メビック発のコラボレーション事例の紹介

ベビー肌着ブランド「天使のころも」で和泉和晒の良さを伝えたい。
天使のころも

鷺本晴香氏、武田清孝氏
鷺本晴香氏(左)武田清孝氏(右)

「染めない」「薬品を極力、使わない」デリケートな肌への思いやりをかたちに。

堺・泉州にて古来よりつくり続けられて来た、伝統的な「和泉和晒」。安価だが化学薬品を多用した輸入の「洋晒」が増えるなか、国産の和晒の良さをもっと知ってほしい。そんな思いから、明治時代から100年続く和晒メーカー武田晒工場の代表取締役、武田清孝氏が自社ブランド開発にのりだした。この春のデビューをめざす、ベビー肌着ブランド「天使のころも」である。
同社では初の試みとなるこのプロジェクトを全面的にサポートしているのが、メビック扇町を通じて出会ったという鷺本晴香氏。アパレル業界では、ブランドそのものをつくるというトータルプロデューサー的な役割を長年果たしてきた。その経験や人脈を生かし、今回のコラボレーションでは「天使のころも」というネーミングにはじまり、企画デザイン、製造にまつわる進行管理、展示会での設営、バイヤーへの売り込みにいたるまでを手掛けている。
そもそも、「晒」とは繊維の持つ天然の色素を抜き去り、純白にする(晒す)工程を経てつくられる繊維のこと。武田晒工場の横には石津川が流れており、戦後あたりまではこの川の流れに生地を浸し、晒していたという。当時、進駐軍が撮った航空写真を見ると、この界隈は川にたゆたう晒で真っ白に写っているのだとか。「晒を白く仕上げるために、現代では化学薬品を使っています。ですが、白さはそれなりでもいいから、極力、化学薬品を使わないものができないかと。そんな試行錯誤を重ねてできあがった晒から、今回のプロジェクトがはじまりました。薬品を使わないということは、もちろん、肌に優しい。最終的には、思った以上にやわらかく仕上がったものですから、ベビーのための衣料、なおかつ肌着に限定してやってみようと」
さらに、「天使のころも」最大の特長は、「染めていない」ということ。ブルーやピンクの肌着は生地を染めるのではなく、あらかじめ染め上がった糸を使って織ることで色を出している。
「プリントの場合は生地の上に色をのせることになるので、染料が肌にどうしてもふれてしまいますよね。さらに、染めたものというのはどうしても 洗ったときに色落ちするでしょう。その点、和晒は織った後に晒す、という工程を経ていますから、あらゆる不純物が全部落ちきっているんですよ。なおかつ、洗濯しても色が変わらない。洗えば洗うほどやわらかくなるのもいいところです」と自信をのぞかせる武田氏。
「よく武田社長がおっしゃるのが、『野菜は(水に)晒してから食べますよね。素材も晒さないと、使いものにならない』って……」と鷺本氏。他にない、高品質な和晒への思い入れを足がかりに、いよいよ二人三脚でのブランド開発がはじまった。

ベビー肌着のギフト
祖父母からお孫さんへの贈りものにするシーンなどを想定した、桐箱入りのギフトセット。和晒でつくられたベビー肌着のほか、おくるみやきんちゃく袋も。赤ちゃんが成長した後も、思い出の品とともに保存できる。

ベビー肌着に特化したラインナップで着実にファンを増やしていきたい。

プロジェクトが急ピッチで動きはじめたのは、2013年の9月に「東京国際ギフトショー」への初出展が決まったことがきっかけだった。初夏のスタートから準備期間が非常に短かったこともあり、鷺本氏は細かな調整に奔走することになる。
「アパレルというのは、各工程がそれぞれ独立した分業で仕事が進んでいきます。誰かにお願いして、仕上げてもらうという作業がとても多いんですね。生地を織るのも、パターンを引くのも、縫製も。ひとつの工程に遅れが出ると、次の担当者を待たせることになってしまいます。リレーみたいに、バトンを渡すまでを見届けるのが私の仕事。展示会に商品が並ばないと、バイヤーさんの手にとってもらえないし、世の中に出ていけません。今回は本当に綱渡りなスケジュールだったので、納期面ではかつてないほどスリリングな経験をさせていただきました(笑)」

新生児モデルの販促ツール
生後まもない新生児がモデルをつとめる販促ツール。現場では新しいいのちの輝きに皆が癒され、終始、和やかなムードで撮影がすすんだそう。

また、出荷する際のホルムアルデヒド検査も、ベビーのものは特に厳しい基準をクリアしなければならない。そのため、これまでにおつきあいのある工場ではなく、ベビー衣料を専門に手掛ける工場を鷺本氏が新たに探した。赤ちゃんのデリケートな肌に当たらないよう、縫い目をあえて表に持ってくるなど、縫製にもきめ細かなこだわりが。今後は新たなアイテムを開発するより、「ベビー肌着」に特化して着実にファンを増やしていくことを目標としている。
「たとえば、子育て中のお母さん同士のコミュニティで、『これがよかったよ』と口コミで自然に広がっていくような関係づくりができたらいいですね。何か疑問や質問があったら、ていねいに対応できるような……」と鷺本氏。
現在、おふたりが販路として考えているのは東京・代官山に増えている、ベビーのためのセレクトショップでの展開。昔は若者の街だった代官山だが、最近は若いママたちが子連れでお茶をしたり、ベビーカーを押してお散歩する街に変わりつつあるのだとか。
夢や希望そのものであるかのような新生児を、フワリと優しく包む「天使のころも」。ようやく産声をあげたばかりのブランドながら、この春からはつくる人、贈る人、使う人みんなに愛されつつ、健やかに成長していくに違いない。

参考画像

株式会社Meta-Design-Development

代表取締役
鷺本晴香氏

http://meta-d.com/

株式会社武田晒工場

代表取締役
武田清孝氏

http://www.takeda-sarashi.jp/

公開:2014年6月12日(木)
取材・文:野崎泉氏(underson

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。