自分の強みを見いだし、それを武器にすれば道は拓ける。
クリエイティブサロン Vol.245 和田圭亮氏

プロダクトデザインをベースに、3Dデータを使ったものづくりを得意とする「PRODUCT158」の代表取締役 和田圭亮氏。自身の性格を「職人気質で不器用」と語る和田氏だが、クリエイターと経営者を両立させている。それは進みたい道に向かって、自分の強みを見いだす深く考える力が原動力。さらに独立後の多くの人との出会いがもたらしたものだった。

和田圭亮氏

高校進学の段階で進むべき道が明確に見えていた。

「とにかくさえない小中学生だった」。幼少期をそう振り返る和田氏。中学時代に「無理やり入れられた(笑)」のはラグビー部。府の大会で決勝まで進んだ強豪校で、厳しい練習にもひたすらまじめに取り組んだ。とはいえ「足が遅いし、力はないし、身体は小さい。自分は何で勝負すればいいのか」と悩む日々。

「自分の強みを探し、それを武器に立ち向かえばいい」。それは和田少年が悩んだ末にたどりついた考え方。将来を見据えたときもこの思考が役に立った。「小・中学校で唯一、得意だったのが図画工作。美術の時間だけはワクワクしていました」。そこから「自分はものづくりが好き」だと自覚する。「それは“ぼくが戦える武器はこれしかない”というくらい確固たるものでした」。さらに「できれば自分で考えたものをつくりたい。そのためにはデザインを学ぶことが必要」だと知る。

高校は建築デザインを学べる大阪産業大学付属高校(環境デザインクラス)へ。さらに成安造形大学 住環境デザインクラスに進学し、家具や照明といったインテリアやプロダクト系のものづくりを学ぶ。卒業後はプロダクトデザイナーとしてメーカーに就職し、その後、前職場となるデザイン事務所に入社する。

プロダクト
歯科技工士が使用する装置。ロゴマークから操作パネルも液晶に表示されている画面デザイン(GUI)まですべてを手がけた

独立採算制の企業でビジネススキルを磨く。

この会社は独立採算制で、一人ひとりがノルマを持つ、いわば社員全員が個人事業者のようなスタイル。発注は外部でも内部でもOK。「見積りや予算の組み方に配分といった金銭感覚から営業活動、仕事の受け方、納品の仕方、客先での立ちふるまいやアルバイトの雇用に至るまで学ばせてもらった」

つまり独立後、多くのクリエイターが身につけるのに苦労するビジネススキルが培われたといえる。受注の難しさを痛感すると同時に、デザイナーの仕事の領域について深く考えることも増えた。そうした独立予備校のような会社に8年在籍したのちに起業。クライアントを引き継いだこともあり、独立初月から売上がある恵まれたスタートだった。

その後、紆余曲折を経て、和田氏の軸足は経営者としてステップアップする方向へ。さまざまな交流会や勉強会に足繁く通い、人に会うことで、新たに人を紹介される。そんな出会いの数珠つなぎ。そうなるとつきあう人にも変化が生まれる。多くのコミュニティの存在を知り、人との距離感について深く考える経験にもなったという。「よく経営者は孤独だと言われますが、社外に多くのコミュニティを持つことでバランスを保っていることも知りました」

冒頭で「長時間、人前で話すのは初めてで緊張している」としながらも、その語り口はとてもスムーズ。思わず引き込まれる話術は、こうした経験から生まれたのかもしれない。

イベント風景
「158」とは和田圭亮氏の身長で、唯一のアイデンティティーともいえる数字を社名に冠した。「友人がつけてくれたのですが、今では自分らしくてとても気に入っています」

多くの人との出会いが経営者としての成長へつながる。

出会いのなかには一生忘れられないできごとも。あるとき自社のミスが原因で、メーカーから多額の賠償請求がなされた。会社存亡に陥る最大のピンチ。救いの手を差し伸べたのは、独立前から仕事を発注してくれていた会社の社長だった。話を聞くと躊躇なく300万円の設備と仕事をセットで無償提供してくれた。「この人は救世主。今はメーカーとも和解をし、問題はクリアになっていますが、この人がいなかったらどうなっていたか。この恩は絶対に返したいと熱い想いがこみ上げてきました」

また今振り返ると小手先の方法でなく、自分のミスは仕事できっちり返せよと教えられた気もする。ほかにも「仕事関係の前に人間関係をつくる」ことの大切さを実感させてくれたメンター的な年上の経営者や、損害賠償の際に器の大きさを見せた彼女(現在の妻)など、出会いによって価値観も変化し、それが自身の大きな糧となっている。

また大きな影響を受けた取り組みとして、同世代経営者との勉強会をあげた。平日毎朝7時から1時間半、有名な経営論の書籍を一日一章ずつ7名の経営者が順に輪読していく。経営論の勉強になったのはもちろん、利害関係なく相談にのってくれる人の大切さを実感したという。悩みを自分ごととして全力で考えてくれる仲間の存在に驚き、そして救われた。「支えてくれるコミュニティがあれば、持ちこたえることができる。正しい選択もできます」。こうした経験からめざすべき事業の方針が見えて、はじめて企業理念ができた。

PRODUCT158は、3Dテクノロジーを駆使して「モノづくり」を加速させる、プロダクトデザインラボです。作り手(エンジニア/職人)が誇りを持てる世界をめざし、新しい価値観や技術と共に、進化し続けます。
多くの経営者との交流で必要性を実感し、めざすべき将来像を託した企業理念

3Dテクノロジーを駆使して新たな領域拡大へ活路を見いだす。

現在の仕事はメーカーやデザイン事務所とおこなうプロダクトデザインがメイン。少し変わったところではパティシエとのコラボで、モンブランケーキの型を製作したこともある。これを使えば量産可能で、若手であっても熟練のパティシエと同じものをつくることができるため、技術の継承につながる。この製品に関してはシリコンの成型まで自社で手がけた。

今後、力を入れていきたいのが3Dデータ関連。「これが今後のうちの強みとなる。3Dデータの制作&設計支援から、動画作成、3Dデータにかかわることなら何でもやります」とクリエィティブの領域拡大をめざし、多方面にチャレンジ中だ。「SEも在籍し、システムの構築・実装まで可能なので、CGをからめたシステムの実装の仕事も取っていきたいですね」

和田氏自身は職人気質だけに「願望だけ言うと、自分で3Dプリンタをいじってものづくりしていたい」が、やりたいことにトライし続けるため、今はクリエイターと経営者を行ったり来たり。両者の感覚とスキルを持ち、「今、自分にできること」を模索し続ける。「最終的にはメーカーになりたい。そこで物販も手がけたいですね」

モンブラン
毛糸の質感を持った座布団のようなケーキのシリコン型。CGで作成後、3Dプリンタでサンプル形成、モデルを型取りして成型用シリコン型をつくった

イベント概要

雇われデザイナーから独立・会社設立の中で感じたこと
クリエイティブサロン Vol.245 和田圭亮氏

大学卒業後、まれにみる独立採算制のデザイン事務所に就職したこともあって、早くから経営感覚を身につけることができ、独立志向に。外側から見ると、「勤めていた会社が出資をしてくれる」という好条件での独立でしたが、実際はそこまでスマートではなく、契約とかルールとかデメリットも多かった。その後、完全独立を果たすが、従来通りのクライアントワーク+何ができるのか、「やりたい事」にトライし続けるため「今自分にできる事」って何なのかなど、独立してからいろんなことを考える中で変化してきた事業内容や自分自身の心境など、職人気質で不器用な性格の自分との戦いのプロセスについてお話ししたいと思います。

開催日:

和田圭亮氏(わだ けいすけ)

株式会社PRODUCT158 代表取締役
プロダクトデザイナー

1983年10月28日大阪府生まれ、39歳。大阪産業大学付属高等学校 環境デザインクラス、成安造形大学 住環境デザインクラス卒業後、化粧品容器メーカーに就職。その後、京都の分析装置メーカー派遣社員、京都のデザイン事務所を経て独立。2018年に株式会社PRODUCT158を設立。個性心理学診断では、母性本能強め / さみしがり / スーパー頑固者 / 集団の輪を乱す事を嫌う「Moon 粘り強いひつじ」との判定。趣味はゴルフと麻雀。特技は盲牌である。

https://product158.jp/

和田圭亮氏

公開:
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。