メビック発のコラボレーション事例の紹介

斬新なキャッチコピー×息をのむ映像でブランドの世界観を表現
若手向け作業服ブランドのプロモーション映像

2024年春夏商品のプロモーション映像からのキャ王チャ画像

言葉が作る世界を映像に乗せ
店頭プロモーションを強化したい

まずは、予備知識を持たずにこのキャッチコピーを読んでほしい。「こいつ衿、立つってよ」「防寒コンプの王道たれ」「エリバキ仕様」。かなり尖った印象を与えるこれらの言葉、何に使われているか想像できるだろうか? 実はこれらは、若手職人をターゲットにした作業服ブランド「BOKURA WORKS」のキャッチコピーだ。

同ブランドを展開する寿ニット株式会社の大月孝也さんは、「当社がワーキングウェア市場に参入したのは後発。先行する競合と戦うには、商品や価格だけでは立ち打ちできない。だからこそ、言葉を大切にしているんです」と言い、印象的なキャッチコピーを載せて、カタログや商品タグなどを制作。このブランディングが功を奏し、小さな成功を収めつつあった。

「しかし、まだまだ課題も多くて、特に『売り場』での訴求は強めたい部分。一方で、Webでの発信力が必須の時代でもある。そこで行き着いたのが動画によるプロモーションでした」。店頭で流せば人を惹き付けられ、Webでの発信にも向いている。2023年3月16 日、映像クリエイターを探すべく、メビックの「かかりつけクリエイターを見つけよう!!」に参加。クリエイターが自身の強みを発表し、企業とのマッチングを図るイベントだ。

「デザインが動くと、心も動く。魅力を伝えるための映像グラフィック」というテーマでプレゼンテーションを行った寺坂さん。(2023年3月開催「かかりつけクリエイターを見つけよう!!」)

「このような場に立つのが初めてだったので、すごく緊張していました。CGと実写を組み合わせた勢いのある映像が得意で、プレゼンではこれまでの作品を披露させてもらいました」と語るのは、登壇者の一人だった株式会社miLun.の寺坂瑠菜さん。若干23歳(プレゼン時)という映像作家だが、高校生の頃からフリーランスとして活動し、大学卒業と当時に法人化。多くの広告映像やミュージックビデオなどを手がけ、海外のアワードも受賞する気鋭のクリエイターだ。

プレゼンで披露された映像の一つが、文字に動きを与えて表現する「リリックモーション」を用いた作品。これが、大月さんの心を鷲づかみにした。「縦横無尽に言葉が動く映像を見て、この人ならブランドの世界観を体現してくれる!と感じました」。プレゼン後の名刺交換会では、誰よりも先に寺坂さんのもとへ。翌日には正式に制作をオファーした。

「私も名刺交換の際に、なんて魅力的なブランドなんだろう!と印象に残っていたので、連絡をいただいてすごく嬉しかったです」と、寺坂さんも快諾。攻めの言葉を紡ぐブランドと、自在な映像で魅了するクリエイター界の新星。コラボの第一幕がクランクインされた。

イマジネーションと技術で具現化
想像を超えるプロモーション映像

制作することになったのは、2023年秋冬商品のプロモーション映像。映像の大枠は両者ですり合わせるも、どんなイメージの映像を作るか?という根幹は寺坂さんに一任された。「キャッチコピーが入ったタグやPOPなどを渡して、ブランドの世界観を理解してもらいました。その後はお任せ。“誰にお願いするか”の時点で最大限に厳選しているので」と、初仕事ながら絶大な信頼を寄せる大月さん。

「その想いに全力で応えたいと思いましたし、キャッチコピーを見た瞬間に、言葉が動いてるイメージが浮かびました」と奮う寺坂さん。クリエイターによっては、もっと明確に指示やディスカッションを必要とする人もいるだろう。しかし、この“お任せ”は、寺坂さんが本領を発揮できるオーダーでもある。なぜなら、音楽からイメージを膨らませて世界感を映像化していく、ミュージックビデオの制作経験が豊富だからだ。また、映像は企画から撮影、CG制作、編集まで寺坂さん一人で担当。5月に行われた撮影でも自らカメラを握った。

動画の撮影風景。右手前でカメラを握るのが寺坂さん。「一人で完結させることで、世界観がブレず良いものができると思っています」

6月末、まさに言葉が縦横無尽に駆け抜けるような映像が完成した。大月さんは映像を見た時の印象を「素晴らしい出来栄え! 本当に頼んでよかったと思いましたね。特にオープニングは完全に想像を超えていました」と興奮気味に語る。実は冒頭のシーン、大月さんが唯一リクエストした部分だったという。

「イメージとして“ネオ大阪”という言葉だけお聞きしました」と寺坂さん。大月さん自らが撮影した、淀川に掛かる十三大橋から梅田方面を映した映像をベースに、“お任せ”で光り輝く未来の摩天楼のように加工した。「クジラまで飛ぶなんて思っても見なかった(笑)。イマジネーションと、それを具現化するスキルが圧倒的」と、大月さんは絶賛する。この映像は小売店の店頭で流されたほか、公式YouTubeやInstagramでも公開され、大きな反響があったという。

2023年秋冬商品のプロモーション映像。冒頭を見ただけでは作業服ブランドの映像だとは分からない世界観とクオリティ。

プリント柄、カタログ、商品紹介
約一年の間にコラボレーションが発展

見事に成功を果たした第一幕。確かな手応えと寺坂さんのクリエイティブ力を確信した大月さん。コラボは第二幕、第三幕へと発展することに。

まずは、2024年春夏商品のプリント柄のグラフィック。「CGであれだけのビジュアルを作れるのなら、これまでにないグラフィックを作ってもらえるんじゃないかと思いました」と大月さん。「服のグラフィックは初めてでしたが、イチから丁寧に教えていただいたおかげで、新しいことに挑戦できました」と寺坂さんは言い、4柄10色分のグラフィックを制作。完成した商品は全国約800店で販売された。

続いては、2024年春夏商品の紹介映像。こちらは商談の際に見せる営業ツールで、商品の情報や特長を紹介していくシンプルなもの。約1分半の映像が10本作られた。

作例
カタログの表紙用に、動画素材を用いて新たなグラフィックを制作。奥の長袖Tシャツが今回制作した柄をプリントした完成品。

さらに、2024年春夏商品のプロモーション映像にも発展。第一幕に続く今作は、ハリウッドのヒーロー映画のようなイメージ。シリアスな世界観のなか、尖ったキャッチコピーとリリックモーションの組み合わせがさらなる緊張感を生んでいる。「商品を見た時に感じた熱意を具現化したいと思って、登場するモンスターもイチからモーションデザインして制作。前作よりもさらに気合が入ってます」と笑う寺坂さん。会心の作品はカタログの表紙にも起用され、映像とリンク。あらゆる場所で、コラボから生まれた世界観がブランドイメージを訴えている。

2024年春夏商品のプロモーション映像。お客からも好評で、店外の大型デジタルサイネージで流すことが決まったお店も。

原動力は「信頼し、応える」こと
シンプルな関係がクリエイティブを加速させる

約一年をかけて、さまざまな展開に広がったコラボ。二人はどのように感じているのだろうか?

「ブランドの世界観を映像化することによって、ブランドイメージがより強固になりました。従来は紙のカタログがプロモーションの軸でしたが、これからは映像が軸になる。転換が始まったと感じています。なにより、やってて楽しかった! 次のシーズンの映像も進行中です」と、充実した表情を見せる大月さん。

その言葉を受けた寺坂さんは、「私も本当に楽しかったです! ここまで信頼してくださるクライアントさんは、とても貴重。だからこそ、その想いを倍で返したい一心でした。大月さんに出会えて本当に良かった。一年を通じて『かかりつけクリエイター』という、言葉通りの存在になれたのかな」と振り返る。

取材の最後、大月さんは「これからの経営にはクリエイティブが必要。自社でここまでのクオリティの映像を作ったことが社員のモチベーションになり、クリエイティブマインドに火がつくことを願っています」とも語っていた。クリエイティブで価値を生むことを重要視する人は多いが、どれだけの人が実践できているのだろうか? 初めて挑んだブランドプロモーション映像の制作。成功の根幹には、相手を全力で信頼し、全力で応えるという、心のやり取りがあった。

次なる一手は、どんなコトバが躍動し、どんなイメージが駆けるのか。強い絆がある限り、「僕ら」の世界は、永遠に未完成だ。

集合写真
左より、大月孝也氏、寺坂瑠菜氏

寿ニット株式会社

企画担当
大月孝也氏

https://www.kotobuki-knit.co.jp/

株式会社miLun.

代表取締役 / 映像作家 / モーショングラフィックスデザイナー
寺坂瑠菜氏

https://lun-lun-lun.net/

公開:2024年3月29日(金)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。