クリエイティブサロン Vol.53 野口周三氏

これからも<ガチ>で、好奇心の赴くままに。

毎回、さまざまなジャンルのクリエイターをゲストスピーカーにお迎えし、その人となりや活動内容をお聞きし、ゲストと参加者、また参加者同士のコミュニケーションを深める「クリエイティブサロン」。今回のゲストは、大阪成蹊大学芸術学部の情報デザイン学科で教授を務める野口周三氏。
「好奇心の赴くままに」とご自身が語るように、漫画をはじめアニメや映像、出版プロデュースなど、さまざまな仕事に携わり、キャリアを積み重ねてきた。この業界に入ったきっかけ、といっても野口氏の場合は活躍してきたフィールドが非常に多彩なわけだが、その契機となったことや華麗な遍歴、そして変わることのない<ガチ感>について大変興味深い話を伺うことができた。

野口周三氏

経済学部4回生の時、初めて描いた漫画で準入選!

野口氏が漫画の世界に入るきっかけとなったのは、集英社が主催する少年向けギャグ漫画の新人賞「第29回週刊少年ジャンプ赤塚賞」への応募だった。野口氏は、同志社大学の経済学部で学んでいた4回生の時に初めて漫画の公募に挑戦したが、それまで漫画は好きで読んではいたものの、一度も描いたことはなかったという。就職活動時期ということもあり、1ヶ月しか漫画制作のために時間は割けなかったが、論理的に計算された受賞するための戦略も功を奏し、見事準入選。その後、東京へ呼ばれ、著名漫画家のアシスタントとして働くようになった。この時、すでに銀行から就職の内定をもらっていたが、それを断っての上京だったため、「家族に止められたり、泣かれたりしました(笑)」と野口氏は当時を振り返る。

作品
第29回週刊少年ジャンプ赤塚賞 準入選作品(クリックで拡大)

野口氏に影響を与えた三人の人物

子どものころからクリエイティブな世界を志向していたわけではなかったが、大学時代に出会った三人の人物によって、次第にその世界を目指すようになったという。
大きな影響を受けたという一人目の人物は、落語家の笑福亭鶴瓶氏だ。NHK教育テレビ『YOU』の後継番組である『土曜倶楽部』大阪版の司会者が鶴瓶氏だった。野口氏は、同番組のオーディションを受け、合格。ビワコオオナナズ釣りや備長炭づくりなど、自分が企画案を考え、自ら体験し、それをTVという媒体を通して発信し、世の中の反応を知るという貴重な経験をしながら、鶴瓶氏からテレビの仕事についてのさまざまなことを学んだ。体当たりでやる<=ガチでやる>と得るものが大きい、ということを知り、その頃からクリエイティブな世界に身を置きたいと考えるようになった。
二人目の人物は、劇画『子連れ狼』の原作者小池一夫氏だ。野口氏は小池氏が開いた「小池一夫劇画村塾(以下、劇画村塾)」に学んだ。この塾は、漫画家や漫画原作者、ゲーム・映画製作者の養成塾として1977年に開講。多くの漫画家・クリエイターを輩出したことで知られる。卒業生には、『うる星やつら』の髙橋留美子氏、『北斗の拳』の原哲夫氏、『ドラゴンクエストシリーズ』の生みの親である堀井雄二氏など、業界のスーパースターが数多くいる。
「ここでは絵の描き方ではなく、“どういう風に物語を作るか”や“キャラクターとは何か”ということを学びましたね」
野口氏は後に漫画に留まらずさまざまなジャンルの仕事に携わるが、この時学んだノウハウは、その後いろいろな業界で使えたという。
「この塾は合格したときには塾生が100人ぐらいいるのですが、2年後には十数人しか残らないぐらい厳しいものでした。まさに<ガチ>なんです。塾生がどんどん辞めさせられるのですが、今の教育機関にはそれがありません。そのことが甘えにつながっているような気がするんです」
そして三人目は、『AKB48』総合プロデューサーの秋元康氏だ。野口氏が大学生の時、『おニャン子クラブ』が大ブームだったが、その仕掛け人が秋元氏だった。野口氏は「秋元康作詞塾」で作詞やプロデュース、脚本を学んだ。
野口氏は、『AKB48』と自分が教える学生には次の共通点があると考えている。
一つ目は、年齢的に同世代であること。
二つ目は、プロを夢見る子とそうでない子が混在していること。
三つ目は、そこ(AKBや大学)を踏み台にして自分の夢を叶えるために頑張っていること。
また、そうでない子もそこで貴重な経験を積むことで、自分の人生に後々生かせること。
このような共通点を見出す野口氏は、『AKB48』を支えているのは<ガチ感>だと語る。
「アイドルなのに<総選挙>で一年間の頑張りが問われ、順位が付けられるわけだから、真剣にならざるを得ない。プロとして仕事をしていく上で、この<ガチ感>が非常に大切なことだと思いますね」


野口周三氏 漫画作品

CMアニメの絵コンテ描きは、手の病気がきっかけ

野口氏は上京し、漫画家のアシスタントとしてこの業界に入り、その後自分と同じようにアシスタントをしていた井上雄彦氏が連載を始めた『SLAM DUNK(スラムダンク)』の仕事をすることになる。独立後、野口氏はさまざまな漫画を発表していたが、腱鞘炎を悪化させ、長時間絵を描くのが難しくなった。そこで、短時間の作業で済むCMアニメの絵コンテの仕事をするようになる。また、ちょうど世の中に出始めたMacを買い求め、デザインの仕事もして、表参道のデザイン会社時代には旅行会社や結婚式場のパンフレットなども手がけた。その後、映画の仕事に参加し、NTT東日本フレッツスクウェア用ハイビジョン配信作品ではプロデューサーを務めた。人気女優蒼井優さん主演のこの短編映画『メモワール』は、CSスカイパーフェクTV ch.720カミングスーンTVで放映された。テレビアニメ『LEMON ANGEL PROJECT』には総監修という立場で仕事に関わり、日本テレビのオークションバラエティ番組『バリオク!』では、クリエイター達が新しいキャラクターを持ち込み、バイヤーにプレゼンするコーナーで審査員を務めた。
「これは、視聴者からのネタをコンテンツ化しようという企画で、いま私がやっている“学生の作品を世に出すこと”につながっているんです」
コンテンツディレクター、プロデューサーに転身してからは、アニメや漫画についての海外講演も行い、野口氏の専門学校学院長時代の卒業生がアニメーションプロデューサーを務めたテレビアニメ『戦国BASARA弐』への制作協力もした。2006年には舞台演出家の宮本亜門氏からの声掛けで、プラネタリウムシアター作品『HOKUSAI 北斎の宇宙』の脚本・監督を手がけた。総合演出は宮本氏、出演は俳優の緒形拳氏、佐藤隆太氏、女優の佐藤江梨子さん。直径18メートルの360°スクリーンに世界最高峰のプラネタリウムといわれる「メガスターⅡ」が設置された。この作品の企画書に、野口氏は「なぜ、北斎なのか?」を盛り込み、宮本氏と何度もFAXでやり取りをしたという。今回のクリエイティブサロンでは、北斎の描いた龍が空を舞い、その後星となるすばらしいクライマックス映像の一部が紹介された。
野口氏は、出版分野においてはキャラクターの描き方の本を出版したり、大阪芸術大学発行の雑誌『ストレンジャー・ソレント』内では、「オレを二つ名(そのな)で呼ばないで!」のコミカライズプロデュースを担当している。
また、映像分野においては、宝島社が主催する『このライトノベルがすごい!』大賞ではライトノベルのコミカライズ、映像化にも尽力し、他にも現在制作が進められているハリウッド実写映画作品の仕事にも携わっている。

プロを目指したい、その思いに応えたい

1年半前に大学でマンガ・デジタルアートコースを立ち上げて学生を教えている野口氏が大切にしているのは、「その子の個性を伸ばすこと」。
「本気でプロを目指している子には、<ガチ>で話をするので反発したりもされますが、回り回って私の考えていることをわかってくれればいいなと思っています」
野口氏は、将来私塾を開きたいという思いをもっているという。
「プロを養成するために、自分が大学時代に学んだ小池一夫劇画村塾のような私塾が出来ればと考えています。私塾だと塾生を進級させない、つまり落とすことができる。プロを養成する場には、この厳しさが必要だと思うんです」
1時間半のトークの中で、野口氏は現在自分が教えている学生の中から、数人の作品を取り上げて、彼らとのやり取りを語ったが、野口氏の言葉の端々から学生ひとりひとりへの愛情が感じられた。自分さえやる気を出して本気で取り組めば、<ガチ>で応えてくれる熱い先生。そんな先生の下で学べる学生たちが素直にうらやましく思える夜だった。

イベント風景

イベント概要

クリエイティブサロン Vol.53 野口周三氏
いちばん大切な能力は「好奇心」

漫画家からアニメ・映画・ドラマなどのプロデュース。脚本・監督や、雑誌・ムック本の企画・制作から地域の活性化まで、自らの好奇心のおもむくままに生きてきました。現在は、芸術大学の教授として学生を指導しつつ、これからのエンタテインメント業界を担う人材を育てるべく悪戦苦闘している毎日です。今回は、自分が歩んできた道や現在の仕事などをご紹介しながら、どのように人材を育てているのかをお話させていただきます。

開催日時

2014年8月21日(木)19:30〜21:00

会場

メビック扇町 ロビー

野口周三氏

京都生まれ。同志社大学在籍時に、第29回集英社「週刊少年ジャンプ赤塚賞」にて準入選を獲得。その後、週刊少年ジャンプにて記録的な大ヒットとなった「スラムダンク」(井上雄彦著)のスタッフとして活躍。スーパージャンプ誌上では作品賞を受賞するなど、マンガ家としても著作を多数発表する。またマンガ以外に、デザイナー、イラストレーターとしても活動し、映画・アニメのプロデューサー・ディレクター、脚本家としても活躍。現在は大阪成蹊大学 芸術学部にて教授を務める傍ら、宝島社のライトノベル作品のコミカライズを担当するなど、仕事は多岐にわたっている。

公開

2014年09月16日(火)

取材・文

有限会社中島事務所 中島 公次氏

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