質感・経営・感情から生まれる「サイコーにちょうど良いデザイン」とは
クリエイティブサロン Vol.316 三宅右記氏

インテリアデザイナーとして店舗やオフィス、住宅まで幅広く空間づくりを手がけ、イベントの企画や運営にも携わる、ミギリデザイン合同会社代表の三宅右記氏。絵が得意だった内向的な少年が、誠実な仕事と人との縁を通して切り拓いてきた道のりや、信条である「サイコーにちょうど良いデザイン」について語った。

三宅右記氏

内向的な性格でも、表現を介してコミュニケーションがとれるように

「インテリアデザイナーって、どんな仕事だと思いますか?」。そんな問いかけからはじまった今回のサロン。「見た目を整える」「体験を設計する」「事業を前に進める」。この三要素すべてが必要だと語る三宅右記氏。

空間設計はデザインを整え、写真を撮って完成ではない。そこに集う人、特別な思いを持って訪れる人がいてこそ成り立つ。「写真では素敵だけど実際行くとそうでもないという設計にはしたくない。そして売り上げにもつなげたい。見た目の美しさだけでなく、数字としての事業成果と人の記憶に残る体験をいかに結びつけるかを日々探究しています」

そうした哲学を持つに至った三宅氏のルーツを紐解いていく。兼業農家の家に生まれ、広い庭には農具小屋があり、オモチャ代わりに農具で遊んだり、稲刈りが終わった田んぼでサッカーをしたり。そんな自然に包まれた暮らしが原風景としてある。「内向的な性格で、目立たない子どもだった」という幼少期、絵を描くことが好きで、数多く表彰もされた。

中学では音楽の才能が開花。ドラムやサックスをはじめる。内向的な性格は変わらなかったが、ドラムやサックスという音楽表現を介してコミュニケーションがとれることに気づく。高校に上がる頃には周囲も認めるほど上達しており、「自信が先走りしてドラムでプロになると宣言し、親に猛反対されました(笑)」

進学校では周囲についていけず、自信を完全に喪失。逃避先となったのは工芸やデザイン、サブカルの世界だった。ここで「素材フェチ」の素養が芽生える。ファッション誌の家具やインテリアの特集に惹きつけられ、気がつけばずっと眺めていた。「この頃からモノの質感やディテールへの興味が湧いてきて」。さらに美術部の同級生や仲の良かった先輩が美大に進むと、自身も美大受験へと舵を切る。

一浪後、念願の美大に入学。感覚だけでなく、物理的な制約の中で美しさを見つける訓練や、建築模型のように何もないところから空間をかたちづくるうちに寸法という概念や光や色について考える機会を得た。「一番楽しかったのは、人が動く様子が想像できる、そんな空間を設計している時でした」

最近の仕事として紹介された高級ワインバー「Salon du vin ivresse」。深緑の大理石で葡萄畑の木陰のような静けさを表し、ワインボトルがつくる小さなリズム、和紙が吸い込む柔らかな光、石材が生む穏やかさによって、余韻がゆっくりと深まっていく。

組織で働くことでぶち当たった壁「消去法としての独立」を選択

卒業後は百貨店などのディスプレイを中心に手がける設計・施工会社に入社。忙しさと社内で自分の提案が通らないことに対するいらだちから、少しずつデザインへの熱意を失っていく。唯一の救いは「三宅さんが担当で良かった」というクライアントの言葉。それだけが心を支え、自信をつなぎ止めた。

また施工も手がける会社であったため、リアルな現場や製造工場でのものづくりを体験。図面通りにいかないシーンにもたびたび遭遇し、深夜の現場でアイデアをひねり出して乗り切ることもあった。これは後に訪れる「限られた条件の中で最高を出す」思考の土台となり、対応力もついたという。

6年間在籍後、著名なインテリア設計事務所の東京支社へ転職。「前職は百貨店のワンコーナーのディスプレイしか担当しておらず、空間全体の大きな流れを考えることができなかったので苦労しました」。こちらでは多業態の現場経験を積み上げ、実務の引き出しも増えたと振り返る。

今後を考えた時、次は業界最大手クラスの企業への転職もありえたが、「組織の中で働くことの限界を感じていて」。消去法的に選択したのがフリーランスの道。けっして「夢や希望に満ちた起業」ではない。「資金も人的リソースもコネクションも最小限。 MacBookだけを抱えての独立でした」。当時33歳、「失敗したら、また組織に属すればいい」。そんな考えも心の片隅にあった。

ViCREA 新本社
本社移転にともなうViCREAのオフィス設計では、社員が働きやすい環境とともに顧客やパートナーとの交流を促し、アイデアが生まれる空間とした。「行きたくなるオフィス」として機能し、採用面でも大きな成果を得た。

空間には人の心を動かす力がある そして豊かな空間は人を幸せにする

「内向的な性格で営業は苦手」と語る三宅氏。独立後は仕事になるかは考えず、とにかく人と会い続けた。しかしながら、すぐに依頼がくる業種ではない。「独立当初はコネクションもないので、友人や知り合いの大工さんへの声かけから」

受けた仕事を確実にこなすことで信頼を生み、紹介で仕事が回るようになり、2022年の法人化後も、手厚い対応や設計した店舗の売上実績によって仕事を拡大していく。また「北浜蚤の市」や、レンタルスペース「LUCKYSHOP」など、主催者として人が集まる場を企画することで世界を広げていった。

イベントスペース「LUCKY SHOP」
中之島フェスティバルタワー・ウエスト1階にある、レンタルスペース「LUCKYSHOP」も運営。作家やこだわりの品をセレクトする店などがこの場所を活用している。

三宅氏が設計するうえで大切にしている、3つのこと。それは「質感」「経営」「人の感情」。

「質感フェチ」を自認するだけあり、人に与える視覚的な印象も考え抜かれている。「光によって反射や陰影のニュアンスを表現し、素材の見え方を光で操るというか。照明計画はもちろん、自然光の場合は窓の位置や時間ごとの光量も考えて。また距離も大切で、近くで見た時と遠くから眺めた時とでは違って見える質感のものを使うことが多いですね。そして直接手が触れる場所か、視線だけで感じる場所かも意識しています。身体的な接触をデザインするといいますか」

インテリアデザイナーのなかでも多様な素材を使っていると自負する。「料理にたとえるなら、コショウひとつでも世界各地のものを集め、料理ごとに配合を変えてブレンドするという話。お客さんから見たら隠し味レベルかもしれませんが、“なんか違う?! ”と感じてもらえたら」

次に経営。「続く・回る仕組みづくり」だ。立地や単価から逆算した設計だけでなく、動線計画にも重点を置く。物販なら買いまわりしやすく、飲食ならスタッフが働きやすい、写真には現れないが訪れればすぐわかるもの。最近手がけたワインバーでは、高単価のワインリストを持つ施主からの依頼で「空間が客を選ぶ」設計が求められ、結果「空間の居心地が良いので滞在時間が伸び、客単価アップに繋がっている」との声をいただいたという。

そして「人の感情」は、来訪者が「また来たい」と思う安心感や高揚感、余韻までをコントロールする。この3つが合わさってこそ、三宅氏のめざす、豊かに人生が楽しめる「サイコーにちょうど良いデザイン」へたどりつくという。

「北浜蚤の市」開催風景
街の雑貨店やグルメなどが集結するイベント「北浜蚤の市」2018年に第1回を開催して以来、上質な雰囲気を持つフリーマーケットとして人気も定着。

「立地」「客単価」「年齢層」設計の入口となる三要素

商業施設の場合、三宅氏がクライアントに必ず聞くことがある。立地と客単価と年齢層だ。これらの条件が明確になれば、迷わずスタートできるという。「立地はエリアの特性から、誰が、どう通る場所かを読み解きます。客単価が分かれば、どの程度のグレードを表現すべきか、もしくは高品質なサービスを求められているのか。さらに心地よい照明の照度や椅子の高さまで、ターゲットとなる年齢層によって変わってきますから」

こうしたロジカルな思考は、どのようにして身につけたのだろうか。「インテリアの世界にもスターデザイナーは存在していて、彼らは空間の組み立て方や発想がそもそも違う。ぼくはそんな思考回路ではない方法を考えている」。

そこで独自の方法論が生まれる。「店に入ったら内装の予算を見積もります。席数や広さを考慮すれば、おおよその客単価はわかる。そうした仮説と検証の繰り返しで確立していった感じですね。あとサービスによる付加価値を体感するためにプライベートで訪れたり。高級店に求められているのは、そうしたホスピタリティだったりしますから」

じつは三宅氏には「一番になりたい」という野心がある。「名前の右記は、右に記される人、最初に書かれる名前をさします。つまり“一番になれ”とか“人の見本になれ”という意味」。両親が名前に込めた想いは三宅氏の中で静かに、だが着実に育まれたようだ。

最近の悩みは今後の展開。現在、商業施設からオフィスや個人宅まで幅広く手がけているが、こうした経験を活かし、オールマイティな応用力を武器としたジェネラリストとなるか。あるいは得意なものに特化し、素材や質感を極めるスペシャリストの道を歩むか。「いずれにせよデザインだけでなく、実現と運用のプロセスまで責任を持ち、空間づくりの川上から川下まで一貫した思想で統括する。そして質感を軸に人と場所、人と人の関係性を築くのが、理想の働き方」。もちろんその根底には、「美しさだけでなく、ビジネスの数字と人の感情、そのすべてを『サイコーにちょうど良く』デザインする」という、三宅氏の哲学がある。

イベント風景

イベント概要

三つの視点で空間を考える。質感・経営・人の感情
クリエイティブサロン Vol.316 三宅右記氏

空間デザインの仕事は、単に「見た目の美しさ」を整えることだけではありません。本トークでは、私自身の過去・現在・未来を軸に、「質感」「経営視点」「人の感情」という三つの視点から、空間をどのように読み解き、再構成しているのかをお話しします。農家に生まれ、素材や光に敏感だった幼少期。百貨店設計や東京での修行を経て独立し、多様な業態を手がける現在。そして、これからの「結果の出るデザイン」に必要な考え方とは何か。空間づくりを主軸に置きながら、人と関わるための手段としてデザインを続けてきた、そのリアルなプロセスを共有します。

開催日:

三宅右記氏(みやけ ゆうき)

ミギリデザイン合同会社 代表
インテリアデザイナー

幼少期から素材・光・質感に強い刺激を受け、大学ではインテリア・家具造形を中心に学ぶ。卒業後、百貨店や物販、飲食、ホテル等の多ジャンルで空間設計を経験し、東京・大阪で実務を積んだのち独立。質感・経営・人の感情という三つの視点を軸にした「サイコーにちょうど良いデザイン」を信条とし、事業の成果と長く愛される空間の両立を大切にしている。また、北浜蚤の市やLUCKYSHOPなど、地域コミュニティに関わる活動にも注力し、デザインを通して人と対話することをライフワークとしている。

https://www.migiri.jp/

三宅右記氏

公開:
取材・文:町田佳子氏

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