OLから一念発起、空間デザイナーへと転身。「思い込んだら一直線!」の底力と推進力。
クリエイティブサロン Vol.272 竹ノ内美代子氏

272回目のクリエイティブサロンに登壇したのは、インテリアデザイン事務所「Studio Andante」代表・空間デザイナーの竹ノ内美代子さん。法人施設や個人店舗のインテリアデザイン、インテリアコーディネートから、個人住宅のリフォームプランニングまで、さまざまな内装設計を手掛けている。しかし意外にも社会人としての出発点は百貨店。生活雑貨専門店の家具売場に配属され、OLとして働いた。そこからどのようなキャリアを経て建築の世界へたどり着いたのか、これまでの人生を語っていただいた。

竹ノ内美代子氏

姉の美術館巡りに同行して感性を磨いた小学生時代

三姉妹の末っ子として育った竹ノ内さん。幼い頃からの性格を一言でいうと“上昇志向”。こうと思い込んだら一直線だ。「自分で決めたようにするためには、こうして、こうしないといけないんじゃないか、といつも組み立てて克服しようとしていた」。一方で、今の仕事につながる感性も磨かれていった。母と婦人雑誌を読んでいる時、竹ノ内さんにページを捲らせては、そこに掲載されている洋服や小物を選ばせ、「このページの中だと、どれが好き?」という遊びを延々と続けていたという。その中で、竹ノ内さんは自分の“好き”を育んでいく。

小学生の頃には、年の離れた姉に「おやつを食べさせてあげるから、お出かけしよう」と誘われ、月に2、3回は姉とともに美術館へ足を運んだ。「美術展に行って、好きな絵ハガキを買ったり、という習慣がありました」

こうして、今につながる竹ノ内さんの感性は、幼少期から自然と育まれていく。

旅行の添乗員の夢を叶えるはずが……思いもよらないきっかけで家具の道へ

中・高校は、私立の女子一貫校に進学。とくに高校時代は、美術館巡りと英語の勉強に勤しんだ。竹ノ内さんの英語の勉強方法は、大ファンだったザ・スミスというイギリスのロックバンドの楽曲も繰り返し聴くこと。授業中もこっそりイヤホンで曲を聴き、歌詞を暗記しては分からない単語を英英辞書で調べるという工程を何度も繰り返し、分からない単語を潰していく。英会話教室にも通い、自宅ではNHKのラジオ英会話を聴きながらシャドーイングを繰り返す。やると決めたらとことん集中力を発揮する。高校卒業の頃には「ザ・スミスのジャケットに載っている、マンチェスターへ行ってみたい」とアルバイトを3つ掛け持ちしてお金を貯め、2週間のイギリスでのホームステイを実現させた。

高校卒業後は、旅行の添乗員を志して専門学校へ進学。しかし思いもよらない事態が。竹ノ内さんは、ひどく乗り物酔いする体質だったのだ。「乗り物酔いが酷い子どもだったんですけど、大人になってそのことをすっかり忘れてしまっていて……(笑)」

自分の将来をシフトチェンジした竹ノ内さん。「アートが好きだし……」と画廊の面接試験を受けたところ、「百貨店の画廊はどう?」と助言してくれた人がおり、それをきっかけに在阪百貨店すべてを就活で回り、カラーが合いそうな西武百貨店へ就職を決める。

作例
独立後に手掛けた仏壇・仏具店のショールーム。

「もっと専門性を身につけたい」働きながら夜間の建築専門学校へ

西武百貨店に就職し、当時、セゾングループだった梅田ロフトに配属。家具売り場の担当となった。その頃、値札はまだ手書き。竹ノ内さんも商品カタログを見ながら家具の幅や高さ、奥行きや、使われている素材を何百枚と書いていたそう。「そうした過程を通して、椅子や収納など、品物の大体のサイズや家具の細かいことを覚えるようになりました。今思えばよかったなと思いますね」

しかし働いていくうちに、次第に「この先どうなるのだろう」と漠然とした不安を覚えるようになる。「優秀な先輩の仕事ぶりを見て、このままでは私はこの会社で取り残されていく。なんとかしないといけない、と思うようになりました」。まっしぐらの性格がここでも発揮される。「専門性を身につけたほうがいい」と思い立った竹ノ内さんは、働きながら建築系の専門学校へ通い、二級建築士の資格を取得。念願だった百貨店の内装工事を行う部署へ異動が叶う。

しかし新人ということもあり、しばらくはカタログを目次から片っ端から読み込む日々。建材、照明、内装、サンプル帳、何から何まで徹底的に頭の中に叩き込んだ。「思い込みが激しいというか、よくわからないところに集中力が発揮されるんです(笑)」。そんな中、次第に先輩に声をかけられるようになり、現場に呼ばれるように。行政機関やホテルからチェーン店、福祉施設などあらゆる案件の内装を覚え、設計できるようになっていった。

アトリエ系設計事務所に地元の工務店……あらゆる現場でスキルを積んで独立へ

次に竹ノ内さんが働いたのは、アトリエ系の設計事務所。同じ建築系とはいえ、これまでとはまったく違う世界に飛び込んでそのギャップに苦労したことはあったが、新しい魅力に気づいたことも。少人数の事務所だったため、竹ノ内さんもお茶汲みなどを手伝う中で、食器への愛着が湧くように。「それまでは食器棚に茶器を綺麗に飾る気持ちが1ミリも分からなかったんですが、『あ、こういう気分なんだ』と非常に実感できました」。また、現場で設計補助をする中で、木造・鉄骨・鉄筋を実施設計するという経験も積ませてもらった。

アトリエ系設計事務所を離れたあとは、地場の工務店のインテリアコーディネーターとして働くことに。ここでは現場監督や、無垢材といった資材の仕入れ先など、あとにつながるネットワークが得られたという。

百貨店、アトリエ系設計事務所、そして地元の工務店と、さまざまな現場で着実にキャリアを積んだ竹ノ内さんは、ついに独立を決意する。

店内
大阪産業創造館で開催された展示会への出展がきっかけでリニューアルを手掛けた「韓国料理 紅紅(benibeni)南森町店」。

独立して今年で15年目。今でも新たな変化を求め続ける。

百貨店時代は効率優先だったため、デザインは外注で、竹ノ内さん自身はディレクションという立場だったという。しかし、「もともとは建築や設計がしたくて勉強してきたはず」とストレスが溜まることもあったと話す。「なので、今は自分の時間をかけてデザインができるようになったことに対しては非常に喜びがあります」。しかし、それに見合うためのマネタイズを考えるのも経営者の役割。「ようやくこの年になって気がついて、今は経営といったこともしっかり考えて取り込まないといけないなと思っています」

今年で開業15年目になるが、変化を求めることも忘れない。昨年3月に大阪産業創造館で開催された「空間演出デザインフェスタ2022」でブースを出展。「韓国料理 紅紅(benibeni)南森町店」のオーナーの目に止まり、竹ノ内さんが店舗のリニューアルをすべて手がけることになった

「展示会は、自分自身の表現。自分のことを人様に伝えるという機会はそんなにないんですが、展示会に出すことによって、見せ方に自分の好みが出る。そこに引き寄せられてくれる方がいらっしゃるんだな、というのは展示会ですごく感じて、新たな発見でしたね」

また、知り合いに紹介されて奉仕団体に所属し、ボランティア活動に積極的に参加していることも大きな変化のひとつ。「そこに所属する経営者の方とお話することで、経営者の考え方など知ることができたのは大きな収穫でした」

イベント風景

イベント概要

—上昇志向、こじらせました— OLミヨコ、空間デザイナーになるの巻
クリエイティブサロン Vol.272 竹ノ内美代子氏

新卒で就職した会社で販売員として家具売場に配属されたことがきっかけで、勤務の傍ら夜間の建築系専門学校に通学を決意。その後、社内異動と2度の転職を経て夢の独立。しかし現実は山あり谷あり、苦労の連続、そして迫りくる中年の危機!? 一方、私生活ではボランティア活動に参加し、たくさんの学びを得ています。クリエイター / 主婦 / 女性のリアルな日常を、これまでの反省とこれからの目標を交え、今年開業15年の節目でざっくばらんに楽しくお話しします。

開催日:

竹ノ内美代子氏(たけのうち みよこ)

スタジオアンダンテ|竹ノ内美代子インテリアデザイン事務所
空間デザイナー

大阪市生まれ、大阪府在住。学生時代は20以上のアルバイトを経験。株式会社西武百貨店梅田ロフト店在職中に当時の時短制度を利用し、修成建設専門学校(夜間)に通学。法人外商部に異動後、ホテルや冠婚葬祭場など大型施設の内装設計業務に携わる。退職後はアトリエ系設計事務所、工務店を経て独立。主に店舗の空間デザインや家具デザイン、展示会デザインを中心に活動中。得意分野は「○○すぎる」案件。趣味は海外ドラマ観賞と家庭菜園。

http://www.studio-andante.com/

竹ノ内美代子氏

公開:
取材・文:中野純子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。