メビック発のコラボレーション事例の紹介

クリエイターたちの熱が導いた「中華の新しい地平」
可愛い、美味しい新中華の店舗を提案

店舗入口
京町家風の格子からのぞくのは、鞠や和菓子の飴のようにくるり丸まったエビ。中華=赤や金の派手さはなく愛らしくポップな外観。

既成概念にとらわれない新中華にふさわしいビジュアルを

たんなるクライアント×クリエイターの受注では終わらない化学変化。クリエイターの発想を信頼し自由に委ねることでとてつもないエネルギーが生まれ、それがクライアントを刺激する。「糀・幸福飯店」はそんな熱量に包まれた運動体から生まれた。「幸福飯店(ハッピーハンテン)」は株式会社ハッピーフードシステムが展開する中華料理チェーン。創業20年の歴史があり、素材や品質に自信を持ちながら知名度の低さが、ゼネラルマネージャー佐藤史仁さんの悩みだった。「広報とPRを強化したいと考え、メビックに相談しました」

クリエイター募集プレゼンでは、一緒にリブランディングをしてほしいと話した。こちらに参加したコピーライターの河本樹美さんは、広告サポートからカフェ、通信会社、食品販売店の広告・販促などをおこなってきた豊富な経験の持ち主。「今年は飲食方面の仕事を本格的にやりたいと思っていたので興味を持って。またイチから新しいものを手がけられる期待もありました」。印象に残っているのは、ブランドイメージは変えたいが、人気がですぎて現在の丁寧なものづくり体制が崩れると困る、という佐藤さんの真面目さ。同じく参加したマウントグラフィックスの溝手真一郎さんと高木知佳さんも「着実なアプローチを望んでいる感じがしました」と振り返る。

じつはプレゼン直前に京都ポルタから新店舗の打診があった。新しい幸福飯店を打ち出すには、数多ある中華料理店に埋もれない新しい切り口が必要だと感じていた。「京都で成功するにはストーリーが必要です。そこで日本の糀文化と中華料理の融合を思い立ちました」。佐藤さんと面談した河本さんは、そこで新店舗の話を聞かされる。しかもオープンは8月26日。ついては新店舗に向けての競合コンペへ参加してほしいという。ストーリーやキャッチコピーは自分が考えるとして、デザインはどうしようかと考えた時に浮かんだのは、マウントグラフィックス。プレゼン時に出会い、互いの作品を見せ合った。印刷媒体を中心に良いデザインをしている印象を受け、今後一緒にできたらという話をしていたところだ。そこで面談後すぐに溝手さんに連絡、「一緒にやりましょう」と快諾を得た。

イラスト化されたメニュー
イラスト化されたメニューはエビチリ・点心・麻婆豆腐・炒飯&唐揚げ、坦々麺。強火ではぜられる炒飯は花火で料理をイメージ。

料理をイラストで表現
それが「新中華」の突破口に

河本さんがコンセプトを考え、ビジュアルをマウントグラフィックスが担当した3案のうち、2つは写真を使用してシズル感を出しつつ手描き文字で、和や女性的なニュアンスをあしらったもの。もう一点は料理イラストを使った変化球を提出。「京都には可愛い和小物がありますよね。佐藤さんが求めているのはそういう方向かなと思って」(河本さん)

そこからメインビジュアルは料理の写真ではなく、若い女性が好む愛らしい京土産を想起させるイラストで、いずれはグッズ展開もと話は膨らんでいった。結果から言えば、佐藤さんはこの案に強く反応する。じつは佐藤さん、現職に就く以前はながらく店舗関係のデザインや設計を手がけており、既存の「幸福飯店」も設計した人。「辞めたとはいえ脳みそはクリエイター。ふつうに飲食の管理職だけをやっている人間なら、料理をイラストで表現することは恐ろしくて選べないと思う。しかし写真だとどれも似て見えるし、イメージが膨らまないでしょ」

イラストを使用したメニュー

数多ある中華に埋もれることなく、感性で食べに来てくれる人、「糀中華」にひきつけられる人に来てもらうにはこの表現しかない。社内にも「これまでの中華を越えたい」との考えは浸透しており、満場一致で決定。同時に「これを良いと思う人たちとなら、久しぶりにクリエイターとして遊べる」という高揚感にも包まれていた。その想いはメンバーにも伝播する。「デザインに関してダメ出しは、ほぼなくて。イラストを提案したら通って、それをまた好きに展開させてもらえてとにかく楽しかったです」(高木さん)

「目茶苦茶忙しく、目茶苦茶楽しかった日々でしたね(笑)。佐藤さん自身がクリエイターなので、やりとりのなかで相手の真意や本質を汲み取っていくのも快感でした」と溝手さんが言えば、「ぼくが抽象的なことを書き連ねたLINEを見て、ずばりのものを出してくれるので毎回驚いてたんですよ」と佐藤さん。「最初描いたエビチリのイメージでつくればいいかなと思っていたのですが、それだと佐藤さんの想定を超えられない。とにかく時間がないなか、いいものをつくろうと粘りに粘りました」(溝手さん)

「幸福飯店」ロゴ
新店舗のロゴは和風と中華をミックスした文字に。中国で縁起が良いとされるコウモリも踏襲。

クリエイティブ魂に火を灯し
チームで最高の結果を引き寄せる

Webマーケティングを手がけるアド・リングの田中十升さんも先のプレゼンに参加し、同時進行でWeb広告を制作していた。最初はECサイトの改善提案をしていくなかで信頼を得て、京都店のYouTube広告を制作する。真面目で朴訥な印象、なのにGoogle広告の資格を4つも持っている。これは仕事に没頭するタイプだと佐藤さんは見抜いた。「当社はひとことで言えば真面目な会社。大きな花火を打ち上げてしぼんでいくより、じわじわ浸透してほしい。その道程を伴走してもらうにはピッタリの人材」。つくられた動画はサービスや商品の魅力が簡潔に伝えられている。

YouTube広告はスキップできるが、この広告は30秒以上視聴44%、最後まで観た人は35%という驚異的な数字を上げ集客に貢献。

いっぽう森山まゆこさんは、河本さんの紹介で参加。「10年以上、仕事のつきあいがあり、撮影に信頼を置いているカメラマン」。偶然だが森山さんも料理関係の仕事をつきつめたいと考えていた頃だった。季節はめぐりすでに7月半ば、撮影にかけられる時間は限られている。「100カットを超えるメニューを1日半、調理場にこもって撮りました。助かったのは撮影に理解のある佐藤さんの存在です」。大学時代に撮影助手をやっていたため、森山さんが何を求めているかを察知してサポートしてくれたという。

3種類のメニュー
単品から豊富に用意されたセットまで、のべ100カット以上も撮影されたメニュー。

店舗設計は外部に委託するも、外観だけが館内ルールなどがあり手がけるのが遅れた。それならと考えたのがプリントしたクロスを貼るというアイデアで、溝手さんたちは壁紙と暖簾も制作。町家格子からカラフルなイラストがのぞく、京都らしさとポップさが同居した外観に。斬新な驚きのあるイラストが、ポスターだけでなく店舗のアートディレクションにまで広がった。

みんなが同じ方を向いて駆け抜けた怒涛の4ヶ月。それぞれが立脚している立場の違いはあれど、めざしたのは同じ山の頂。「無事オープンを迎え、初月から営業利益を上げて売上も順調です」。外国人客も多く訪れるという。佐藤さんが取材中、しばしば口にした言葉がある。「~でないと面白くない」。そんなクリエイター脳を持つプロデューサーが触媒となって、個性豊かなクリエイターを融合。おのおのが高いパフォーマンスを発揮したことで、中華料理の新境地が今、拓かれた。

集合写真
左より、高木知佳氏、溝手真一郎氏、河本樹美氏、佐藤史仁氏、森山まゆこ氏、田中十升氏

株式会社ハッピーフードシステム(糀・幸福飯店)

執行部 執行役員 ゼネラルマネージャー
佐藤史仁氏

https://happyhanten.myshopify.com/
https://happyfoodsystem.jp/shop/hh-kyoto/

オフィスカワモト

コピーライター
河本樹美氏

https://copywriter-office.com/

マウントグラフィックス

グラフィックデザイナー
溝手真一郎氏

グラフィックデザイナー
高木知佳氏

https://www.mebic.com/cluster/mt-graphic.html

アド・リング

Webマーケッター
田中十升氏

https://peraichi.com/landing_pages/view/ad-ring

kamerad(カメラート)

フォトグラファー
森山まゆこ氏

https://www.kamerad.jp/

公開:2023年5月29日(月)
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。