メビック発のコラボレーション事例の紹介

コラボレーションは農の魅せ方を越える
ぶどう園のトータルデザイン

「なかむらオリジナルぶどう園」包装紙

農園の創業は大正時代
ぶどうのオリジナル品種を栽培

大阪市内から電車でおよそ30分。大阪府南東部に位置する大阪狭山市と河内長野市をまたぐ大野地区では、内陸性の気候と肥沃な土壌を生かし、古くから果樹栽培が盛んに行われてきた。今回のコラボレーションの舞台「なかむらオリジナルぶどう園」は、大正時代から続く老舗のぶどう園。4代にわたって100年以上、この土地でぶどうを栽培してきたという。
「曾祖父の代から、変わらずぶどうを栽培しています。昔はデラウェアを主に栽培していたのですが、より美味しく食べやすいものをと祖父が品種改良を始め、現在では当農園で交配したオリジナル品種を中心に販売しています」と語るのは、なかむらオリジナルぶどう園4代目・中村一俊さん。果物の中でもぶどうは特に品種が多く、およそ3000種以上あると言われる中、栽培する約5割がこのぶどう園のオリジナル品種。一般流通は行なわず、すべて自園直売所とウェブサイトやFAXからの受注のみで販売している。

その中村さんが2017年11月に、大阪府南河内農と緑の総合事務所とメビック扇町が合同で実施した非公開ミーティングに参加。農家とクリエイターが集い、意見を交わすというミーティングだった。
「贈答品としての受注が多い中で、商品に同封するリーフレットや包装紙、さらに名刺や店の看板などのデザインに、統一感がないことが気になっていました。しかし具体的に誰に相談すればいいのかが分からず、悩みをそのままにしていたのです。そんな折にいい機会をいただいて、メビック扇町のミーティングに参加しました」
その時に初めて、クリエイターと言われる人たちと話をしたという中村さん。ミーティングでは、熱い語り合いが展開したという。お互いに本音で語り合えたと感じた中村さんは、その後の交流会にも参加。そんな中で意気投合したのが、株式会社エーディーグラフィカ代表・細川誠明さんだ。「ピンとくるものがあった」という中村さんは、後日、デザインのあり方について細川さんに相談。今回のコラボレーションにつながった。
中村さんから連絡を受けた細川さんは、さっそく農園を訪問。農園の特長や課題、地域の現状などについて、じっくりと話を聞いた。

ぶどう園の中村さん

家族や従業員、みんなの想いを紡いで生まれたロゴデザイン

「お話をお聞きし、中村さんの農園には独自の商材があるにもかかわらず、そこに核となるデザイン計画がないことが分かりました。オリジナル品種を栽培されているということで、既に他農園との差別化ができていて、しかも商材に十分にポテンシャルがある。必要なことは、その要素をできるだけ抽出して整理し、視覚化することだと考えました。そこで、ご家族や従業員のみなさんも含めて、丁寧にヒアリングを行いました」と語る細川さん。そして生まれたのが、デザイン計画の骨格となるロゴデザイン。明るい緑のストライプを背景に、シンボルマークと農園名のロゴタイプを組み合わせた。

「ぶどう園であることが誰にでも分かるよう、マークはぶどうを象りました。上の3つの円は『甘い』『うまい』『めずらしい』という、オリジナルぶどうの3つの特長を表現し、真ん中の2つの円は農園とぶどうの無限の可能性を表しています。一番下の円では、そこから滴り落ちるエッセンスがぶどうの味に凝縮されているイメージを表現しました。さらに背景のストライプは農園の4つの特長を示しています。この農園のぶどうが老若男女すべての人に愛され、さらにこの地域のぶどうを多くの人に知ってもらいたいという願いを込めて、明るく親しみやすいイメージに仕上げました」と語る細川さん。制作過程で大切にしたのは「みんなで創り上げている」という感覚だったという。

「ぶどう園がこの土地で100年以上続いてきた歴史と、家族を中心にオリジナル品種を栽培しているという背景。そこを軸に、みなさんの想いを紡いでデザインしました。私の役割は、その過程でプロの視点からアドバイスをすること。最終的には、中村さんが意見を取りまとめてくださって完成しました。多くの人に永く愛されるロゴに育ってほしいですね」

「なかむらオリジナルぶどう園」ロゴ案
上は最初に提案したロゴ。家族や従業員の意見も取り入れながら検討し、最終的に右のデザインに決定。

一方の中村さんは、仕上がったロゴデザインに「こういう表現があるのか」と感激したと語る。
「私たちの想いや特長が詰まっていると感じました。洗練されたカフェのような、それでいて贈答品としてもふさわしい上質感も表現されていて、ぜひ販促ツールに展開してみたいと思いました」

その後、ロゴデザインを基調に、名刺、包装紙、シール、そしてリーフレットに展開。2018年6月から使い始めているという。リーフレットには、これまで以上にぶどうや農園の特長を詳しく記載し、初めて農園を知る人にも分かりやすいものにした。顧客からの評判は上々だという。

夢玄胴のデザインデータ
パンフレットには多品種のぶどうとジャムやワインなどの加工品が並ぶ。包装紙は通常用に加えて、お供えなどの弔事用も準備。

アイデンティティの再認識からトータルデザインが生まれた

今回のコラボレーションについて細川さんは、「農の魅せ方をどう超えていくか」を考えさせられる案件だったと語る。
「農業の担い手が全国的に不足していると言われる中、大阪にも、より美味しいぶどうを求めてオリジナル品種を作り、農作物の価値をさらに上げようと、がんばっている農園があることを発信したい。そこにクリエイターがどう力になれるかというと、トータルなデザイン計画によって従来の“農の魅せ方”を超えていくこと。農産物の持つポテンシャルを、それ以上に魅せるということだと感じました」

カップぶどう
直売所ではカップぶどうにもロゴシールをつけて販売。デザインの浸透を図る。

一方の中村さんは、このコラボレーションについて「イメージをはるかに超えていた」と語る。
「細川さんと話をする中で、なかむらオリジナルぶどう園が、これまでの歩みの中で育ててきた独自の信念や商材の価値を含む、私たちのアイデンティティを再認識しました。それこそがこれまでの“農園のあり方”を超えた活動であり、その中で生まれたデザインも、私たちの想像を超えた素晴らしいものでした」

今後、ウェブサイトや店舗の看板など、他のツールにも展開していきたいと語る中村さん。この地域の農園では、なかむらオリジナルぶどう園が先駆けて、販売促進にデザインを活かしているという。この先どんな新しいことを超えていくのか、期待したいと思う。

佐藤さんと吉田さん

なかむらオリジナルぶどう園

中村一俊氏

http://www.original-budou.com/

株式会社エーディーグラフィカ

アートディレクター / グラフィックデザイナー
細川誠明氏

http://ad-graphica.com/

公開:2019年6月11日(火)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。