メビック発のコラボレーション事例の紹介

その情熱を届けたい! 共通のビジョンが異例のコラボをゴールへ導く
スポーツ店のSDGs活動を活性化させるリーフレットの制作

作例

町のスポーツ屋さん、初のクリエイターとのコラボへ

2015年の国連サミット以来、世界中で推進されるSDGs。しかし、その5年前からコツコツ活動を続けてきたスポーツ店がある。大阪狭山市にある三国スポーツだ。野球スパイクやグローブの修理・加工を行う同店は、個人店ながら製造工場レベルの特殊機材を持ち、関西随一の技術を誇る。2010年以降はその高い技能を発揮し、グローブ製造時に出る残革を再利用したオリジナルグッズを製造・販売している。

「野球グローブの革は検査が厳しく、1ヶ所でも傷があればその革は全て廃棄されます。当店では本来なら捨てられてしまう革を取り寄せ、バッグや財布、キーケースに作り変えています」

小規模な取り組みゆえ、これまではクリエイターに依頼せず、バッグや財布など商品の形状から、ロゴデザイン、チラシといった販促関連に至るまで全て代表の西野努さんが制作してきたが、メビックとの出合いを機に、クリエイター募集プレゼンテーションに登壇。革は自然からの恵みであり残革まで全て使い切るのが礼儀であること、何代にもわたって継承できる革製品は、使うこと自体がSDGsになることなど思いの丈を語り、スポーツ屋さんのSDGs事業の輪を広げるためリーフレットの制作に協力してほしいと呼びかけた。

「プレゼン登壇時は、メビックがどういう場所か全く分かっていませんでした」と話す西野さん。今回のコラボでクリエイターの印象が変わったと言う。

待ち受けていた、まさかの展開

当日、参加者席でこの話を聞いていたフォトグラファー兼ディレクターの蔵屋憲治さんは、西野さんの革に対する愛情、実直な取り組みに強く心を打たれた。「商品自体にオリジナリティがあり、何より西野さんの『なんとか活動を広めたい!』という本気度が伝わってきました」

そこで、同じくメビックで出会ったディレクターの宗琢未さんに声をかけ、三国スポーツを訪ねた。

だが、その少し前、実はもう一人、西野さんのプレゼンに感銘を受けコンタクトを取った人物がいる。コピーライターでディレクターとしても活動する山下裕二さんだ。山下さんは小学生から社会人の硬式クラブチームまで野球を続け、当初から「この案件を獲得したい!」と意気込んでいたそう。プレゼンの場に愛用のグローブを持参し、蔵屋さん同様、積極的に西野さんにアピールしていた。

「一般的に、町のスポーツ店が残革を取り寄せることはできません。仮にできたとしても加工するだけの技術がありません。それが叶うのはレザーソムリエProfessionalの資格を持ち、地道にSDGs活動を続けてきた西野さんだからこそ。技術と熱意があってこそできる活動なのです」と山下さんもこの取り組みを広めることに大きな意義を感じていたと言う。

こうして蔵屋さんと宗さん、そして山下さん、異なる2組のクリエイターから連絡を受けた西野さんは、悩んだ末「どちらか一方を選ぶことはできない。皆で一緒に作ってほしい」という結論に至った。これを機に、まさかの競合同士がコラボすることに。滅多に起こりえない事態に多少の戸惑いはあったようだが、西野さんの人徳ゆえ全員が快諾し、思わぬ形で制作チームが誕生したのである。

西野さんがデザイン、制作したアイテム
西野さんがデザイン、制作したアイテムは100点以上。地元の“さやまのええもん”やふるさと納税返礼品にも認定されている。

異例の体制で、ついにプレイボール!

今回の案件を振り返り、蔵屋さんは「まずひとつ目のポイントは、西野さんの思いをどう届けるか。もうひとつは我々3人がいかにコラボレーションするかという点でした」と語る。

たしかに今回は、競合同志が連携するイレギュラーな体制。しかも、全員がディレクター職でもある。どのように役割分担したのか?

聞けば、宗さんが西野さんからヒアリングしてコンセプトを立案し、リーフレットの設計図となるサムネイルを制作する。続いて、それを山下さんの事務所がライティングとデザインによって具体化し、蔵屋さんはディレクターとして制作が円滑に進むよう連携役に徹したそう。この案件を高校野球に例えるなら、宗さんが優勝校の監督で、山下さんがエースピッチャー兼4番バッター。蔵屋さんが観客にも選手にも目配りする部長の役割を果たすと言う。

「こういう受注体制は珍しいですし、しかも3人とも初めてチームを組む者同士。正直、引き受けるには勇気が要りました」と蔵屋さんは当時の心境を振り返る。

ただ、実際に制作がスタートすると、意外なほどスムーズに進んだそう。長くホテルの撮影部門で管理職としてスタッフをまとめてきた蔵屋さんが全やりとりの中心に立つことで、常に一貫した制作姿勢を保つことができた。

また、3人それぞれの視点で西野さんの思いを汲み取り、いかに伝えるか創意工夫したことも功を奏したのだろう。宗さん曰く「僕の仕事は、膨大な情報の中から余分なものを削ぎ落とし骨子となる部分をピックアップすること。今回のリーフレットは店舗紹介ではなく、SDGsの取り組みを知ってもらうものなので、三国スポーツとお客さんの行動がどうSDGsにつながるか、ストーリーを図式化しわかりやすく伝えました」

さらに地域密着型のスポーツ店の特性を踏まえ、地元のイベントに出店した場合でも気軽に手に取ってもらえるよう、A4三つ折りサイズの形状を選んだ。

ライティングとデザインを担当した山下さんも「当初は、西野さんが率先してSDGsを進めているような、力が入りすぎた印象を受けました。しかしご本人のお人柄を考えると、みんなで一緒にというタイプの方ですので、そのニュアンスを反映し、表紙には“三国スポーツと皆さまでできるSDGs”という表現を採用しました。店のメインターゲットである運動部の学生さんたちにも響くよう、チームワークをイメージしやすいコピーに仕上げています。またデザイン面は、テーマである革の色に近い、薄い黄色とブラウンをメインに、SDGsに使用されているカラーでアクセントをつけました。ライティング、デザインともに親しみが湧くものになったと感じています」と話す。

初めてチームを組む者同士の分業ではあったものの、三国スポーツらしさ、西野さんの人柄に関するイメージが共有され、しっかり足並みが揃っていたのだ。

リーフレット
リーフレットは、現在、三国スポーツの店頭で配布中。なかには、手に取りその場でじっくり読み込む人もいるそう。

コラボの、その先へ

こうして約2ヶ月後に無事リーフレットが完成。それぞれが持ち味を発揮したことで、制作チームとして満足のいくクオリティーに仕上がった。これには西野さんも「やっぱりプロはすごいですね。“掴みとオチ”がちゃんとあって、手に取った人が最後まで読んでくれるものになっています。今まで自分で作ってきましたが、こんなに出来栄えが違うとは……。感動しました!」と喜びを語る。店頭の反応も上々で、このリーフレットをきっかけにSDGsへの取り組みが広まり、新規顧客の開拓にも役立っているそうだ。

西野さんの真っ直ぐな性格ゆえに生まれた、今回の意表を突くチーム体制。これにより思わぬ顔ぶれが協業することになったわけだが、成功の秘訣について聞くと、「ひとえに西野さんの情熱です。SDGsへの思い、地道に続けてきた活動をもっと多くの人に知ってもらいたいという共通のビジョンがチームを一つにしてくれました。西野さんは、企業とクリエイターがコラボする上で最も大事なものを持っておられたということです」と蔵屋さん。

「今回のコラボを通じて、僕自身、情熱さえ持って来ていただければ、我々クリエイターがいくらでも形にできることを実感し、より大きなプロジェクトチームを作るイメージができました。個人事業主でクリエイターと縁がない方にこそ、メビックを活用してもらいたいです」と強い手応えを感じている。

今後は、Web広告も視野に入れながらSDGs活動の次なるPR方法を検討するそう。確かな熱量を共有しながら、チーム三国スポーツの4名はさらなる快進撃を続けることだろう。

集合写真
左より、宗琢未氏、西野努氏、蔵屋憲治氏、山下裕二氏

三国スポーツ

代表 / レザーソムリエProfessional
西野努氏

https://waza-takumi.wixsite.com/mikuni0595

株式会社ヨロコバレーナ

ディレクター / 販促コンサルタント
宗琢未氏

https://465807.co.jp/

株式会社KP Life

フォトグラファー / ディレクター
蔵屋憲治氏

https://kp-life-official.skr.jp/wp/

塩梅クリエイティブ

コピーライター / ディレクター
山下裕二氏

https://anbaicreative.com/

公開:2024年3月29日(金)
取材・文:竹田亮子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。