メビック発のコラボレーション事例の紹介

和紙に新たな命を吹き込む『kon-gara』その美を世界へ発信
kon-gara

「kon-gara」メンバー
河手宏之氏(左上)、中野クニヒコ氏(右上)牧野博泰氏(左下)、鈴木美奈子氏(右下)

和紙の奥深さに魅せられ純粋な表現から始まった

和紙というマテリアルが、美しく繊細なデザインのもと、切り抜かれ、また立体と組み合わされ、新しい表情をともなった「坤柄紙(こんがらし)」という名のアートに姿を変える。そこに新たな命を吹き込むのは、ジャンルの異なるクリエイターによる「kon-gara」というユニット。

彼らの出会いは5年前にさかのぼる。2008年、メビック扇町の運営協力団体の関西ブランディング協会による『扇町マテリアル会議』では、デザインの力で素材の新たな魅力を発見すべく、デザイナーとものづくりを仕事とする人たちが集い、勉強会やワークショップなどの活動をしていた。そこに老舗和紙問屋の河手宏之さんが参加。「違うジャンルで活躍するデザイナーやクリエイターの方とコラボできたら、と軽い感じで提案を投げかけてみたんです」。ここで紙器用の抜型製作会社でパッケージの設計を担当する鈴木美奈子さんとグラフィックデザイナーの牧野博泰さんと出会う。つくり手たる2人は和紙の素材としての面白さに魅了され、牧野さんがデザインし、鈴木さんがそれを和紙に落とし込む体制が整った。

はじめての協働の場は、2009年11月メビック扇町で開催された『この街のクリエイター博覧会』。何万種もの和紙を風合いや表情から「水・木・土・風・心」の5つにカテゴライズし、ピクトグラムとして表現した。今や2メートル超の和紙にも細密かつ大胆なカッティングを施す鈴木さんも、この時までは段ボールや化粧箱用といった強度のある厚い紙しか扱った経験がなく、直径わずか30センチに満たない図案でもかなり緊張したという。

作例
45度折り曲げて立体感を醸し出す。最終仕上げは全て手作業だ。

その後、ギフト・ショーへの出品を経て、「kon-gara」に転機が訪れる。2010年6月、平和紙業・ペーパーボイス大阪での展示に際して、牧野さんは「和」のマテリアルに、あえて対極にある「洋」のテーマをぶつけてみようと考えたのだ。以前から親交のある中野クニヒコさんによる、ジャズ奏者の立体造形をシルエットに使ったタペストリー。そこには中野さんのアイデアで音符やジャズの歌詞が刻まれ、和紙の持つ優雅さとジャズの自由な空気が融合した新しい表現が生まれた。「中野さんは立体をずっとやっておられるので、僕らにはない発想や切り口があってとても新鮮。これが成功したことによって、表現の可能性が見えてきて、もっと追求してみたくなったんです」

中野さんも加わった4名での本格始動に向け、「kon-gara」というユニット名も決まった。坤柄(こんがら)とは10の112乗という膨大な数の単位。まっさらな和紙に手を加えることで、いろんな表情をつくりたい、という意味が込められている。

その後も順調に活動を展開、昨年だけでも、老舗料亭のサロンの空間演出、伊勢外宮の近くにあるモダンな洋館での作品展、東京でも松屋銀座で和の座ステージの演出、大手町の「メトロ・アート」への出展と、毎月のように新作を発表。そして一昨年のフィンランドを皮切りに、マイアミ、韓国、フランスなど海外のアートフェアへの出品も続いている。特にフランスはルーブル美術館での展示となった。これは海外でも高い評価を得ている中野さんのネットワークによるもの。

当初、光の陰影による表現はあっても、平面の域は超えられないだろうと牧野さんは考えていた。「それが最近の作品では紙が二重になったり、モチーフの半分だけ形を切って45度に傾けることで立体感も出せるようになりました。さらに立体的にしたり、液剤を塗ったり、フレグランスを吸い込ませたら、といったことも話しているので、そういう意味では、ようやく入り口にたどり着いたという感じです」

2月、江之子島文化芸術創造センターで開催された「TRANSNATIONAL ART 2013」に作品を出展。

表現とビジネスを両立させる、理想的なコラボのカタチ

クリエイター同士のコラボにもさまざまな形がある。どちらかというと一過性のものも多い中、「kon-gara」はスタートから5年近くも継続して活動している。その秘訣を中野さんは「4人とも本業が充実しており、ポジティブに制作に向き合えるのが長続きの要因かも」と分析。

自然に派生し、互いに刺激しあい、アートとして発信しながら、そこで得たものが各々の仕事にもフィードバックされる。絶妙なバランスを保っているケースといえよう。鈴木さんの言葉がそれを象徴している。「お客様から提案して欲しいといわれるものが、本来の箱から雑貨へと、これまでと違うものになってきていて。それは今私がつくっているものと関係しているのかもしれません」

4人全員が「ビジネスありきのコラボではない」と口を揃えるが、アートフェアなどは持ち出しであったり、大変な面もある。現状は展示している作品を気に入った方から、オーダーメイドで受注するなど、ゆるやかにビジネスにつながっている状態だという。

将来的なビジョンについて尋ねると、牧野さんから「国内と国外の意識分け」という言葉が出てきた。「国内はビジネス志向で、小さな実用品からインスタレーションでも商品化できればビジネスになる。逆に海外に関してはアーティスティックな部分を残しておきたい。海外でも売れるに越したことはないのですが、アートという切り口からのほうが入りやすいでしょ」

海外ではアートとして発表したものを、システマティックに改良し、商品として国内で売ることが可能になれば、商業空間や公共空間を飾る壮大な和紙造形だけでなく、暮らしの中で生きる独創的なインテリアとしての新たな展開も見えてくる。昨年参加した「アートストリーム2012」では企業・スポンサー賞を受賞し、すでに企業の空間演出とともに小物類も一緒につくる計画があるという。

料亭
料亭のサロンを演出。

また最近では作品の下の木の部分を家具職人に制作依頼したり、作家による組み紐を取り入れたりという新しい試みもなされている。中核はあくまでこの4人で、足りない部分を“with kon-gara”という形で補っていく。これによって表現の幅が広がるだけでなく、商品化への距離もぐっと縮まる。「たとえばタペストリーは2メートルを超えるものもあり、気に入っていただいても、実際に購入となると大きすぎるし、扱いも難しい。衝立や屏風にしようとしても、フレームをつくれるメンバーがいなかったのですが、これを制作できる人とつながることで、ニーズに応えることができますから」(牧野さん)

今後については、常日頃から挑戦したいことや興味のあることを語りあっているので、これをひとつずつ実現していきたいという。さらに「国内の賞は昨年いただいたので、今度は海外の賞を獲りたいですね」と中野さん。「4人のそれぞれの持ち味が活かせて、さらに海外で活動できるようになればいいなと思います」

奈良県明日香村・万葉博物館
奈良県明日香村・万葉博物館「飛鳥光の回廊」展に出展された行灯。

和紙商小野商店

和紙演出士
河手宏之氏

http://www.onopapers.com/

イラストレーター
中野クニヒコ氏

株式会社中野木型製作所

包装士
鈴木美奈子氏

http://www.e-nakanokigata.cc/

ヴィジュアル計画マーレ

招福図案家
牧野博泰氏

http://www.visual-mare.com/

公開:2013年7月18日(木)
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。