クリエイティブは職種を越えて
〜「プロの価値」ってなんだろう?〜
3団体 3世代 トーク3昧 第4弾 APA×JAGDA×OCC in Mebic

日本広告写真家協会(APA)関西支部、日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)大阪地区、大阪コピーライターズ・クラブ(OCC)の3団体から、年代の異なるスピーカーを迎えて繰り広げるトークバトルも、今年第4弾を迎えた。互いの親睦を目的に行ってきたイベントは、本当に相互理解を生み出したのか?「憎しみを生み、激しくいがみ合う原因となっていった」という噂は本当か?! 今回は団体ごとに世代の異なる3人が登壇し、そこに残る2団体のモデレーターが話を斬り込むという形式で、熱いトークが繰り広げられた。

フライヤー

OCCの部:「心に響く言葉」ってなんだ?

「OCC」ロゴ

スピーカー
上野妃都美氏

[若手]上野妃都美氏(株式会社大広 / プランナー)

重泉祐也氏

[中堅]重泉祐也氏(株式会社モノリス / コピーライター)

田中功氏

[ベテラン]田中功氏(トラコム株式会社 / コピーライター)

モデレーター
石田ひろあき氏

[APA]石田ひろあき氏(POP.photography / フォトグラファー・ビデオグラファー)

鈴木信輔氏

[JAGDA]鈴木信輔氏(bold / グラフィックデザイナー)

石田ひろあき氏
石田(MC)
こんにちは。OCCの部のMCをさせていただきます、フォトグラファーの石田です。僕はカメラマンですが、案件にはできれば企画から参加したいなと思っています。今日はよろしくお願いします。

鈴木信輔氏
鈴木(MC)
同じくMCの鈴木です。僕はグラフィックデザイナーですが、お客さんと話し合って企画から考える仕事も多く、コピーライターさんの本音が聞けるこの機会を楽しみしていました。よろしくお願いします。

石田ひろあき氏
石田(MC)
ではさっそく、自己紹介からお願いします。

上野妃都美氏
上野(若手)
私はテレビCMやウェブ動画などの企画やコピーを制作しています。かわいいらしいイメージ、ちょっと笑えるような面白い企画をつくるのが得意です。

重泉祐也氏
重泉(中堅)
僕の場合は、ポスターや新聞広告などの仕事が多いです。商品のネーミングやコンセプトづくりなどから関わる仕事もあります。

田中功氏
田中(ベテラン)
私は企業の求人広告を主に手がけています。合同説明会の企業ブースや面接会場のポスターなど、企画から考えることが多いです。

石田ひろあき氏
石田
ではまず、みなさんがどんなふうに日々仕事に取り組まれているのかを教えてください。

田中功氏
田中
僕は求人広告を制作しているので、「その会社がどんな会社か」を伝えるため、取材を基本に制作しています。取材の際に出会う言葉からアイデアが生まれることも多いです。僕がコピーを書かないこともあるくらいで……。

石田ひろあき氏
石田
えっ! どういうことですか?

田中功氏
田中
取材先で、実際にその現場で働いている人の素敵な言葉に出会うことがあります。何十年もその道で働いてきた人の言葉は、その仕事の真髄をついていてとても強い。だからいい言葉に出会ったら、その言葉をそのままキャッチコピーにすることがあるんです。

鈴木信輔氏
鈴木
なるほど。どの言葉をセレクトするかというところにプロの視点が必要ですね。

重泉祐也氏
重泉
僕は逆に考え抜くタイプですね。資料を読み込んで、まず100本のコピーを書く。その上で自分が合格点と思うものを20案選んで、それを上回るコピーをまた100本書いてというのを3回くらい繰り返します。

上野妃都美氏
上野
私は案件の説明を聞いた後は、とにかくそのことについて調べまくります。そこでちゃんと納得してから企画やコピーを考えるようにしています。

石田ひろあき氏
石田
みなさん少しずつ取り組み方が違いますね。それは仕事への信念というべきものなのでしょうか。

田中功氏
田中
信念というと、一昔前は誰もが「メディアは正しい」と信じていました。でも最近はフェイクニュースが社会問題になっているように、メディアが信用されにくくなった。広告も「嘘じゃないか」という見方をされる時代です。その中で私はきちんと事実に基づいた表現をしたい。当たり前のことですが、これってなかなか難しいと思うのです。

重泉祐也氏
重泉
こんな話を以前テレビで観たことがあるのですが、ある公立高校のバスケ部が、毎年のように県大会の決勝まで勝ち進むのに、最後にいつも強豪校に負けて全国大会に出られない。そこであるシーズンに「ブレイク・ザ・ジンクス(ジンクスを破ろう)」と言うスローガンを自分たちで立て、その言葉を全部員とスタッフで共有して活用したそうです。そうすると本当にジンクスを破って全国出場を決めた。自発的に出てきた言葉がチーム内でしっかり機能しているなと。こんなふうに、きちんと機能する言葉を提案したいといつも思っています。僕はスポーツ好きでもあるし、チームのスローガンをプロの視点で提案できるといいなと思ったりもします。

鈴木信輔氏
鈴木
面白い話ですね! 最近では「マス広告は機能しているか」という議論をよく聞きますよね。ものが売れるプロセスにおいても、コミュニティや個人からの口コミやシェアという形で盛り上がっていくことが多いと僕も実感します。そういう意味で、チームのスローガンを自分たちで見つけたという話はすごく今っぽいなと。みなさんが「今の時代に広告がどのように人の心に響くのか」ということについて、考えていることがあれば教えてほしいです。

上野妃都美氏
上野
私の場合は、新聞やテレビなどのマス広告と同時に、他の媒体との組み合わせで展開するキャンペーン案件も多いのですが、組み合わせ方によって響く言葉が違うと思っています。だから媒体によってコピーを変えることもあります。

重泉祐也氏
重泉
単に媒体が弱くなっているというのではなく、表現の仕方次第で、マス広告にもまだまだ可能性があるんじゃないかな。僕の場合は、新聞広告にあえて広告っぽくないコピーを提案することもあります。意外性を狙うことで、表現に意外性や新しさが生まれることもあるかなと。

田中功氏
田中
私の場合は、先ほど話したように、取材で出会ったものや言葉をもとにコピーやコンセプトを考えます。だから取材の際に、いかに自分のアンテナを張って、求職者の心に響くものに出会うかがすごく重要です。ずっと昔、取材でモデルガンの設計・製造会社に行ったことがありました。取材後にその会社の中を見渡すと、モデルガンの設計図が壁に貼ってあるのを偶然見つけたんです。「この会社の魅力を表現するものはこれだ!」とピンときて、設計図を求人広告のビジュアルに使わせてもらい、それに合わせてコピーをつくりました。今ではできないようなギリギリの表現だったのですが、当時そのコピーで賞をいただきました。その会社に勤める人たちにとっては日常の風景であっても、見る人によっては新鮮な景色や言葉として心を動かすことがある。そういう視点や感性を持っているかどうかは、プロとして大切ですね。

石田ひろあき氏
石田
すごいですね! その広告見てみたいです。最後に仕事に対する希望や決意を聞かせてください。

上野妃都美氏
上野
一人で考えると思考が狭くなりがちだなと思っています。だから、いろんな立場の人たちとアイデアを出し合いながら、より楽しい企画を作っていきたいと思っています。これからも世の中の動きに敏感に、そして日々の生活を大切に、人としてきちんと生きていきたいです。

田中功氏
田中
私は良心を持って事実を伝えていきたいと思っています。情報を発信する側は、ついつい発信者都合の言葉に陥りやすいものですが、中立的な立場で情報を集め、それにプラス新しい視点や新しい表現という価値を加えて伝えたいですね。

重泉祐也氏
重泉
リアルな話になりますが、広告業界をはじめ、クリエイティブ業界は全体的に単価が下がってきていますよね。そうなると若い人も入って来ないし、みんな目線が下がってきてしまう。誰かが安売りするとそれが基準になってしまいます。だから自分の仕事を安売りせずに、がんばって稼ぎましょう!と言いたいです(笑)

石田ひろあき氏
石田
そうですね。プロとしての誇りを持って、しっかりお金を稼ぎましょう! 今日はありがとうございました。

第一部

APAの部:「独自性(オリジナリティ)」ってなんだ?

「APA」ロゴ

スピーカー
岡本卓也氏

[若手]岡本卓也氏(plus be / フォトグラファー)

中山英理子氏

[中堅]中山英理子氏(株式会社ケイエスティクリエイションズ / フォトグラファー)

小川幸三氏

[ベテラン]小川幸三氏(無限像企画 / フォトグラファー)

モデレーター
坂口二郎氏

[OCC]坂口二郎氏(株式会社アンクル / クリエイティブプロデューサー)

峠田充謙氏

[JAGDA]峠田充謙氏(デザイン峠 / グラフィックデザイナー)

坂口二郎氏
坂口(MC)
こんにちは。MCをさせていただきます、コピーライターの坂口です。今日は「憎しみ、いがみ合う原因になっていったと噂されている」というテーマにふさわしく、遠慮なく踏み込んだ質問をさせていただきたいと思います(笑)

峠田充謙氏
峠田(MC)
同じくMCをいたしますグラフィックデザイナーの峠田です。ではまず自己紹介からお願いします。

岡本卓也氏
岡本(若手)
僕は祖父がカメラマンだった影響で、幼い頃から写真が身近にありました。仕事としては、ファッションや美容関連の仕事が多く、モデル撮影を得意としています。高校時代に写真部に入ったのをきっかけに本格的に写真が好きになり、芸大で写真を勉強して今に至っています。

中山英理子氏
中山(中堅)
私は元々デザイン会社に勤めていたのですが、当時よく一緒に仕事をしていたカメラマンの女性アシスタントに憧れて、カメラマンに弟子入りしました。仕事としては、女性が被写体となるモデル撮影などの案件が多いですね。

小川幸三氏
小川(ベテラン)
私は高校生の時に広告代理店でアルバイトをしていて、広告の面白さを知りました。当時の広告業界は、まるで現代アートのように新しい表現がどんどん生まれていました。高校生の私は広告の世界に魅了されて、カメラマンとして挑戦したいと思いました。百貨店のカメラマンを経て独立し、今は仕事をしながら作品制作もしています。

坂口二郎氏
坂口
ありがとうございました。ところでみなさん、僕はカメラマンから見積を頂いた時に、金額にびっくりすることがあるんです(会場笑い)。責めているわけじゃなくて……写真の値段の正当性を教えていただけたらと。

中山英理子氏
中山
まず、カメラマンって機材にすごく投資しているんです! たとえばモデル撮影で言うと、ポーズの合間にシャッターを切れるかどうかがすごく重要です。決まったポーズだけ撮っても躍動感が出ません。だからカメラはもちろん、ストロボもそれなりのスペックのものが必要です。
もう一つ、デジタルになって、カメラマンにもある程度のデータ処理を求められるようになりました。一件仕事を受けたら、同じ日にもう一件仕事は入れられないし、毎日撮影を入れるとデータ処理が追いつきません。基本的に2つ以上の仕事を同時進行できないんです。トータルで考えると、結構大変なんですよ。

岡本卓也氏
岡本
撮影の仕事は常にライブで、値段はその安心料だと思っています。現場で僕たちは、プロとして最高の瞬間を切りとらなければならない。そのために信頼できる道具が必要で、そこにお金をかけているんです。現場には必ずサブカメラを持って行きます。万一メインカメラにトラブルがあると、一番いい瞬間を撮り逃すからです。そんな不安定要素がたくさんあって、カメラマンはその全てに保険という意味で投資をしています。そこがデザイナーやコピーライターとは違うんじゃないかな。

坂口二郎氏
坂口
説得力がありますね!

小川幸三氏
小川
デジタルカメラになって、誰でもそれなりの写真が撮れるようになりました。でもだからこそ、カメラマンは、プロとして「自分にしか撮れない世界」というものを大事にしないといけません。僕は、依頼された仕事は、他の誰も撮れないから頼まれたと思っている。だからディレクターの想像以上の写真を撮ろうと思う。その人がなぜ僕に発注したのか、意図をどうくみとるか。以前、僕が撮った写真を見て、涙してくれたディレクターがいました。そうなるとギャラも納得してもらえますよ(笑)

峠田充謙氏
峠田
ところで、仕事の流れの中ではコピーライターやデザイナーなどが企画を練って、カメラマンは最後の段階で声をかけられるというケースが多いと思います。一方で企画から参加したいというカメラマンさんもいるようですが、その点みなさんはどうですか?

中山英理子氏
中山
私は撮影現場からの参加でいいと思っています。コンセプトなどから考えると、カメラマンとしてはちょっとしんどいかな。現場で撮り方の提案をしていくというスタイルで頑張ります!

岡本卓也氏
岡本
僕も「カメラマンは技術で解決する」というスタンスでやっています。逆にコンセプトまで口出ししてはいけないとも思っています。

小川幸三氏
小川
企画の提案というわけではないですが、僕は打合せにはできるだけ顔を出すようにしています。打ち合わせで撮影の詳細が分かることも多いので。カメラマンも打合せに出られる機会を作ってあげてほしいですね。

峠田充謙氏
峠田
そう考えると、作品づくりは自分の企画とも言えますよね。作品では普段の仕事ではできないことをされているのですか?

小川幸三氏
小川
僕の場合は、作品づくりは自分の技術を見せるためであり、写真に対する自分の考え方の提示でもあります。そこで発信する独自性が、結果として仕事を生み出したり、仕事に活かされたりすることも多いですね。

中山英理子氏
中山
私の場合は、作品で仕事とは違うことをやってみたいというのはあります。女性カメラマンっていうと柔らかいイメージの写真を撮ると思われがちだけれど、それだけじゃないことを作品で表しているところもあるかもしれません。

岡本卓也氏
岡本
僕も作品づくりでは撮りたいものを好きなように撮っています。その時の自分が何を撮りたいのかを確認するための、道しるべのようなものですね。

小川幸三氏
小川
商業カメラマンの役割は、企業の商品やサービスの写真を撮って世の中に提示することです。企業と消費者との仲人のようなものですが、重要なのは、その時の世の中のニーズやクライアントの意図などを理解した上で、商品やサービスの魅力を的確に表現すること。そこがプロと素人の違いです。そう考えると商業カメラマンも自分のポリシーや考えを持たないといけない。作品については、自分が社会に対してどのような視点を持って被写体を選び、カメラを向けているのかということが問われる。自分の社会観が写真に表れるから「自分にしか撮れない世界」、つまり独自性(オリジナリティ)が生まれるのです。そこが写真の面白さでもあり、怖さでもあります。

坂口二郎氏
坂口
まだまだ話を聞きたいのですが、そろそろ時間です。この続きは交流会で聞かせてください!

峠田充謙氏
峠田
今日はカメラマンさんたちの本音をじっくり聞くことができた貴重な機会でした。どうもありがとうございました。

第二部

JAGDAの部:「創造性(クリエイティビティ)」ってなんだ?

「JAGDA」ロゴ

スピーカー
仙石吉徳氏

[若手]仙石吉徳氏(sengoku design / グラフィックデザイナー)

上田ゲン氏

[中堅]上田ゲン氏(nanany / アートディレクター・デザイナー)

高橋善丸氏

[ベテラン]高橋善丸氏(株式会社広告丸 / グラフィックデザイナー)

モデレーター
奥脇孝一氏

[APA]奥脇孝一氏(オクワキスタジオ / フォトグラファー)

わきたけん一氏

[OCC]わきたけん一氏(KITEKI / コピーライター)

わきたけん一氏
わきた(MC)
こんにちは。JAGDAの部でMCをさせていただきます、コピーライターのわきたです。普段デザイナーさんたちと組んで仕事をすることも多いので、今日は本音を聞かせていただけるのを楽しみにしてきました。どうぞよろしくお願いします。

奥脇孝一氏
奥脇(MC)
カメラマンの奥脇です。今日はよろしくお願いします。先ほどみなさんの出身地がそれぞれ異なるという話を聞きましたので、まずそれぞれの故郷に対する想いと、そこからデザインの世界に入ってきたストーリーをお聞かせいただければと思います。

仙石吉徳氏
仙石(若手)
僕は島根県出身です。おしゃれな店も娯楽もない小さな町で育ち、若い頃はそれを嫌だと思っていましたが、最近島根の仕事に関わって、いいところがたくさん見えてきました。これからはもっと地元に目を向けていきたいと思っています。デザインの道を目ざすようになったきっかけは、子どもの頃にイラストを描くのが好きだったことかな。仕事としては、ロゴマークやパッケージの他、展覧会のブースなども手がけています。

上田ゲン氏
上田(中堅)
僕の生まれは青森県ですが、父の仕事の関係で、神奈川県、山口県と千葉県などいろいろな場所で育ちました。高校時代に京都に移り住んで、以来関西で暮らしています。僕も絵を描くのが好きで、子どもの頃は漫画家になりたいと思っていましたが、大学卒業後に就職した会社の縁で、デザインの世界に入りました。仕事としては、パンフレットなどの紙媒体、ウェブサイトや動画、キャラクター制作などをしています。

高橋善丸氏
高橋(ベテラン)
私は富山県出身です。最近、地方都市にもADC(東京アートディレクターズ・クラブ)が多く立ち上がっていますが、ADC賞の作品の中でも富山ADCの作品を見ると、感覚的に通ずるものがあると感じます。富山県民のDNAでしょうか(笑)。元々は広告を主体に仕事をしていましたが、近年ではデザイン教育と平行して、書籍をつくっています。編集企画から執筆、本文の文字組み、必要に応じて撮影、イラスト、装丁デザインという工程を、全て一人でやっています。受注案件としては、まちづくりのサイン計画やチャリティーイベントのアートディレクター(AD)なども行っています。それから最近、中国の櫛メーカーからプロダクトデザインを頼まれて、「善丸コレクション」というブランドをプロデュースしました。

わきたけん一氏
わきた
ありがとうございました。ところで、高橋さんは肩書きを「グラフィックデザイナー」とされていますが、上田さんは「アートディレクター / デザイナー」とされていますね。みなさんは肩書きについて、何か思い入れはありますか?

仙石吉徳氏
仙石
僕の場合は、平面の仕事が多いという理由で「グラフィックデザイナー」という肩書きにしていますが、最近は展示会ブースなど、立体の仕事も手がけるようになりました。でも今のところ、肩書きに特にこだわりはないかな……。

上田ゲン氏
上田
グラフィックデザイナーを続けていくと、アートディレクターになって、次にクリエイティブディレクターになってと、経験とともに肩書きが変わっていくみたいなイメージがあって。今の自分には「アートディレクター」がちょうどいいかなと思っています。

高橋善丸氏
高橋
アートディレクター(AD)とグラフィックデザイナーというのは明らかに役割が違います。ADは制作の指針をつくり全体を管理する役割、グラフィックデザイナーは表現をする役割。自分自身がどこにアイデンティティを持っているかということだと思います。上田さんのおっしゃるように、経験の浅いうちは ADはできませんね。グラフィックデザイナーとして経験を積みながらADへと成長します。ただ、それは仕事のジャンルによっても異なります。広告のようにチームワークが必要な仕事には、ADの役割はとても重要です。でも最近の私の書籍づくりのように、表現を一人で完結できる仕事においては、ADよりもグラフィックデザイナーを名乗る方がふさわしいと思っています。
もう一つは、肩書きを名乗る相手が誰かということも大切ですね。クリエイティブ業界について何も知らない人に対しては、グラフィックデザイナーという、社会の中での役割を名乗る方が親切でしょう。

奥脇孝一氏
奥脇
すごく分かりやすい説明ですね。ところで、2020年の東京オリンピックのエンブレムのデザインについて、大きな問題が起こったことをみなさんも覚えていらっしゃると思います。今だからこそお聞きしますが、この問題について私たちはどう向き合えばよかったのでしょうか。エンブレムの再審査をされた高橋さん、どうでしょう。

高橋善丸氏
高橋
はい。この問題について考える上で大切なことは、エンブレムをデザインすることと、それを審査することの重要性は同等であるということです。ほとんどの人たちは、デザインすることと審査することの重要性の割合は9:1くらいだと思っています。しかし膨大な応募作品の中から選び出すというのは、つくることと同じくらいの熟練した技能が必要です。この問題については反省すべき点が多いと思いますが、一つ言えることは、審査する側のシステムがとても曖昧だったという点が挙げられるでしょう。もちろんデザインのプロだけが審査するべきだとは思いません。オリンピックのような世界的祭典のエンブレムには特に、多ジャンルのプロの視点が必要です。そういう意味でも審査する側は、つくる側と同等に高度なチームワークが必要だと思います。

奥脇孝一氏
奥脇
なるほど。2025年には大阪で万博が開かれますが、クリエイターとして、そのことを心に留めておきたいですね。
ところで仙石さんと上田さんは、普段の仕事の中で、コピーライターやカメラマンとどんな関わり方をされていますか?

わきたけん一氏
わきた
それは僕も気になります。最近では、短いコピーなら自分で書くとか、簡単な写真なら自分で撮るというデザイナーもいるようですが、カメラマンやコピーライターに、みなさんはプロとして何を求められるでしょうか?

仙石吉徳氏
仙石
僕はよっぽどの予算不足でないかぎり、コピーも写真もきちんとお願いするようにしています。やっぱり思っている以上のものに仕上がることが多いので。性格が合うというか、お互いに気持ちよく仕事ができる方にお願いしたいですね。

上田ゲン氏
上田
僕もラフ案に自分で言葉を入れることもありますが、それはあくまでもコンセプトが分かるように書いているだけです。そこに新しい発見があるようなコピーを期待しますね。写真もやっぱりプロにお願いすると、仕上がりが全然違うと思います。

奥脇孝一氏
奥脇
そう言ってもらえると嬉しいですね。ベテランの高橋さんから見て優秀なカメラマン、コピーライターとはどんな人でしょうか?

高橋善丸氏
高橋
昔はデザインも写真も、専門的な知識と技術がなければプロとして通用しませんでした。しかし今では、誰でも簡単なチラシや年賀状くらいはつくれる時代です。ではプロとしての価値はどこにあるのか。先ほどAPAの部で小川さんもおっしゃっていたように、プロのカメラマンであるということは、案件が捉えるべきポイントを理解して、それを明確に写真に表現できるということ。そこに独自の視点があるということです。コピーライターやデザイナーについても同じ。社会に対する自分の視点をきちんと持っているか。その上で求められている課題に対して応えるだけの知識と思考力があるか。
どの分野においてもプロの領域は狭まってきています。だから私たちは「プロの価値とは何か」を真剣に考えなければなりません。時代の流れを認識し、その時の社会背景における案件の位置づけを理解した上で、そこに求められる創造性とは何かを考える。その中で独自性と発想力を活かす。
これからは世の中の多くの職種において、創造性(クリエイティビティ)がますます重要になってきます。それは一人ひとりの「社会観」という土台の上に成り立つものなのです。

わきたけん一氏
わきた
ありがとうございます。身が引き締まる想いです。さて、そろそろ終わりの時間が近づいてきましたので、今日はここまでとしたいと思います。貴重なお話をどうもありがとうございました。

第三部

エピローグ

今回3団体の対談で図らずして語られた共通の話題。それは「プロの価値とは何か」だったと言えるだろう。誰もが簡単に片手で写真を撮り、言葉をのせて発信できる時代に、私たちはクリエイティブのプロとして、世の中に何を提示・提案できるのだろうか。大切なのは「社会に対する視点」そして「課題に応えるための知識と思考力」。この高橋氏の言葉は、職種と世代を超えて私たちに突き刺さる。
今、あらゆる事象においてボーダレス化が進み、領域が曖昧になりつつある時代。私たちクリエイターは「プロの領域」をどう守っていくべきなのだろう。その問いは、一人ひとりに向けられているのだ。

公開日:2019月04月05日(金)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン
撮影:平林義章氏(APA関西)

イベント概要

3団体 3世代 トーク3昧 第4弾
APA×JAGDA×OCC in Mebic

世代ごとのトークバトルから、団体ごとのトークショーへ。
今回から趣向が変わります。各団体からの3世代3人の登壇者に、他2団体のモデレーターが(イヤラシク)絡んで、トークを進めて行きます。さて、どんな方向へ話は展開するのか? 予測不能だから、面白い。どうぞ、お楽しみに!

開催日:2019年3月2日(土)14:00〜20:00
会場:メビック扇町