自分らしく生きるための挑戦が、世界を大きく広げていく
クリエイティブサロン Vol.260 今福彩夏氏

「とりあえずやってみよう!」と思い立ち、知識も経験も“アテ”もなかった今福彩夏氏が、ゼロの状態から映像クリエイターへの道を歩み始めたのは若干22歳のこと。30歳を目前にした現在、ドキュメンタリーやプロモーションなど、幅広いジャンルの映像制作を手掛ける株式会社ai moveの代表として、日本のみならず世界に飛び出して活躍している。ただひたすらに挑戦し続けてきた約8年間の歩みと、これから始まる新たなる挑戦、そして、映像制作を通して見出した自らの生き方や人や社会への想いについて語ってくれた。

今福彩夏氏

人の心を動かす、愛ある映像をつくるクリエイターとして

北九州に生まれ育ち、現在、大阪市北区にあるコワーキングスペース「ラフアウト中津」に拠点を構え、関西を中心に活動している今福氏。社名の「ai move」は個人事業主時代から使い続けている屋号であり、「ai(アイ)」=「愛」「目」、「move(ムーブ)」=「感動」という言葉の組み合わせで、“人の心を動かす仕事を届けたい”“映像制作を通じて「感動」を生み出したい”という想いを込めているという。

株式会社といってもメンバーは今福氏ひとり。「仕事のほとんどはBtoB」だという事業の内容は、会社案内や事業紹介、商品PR、イベント撮影、採用コンテンツ、教育用動画、地方のプロモーションなど多岐にわたる映像制作から、アイドルの個人YouTubeチャンネルの撮影・編集・運営、Webサイトの写真撮影や会社紹介パンフレットの制作など実に幅広い。それらさまざまな要望に、フリーランスのクリエイター仲間と連携しながら応えている。

今福氏がつくる映像は、人の肉声や現場のざわめきの音が巧みに生かされており、人の温度や気持ちの動き、現場の空気感が感じられる温かさが特徴だ。たとえば、自身が住まう生駒市のプロモーション映像では、インタビューやドローンを駆使し、街のさまざまな表情をとらえながら、そこに暮らす人々にフォーカスする。花火会社の企業プロモーション映像では、夜空に打ち上げられる大迫力の花火とともに、一つひとつ丹精込めてつくりあげていく職人たちの息遣いや熱気が伝わってくるようだ。また、「つくる工程もお客様と一緒に楽しみたい」と、社員の方々に協力をお願いし、声を収録してオリジナルのサウンドをつくるなど、工夫やアイデアが光る作品も少なくない。

そうしたものづくりの姿勢が共感を得るのか、「一本動画を制作して終わりではなく、映像全般を丸ごと任せていただいたり、長くお付き合いいただくお客様が多い」と、確かな成果につながっているようだ。

子供の頃の今福彩夏氏と、退職金で購入したカメラ
動画カメラマンだった父の影響で、幼いころから映像がいつも身近に。右は退職金をはたいて買ったカメラ。独立してカメラマンになると決めた時、厳しかった父親が喜びの涙を見せてくれたと話す。

与えられたレールから飛び出し、自分らしく生きるために

映像制作の道に飛び込む前は、大手ガス会社の社員だった今福氏。2014年に20歳で入社し、わずか2年後に退職。安定した世界から、自ら飛び出したカタチだ。

「なぜ大手を辞めてカメラマンに?と、よく聞かれます。特に専門学校で学んだわけでも、正直カメラが好きだったわけでもない私がこの道を選んだのは、父の影響が大きいですね」

今福氏の実家は福岡県北九州市。父親は自営業のビデオカメラマンで、幼い頃から撮影機材に囲まれて育つ。当時はまだVHSのビデオテープが主流で今ほど映像が身近ではなかった時代。今福氏にとって映像は、日常のなかに“当たり前にある存在”だったという。

小学生の頃はカメラが大好きで、将来の夢はカメラマンになること。車も大好きで、中学生時代はスポーツと勉強に励む、まるで男の子のような快活な少女だった。高校進学の頃には将来なりたいものが決まっておらず、親のすすめで高等専門学校(高専)に入学。自由な校風のなか、さまざまな場所でのアルバイトを通し働く楽しさを知るも、本当にやりたいことが見つからないまま就職シーズンへ。学校の推薦枠で大阪ガスへの入社を決めた。

「高校進学も就職も、結局与えられたレールを進むという楽な選択をしただけ。それでも社会に出れば新しい世界が広がると期待に胸を膨らませたのですが、社会人になってもレールが敷かれている現実に、このまま60歳まで働き続ける自分をイメージできなくなったのです」

そもそもサラリーマンに向いていないのでは? じゃあ自分で仕事をしよう! 30歳までに、まだ8年もある。それならなんとかできるんじゃないか――そんな心の動きを決定づけたのが「明日死んでも後悔しない選択をしよう」という想い。この先、自分らしく生きていくために、子どもの頃から一番身近だったカメラマンへの挑戦をスタートさせた。

2020年に参加した大阪市北区 見つけてキタ!北区魅力動画コンテスト作品。「最優秀賞」「一般投票賞」を受賞

待っていても何も変わらない、ならば今できることに挑戦する

とはいえ、「無計画で無謀な独立」だったと当時を振り返る。就職を機に両親のいる福岡を離れ大阪に出てきた今福氏は、会社を辞めてしまえば頼れる友人もなく、もちろん仕事のアテもない。わずかな退職金でカメラを購入するも、どうしていいのか分からず途方に暮れる状態。何もできない自分、どこにも貢献できない自分が本当に嫌で辛かったと話す今福氏が、それでも諦めなかったのは独立を喜んでくれた親のためでもあったと話す。

「思えばずっと楽な道ばかりを選んできて、自慢できるものは所属する学校や会社の“看板”だけ。自分自身で何をやり遂げたことがないことに気づいたんです」

そこから一念発起した今福氏は、「とにかくできる限り動いてみよう」と決意。仕事を待っていても仕方がないと、地元の友人に頼み込んで結婚式やオープンする飲食店の動画を撮らせてもらったり、とにかく実績と経験をつくるためにクラウドソーシングにも登録。機材を抱えて夜行バスに乗り横須賀で草野球チームのゲームを撮影したり、小さな車で車中泊しながら島根県全体を周り全50箇所の病院を撮影したりもした。それでもなかなか前に進まない時には、とにかく状況を変えたいと人生初の海外へ。英語はまったくできないながらも単身オーストラリアに渡り、スカイダイビングに挑戦。大空を飛びながら「次はワーキングホリデーに挑戦したい」と、新たな目標も見出した。また、人生で初めて営業活動に挑戦するものの、仕事につながったのは一軒のバレエ教室のみ。「自分には営業は向いていない」と挫折し、その後、再びアルバイトをしながら生活のために仕事をする日々に。しかし、このままではいつまで経っても変わらないと思い、バイトを全て辞め、仕事内容を見直すなど、従来のやり方すべてをリセットし、本当にやりたいことに集中する決心を固めた。

「自分で仕事をしようと会社を辞めたはずなのに、それが全然できていないなと。生活のためにお金を稼ぐだけの仕事ではなく、もっと自分らしい仕事をしたいと思ったわけです。そのために思い切ってリセット。そうすると不思議なもので、新しい道が拓けていくんです」

後に会社設立のきっかけとなった、カンボジア花火大会の映像。

自分のための仕事から社会貢献へ。世界はどんどん広がっていく

営業活動で唯一成果につながったバレエ教室とは長い付き合いが続いており、その縁から今福氏にとって大きな夢を叶える大チャンスがやってくる。それが、2019年のヨーロッパ全カ国ツアーへの参加。コンポーザーピアニスト中村天平氏の演奏ツアーに帯同し、キャンピングトレーラー生活をしながら各地での演奏を動画に収めるというのものだ。

「数ヶ月日本を離れることに正直迷いもありましたが、ここでも背中を押してくれたのは“死んだ時、後悔するかしないか”という判断基準。過酷なツアーでしたが、本当に大きなものを得ることができましたね」

続く2020年もツアー参加を予定していたが、新型コロナウィルスの感染拡大で中止になっただけでなく、他のすべての仕事も白紙に。コロナ禍のなか、改めて自分の仕事を見つめ直し、映像クリエイターとして「自分のつくりたい作品」とはどんなものなのか、ということに向き合っていったという。

そのひとつの結論が、27歳での株式会社ai moveの設立だ。きっかけはコロナ禍に見舞われる2019年、カンボジアで活動するNPO法人HEROと、花火会社・葛城煙火株式会社が行ったカンボジアでの花火大会だ。子どもたちの笑顔のために力をつくす人々の姿を見て、きちんと仕事をして多くの人に喜んでもらい、そこで得た対価をさらに多くの人を喜ばせる仕事に使う。その循環こそが社会貢献であり、法人としての存在意義に気づいたからだと話す。

「過去の自分はひたすら自分のために仕事をしてきたけど、その経験を経て、まずはお客様をはじめ自分の周りの人のために、そして今後は、仲間と一緒にいろんな経験や可能性を楽しみながら、もっと大きな範囲へとどんどん世界を拡げていきたいです」と今福氏。

大切なのは挑戦し続けること。失敗でも成功でも、そこから得られるもの、心を動かす感動があり、その先に自分らしく生きていく道が広がっていくはず。「だからこそ私自身も、新たな挑戦を応援できる人でありたいですね」と、世の中へのエールを伝えてくれた。

イベント風景

イベント概要

自分らしい生き方とは? 3周まわってたどり着いたのは「映像制作」という原点だった
クリエイティブサロン Vol.260 今福彩夏氏

とりあえずやってみよう!と思い、映像制作を仕事にするため、新卒入社した会社を22歳で退職。知識や経験もなく、地元でもないので家族や友人もおらず、気付いた時には完全に「ゼロ」からスタートした映像クリエイターへの道。生きることに必死の20代前半、アルバイトをしながら何とか生活をしていました。そこまでして、なぜ「映像」だったのか? なぜ、わざわざ法人化をしたのか? そして、30歳という節目を迎える今年。クリエイター、経営者、そして私個人として、これからどのように生きていくのか? どんなことができるのか? 私の過去・現在、そして未来のお話が、何かに挑戦するキッカケになれば幸いです。

開催日:

今福彩夏氏(いまふく あやか)

株式会社ai move(アイムーヴ) 代表取締役
映像クリエイター

29歳、福岡県出身。北九州工業高等専門学校 物質化学工学科卒。大阪のガス会社で機械メンテの仕事に就くも2年目で退職を決意。 22歳で個人事業主として再スタートし、知り合いもいない関⻄の地で、幼い頃に夢見た「プロのカメラマン」として生きていくことに挑戦。退職金で購入した機材と共に、独学で撮影から編集まで身に付け、現在は全国各地で撮影し、企業VPの制作から海外ロケまで実施。2021年に大阪市北区の中津に拠点を置き、法人化。2022年には欧州ツアーに密着撮影し3ヶ月間で21ヵ国を訪問。ランニング、サーフィン、ゴルフ、車、旅行が趣味。好奇心とフットワークの軽さで全国各地を飛びまわっている。

https://aimove-movie.com/

今福彩夏氏

公開:
取材・文:山下満子氏

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