メビック発のコラボレーション事例の紹介

実用新案を取得した新技術を「SORATAYORI」でファンタジックに表現。
SORATAYORI

福嶋賢二氏と薮野浩明氏
福嶋賢二氏(左)、薮野浩明氏 (右)

「窓付き封筒」の可能性を開く新技術をクリエイターに向けプレゼンテーション。

封筒の老舗として知られる緑屋紙工株式会社が、2013年春の「東京インターナショナル・ギフト・ショー」で発表した「SORATAYORI(そらたより)」
「晴れ」「雨」「くもり」の3種類があり、気まぐれに変わる空模様をファンタジックに表現したレターセットである。虹や雨粒を象った「窓」の部分にカラー印刷したフィルムが貼られ、付属の二つ折り便箋を入れる向きによって空の表情がさまざまに変わる。台紙のガイドに沿ってメッセージを書くことで、窓から言葉をのぞかせることも可能だ。1枚の封筒で送り手と受け手が何通りにも楽しめる、多くの仕掛けと遊び心が詰まっている。
二代目社長の薮野浩明氏は、ペーパレス時代に入り請求書やDMの需要が減りつつある中、封筒の新たな可能性を探っていたという。「これまで弊社は依頼主からデザインしたデータを受け取って、それを封筒に印刷するだけの完全な受注産業でした。ところが、次第にそれだけではビジネスとして成り立たなくなってきた。こちらからあらゆる可能性やサンプルを示すなどして、積極的に仕事をとっていかないといけない時代になってきたんですね。そのため、『封筒屋どっとこむ』という自社サイトでは『お客様作品集』としてユーザーの許可を得ておもしろい封筒の作例を紹介したり、同人誌で活躍する作家さん向けに『封筒専隊』というレターセット制作サイトを新たにオープンしたり……。さまざまな試みに挑戦しつつ、考えていたのが自社製品の開発ということでした」
そんな中、同社では「窓付き封筒」に使われるロール状のフィルムに印刷を施し、ピッチをぴったりと合わせて封筒に貼り付ける、という技術を開発することに成功。請求書やDMなどで既にお馴染みの窓付き封筒だが、フィルム部分は透明が基本で、色をのせたり模様を印刷したものはかつて存在しなかった。しかし、 透明フィルムと違って印刷済みフィルムは封筒一枚一枚に貼り付ける際の位置合わせが難しく、はじめに少しでもズレると何百枚と貼り付けていくうちに大幅なズレになってしまうのだそう。そこで職人たちと試行錯誤を重ねつつ、位置合わせのために既存の機械を改良。国内では緑屋紙工1社のみの技術となり、登録実用新案も取得している。2011年にメビック扇町でクリエイター向けにこの新技術をプレゼンテーションし、一緒にものづくりをしてくれるクリエイターを募った。そこで出会ったのが、普遍性と遊び心のあるデザインを得意とするプロダクトデザイナーの福嶋賢二氏だったのだそう。

SORATAYORI

デジタル&ペーパレス時代だからこそ、人の手ざわりや体温が感じられるものを。

何よりこの「他にない技術」というところに、強い興味を覚えたという福嶋氏。「SORATAYORI」は2011年11月より制作がはじまり、約7ヶ月をかけて完成した。
「これというものを持っていて、打ち出したいポイントが明確な企業様には、実はデザイナーとしても提案がしやすいんです。逆に、そこが曖昧だとお仕事の話があったとしても、的を得た提案をすることが難しくなってきます。この技術をシンプルに生かすことで、新しくて、おもしろいものができるのではないかと感じました。実は、最初の提案では窓部分の抜きが3パターンになるとコストがかかるから、ひとつに絞って欲しいというお話があって。『晴れ』1種類のみになってしまう危機があったんです(笑)。そこで、コストダウンするためにフィルムのサイズや抜きのポジションなどすべてを見直し、型はひとつで、3種類すべてに転用できるよう工夫しました」。リリース後は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の「MoMA STORE」の東京店とオンラインストアでの取り扱いもはじまった。世界中からグッドデザインをセレクトする「MoMA STORE」に販路を得たことで、緑屋紙工の職人たちにも誇りが生まれ、仕事への意識も少しずつ変わりつつあるそう。
「弊社のように小さな会社でも世界に通じるものづくりができるんだという自信に繫がりましたし、封筒の可能性を改めて感じられました。デジタルでペーパレスの時代だからこそ、人の手ざわりや体温が感じられるもの、封筒というアナログでできることを考えていきたいですね。文書や手紙を入れて“発送する”という実用一辺倒以外の部分にはまだまだ伸びしろがあるんじゃないかと」また、封筒という誰もが手にとる身近なものでありながら、どのような現場でどのようにつくられているのかがほとんど知られておらず、アイデア次第でかつてないデザインや質感の封筒ができるんだということを、若いデザイナーにもっと発信していかなければとも強く感じたそう。福嶋氏とは今後もパートナーとして、ぽち袋などの新しいシリーズを展開していく予定だ。
「ツイッターなどで短い言葉で思いを伝えるという文化は盛んなので、アナログの世界でも、ちょっとしたメッセージを手渡すおもしろい仕掛けが提案していけたらいいですね」と薮野氏。小さなサプライズを秘めた「SORATAYORI」は今後世界中のポストに届き、たとえば雨上がりの虹のように、たくさんの人を笑顔にしていくことだろう。

SORATAYORI
SORATAYORI
SORATAYORI
気まぐれに変わる空模様をファンタジックに表現したレターセット「SORATAYORI」。
印刷を施したロール状の透明フィルムを、寸分の狂いもなく封筒に貼り付けていくという新技術を最大限に生かしたデザイン。

KENJI FUKUSHIMA DESIGN

プロダクトデザイナー
福嶋賢二氏

http://www.kenjifukushima.com/

緑屋紙工株式会社

代表取締役
薮野浩明氏

https://futo-kobo.com/

公開:2014年5月8日(木)
取材・文:野崎泉氏(underson

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。