クリエイティブサロン Vol.128 日原佐知夫氏

人と人とをつなぐことの楽しさ。

毎回、さまざまなジャンルのクリエイターをゲストスピーカーにお迎えし、その人となりや活動内容をお聞きし、ゲストと参加者、また参加者同士のコミュニケーションを深める「クリエイティブサロン」。今夜のゲストは、工業デザイナーで創造意匠 Hihara Industrial Design Office代表の日原佐知夫氏。東京国際家具見本市SOON JAPAN DESIGN PROJECTをはじめ、各地の地場産業支援事業等のプロデューサーとしても活躍されている。日原氏が日頃から大切にしているのが「人と人とを“つなぐデザイン"」。その真髄がユニークな事例と共に披露された。

日原佐知夫氏

海外の見本市でデザイナー魂に火がつく。

山梨県塩山市(現甲州市)で生まれ、中学・高校時代は柔道に打ち込んだ日原氏は、インターハイの予選で敗れ、進路について考えた。
「絵を描いたり立体物をつくったりするのが好きだったので、美術大学に行きたいと思ったんです。それまでデッサンも平面構成もやったことがないのに(笑)」
急いで夏休みに美術研究所に通い、めでたく静岡県の常葉学園短期大学美術デザイン科に合格。プロダクトデザインコースがあると聞いていたし、静岡にはオートバイメーカーもあるので、大好きなオートバイのデザインができると思っていた。だが、教授から夏休みに帰省した際に訪ねるようにと言われた会社は、家具製造業。訪問先の社長から「卒業したらウチに来いよ」と言われ、就職が決まった。実は静岡は家具の一大産地でもあったのだ。その会社には4年間勤務し、家具デザインだけでなく、特注家具のプレゼンや納品立会いなども経験した。その後、会社の顧問デザイナーを務めていた清水俊彦さんの創デザインオフィスに移り4年間勤め、1993年に独立。2000年には先輩デザイナーに誘われて、ケルンの家具見本市に出かけた。そこで、参加者の意識の高さに触発され、その後に訪れた国際的な家具見本市「ミラノ・サローネ」の若手デザイナーが出展する場「サテリテ」を見て自分も作品を出したくなった。

椅子を連れて歩く、変な中国人。

西洋の人に対して座面高420mmの椅子をつくっても負けてしまうと考えて、「ミラノ・サローネ」では椅子と座布団の中間にある作品を発表した。
「費用を考えると出展は一回限りだなと思い、自分の作品を連れて会場内を移動していたんです。すると“椅子を連れて歩く変な中国人がいるよ”と話題になり、移動しながら一緒に写真を撮ったりプレゼンしたりしました。ろくに英語もイタリア語も話せなかったのですが、お蔭で結構友だちができました」
その後、ロンドンのデザイン展を見たりパリで出展したりして思ったことは、やっぱり日本はいいなぁ、ということだという。
「ものづくりのクオリティコントロールにしろ何にしろピカイチですね。細かいところまで言わなくても、期待したクオリティに仕上げてくれるところがすごいですね」


サローネサテリテ〈2003〉Monaka

プロデュースって何? というレベルから。

たまたまサローネ会場からホテルへ帰る電車で東京国際家具見本市の総合プロデューサー佐戸川清さんと一緒だったので、「東京にサテリテのような場がないから海外に来て発表している。東京の会場で若者のブースを作ってください」と頼んだら、「じゃあ、君がそのプロデュースをしろよ」ということになってしまったという。
「プロデュースって何ですか?」という段階からのスタート。「お前がやらないと進まないぞ」という状況をつくられてしまい、SOON JAPAN DESIGN PROJECTのプロデュースが2004年から始まった。SOONは、人と人とがモノづくりを通して出会い、つながるための自由な運動体。日原氏がメールを投げて積極的に動ける人だけが動く。会員組織ではないので会費もない。
「現在、デザイナーだけで約500人、作り手や関係者を含めると1200人くらいの人と直にメールでやり取りをし、プロジェクトごとに集まったりしてもらうわけですが、その人たちをつなげていきたいので、何年にどこのプロジェクトで誰が出ているかがわかるようにしています」
日原氏はSOONをデザイナーとメーカーの出会いの場にしようと、銀座の百貨店に設けた売場でデザイナー自身に販売してもらったり、家具産地の飛騨に行くプロジェクトで古民家に自分たちの作品を展示して、メーカーの人に見に来てもらったりした。また、富山県高岡市の若手の作り手や経営者に会いに行き交流して帰り、その半年後にはデザイナーがスケッチを手にプレゼンに出向き、そこで完成したものを東京の骨董通で借りた店舗で展示するリレー展を催したりもした。
国産材使用の可能性を探る試みとして2015年に開催された「日本の木・ニッポンの家具」では、「国産地域材活用デザイナー公募展」のプロデュースを担当。すみだブランド戦略・ものづくりコラボレーションでも工房ツアーを実行した。デザイナーと作り手の馬が合うかどうかが判断できるように、まずは会って交流してからというスタイルをとっているのは、「この人と何かやってみたいと思えるような相互関係を築くことが、コラボレーションの第一歩」と考えているからだ。


SOON@IFFT〈2004〉初回の様子

古都京都でも、地元静岡でも。

京都商工会議所の「project kyo-to」や「京都市・新たな伝統的工芸品開発事業<京と今の和>」では、伝統工芸の技術を現代にマッチした形で世に出す新商品開発や販路開拓にも注力した。
静岡市から公益財団に運営が引き継がれたニューウェーブ「しずおか」創造事業『つなぐデザイン』では、11年間プロデューサーを務めている。この新商品開発プロジェクトは、メーカーを募って確定させた後に全国公募でデザイナーをマッチングさせ、その後の商品開発はもとより、翌年2月に開催される東京インターナショナルギフトショーでの展示・発表・販路開拓・販路拡大までサポートするというものだ。同じ静岡市で、日原氏は「静岡ひきものプロジェクト」のプロデューサーも務めている。静岡の挽物(ひきもの)技術は、江戸時代末期から伝わり、戦後「コショウ挽き」などの輸出で活況となり、家具・雛具などさまざまな静岡市の産業に関わりを持ってきたが、作り手は次第に減り、いまでは最盛期の10分の1になってしまったという。このプロジェクトでは、挽物の技術を地域産業に根付かせようと、デザイナーと卓越した技術を持つ職人とのコラボレーションを展開。ドイツ・フランクフルトで行われる世界的な見本市「アンビエンテ」への出展も今年2月に果たした。「今後の課題は、デザイナーと作り手だけのマッチングだけで終わらず流通業の人をどうからませるかだ」と日原氏は考える。

楽しいから、やっている。

「展示会開催まではメールのやり取りだけですが、展示会が始まるとその人たちが会場にいて、ものもそこにあってパーティーができて、というのがすごく楽しい。普通の展示会なら毎回募集してそれが終われば全部消えてしまいますが、その前後をつなげてみたかったんです。そういうつながりから“あっ、あの時会ったよね”というのが何年後かにあったりする。それが楽しいんですね」
この夜、日原氏の話を聞きに集まった人たちの質問にも丁寧に答える姿から「何か困ったことがあっても、日原さんだった何とかしてくれるんじゃないか?」 と思わせる安心感が醸し出されていた。それはきっと、日原氏と関わった人の多くが抱く共通の感情だと思う。

イベントの様子

イベント概要

クリエイティブサロン Vol.128 日原佐知夫氏
人と人とを“つなぐデザイン"

ア)だれ?三面の顔
イ)京都、墨田、シズオカ、、、地域産業とデザイン
ウ)週休三日は、良いよ!
エ)SOONって何?
オ)Mebic切符のハサミ
カ)デザイナー公募 → 「つなぐデザインしずおか

開催日時

2017年06月06日(火)19:30〜21:00

会場

メビック扇町

日原佐知夫氏(ひはら さちお)

デザイナー日原佐知夫は、「人と人とをつなぐデザイン」を目指し静岡市を拠点に活動している。1964年山梨県塩山市生まれ。静岡の産業とデザイナーに憧れ移住。1993年~創造意匠 Hihara Industrial Design Office代表。2004年~SOON JAPAN DESIGN PROJECT プロデューサー。(公財)静岡産業振興協会「ニューウェーブ〈しずおか〉創造事業 / つなぐデザイン」、京都商工会議所「project kyo-to」、京都市・新たな伝統的工芸品開発事業「京と今の和」等プロデュース。すみだブランド戦略「ものづくりコラボレーション」コラボレーター等歴任。
創造意匠 Hihara Industrial Design Office

公開

2017年07月11日(火)

取材・文

有限会社中島事務所 中島公次氏

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