「体験のデザイン」がロボット技術を発展させる
クリエイティブサロン Vol.171 小泉智史氏・手嶋耕平氏

IoTやロボット、AIといったキーワードに代表される、最新のテクノロジー。その進化はますますスピードアップしており、数年前では想像もつかなかったような社会が現実のものとなっています。一方で、革新的な技術に思えても普及に至らず、表舞台から消えていくものも。その成否を分ける要因の1つとして、「クリエイティブ」の力があるかもしれません。先端のロボット技術とクリエイティブの関係について、ロボットの研究者である小泉智史氏と、元コピーライターでありテック系ベンチャーの支援・育成に取り組む手嶋耕平氏が語りました。

小泉智史氏と手嶋耕平氏

テクノロジーはつながり合って1つのサービスに

小泉氏
まずは私から、私自身が取り組んできた研究も交えながら近年のロボットテクノロジーのトレンドについてお話しします。

ロボットといえば、真っ先にヒト型のロボットを思い浮かべるかもしれません。見た目こそヒト型ではなくても、さまざまな外観をしたロボットがあります。これらは「ビジブル型ロボット」と呼ばれています。それとは反対に、街の景色に溶け込んで一般には意識されにくいロボットもあります。防犯カメラや各種のセンサーがこれに該当し、「アンコンシャス型ロボット」と言われています。さらに、スマホ上などで動くキャラクターの中には、ロボットと呼べるものもあります。こちらは「バーチャル型ロボット」と呼ばれています。これらの種類の異なるロボットが、ネットワークを介してつながり合い、1つのサービスを作り上げるのが近年のテクノロジーの方向性です。これは「ネットワークロボット」と呼ばれています。

例えば私が取り組んだ実験のなかに、ロボットが仮想的に作り上げたコンビニ店内を案内するというサービスがあります。店内には、お客さんやロボットの位置を認識するためのセンサーのほか、商品が棚から持ち上げられたことを示すタグやセンサー、お客さんの視線を把握するためのカメラなどが設置されました。仮にお客さんがおにぎりを手にしたとすると、その情報はセンサーで把握され、ネットワークを介してロボットに伝えられます。そしてロボットが、「お茶もいかがですか」とレコメンドをするのです。これが、ビジブル型ロボットとアンコンシャス型ロボットがネットワークを介して1つのサービスとなった状態です。ちなみにこの実験では、約2割の売上向上が確認されました。

この他に、科学館で子どもたちを案内するロボットや、高齢者の買い物をサポートするロボットなど、さまざまな実験を行いました。こういった実験から浮かび上がった課題の1つが、ロボットの「人間らしさ」です。ロボットの言葉遣いや身のこなしなどに対して、私たちはときに違和感を覚え、ときに自然なものとして受け入れます。その差が何であるかを考え、“人間らしさ”を作っていくには、必ずしもロボットの専門家の力だけでは十分ではありません。ここに、クリエイターの力が不可欠だと感じています。

ロボットの実証実験の様子
スーパーでの高齢者の買い物をサポートするロボットの実証実験

クリエイターによる「ユーザー体験の設計」に期待

手嶋氏
私からは、テック系ベンチャーの支援という立場からお話しさせていただきます。

先端技術がビジネスとして花開いている一方で、技術的には優れていながらもビジネス面での成功を収められない例もたくさんあります。失敗例の多くは、技術から出発したシーズオリエンテッドです。そこには、ユーザー視点、ユーザーの体験が抜け落ちています。そして、この課題を解決してくれる存在こそが、クリエイターです。
テクノロジーとビジネスという領域を見つめたとき、クリエイターが果たすべき役割は「ユーザー体験の設計」です。このテーマに基づいて私たちが取り組んだ実験として、2016年にATCで行った「ロボットストリート」があります。この実験は小泉さんが率いる研究者チームと協同で行いました。

ATCには大型の免税店があり、外国人がたくさん訪れます。ただ、免税店“だけ”が目的になっており、施設全体の回遊性は悪いという課題がありました。そこで、ロボットを用いることで施設の回遊性を高めるという「体験のデザイン」に取り組みました。
具体的には、施設内各所に翻訳ロボットを配置しました。このロボットはネットワークを介して実際の通訳とつながっています。さきほどの小泉さんのお話にあった「ネットワークロボット」の一種です。翻訳ロボットの存在により、利用者は施設内で快適に過ごせるようになり、回遊性が高まりました。また、施設内の中間地点付近には、ステージロボットを配置しました。時間が来るとこのロボットたちは歌って踊るのです。この場所にロボットを配置したのは、施設の“ラスト・ワンマイル”に誘導するためです。この実験は、「どこに、どんな仕掛けがあればお客さんは動いてくれるか」という設計を行い、それを実現するためのテクノロジーとして、ロボットを用いたと言うことができます。

なかでも印象的だったのが、ステージロボットの開発にあたってのクリエイターの役割です。「歌って踊るロボット」づくりにあたっては、プロダクト、グラフィック、ゲーム、音楽などのクリエイターと協働しました。

研究者とクリエイターでは、考え方や発想がまったく異なります。例えば、ロボットが踊る際の体の“キレ”なんて、研究者は気にもしません。でも、クリエイターにとっては、そこは譲れない。こういう場合は、クリエイターの意見を採用するのがいいです。「おもしろさ」や「ユーザーの満足度」に関しては、クリエイターに任せてしまうんです。もちろん、技術的には難しい要望が上がってくることもあります。でも、それを実現してしまうだけの技術力や知見を持っているのが研究者たちです。ちなみに私の体験上、最初は「そんなことできない」「そんなことにこだわって何の意味がある?」と懐疑的だった研究者も、実際にクリエイターの提案を形にしてみると、「おもしろい!」と言うケースがほとんどです。

サロンの様子
「ロボットストリート」2016年 ATC

新たな課題は「不気味の谷」!?

小泉氏
最近話題となっているテクノロジーをいくつか紹介します。

■アバターロボット「JET」
日本航空が開発を進める、空港内の案内ロボットです。ユーザーがロボットに質問すると、その情報はロボットに搭載されたカメラやマイクを通して遠隔地にいるオペレーターに伝えられます。それを受けてオペレーターは質問に答え、ロボットを介してユーザーへと伝える仕組みです。2019年4月には羽田空港で実証実験が行われました。

■Geminoid
ご存知の方も多いでしょう。大阪大学の石黒浩教授による、本人に酷似した外見を持つロボットです。Geminoidの前身であるAndroidは百貨店で案内係を務めたり、病院で看護師役を務めたりと、実社会での実験も行われています。ロボット分野に限らず、技術の発展にはしばしば大きな壁が現れます。いま、Androidを生み出したことで現れたのは、「不気味の谷」です。あまりに人間そっくりで、でも人間ではないもの(動かないもの)に対して、私たちは不気味さを感じてしまっています。これをどうやって克服するかが、課題の1つになっています。

■Amazon Robotics
物流業界でもロボットの活用が進んでいます。その代表格と言えるのがAmazon Roboticsです。この仕組みでは、「ドライブ」と呼ばれる自走式のロボットが、必要な商品が収納された可動式の商品棚を作業者の元に運んできてくれます。そして、商品をピックアップしたら、今度は自分で商品棚を元の場所に戻してくれます。作業者は倉庫内を歩き回って商品を集める必要がないので、作業のスピードと正確性が高まっています。

■MAMORIO
現時点で最も売れているIoT製品と言われています。MAMORIOは、専用のタグを用いて落とし物・忘れ物を見つけやすくしたり、行方不明のペットを捜索しやすくするサービスです。ユニークなのは、MAMORIOのユーザーが、他のユーザーの落とし物探しに協力できることです。どういうことかと言うと、MAMORIOのタグは、周囲にあるタグの情報をキャッチする機能も備えているのです。キャッチしたタグの情報はネットワークを介して落とし主に伝わります。こうすることで、「たまたま落とし物のそばを通りかかった人からの情報」などをたよりに、落とし物探しが可能になります。

手嶋氏
この他にも、医療や障害者の社会参加、セキュリティなど、さまざまな分野に最新のテクノロジーが応用されています。テクノロジーは「不便」を「便利」や「快適」に変えていくものです。だたし、その過程で「面倒」が生じると、テクノロジーを使うよりは現状のままでいることを選んでしまいます。そこで、面倒を乗り越えるだけのモチベーションが必要になります。それは最終的な便利さや快適さはもちろんですが、そこに至る過程の楽しさやワクワク感でもあります。ぜひともクリエイターの力で、楽しさやワクワク感を生み出してもらいたいと考えています。

※その他に紹介された事例
LAVOT
ATR「ロボビー」
InTouchHealth
オリィ研究所
akerun

サロンの様子

公開日:2019月11月18日(月)
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ

小泉智史氏(こいずみ さとし)

一般社団法人i-RooBO Network Forum
プロジェクトコーディネーター

東京工業大学大学院総合理工学研究科にて、博士(工学)を取得後、2000年から、関西を中心に研究活動に従事。科学技術振興機構(当時科学技術振興事業団)のCRESTデジタルシティユニバーサルデザインプロジェクトに参加。その後、大阪大学大学院工学研究科の特任准教授として、生体ゆらぎを利用したロボット技術の研究開発に従事し、現在、株式会社国際電気通信基礎技術研究所にて、ネットワークロボット技術の研究開発及び企業からの委託研究開発に従事する。また、研究開発活動だけでなく、スタートアッパーや企業内新規事業開発を支援すべく、i-RooBO NetworkForumと大阪産業局が共同体となって推進しているAIDORアクセラレーションプログラムの専門コーディネータとして活動する。

小泉智史氏

手嶋耕平氏(てしま こうへい)

公益財団法人大阪産業局 IoT・RTビジネス推進部部長

コピーライターとしてキャリアをスタートさせ、技術系企業のマーケティング支援などを担当。その後、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)にて大阪イノベーションハブのプロモーション業務を担当。ロボット関連知財を活用した事業創出、ベンチャー企業を核とした「イノベーション・エコシステム」の形成に取り組む。現在はテクノロジー・ビジネスの支援拠点「ソフト産業プラザTEQS」の事業統括として、テック系ベンチャーの支援や起業家育成を行なっている。

手嶋耕平氏

イベント概要
テクノロジーを社会に届けるのは、クリエイティブの力
クリエイティブサロン Vol.171 小泉智史氏・手嶋耕平氏

テクノロジーの進化は速く、IoTやロボット、AIといったキーワードにくるまれ、5年前では想像もつかなかった便利を生み出しています。一方で、ベンチャー企業を中心に、様々な製品やサービスが日々、生み出され、失敗しています。成功する製品、失敗する製品。その差は何でしょうか。もしかすると、「クリエイティブ」が関係しているのでは? そんなあたりを、クリエイターの皆さまと議論したいと思っています。

開催日:2019年9月12日(木)19:30〜21:00
会場:メビック扇町