メビック発のコラボレーション事例の紹介

「モノ・コト・シゴトを紡ぐ」コワーキング・スペースが、あらたな文化創造プラットフォームになる。
中之島スピニング

イラスト

“おもしろい”を起点に、人が人を呼び、大きなうねりをうみ、わくわくスパイラルが上昇する

2014年5月19日、大阪・北浜にコワーキング・スペース『中之島スピニング』がグランドオープンした。半世紀以上の歴史をもつ繊維商社、名古屋紡績が、自社ビルを有効活用するために改築したもの。『中之島スピニング』代表の平野泰裕氏は、大手出版会社の営業、管理職を経験後、3年前に名古屋紡績に転職。アパレル商社として、“OEM”(相手先ブランドによる委託生産を受託する生産方式)を中心に事業展開してきた名古屋紡績だが、今後は、相手先の要求する商品を自ら設計し、相手先ブランドで製造、供給する“ODM”も視野に入れたビジネスが必要ではないかと考えていた。その足がかりとして目を付けたのが、大阪の自社ビル。会社の将来的展望に沿いつつ、何かおもしろいことができないかと、アイデアを練った。

「SPINNING」ロゴ

とはいえ、東京出身で名古屋を拠点とする平野氏にとって大阪はまったく土地勘のないアウェイ。そこで活用したのが、MBA取得を目指して通っている『グロービス経営大学院』の授業だった。グロービスでは、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡、とそれぞれのキャンパスで授業が受けられるシステムを採用している。大阪校で“起業家リーダーシップ”の授業を受講し、いま考えていること、これからやろうとしていることなどを熱く語った。そのとき出逢ったのが、中之島スピニングのチーフディレクターのひとり、芝先恵介氏だ。芝先氏は、ITコンサルタントで、現在、株式会社ADVENの代表として会社経営に携わっているが、メビック扇町の“初期の卒業企業”でもある。2013年7月に自社ビルを内見し、ふたりでイメージを膨らませていった。試行錯誤するうち、アパレル関連に強いパートナーの必要性を痛感。その際、白羽の矢を立てたのが、メビック扇町コーディネーターでもある株式会社Meta-Design-Development代表の鷺本晴香氏だ。2013年10月に鷺本氏のオフィスに相談に行ったところ「おもしろそうなのでお手伝いしましょうか」とその場で参加が決まってしまった。「ごあいさつに伺ったくらいの気持ちだったのですがねぇ」と平野氏。その後、CONTRARIANT代表のファッション・デザイナー、東丸大範氏をディレクターに迎え、4人のメンタースタッフが揃い、週1回から2回のペースでミーティングを重ね、計画を具体化していった。

平野氏には、最初、ある程度のプランはあったが、「基本はおもしろいか、おもしろくないか」(芝先氏)という発想でブレストを重ねる中で、アイデアがアイデアを呼び、また、さまざまなデザイナー・クリエイターを巻き込み、徐々にいまのカタチが出来上がっていったという。人が人を呼び、芋づる式に人脈が拡がった。ビルのデザイン施行を手掛けた『3600』、また、ロゴデザインの公募や1Fスペースの利用者が閲覧したり、購入したりできる古本のディレクションを『FOLK old book store』に依頼するなど、多様な人たちの協力を得てきた。その結果、これまでにないユニークなコワーキング・スペースに、いまも進化を続けている。もちろん課題も多いが、それ以上に“わくわく”が止まらない日々なのだそうだ。

オープニング・レセプション風景
5月16日開催のオープニング・レセプションでは、260名以上が参加、大いに盛り上がった。

日常と非日常が交差する中之島で、未来をつむぐ文化を育てたい

近年、関西にもコワーキングが増えつつあるが、『中之島スピニング』の他にはない特徴は、なんといっても、その連携・業務提携先の豊富さにあるだろう。名古屋紡績を中核に、アパレル企業、行政、東京のコワーキング(beez)、KanFA(関西ファッション連合)など、若手のデザイナー・クリエイターを手厚くサポートする体制を整えている。コワーキングの利用者にとって、人脈を拡げることはもちろんだが、最終的に「仕事につなげる」ことも大きな目的のひとつ。『中之島スピニング』では、将来、自分の店舗を持つ、あるいは、海外進出を目指すデザイナー・クリエイターに対して、マーケティング、収支計画、販促アドバイス、等々、どちらかというと彼らが不得意としがちな分野を丁寧に支援している。現在募集中の会員は、アパレル関連のデザイナー・クリエイターに限定しているが、将来は、より広くものづくりに関わる人材を募集する予定だ。

『中之島スピニング』は4つのフロアーからなり、それぞれが有機的につながっている。
1階は、だれでも利用可能で、デザイナー・クリエイターが制作するオリジナル商品の委託販売スペース、およびファッション、デザイン関連を中心とした古本が読める休憩スペースがある。土佐堀川をはさんだ対岸の中之島の風景を眺めながら、ゆっくりとお茶を楽しむことができる。
2階は、会員専用のスペース。ものづくりに携わるデザイナー、クリエイター向けのコワーキングスペースだ。
3階は、一般の利用者も、展示、イベント、セミナー、ワークショップなどに活用できるスペース。
4階は、テナントスペースとなっている。

作品販売スペース
1Fエントランス、デザイナー作品販売スペース。

『中之島スピニング』のもうひとつの特徴は、イベントに対する考え方にある。代表の平野氏によると“右脳イベント”と“左脳イベント”に分けられるとのこと。

たとえば、右脳イベントは、『日本ペイントROOMBLOOM』とのコラボ企画で、りんご箱を好きな色にペイントするというものや、華道家による『草月流いけばなワークショップ』がある。そこに通底するコンセプトは、デザイナー・クリエイターの感性を可能なかぎり引き上げること。オープニング・レセプションでは、さほど大掛かりな集客はしなかったものの蓋を開けてみれば260名以上の来場者があった。感度の高い人たちの好奇心を刺激し、わくわく感をうまく醸成できた証左だろう。

左脳イベントは、それぞれのメンターが、自身の強みを活かしたプログラムを用意している。芝先氏は、「事業を夢で終わらせないのがボクの仕事。売るためのマーケティグ、事業計画、資金調達、等々、クリエイティブワーク以外に必要な考え方やスキルアップのアドバイスをします」。鷺本氏の場合はファッション・デザイナーとしてのキャリアを活かし「ブランドをいかに継続性をもって育てるか、そのために必要なクライアントとの関係づくり、仕事の進め方などをお伝えします」と、より実践的なメンタリングを心がけているという。

会員専用スペース
会員専用スペースより、『大阪市中央公会堂』を望む。

『中之島スピニング』は、“非日常”を体感するのには打って付けのロケーションだ。目の前を流れる土佐堀川周辺は、「大阪であって大阪でない」と鷺本氏が話すほど自然が色濃く残っている。カモメ、アオサギ、鵜、などが捕食のために集まってくるのだ。絶滅危惧種に指定された“天然うなぎ”も釣れるらしい。この豊かな自然をスタッフ間では、『野生の王国』と呼んでいるそうだ。そんな土佐堀川をはさんだ正面には『大阪市中央公会堂』があり、コンサート、オペラ、講演会などが開催される。また、近くには多くの優秀な人材を輩出した、あの緒方洪庵の『適塾』もあった。この地に縁を得た『中之島スピニング』も未来を牽引するデザイナー・クリエイターとともに、時代をつむぐプラットフォームになることを期待したい。

芝先恵介氏、平野泰裕氏、鷺本晴香氏、東丸大範氏
左から、芝先恵介氏、平野泰裕氏、鷺本晴香氏、東丸大範氏。

中之島スピニング

代表
平野泰裕氏

株式会社ADVEN

チーフディレクター
芝先恵介氏

http://adven.info/

株式会社Meta-Design-Development

チーフディレクター
鷺本晴香氏

http://meta-d.com/

CONTRARIANT

ディレクター
東丸大範氏

公開:2014年6月27日(金)
取材・文:赤瀬章氏(Lua Pono Communications

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。