I- LABO Vol.2 ロボットサービスクリエイターの時代

ロボット技術で新しい社会を創造するには

クリエイターがさまざまな領域で活躍する専門家と交流を深め、その分野の現状や課題を知り、創造力や表現力、課題解決力を生かしてイノベーション創出の可能性を探る「I-LABOクリエイターのためのイノベーション創出研究会」。
第2回目のスピーカーは、大阪・京都・奈良の3府県にまたがる関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)を拠点に、情報通信関連分野における先駆的・独創的な研究を行っている、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下ATR)・知能ロボティクス研究所室長の宮下敬宏氏をお迎えした。研究会では、宮下氏の研究内容や経緯をお聞きし、さらにロボット技術における最近の動向などについて、参加者とのやりとりを交えながら伺った。

誰もがロボットを手に入れられる時代に

IoT(Internet of Things)やRT(ロボット技術)、AI(人工知能)は、近年急速に日常生活に入り込み、多かれ少なかれ、私たちは日々その恩恵を受けて暮らしている。宮下氏によると、現在、ハードウェアの低価格化、オープンソフトウェアの普及などにより、誰もがロボットを手に入れることができ、サービスを利用できる時代になった。ドローンがよい例だ。そして今、ロボット技術は「それを社会にどう生かして人を幸せにするか」という“技術を使ったサービスの創造”に焦点がおかれている。そのためには多分野の専門家の力が必要であり、そこにはクリエイターも含まれているという。

宮下氏による話題提供と参加者とのディスカッション

“ロボット”ってなんだろう?

宮下氏:こんにちは。私は大阪大学大学院でロボット技術を学び、いくつかの研究機関を経て、現在は株式会社ATR内の知能ロボティクス研究所でロボットの研究をしています。ロボット研究にはいろいろな側面がありますが、私が最近注力していることは「新しい技術を、製品やサービスとしてどのように世の中に送り出すか」ということです。これは研究室の中だけでは解決しません。研究室の外に出て、いろいろな分野の専門家と知り合うことが必要です。そこで私は、これまでにさまざまなプロジェクトをプロデュースしてきました。具体的には、企業コンソーシアムや起業家育成支援プログラム、産業創出プログラムの設立などです。また大阪イノベーションハブでは、グローバルイノベーション創出支援事業のスーパープロデューサーとして、その設立に従事しました。このような活動に共通することは「ロボット技術で新しい社会を創りたい」という想いです。
では、みなさんは“ロボット”というと、どんなものをイメージしますか?

A氏(グラフィックデザイン):ロボットというと、アニメのドラえもんが一番に思い浮かびます。

宮下氏:なるほど。いい答えですね。私、大好きです。

B氏(ウェブデザイン):ブレードランナーのレプリカントです。

宮下氏:なるほど。あれはアンドロイドですね。アンドロイドは、見た目と動きを人間にできるだけ近づけようと作られたロボットです。

C氏(ロボット&プロダクトデザイン):私がイメージするのは鉄腕アトムです。機動戦士ガンダムなど操縦型のロボットも好きでしたが、アトムは二足歩行ができるということと、自分で考えて自分で行動することができるというところが、より人間に近いように思えます。

宮下氏:はい。操縦型ロボットは“乗り物”であるのに対して、アトムは考えて動いてくれる自律型と言えます。今、大学などで研究されているロボットは、“自律タイプ”と“操縦タイプ”に大きく分けられるのではないかと思います。

D氏(デザイン):スターウォーズのR2-D2がいいですね。

宮下氏:いわゆるパートナー型ロボットですね。どちらかというと“賢いツール”と呼ぶにふさわしいロボットです。人間が何かをしようとするときに、気の利いたアシストをしてくれるのがこのタイプですね。

宮下氏:では、今日本で活躍しているロボットにはどのようなものがあるでしょうか。まず、工場などで活躍しているのが“産業用ロボット”と呼ばれるものです。これは日本が最も得意とする分野で、現在、世界中の工場で使われているものの半数以上が日本製だと言われています。二つ目は“災害対応ロボット”です。これは災害現場において、人が活動できない場所で人の代わりに働いてくれるロボットです。三つ目は“サービスロボット”と呼ばれるものです。コミュニケーションロボットとも呼ばれます。人の活動をアシストしてくれる人型ロボットですね。ソフトバンクのPepperや雑誌の付録を組み立てるRobiが有名です。もう一つ、最近注目されているのが“人協働型ロボット”と呼ばれるものです。これは産業用ロボットが入れない工場などで、人と共に作業をするロボットです。従来の産業用ロボットは、人が接触すると危険なため、人とロボットが同じ空間内で作業することできませんでした。けれど最近は、センサーやモーターの技術が進んだため、人とロボットが一緒に作業をすることが可能になってきました。これからどんどん使われる場が広がっていくと思います。
このように、世の中にはいろいろなロボットがありますが、ロボットとは、以下の3つの要素技術を持ち、知能化された機械システムと定義することができます。
1. センサー…感知する機能
2. コントローラー…動きを制御する機能
3. アクチュエータ…作動する機能
そう考えると、私たちの身近なところに、すでにロボットがあると思いませんか?

E氏(ウェブデザイン):今の話だと、エアコンなどはロボットと言えるかもしれません

宮下氏:その通りです。最近のエアコンは、室温をセンサーで感知して設定した温度に保ったり、人がいる場所を感知して風力を調節してくれる機能があります。その他にも、ホコリを感知して吸引力を調節する掃除機や、衣類の量を感知して洗浄時間を決めてくれる洗濯機など、すべてロボットだと言えます。そうすると、先ほどみなさんがイメージされたロボットとは、少し違うような気がしませんか?

人を元気にするロボットとは?

宮下氏:ロボットというと、みなさんのように、人に似た形のものをイメージすることが多いと思います。それはなぜでしょう?そこでこれから、ロボットの“身体(形・デザイン)”が持つ意味についてお話をしたいと思います。
先ほど話が出たPepperやRobiは人に似た形をしています。私は、ロボットが人に似た形にデザインされていることによって“相手を元気にする力”を持つのではないかと感じています。こちらの動画をご覧下さい。

動画1:車いすに乗っている高齢者に、ロボットが「握手して」「大好き」などと話しかける。高齢者は手を差し出すなどの反応を示し、最後に車いすから立ち上がる。

動画2:高齢者デイサービスセンターの入り口で受付案内をするロボット。訪れた数名の高齢者がロボットに挨拶をすると、ロボットが「今日も来てくれてありがとう」「今日は元気かな」と話しかける。笑顔で受け答えをする高齢者たち。

宮下氏:最初の映像の中に出てくる方は、これまで自力で立つことが難しかった人です。ロボットとのやりとりによって気持ちが高揚し、立ち上がることができました。二つ目の映像では、高齢者の方々がロボットと楽しそうに会話をしていましたね。いずれの場合を見ても、ロボットと人との間に、何らかの“関係性”が構築できそうだということが言えます。ロボットとは“そこにもう一人の人が存在しているような感覚”を与えてくれるようなメディアだと言えるのです。人に近い形にデザインされているからこそ、そこに“存在感”を感じることができ、人を元気にしてくれるデバイスになりうる。コミュニケーションロボットにおいては、“身体(形・デザイン)”と“中身(コンテンツ)”が人に近いということが、メカニカルな部分以上に、人の幸せに寄与しうるのではないかというのが、私の見解です。

C氏(ロボット&プロダクトデザイン):今、ロボットの身体の話が出ましたが、例えば遠隔操作型アンドロイドの“テレノイド”のデザインは宮下さんから見てどう思われますか? ちょっと人間離れしていて怖いなと思うことがあるのですが…。

宮下氏:はい。テレノイドは私も一緒に開発をしてきました。あの形は確かに気持ち悪いです。けれど、テレノイドの形状や重さなどは、何度も試行錯誤された結果なのです。テレノイドの抱き枕版“ハグビー”について、こんな動画があるので見て下さい。


小学校低学年の教室で、読み聞かせをする先生。おとなしく座って聞く子どもたちの後ろで、たくさんの子どもたちが話を聞かず立ち歩いて遊んでいる。次の場面では、全員に一つずつハグビーを持たせている。すると、みんながハグビーを抱きかかえ、読み聞かせを静かに聞いている。

宮下氏:ハグビーの中には、スピーカーが入っていて、中から先生の声が聞こえるようになっています。すると子どもたちは抱っこして先生の声を聞きはじめるのです。子どもたちにとっても、抱っこしやすい形と重さなのですね。面白いのは、抱っこすることによって、先生のことがより好きになるという実験結果が出ているのです。これは感情と行動が表裏一体の関係にある、つまり“好きだから抱っこするのか、抱っこするから好きになるのか”ということですね。テレノイドについては、特定の誰かを思い浮かべて抱っこしていると、本当にその人に見えてくるといいます。介護現場などで使われると、高齢者のみなさんは本当に優しい表情になるのです。

ネットワークロボット技術で日常環境すべてがロボットに

宮下氏:次にご紹介するのは“ネットワークロボット技術”です。ロボットがネットワークでつながることによって、今までにない多様なサービスが提供できるという考え方です。先ほどご紹介したロボットの定義、“センサー”“コントローラー”“アクチュエータ”の3つの要素のうち、センサーを取り出して生活環境に埋め込みます。センサーはその環境における人の行動をモニタリングし、状況を認識します。そのセンサーと、スマホなどディスプレイ上のロボット、実際の作動をするロボット、この3つをネットワークでつなぎ、連携させます。センサーは、道路、交通機関、住宅や公共施設、電化製品など、あらゆる環境やモノに設置することができます。そうすると、例えば建物全体、まち全体がロボットとなります。
このネットワークロボット技術は、総務省から委託を受けて、2004年頃からATRを中心に研究を進めました。研究によって、例えば商店街や公共施設などの場所で、3つのロボットがネットワークを介して協働し、お客さんの誘導や案内ができることが分かってきました。そこで次に、その技術を福祉サービスなどに活用するための研究を進めました。“ライフサポート型ロボット技術”と呼ばれ、高齢者や障がい者の生活支援に活用することが目的です。
以上をまとめると、ネットワークロボット技術とは、ロボットの3つの要素が一体化されていなくても、ネットワーク技術でつなぐことによって「ロボットである」と定義できます。ロボットが身体の制約を超えて存在することによって、日常環境すべてのものがネットワークにつながり、連携してサービスを提供することができるようになるのです。最近ではIoT(Internet of Things)を超えて、IoE(Internet of Everything)というような流れになってきています。
みなさんのロボットのイメージが少し変わったのではないでしょうか。私は最近のロボット技術に必要なものは、メカトロニクス、そして人々を元気にするような(人の存在感を感じられるような)デザイン、そしてネットワーク(クラウド)であると思います。


Large-Area Tracking of Pedestrians using 3D Range Sensors
3次元距離画像センサを使用した、大阪のショッピングセンターでの人位置推定

技術が社会にもたらす影響を考える

F氏(サウンドデザイン):私は仕事で音楽を作っているのですが、例えばロボットが作曲をする、演奏をするなど、IoT技術が、音楽業界や演奏家、さらにクリエイターの仕事に影響を与える、また市場を奪うなどということはあるのでしょうか。

宮下氏:はい。まず、音楽とロボットについては、作曲をするロボット、曲を聴いて採譜をするロボット、楽器を演奏するロボットなどが研究されています。では、ロボットが市場や職業を奪うという問題については、どうでしょうか。生活のすべての場面にロボット技術が浸透するという話を聞くと、便利である反面、何か問題になることが出てくるのではないかという懸念もありますよね。これについては、現在ELSI(エルシー Ethical, Legal and Social Issues)という分野があり、研究が進められています。さまざまな分野の技術が社会に入り込んだ場合、どんな影響をもたらすのかを、倫理学・法律学・社会学の3つの側面から、検討をするという取り組みです。技術的にできるからといって「何でもやっていい」ということにはなりませんね。ロボット技術に関しては、ヨーロッパでRoboLawというプロジェクトがあり、ロボット技術を社会に導入する際の指針が議論されています。
例えば自動運転車で事故が起きた場合、どこまでが運転者の過失で、どこからがシステム製作側の過失によるものなのかというのは、自動車保険のあり方などにもかかわる問題です。また最近の3Dプリンタの技術は、骨や皮膚など人の体組織をプリントアウトして、医療現場で活用できるという段階まで来ています。これを導入すると、例えば医療訴訟が起きた際に誰がどのような責任を負うのか、ということも問題になるかもしれません。科学技術とは、人を幸せにするものであるべきです。技術の実用化、社会実装のためには、導入した場合に起こりうるさまざまな問題を想定し、考える必要があるのです。

異分野の “新結合”が新しいサービスを生む

宮下氏:私はロボット技術によって“わくわくする街”をつくりたいと考えています。みなさんは、例えばどんなときにわくわくされますか?

G氏(ウェブデザイン):今までにない体験をして驚いたとき、でしょうか。

宮下氏:今、まさにおっしゃられたことと同じことを、私自身も考えています。開発した技術で人をわくわくさせるには、その技術を今までにない体験として味わってもらわなければならないと思うのです。ロボット技術の研究者たちはみんな研究室の中でわくわくしていて、それを人に伝えるために論文を書きますが、それを読んでもわくわくするような気持ちにはなりません。その技術をつかったサービスを生み出し、社会に普及させなければ、新しい技術は人々に体験として伝わらないのです。“技術=サービス”ではないからです。新しい技術は新しいサービスへと開発しなければならない。しかし研究者たちには、技術を開発する力はあってもサービスを自分で生み出す力はないのです。
経済における“イノベーション”という概念を生み出した経済学者ヨーゼフ・シュンペイターは、「イノベーションを起こすためには(異分野との)“新結合”が必要だ」と述べました。技術が分かる人、デザインができる人、交渉ができる人など、異分野の専門家がつながり、知恵を合わせることで、社会に役立つイノベーションを起こせるというのです。企業コンソーシアム設立などの私のここ数年の活動は、そのような考えに基づくものです。こうしてメビック扇町で、クリエイターのみなさんとつながりを持つことができたことも、イノベーションの可能性の広がりだと感じています。

エピローグ

難しい技術の話を、分かりやすく平易な言葉で語ってくださる宮下氏。参加者は、宮下氏の思い描く“わくわくする社会”の話を聞いて、同じようにわくわくしたはずだ。どんなにすばらしい技術が開発されても、サービスを創造するのは人。研究室で生み出される理論や技術は、実社会において、人間の感覚や感性と調和して初めてサービスとなりうる。だからこそ人がつながり合い、知恵や知識、創造力や表現力を寄せ合い、ともに未来への希望や理想を描くことが、イノベーションには必要だ。そこで自分はどんな役割を担い、力を発揮することができるのか。研究会の中で、参加クリエイターたちは何かのヒントを見出したはずだ。

イベント概要

I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会 Vol.2
ロボットサービスクリエイターの時代

IoT(Internet of Things, モノのインターネット)、RT(Robot Technology,ロボット技術)、人工知能技術が、日常生活にどんどん浸透してきています。ニュースでこの単語を聞かない日がないくらいです。これらは、少し前までは、大学の研究室の中で研究開発されていた技術でしたが、今や、大企業やベンチャー企業によって次々と新しいサービスに組み込まれ、市民の手元に届けられる技術に変わってきました。このような流れの中で重要になるのは、IoTやRTの技術ではなく、それらを使ってなにをするのか?ユーザにどのような体験を提供するのか?というロボットサービスクリエイターの仕事です。

本研究会では、ATRで開発してきたクラウドロボティクスを中心に、IoT、RT分野における最新の動向、IoTやロボットの持つ力、これから重要となっていくロボットサービスクリエイターの仕事について話題提供します。

開催日時

2017年09月12日(火)19:00〜21:00

会場

メビック扇町

宮下敬宏氏(株式会社国際電気通信基礎技術研究所 / 知能ロボティクス研究所 室長)

1970年金沢生まれ。2000年大阪大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、ERATO 北野共生システムプロジェクト研究員などを経て、2004年より株式会社国際電気通信基礎技術研究所知能ロボティクス研究所研究員。2007年より同研究所室長。ネットワークロボット、行動計測などの研究に従事。2013年から、大阪イノベーションハブ(OIH)スーパープロデューサーとして設立・運営に従事するなど、先端技術の社会実装を目的としたアントレプレナー育成にも注力。

公開

2017年10月16日(月)

取材・文

株式会社ランデザイン 岩村彩氏

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