メビック発のコラボレーション事例の紹介
ミラノの街に和の伝統文化とデザインを発信する「TuTuMu exhibition in Milano〜和紙で包む展〜」
ランプシェード

和紙という伝統文化をデザインの力で海外に広めたい
「自分でもデザインをしますが、それ以上に今は人と人をつなげたり若い人を持ち上げたいっていう気持ちが大きいんです」。建築士として空間デザインなどを手がけながらも、イベントやトークショーを開催したり、多方面のクリエイターたちと関わりながらデザインを軸に幅広く活動を行う酒井コウジ氏。その一つがミラノで開催している和紙にフィーチャーした展示会だ。

はじまりは出品したイベントを協賛していた和紙および和紙製品取扱会社社長の「和紙があまり売れない」というひとことだった。日本の伝統産業である和紙や襖紙は機能的で耐久性があり、芸術性も高いが、最近では洋紙や新素材への移行に伴い衰退が進んでいる。さらに紙は品番が変わるとすべて廃盤になるため、社内にはフロア一杯に積まれた「和紙の墓場」があるという。海外プロジェクトを多数手がける中、かねてから海外と日本をつなぎ、和の文化を発信したいと考えていた酒井氏は、国内外のクリエイターがヴィンテージ和紙を使った作品を展示する「TuTuMu exhibition in Milano〜和紙で包む展」を企画。2013年の初回から大きな注目を集め、翌年には第二回目を開催。そこに出品したのがインテリアデザイナーの堀内幸子氏だ。

出展から商品化、そして新たな展開へつながることで想像もしなかった未来に
二人の出会いはメビック扇町が開催したバードハウス展。「私は段ボールを使った巣箱を出品したんですけど、じつはこれを照明にしたいんですって酒井さんに話したら、じゃあ、和紙とコラボして包む展にだせば? と言ってくださって」。そこからトントン拍子に話が進み、4ヵ月後には作品と共にミラノに飛んだ。TuTuMu展では希望者は現地に行って、自分でブースをつくり、来場者への商品説明を行う。「この時期のミラノでは、世界的な企業の会長とか有名クリエイターとか驚くような人がその辺を歩いてるんです。来れば絶対に何かにつながるので、作品だけではなく、できるだけ本人も来るようにお願いしています」と酒井氏。ミラノサローネの期間中、ミラノには世界中から30万人以上の人が集まる。当然、宿泊場所の確保も容易ではないが、初回から実行委員として参加しているインテリアデザイナーの安藤眞代氏が他のメンバーとアパートメントを押さえており、堀内氏は空いていた部屋を使うことができた。「いろいろとタイミングが良かった」。堀内氏の言葉に酒井氏は言う。「堀内さんは何かやるときに理由を求めないんですよ。面白いと思うかどうかがすべて。そういう人は反応が早いんです。そうじゃない人に急に“ミラノ”とか言ってもぽか〜んですから」

TuTuMu展のあと、堀内氏の作品は神戸の企業によって商品化され、パリの雑貨・インテリアの見本市「メゾン・エ・オブジェ」の厳しい審査を通過した。今でも出品したクリエイターたちのつながりは深く、酒井氏、堀内氏、安藤氏は他にもさまざまなプロジェクトでコラボを行っている。

バードハウスでの出会いから1年。今、自分たちでも想像していなかった未来にいるというという3人。今後もさらに多くの人を巻き込みながら新しい何かを創造していくだろう。

公開:2015年5月11日(月)
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus)
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