メビック発のコラボレーション事例の紹介

会社のポジティブな未来像と社員の想いを見えるかたちに
プラスチックの着色・加飾剤メーカーのブランディング

名刺や封筒、色見本など

素材ならではの色・加飾表現の可能性を広く届けたい

オーケー化成株式会社は、プラスチック素材に色や質感、機能を与える着色・加飾剤を開発するメーカー。明度、彩度、透明度の異なる単色はもちろん、マーブル調やパール調、布地や木目のパターンなど、プラスチックであることを思わず疑ってしまうほど、リアルでバリエーション豊かな質感を表現する技術を持つ。そんなプラスチックの調色・加飾表現の可能性をクリエイターにより広く伝えたいというメビックへの相談が、今回のコラボレーションの始まりだった。

「私たちの工場では、一日に約100パターンの新しい色や加飾が生まれています。それほどにプラスチックの色表現は豊かで繊細なのです。そのことを直接、クリエイターのみなさんに向けて発信したいと、2019年に立ち上がったのが、営業部のカラーデザインチームでした」と語るのは、オーケー化成営業部・部長の春口宏彰さん。自社の製品や強みを発信したいと思うものの、クリエイターとのつながりづくりからその見せ方まで、試行錯誤の繰り返しだったという。

そこで2020年7月、まずはクリエイターとの出会いを求め、メビックに相談をした。さっそく8月に、オーケー化成デザインルームで、クリエイティブクラスターミーティングが行われ、午前・午後に分けて約10名のクリエイターが参加した。その一人が、プロダクトデザイナーの江口海里さんだ。

「その時に初めて、オーケー化成のデザインルームに入って、こんな素晴らしい場所があったのか、と驚いたんです」と江口さん。これまで自身がデザインした製品の量産前の色確認作業のために、国内外の工場に立ち会ってきた。一言でプラスチック素材と言っても、その種類はさまざまで、再生・バイオ素材などを含めると、数十種類に及ぶ。それらの素材を一つひとつ、イメージする色に合わせる作業は、数日に及ぶこともあったという。

「部品によって異なる種類の樹脂を使う製品の場合、色合わせはさらに困難になり、そのために多くの時間と労力が必要でした。こちらのデザインルームで自分のイメージする色を選ぶことができて、しかもきっちり合わせていただけるということであれば、私たちプロダクトデザイナーだけでなく、製品づくりに関わる多くの人たちが助かるはずだと確信しました」

オーケー化成本社のデザインルーム
オーケー化成本社のデザインルームでは、さまざまな色や質感のサンプルを、実際に手に取って見ることができる。

仕事への誇りをかたちにする“ポジティブなブランディング”を求めて

ミーティングでデザイナーとのつながりができたところで、次に自社の見せ方を改善したいと考えた春口さん。

「会社のロゴマークは昭和時代の創業当時のまま。自社サービスの案内資料も手づくり。全体に統一感もなく、クリエイターのみなさんに向けてアピールするのに、これでいいのかという迷いが、ずっとあったのです」

そこで2021年5月、メビックのメーリングリストを利用して、ブランディングパートナーを募集。およそ10社の応募の中から選ばれたのが、クリエイティブクラスターミーティングでの印象が強かった江口さんだった。

「メーリングリストの文面では、あえて“ポジティブなブランディング”という言葉を用いて募集しました。プラスチックという素材に負のイメージを持たれがちな今の社会の中で、社員が自分の仕事を前向きに捉え、誇りを持てるようなデザインが必要だと考えたのです。応募者の中から、ミーティングの中で自分の想いやアイデアを理路整然と語られていた江口さんにお願いしたいという意見で、社内が一致しました」と、春口さんは語る。

社員の言葉から会社のアイデンティティを導き出す

ブランディングプロジェクトは、2021年7月から本格始動。江口さんはまず、社員の話を聞くことからスタートした。本社から各工場までを回り、社長、副社長などの経営陣から、製造現場のスタッフまで、さまざまな立場の人から語られる、会社への想いや仕事で実現したいこと、会社の歴史などに耳を傾けた。そこからデザインの要素を導き出していったという。

「オーケー化成のアイデンティティとは何かを考える上で、まずは社員のみなさんから語られる言葉に、きちんと耳を傾けなければと考えました。話を聞きながら見えてきたのは、みなさんが自社の技術力はもちろん、小ロット・多品種に対応できる小回りの利く体制や、カラーデザインチームという顧客と直接対話できる独自の体制などを“オーケー化成らしさ”だと捉えられ、誇りに思われていることでした。そんな社員のみなさんの想いを大切にしながら、デザインに落とし込んでいきました」

そして完成したのが、深い青緑のコーポレートカラーと社名のロゴ。「深碧」と表現されるコーポレートカラーは、新しいものが生まれることを示唆する深海をイメージ。青と緑の中間という、あえて調色の難しい色味にすることで、オーケー化成の確かな技術力を表したという。ロゴは名刺や封筒、商品のパッケージ袋、工場の看板などへ展開され、視覚的な統一感が生まれた。社員の中にも自分たちの声や想いが形になったという喜びがあり、一体感が生まれていったと、春口さんは語る。

「こちらの話を丁寧に聞いてくださる江口さんの姿勢に、安心してお任せすることができました。私たちのアイデンティティは、デザインの随所に表現されています。例えば名刺や封筒に入っている一本の線。左から右に少しずつ細くなっているのですが、これは、江口さんが実際に着色ペレットの製造現場を見て、その工程から発想されたものです。このように、現場を知り、また素材の色合わせの難しさを実感されているからこそ、生み出されたロゴやコーポレートカラーだと感じています」

「DESIGNART TOKYO 2023」では青山のギャラリー会場に出展。什器のデザインも江口さんによるものだ。

素材メーカーとして初めて、デザインとアートの祭典に参加

2023年10月、オーケー化成は日本屈指のデザインとアートの祭典“DESIGNART TOKYO 2023”に初出展。会場には、4人のプロダクトデザイナーが再生・バイオプラスチックのCMFサンプルに、オーケー化成の技術を用いて着色・加飾デザインを施した作品が並んだ。「+STORIES」と題された展示会の会場には、9日間で約1,000人の来場者があったという。

「“プラスチックのロングライフデザインを考える”をテーマとして、初めて参加したこの展示会は、私たちにとって大きな挑戦でした。このテーマは“プラスチック素材をポジティブに捉え直す”という、ブランディングプロジェクトの際に考えていたコンセプトの体現だったとも言えます。素材メーカーの出展は前代未聞だそうですが、そこで感じたのは、再生・バイオ素材への人々の関心の高さでした」と、春口さん。

会場のディレクターとして、またプロダクトデザイナーとして参加した江口さんも、予想を越えた反響に驚いた。

「ヨーロッパの国々では、流通しているプラスチックのほとんどが再生・バイオ素材。この流れは数年後、確実に日本にもやってきます。それを見込んでのテーマ設定だったのですが、素材への関心はもちろん、オーケー化成という大阪の中堅規模のメーカーが、デザイナーとのコラボで出展し、自社の技術を使って美しい作品を生み出したということにも注目が集まったのだと思います。大成功でしたね」

会場に並んだカプセル型のCMFサンプルも、江口さんのデザインによるもの。このサンプルのデザインは、2024年1月に発売されたオーケー化成と日本流行色協会(JAFCA)とのコラボ制作による、白色だけのCMFサンプル「白の標本」にも使われている。透明度や質感、色味の違いによるさまざまな白を集めたサンプルは、発売以来、各業界から注目が集まっている。

色合わせが一番難しいという「白」に特化したCMFサンプル「白の標本」。2024年1月に発売されたVol.1 “MATERIAL”を皮切りに、Vol.4まで順次発売予定。

江口さんとの出会いが、オーケー化成を大きく前進させたと、春口さん。

「ブランドづくりによって視覚的に統一されたイメージが生まれ、そこから素材メーカーとしての可能性が大きく広がりました。社員たちの仕事への誇りにもつながったと感じています。今後も江口さんに伴走していただきながら、私たちの強みを活かして、さらに活動の幅を広げていきたいと考えています」

環境意識の高まりから、「脱プラ」が注目されて久しいが、現代の私たちの暮らしは、プラスチック素材なしには成り立たないということも事実だ。より地球にやさしく、より美しく。オーケー化成の挑戦は続く。

集合写真
左より、春口宏彰氏、江口海里氏

オーケー化成株式会社

営業部 部長
春口宏彰氏

https://www.ok-kasei.co.jp/

KAIRI EGUCHI STUDIO Inc.

プロダクトデザイナー
江口海里氏

https://www.kairi-eguchi.com/

公開:2024年3月29日(金)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。