たった1つのアクションが、自己実現の無限ループへつながる
クリエイティブサロン Vol.277 及部一堯氏

仕事を通じて夢をかなえたり、「なりたい自分」へと成長したりする「自己実現」。会社に所属しながら社外にも活躍の場を広げる「複業」。これら2つは、働き方改革やライフスタイルの多様化という現代において、多くの人が関心を寄せるトピックだ。今回のクリエイティブサロンに登壇した及部一堯氏は、「本業×複業」で社会貢献し、自己実現を成し遂げている。自身の足取りを紹介しながら、社内外で活躍できる人材になるためのポイントを語った。

及部一堯氏

プライベートの活動を仕事に活かせば、楽しさは桁違い

NTT西日本の社員として自身が新規事業の創出に取り組んできたほか、近年は社内外の起業家・イノベーターを支援している及部氏。社外では「総合エンターテイナー」として、介護施設や地域のイベントなどで活動している。また、新規事業創出の支援やイントレプレナーの育成などに取り組む5法人で代表・顧問などを務めている。会社の外に活躍の場や収入源を持つ、複業人材でもあるのだ。

多彩な顔を持つ及部氏を特徴づけるのは、プライベートの活動が本業であるNTT西日本のビジネスにつながっていることだ。その際たる例であり、及部氏ならではの「本業×複業で自己実現」の発端となったのが、シンガーソングライターから介護レクリエーションビジネスという流れだ。

及部氏がシンガーソングライターをめざしたのは、人気デュオ「ゆず」のライブを見たことがきっかけ。彼らの姿に感銘を受け、「自分もシンガーソングライターになって世界中の人に元気と夢を与えられる人になろう」と決めた。そして、地域のイベント、介護施設などに訪問するようになり、会社に兼業届を出すレベルにまで達した。

「歌だけでは入居者の方には喜んでもらえなかったので、目で見て直感的に楽しめるマジックやジャグリングも取り入れるようにしました。目でも耳でも楽しませることができる総合エンターテイナーの誕生です」

パフォーマンス中の及部一堯氏

「ちょうどその頃、『レクリエーション介護士』という資格制度がスタートしました。私も取得したのですが、その知識によって、介護施設に訪問する際に、介護施設が抱えている課題が見えてきました」

介護施設では、レクリエーションの時間が設けられている。しかし、施設の職員は日々の介護業務に追われており、レクリエーションの企画や運営が負担になっていることも少なくない。レクリエーションに関する専門知識を備えている人が少ないため、「ネタ切れ」を起こしてしまい、利用者に飽きられるという悩みもあった。

「実は、『レクリエーション介護士』を運営するスタートアップが介護施設向けに、塗り絵などのレクリエーションコンテンツを提供するサービス『介護レク広場』も行っていました。そこで、レクリエーションのノウハウと、準備をしなくてもレクリエーションができるコンテンツを配信するサービスを一緒に検討することになりました」

及部氏の発案は社内でも評価され、「介護レク広場 for 光BOX+」というサービスが誕生した。複業で得た気づきや現場のリアルな課題と、本業が持つ課題やリソースが掛け合わさったのだ。

社内外で活躍できる人材になるための3つのステップ

及部氏は社内外で活躍できる人材になるためには、社内・社外ともに周囲から信頼されることが大切だと言う。そのための3つのステップが紹介された。

最初のステップは、「自分が変わる」ことだ。そして自分を変えるためには、行動を変えることが出発点になる。

「新しい場所に行き、新しい人と話すのです。そうすると新しい人脈ができ、やりたいことが見つかる可能性が高まります。それはモチベーションの向上へつながります。高いモチベーションを持って行動し続けると知識やスキルが増え、自分が変わります」

2つ目のステップは「世間から見える自分が変わる」ことだ。豊富な知識とスキルを備えた新しい自分になると、周囲から相談されることが増える。相談に対して満足度の高い回答を返すと、次の相談がやってくる。それを繰り返すことで新たな人脈やスキル、知識が増えていき、世間から見える自分がアップグレートされていくのだ。

3つ目のステップは、「社内から見える自分が変わる」ことだ。世間から見える自分が変わっていくことにともなって、社内から見える自分も変わる。すると新規事業や社内改革への参画など、挑戦できる機会が増える。「あいつを試してみよう」と言ってもらえるようになるのだ。ここでもまた満足度の高い結果を残すことで、次の挑戦機会がやってくる。この過程で自分自身はスキルアップでき、「社内から見える自分」はアップグレードされていく。

及部氏がプロデューサーを務めるNTT西日本のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE」。

社内外で自己実現をするための3つのポイント

及部氏からは社内外で自己実現をするためのポイントも3つ紹介された。

1つ目は、目的・目標を大きく持つことだ。そうすることで、達成するための手段の幅が広がり、自分に合った成功の可能性を発掘することができると言う。

「ゆずのライブに感銘を受けた私は、『世界中の人に元気を与える人になる』という目標を掲げました。そのための手段としてまずはミュージシャンになり、後にマジックもジャグリングもできるようになりました。さらに後には経営者にもなりました。手段は様々ですが、どれも共通した目標に向かっているのです。これが仮に『メジャーデビューする』という目標を掲げていたとしたら、ミュージシャンになるという手段しかなかったはずです」

2つ目は、どんな行動でも気づきを得て挑戦することで、できることを増やすことだ。できることとは、自分自身の肩書と言ってもいい。ゆずのライブで感銘を受けたときの例で言えば、「音楽の可能性」という気づきを得て、ギターや作詞作曲に挑戦をした。その結果、シンガーソングライターという肩書を手に入れた。介護施設で演奏をしたものの反応がいまいちだったときは、「目で見て楽しめるコンテンツが必要だ」という気づきを得て、マジックやジャグリングに取り組んだ。そして総合エンターテイナーやレクリエーション介護士という肩書を得た。これらの肩書は、未来の自分の選択肢を増やすことになる。

3つ目は、企業・社会が求めること、自分のありたい状態、できること・肩書という3つをそろえることだ。「自分はこうなりたい・こうありたい」と願っていて、それを可能にする力が自分に備わっていたとしても、企業も社会もそれを求めていないのであれば実現することは難しい。

「介護施設で総合エンターテイナーやレクレーション介護士として活動する過程で、私には『健康寿命の延伸に貢献したい』『介護施設職員の負担低減に貢献したい』という自分のありたい状態が形成されていきました。それが、医療費の抑制や介護人材の不足という社会課題の解決を求める社会のニーズとマッチしたことで、新事業が誕生しました」

笑顔は笑顔を呼ぶ。喜びと感謝のループは止まらない

最後に及部氏は、数々の実績を残して自己実現をしてきた今でも精力的に活動する理由を語ってくれた。

1つ目の理由は、「点を作る楽しさ」だ。点とは、今までとは違った活動をしたり、新しい知識・スキルを得ることだ。点が増えることで自己成長や新たな仲間と出会う可能性が高まっていく。

2つめの理由として及部氏は、「点が線になる楽しさ」を挙げた。

「ギターを弾くことと歌を歌うことは、それぞれが点です。両方ができれば、シンガーソングライターと名乗ることができます。これが線です。そこにマジックとジャグリングという点をつなぎ合わせていけば、総合エンターテイナーという線ができます。さらに営業や事業開発、経理などビジネス分野の点をつないだ新規事業創出という線を総合エンターテイナーという線とつなぎ合わせたら、介護レクリエーションビジネスという太い太い線ができたのです」

当日のスライドショーより

3つ目の理由が、喜び・感謝のループだ。マジックを覚えた頃、たった1つしかないネタを披露すると大喝采を浴びたと言う。そして、みんなが笑顔で「もっと見せて」と言ってきた。そこで及部氏は新たなネタをマスターすべく練習に励んだ。結果、再び大喝采。そして笑顔と「もっと見せて」の言葉をもらった。

「喜んでもらえたり感謝してもらえるから、頑張れるんです。頑張ればさらに喜んでもらえるし感謝してもらえます。笑顔は笑顔を生みます。このループにはまると、止まらなくなります。もちろんやるべきことが増えて大変ではあります。でも、喜びと感謝のループは、今までの自分の限界を超えさせてくれる力があります。このループは、『行動を変える』というたった1つのアクションから始まります。小さな一歩の積み重ねが自己実現につながります。ぜひ皆さんも最初の一歩を踏み出してください」

イベント風景

イベント概要

本業×複業で社会の発展に貢献! 何もできなかった人から自己実現できる人になるために
クリエイティブサロン Vol.277 及部一堯氏

2007年にNTT西日本入社後、バスケの実業団の選手となり、仕事よりもバスケの方にモチベーションが傾く。しかし、2007年の冬、足の怪我をきっかけに人生が一転。シンガーソングライター、マジシャン、パフォーマーを含めた総合エンターテイナー、NPO・NGO、日本伝統芸能活動、国際支援活動などを行った結果、経済発展に必要な新規事業の創出・共創に興味を持ち、NTT西日本及びプライベートで社会のために役に立つことを次々と実現(自己実現)。なぜ「何もできない自分」から、本業でもプライベートでも「自己実現ができる自分」になったのか、モチベーションやノウハウ、今後の展望などをみなさまにお伝えします。

開催日:

及部一堯氏(およべ かずたか)

NTT西日本 イノベーション戦略室 シニアマネージャー
オープンイノベーションプロデューサー

2007年NTT西日本入社。2012年より新規事業の部署にて、戦略立案・商品/サービス開発を行う。2017年にNTT西日本内の誰でも新規事業に挑戦できる”HEROES PROJECT”を立ち上げる。現在は、6法人の代表・顧問などを行い、社外の知識・経験・人脈をいかしながら、2022年3月に立ち上げたNTT西日本のオープンイノベーション施設“QUINTBRIDGE”にて、法人会員1,000組織、個人会員15,000人などの共創エコシステムの構築に貢献する。
株式会社パラレルパートナーズ 代表取締役
一般社団法人パラレルプレナージャパン 共同代表理事
大阪大学フォーサイト株式会社 エバンジェリスト

https://www.quintbridge.jp/

及部一堯氏

公開:
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。