メビック発のコラボレーション事例の紹介

ネーミングやロゴにも、つくり手の想いが伝わるメッセージを込めて。
食べごろメロン

中島公次氏、松井邦彦氏
中島公次氏、松井邦彦氏

メロンには、“人を感動させる力”がある。その魅力を多くの人に伝えたい。

種苗メーカーとして、長くメロンの育成に取り組んできた松井農園の3代目、松井邦彦氏は、昨今のメロンを取り巻く現状に苛立ちを抱えていた。作付面積は減少し、売り手は産地や外観を重視、その結果、高級なイメージが独り歩きして、消費者も離れていく。悪循環を断ち切るべく、松井氏が2010年に立ち上げたのが、「感動メロンプロジェクト」だ。本当に美味しいメロンを多くの人が、つくり、売り、食べることで、心の底からの驚きや感動を味わってもらいたい、そんな想いが込められている。
こうした活動を進めるうちに、業界内だけでなく外からの発想も取り入れたいと、一昨年末にはメビック扇町が開催する「企業によるクリエイター募集プレゼン」に参加。「メロンの良さを伝えたいという想いはあっても、具体的にどう動けばいいか分からなかった。たとえばシールひとつとっても、印刷屋さんに簡単につくってもらっているから、そのデザインには意味がない。これまでとは違う切り口でサポートしていただける人を探していました」。そこで中島公次氏と出会う。「もともと神戸そごうの宣伝部で広告をつくっていました。百貨店では食品からファッションまで全般を取り扱っていたので、何かお役に立てるのではと声をかけさせていただいたんです」。そんな中島さんのバックグラウンドに松井氏も興味を持ち、後日あらためて話をし、この人となら一緒につくりあげていけそうだと確信した。ちょうどその頃、カット販売するメロンにふさわしい品種をつくり、PBとして売り出す動きがあったため、まずはそのネーミングづくりを依頼された。「商品名をつくるにあたって、見た時に購買意欲をそそるようなメッセージものが必要だと感じていました。そこで中島さんにご相談して“食べごろメロン”というネーミングを考えてもらったんです」

ポジショニングマップで方向性や展開の仕方を提案。

コラボはPBの話も含め、現在のメロンをとりまく状況や流通形態のレクチャーを受け、理解することから始まった。中島氏は次に既存の感動メロンを含めてポジショニングマップを作成。「広告をつくったりブランディングする際にいつも考えるのは“どうすれば伝わるかということ”。生活者の目線に立って自問自答しながら進めていきます。受け手が違えば、メッセージも表現方法も変わります。ですからポジショニングマップをつくって感動メロンはホールの高級路線、PBはカットした大衆路線とそれぞれの位置づけを共有した上で、方向性や展開の仕方、PBのブランド名とマーク、全体として松井農園としてどう発展させていくかを考えて進めていきました」
基本は種の販売・生産指導まで。とはいえ感動メロンのウェブサイトでは生産種への啓蒙、それ以外にも幼稚園でも育成を見せてレクチャーするなど消費者への普及活動もおこなう。食との絡みを考えたら、まだまだいろんな展開ができるはずだという。たとえば水耕栽培でもつくれるノウハウを完璧にマスターすれば、さらに提案の幅も増える。「メロンを嫌いという人は少ないのに売れない。これは絶対どこかに突破口があるはずだと思うんですよ」。そのためには「美味しいメロンの接点を増やしていくしかない」と中島氏。最初に食べたものが美味しくなければ好きにならないし、高いものしかダメだと思われてしまう。だからプレゼンの必要性も感じる。輸入物より100円高いけれど、それにはこういう理由があるということを知らしめていかないと、購買意欲にはつながらない。

メロンのロゴシール
これまでは印刷屋まかせだったシールなどもすべて、メッセージ性を持った意味のあるデザインで統一。松井氏も満足の出来に。

生産者開拓に情報発信、まだまだ可能性に満ちているから面白い。

2013年初頭から始まったこのコラボ、1年を経た互いの感想を訊ねてみた。「ネーミングにしてもさすがだなと思いましたし、アイデアも私たちだけでは出てこないものを出していただいて、勉強になります」という松井氏に対して、中島氏は「風が吹けば桶屋が儲かる。という言葉がありますよね。あんな風に直接的ではなく、間に入っている仲買さん、農家さん、農協さんという人たちがいて、最終的にメロンがたくさん売れて、それがきっかけで生産者も増えてきて種も買っていただける、そういう流れが理想かなと」。情報発信基地としてのメロンブティックやカフェ、食と絡めた企画で新しい価値観をつくりだす、あるいは松井さん自身が、メロンのエキスパートとして魅力を提案する。まだ実行には至っていないが、中島氏の中にはさまざまなアイデアがある。最後に今後の展開について。「感動メロンプロジェクトに興味を持っていただいているのは、意外にもセミプロの農家であったり家庭菜園をされている方なんです。この方々をターゲットに市場での取り組みを増やしていけるようにしたい。最終的には、商品を自分たちでつくっていけるような仕組みづくりも手がけていきたいですね」

有限会社中島事務所

取締役
中島公次氏

https://www.omoi-tsutaeru.com/

株式会社松井農園

代表取締役
松井邦彦氏

https://www.kandoumelon.com/

公開:2014年5月26日(月)
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。