講師
鹿児島県曽於市 スポークスマン

南大成氏

公開:
取材・文:中島公次氏(有限会社中島事務所

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