メビック発のコラボレーション事例の紹介

人と町をつなぐ、縁と想いをむすぶ。新たなコミュニケーションを生む、マチオモイ帖カレンダー。
ゆうちょマチオモイカレンダー

村上美香氏、牧野洋子氏、築山万里子氏
左から村上美香氏、牧野洋子氏、築山万里子氏

離島や過疎地にも佇む郵便局は、まさにマチオモイそのものだった。

大阪のクリエイターに端を発した「マチオモイ帖プロジェクト」が、活動11年目を迎えたメビック扇町のネットワークを通じて全国に拡がっている。プロのコピーライターやデザイナー、カメラマンなどが、故郷や今住んでいる町など、思い入れのある町を自分だけの目線で冊子や映像にする活動だ。2011年5月、初展示会で出品された作品は34点。その後各地で共感が拡がり、今では全国から約800点が寄せられ、新しい地域発見プロジェクトとして「2013年度グッドデザイン賞」も受賞した。同年、プロジェクトの強力な追い風となるコラボレーションが実現する。その相手は全国約24,000ヵ所、人口減が著しい離島や過疎地にも窓口(郵便局)を維持する『ゆうちょ銀行』だ。テーマは同行が民営化以降、毎年約50万部発行しているカレンダーの共同制作。両者が手を結んだ理由について、同行の執行役広報部長の牧野洋子さんは「町を想うというアプローチが、郵便局の姿と重なったから」と振り返る。一方、わたしのマチオモイ帖制作委員会の村上美香さんと築山万里子さんは「感覚的に、マチオモイ帖と相性が良いと感じた」という。
きっかけは2012年5月、後に盟友となる彼女たちの出会いにある。マチオモイ帖の原点となった「しげい帖」の作者である村上さんが電通の広報紙に寄せたコラムが、牧野さんの目に留まった。「当時、郵政民営化から約5年が経過して、あらためて自分たちの強みは何だろうと考えていた」と牧野さん。担当していたカレンダーが、無難なデザインに収まっていることにも頭を悩ませていた。そんな時、マチオモイという言葉の響きと、村上さんが綴った、故郷「重井町」(広島県尾道市因島)への想いに関心を持った。多くの日本人の心にも、こんな想いが眠っているに違いない。牧野さんはさっそく電通の営業担当者を介して「この人に会いたい」と連絡。村上さんは「偉い人からのラブコールに最初はびっくりした」が、実際会ってみると「郵便局もずっと町や人の支えになろうとしてきたの。マチオモイという言葉を一緒に拡げましょう。」と話す牧野さんに共感したという。
村上さんは「郵便局とマチオモイ帖ってお似合いだと思った。これが都市銀行だったら、断っていたかも」と振り返る。築山さんも「牧野さんの人柄も大きい。お会いして、きっとこの人なら同じ方向を向くことができると確信した」。マチオモイという言葉が人と人を結び、想いが重なり、全国にネットワークを持つ金融機関とクリエイター集団が直接結びつく、前代未聞のコラボレーションが歩みだした。

展示会場
今年も東京ミッドタウン・デザインハブ(2/28~3/23)、メビック扇町(3/7~29)の2会場で展示会が開催された。

人の心を揺り動かす、やさしいマチオモイ旋風は続く。

実際に制作に入ってみると、カレンダー用に12のデザインを切り取るのは思いのほか難しかった。牧野さんからの希望は「小さくとも素敵な町をとりあげ、季節感を織り込んでほしい」。そして日常的に見るものだから「明るいこと」。制作委員会のメンバーは時間を費やし、パズルを埋めるように作品を選定した。
完成した「ゆうちょマチオモイカレンダー2013」の表紙に刻まれたメインコピーは『マチオモイは、ひと想い』。牧野さんが「町を想うことは、そこにまつわる人を想うことでしょ」と表紙の言葉に決めた。配布されたカレンダーは、彼女たちの想像以上に各地で話題になった。「小さな町も紹介しているところが、ゆうちょ銀行らしい」「各月がバラエティに富んで、飽きない」。ある町の郵便局長から「町を紹介してもらったと、役所の人がお礼を言いにきた」話も届いた。
2作目となった今年のカレンダーは、さらにコンセプトを深化させ、郵便局長が登場して町の魅力を紹介したり「方言クイズ」を楽しめたりするページも加わった。「12ヵ所の町の郵便局長にアンケートを依頼したら、あっという間に返ってきた。自分の町が紹介され、喜んでくれている」と牧野さん。さっそく、一般の人から「カレンダーを見て東北から、岐阜県まで村祭りに出かけた」というエピソードも寄せられた。
築山さんは「個人的な想いをストレートに伝えるから、マチオモイ帖は人の胸を打つのだと思う。そして、自然と新たなコミュニケーションを生む」とほほえむ。そもそも地域の世話人が、村のために郵便局を作った歴史があることを村上さんは引用し「マチオモイ帖は、その町でちょっと絵が上手な人や文章を書くことが好きな人とかが、その道のプロになって自分を育てた町や人に恩返ししている。どちらも原点は同じ」と捉える。牧野さんは「地元を愛する郵便局長も登場した今年のカレンダーは、私たちのブランドブックに行き着いたと思っている。『町と人を想う』ことは、地域に寄り添う当行の存在意義に限りなく近い」と満足な表情を浮かべた。
まちおこしはできなくても、マチオモイはできる。アクションではないから「自分にもできるかもしれない」と、より多くの人の心を揺り動かす。マチオモイという不思議な言葉は、彼女たち“世話人”の想いも乗せ、きっとこれからも日本各地でやさしい旋風を巻き起こしていく。

ゆうちょマチオモイカレンダー
町や人への想いが詰まったマチオモイ帖から切り取られた12のビジュアルは、どれも心温まるデザイン。

株式会社一八八

コピーディレクター
村上美香氏

http://188.jp/188_jp_2/

株式会社ゆうちょ銀行

執行役広報部長
牧野洋子氏

https://www.jp-bank.japanpost.jp/

アサヒ精版印刷株式会社

プリンティングディレクター
築山万里子氏

https://asahiseihan.jp/

公開:2014年5月13日(火)
取材・文:土井未央氏(株式会社PRリンク

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。