開発者とユーザーが一緒に進化するしくみづくりを。
クリエイティブサロン Vol.152 松出晶子氏

今も昔もロボットという響きには、明るい未来がついてまわる。そのいっぽうでロボット産業がどこまで進化し、どこに向かっているのか分かりにくいのも現状。今回は10年以上にわたりロボット産業の最先端に携わってきた「i-RooBO Network Forum」の松出晶子氏に「ロボットビジネスの過去・現在・未来」について語っていただいた。

松出晶子氏

理系にはない発想でロボット産業に関わり続ける

松出晶子氏は、公益財団法人大阪市都市型産業振興センターでIoT・RTビジネス推進部に所属するプロジェクトリーダーであり、「一般社団法人i-RooBO Network Forum(以下iRooBO)」の事務局長も務めている。2004年に大阪市が開設したロボットビジネスの集積拠点「ロボットラボラトリー」に配属となったのがすべてのはじまりだ。同年にiRooBOの前身である「次世代ロボット開発ネットワークRooBO」が設立され、事務局を担当。2013年には大阪イノベーションハブ(OIH)の立ち上げに参加、ここでもテクノロジーを活用したビジネス創出に携わり、その後、iRooBOを法人化、2018年8月に新たな拠点を開設している。

「仕事の内容はひとことでは表現しづらいのですが、ロボットテクノロジーを使った製品やサービスを事業化するためのサポートがメインかなと。研究機関と企業、大学と企業とのマッチングをし、そのプロジェクトをコーディネート。また開発された製品に対して販路開拓や資金調達から実証実験のサポートから、啓蒙や情報提供のセミナーイベントの企画運営もしています」。そう語る松出氏はエンジニアでもリケジョでもない。出身は関西大学フランス語フランス文学科。雑貨屋のバイヤーをしていた経歴も。しかし畑違いだからこそ生まれる発想がある。

ATCをロボット産業の集積する一大拠点へ

次に所属するiRooBOを紹介。こちらは「技術・人材・情報」が集まるロボット開発のための企業コンソーシアム。「要素技術企業やインテグレーター、サービスプロバイダなどロボット開発をテーマに多彩な企業が集まっており、開発から事業化、プロデュースまでワンストップでサポートできるのが強みです」。活動の拠点となるのが大阪南港ATC。ここには大阪市のさまざまな施設が入っており、それらとの連携にくわえてITとものづくりに精通した技術者や自動化・知能化ニーズに対応する人材育成をおこなう「IATC」も立ち上げた。また大阪市都市型産業振興センターと共同運営する実証実験支援事業「AIDOR エクスペリメンテーション」では、ATCの商業施設や大阪市が開放する舞洲スポーツ施設での実証実証実験において、企画運営からコーディネート業務まで受け持つ。

さらに今年8月には独自運営となる「オープンテクノロジーセンターRobo & Peace」がスタート。開発企業とユーザーの交流を通して製品開発をサポートする、体験型オープンイノベーション施設だ。体験型展示のタッチ&プレイ、ワークショップ、シェアオフィス、コワーキングスペースで構成され、ここを訪れるユーザーはエンターテインメントとして試作・実験中のテクノロジーを楽しめ、開発側は消費者のニーズや製品・サービスの課題を発見する。「実証実験もそうですが、ものを開発する過程で開発者、提供者とユーザーが一緒に進化していくしくみをオープンテクノロジーセンターでつくっていきたい。製品やサービスは、つくって育てて検証する過程が必要。そこにユーザーが参画をすることで、本当に必要とされるものが見えてきます」

iRooBOがめざしているのは「世の中の “あったらいいな”をつくっていくこと」だ。「不便の解消・利便性の追求・快適性の向上など、課題の解決をロボットやAIなど先端テクノロジーを活用した製品・サービスで実現することで、みんながハッピーになればいいと考えています」。ATCはアジア・トレード・センターの略だが、南港をロボット関連の企業の集積する一大拠点にしたい松出氏はそれを「アドバンス・テクノロジーセンター」にする野望を密かに抱きつつ日々奮闘している。


「Robo&Peace」で開催されたイベント・ワークショップ

マツイデ目線で語る大阪のロボット産業の取り組み

ここからはロボット産業の最前線で10年以上走り続けてきた松出氏独自の視点で、大阪のロボット産業振興の変遷を紹介。まずは2000年頃の第2次ロボットブームからはじまる「隆盛期」。21世紀のスタートとともにいろいろなロボットが話題になったのも懐かしい。2003年、大阪市のロボット産業振興施策で大阪産業創造館内にロボットラボラトリー開設準備室ができ、翌2004年には「ロボカップジャパンオープン」が開催され、大阪市が支援するTeam OSAKAが優勝し(以降5連覇)、大きな弾みとなった。ロボカップは「西暦2050年までに人間のサッカーの世界チャンピオンチームに勝てる、自律型の人型ロボットチームをつくる」ことをめざし今も続いている大会。そして「ロボットラボラトリー」開設。2005年には『愛・地球博』開催され、空前のロボットブームが訪れる。

しかしリーマン・ショックを経て「低迷期」へ。2011年には大手企業のロボット事業撤退、行政の体制変化で「ロボシティ構想」が消滅する。ロボシティはJR跡地の再開発で、現在のグランフロント大阪に産学官でロボットの研究の拠点をつくるというもの。松出氏自身、ロボシティへの思い入れは強く、その消滅は夢が潰えた気持ちだった。以降、世の中のロボット産業の盛り上がりも下火に。

そして再び光が差し込む「復活期」は2014年頃から。ソフトバンクがPepperを発表し、Googleもロボット事業に参入するなどニュースが相次ぐ。2015年に次世代ロボット開発ネットワークRooBOと、総務省管轄で大手研究機関が通信系の研究開発をするネットワークロボットフォーラムが合併してiRooBOを設立・法人化。ロボット産業も復活の兆しが見えると同時にIoTビジネスが注目され、「ネットワークとつながって何かをする」という流れが生まれた。大手企業のロボット産業への復活参入も見られ、今年10月に開催される経済産業省主催の『World Robot Summit2018』には、大阪府と大阪市が共同出展する。「東京オリンピックに向けサービス産業もテクノロジーを使っていこうと、しばらくはロボット産業も盛り上がると思います。でもこれを一時的なブームでは終わりたらせたくない」

「隆盛期」を振り返り、この時期にビジネスの市場を構築できなかったから、ロボット産業への予算が打ち切られ衰退したと分析。「ただロボットを製作する過程でセンサーやモーターのような要素技術が磨かれ、それは今、家電製品に組み込まれています。家電もロボット化が進み、そういうところでビジネスにできる流れができてきました」


ATCで実施された実証実験

「IoTもAIもロボットもテクノロジー」
課題を解決してピースな未来を

日本人はロボットと聞くと鉄腕アトムやドラえもんのような、サービスロボットの概念があるが、技術がSFの世界に近づいた今、ロボットの定義は曖昧だ。ではそもそもロボットって何だろう。アシモフのロボット三原則ではないが、現在は経済産業省が定めた、「センサ(センシング / 情報収集)・コントローラ・アクチュエータ(アクチュエーション / 物理的な支援)」の三要素を持つものを指すという。これらに加えてネットワークは必須。すべてのものがネットワークにつながってサービスを展開する。だからIoTもAIもロボットも、テクノロジーを使ったサービスと考えれば、身の回りのものはいずれロボット化していくだろう。「そのときに大切なのはサービスの内容。求められるサービスをつくっていかないとビジネスは成り立たない」。そう松出氏は繰り返す。そしてサービスをつくるためには開発者だけでなく、クリエイターの力が必要だという。「いい製品、売れる製品にはコンセプトが重要。もちろんデザインも。この製品はどういうストーリーで生まれたのかとか、“モノよりコト”を大切にしなければ」

今後のビジネス創出のポイントとしては、現場ニーズの抽出、テクノロジーを使用するところの見極め、効率化するところの見極め、そして実証実験の3つを上げた。そして開発側が大切にすべきこととして、シーズからではなく課題から生まれたニーズを考えることと語る。「ニーズ、課題ありきでサービスを考える。もちろんコンテンツも重要。ロボットもIoTもAIもあくまでサービス開発のための手段。ここが出口になってはいけない」。現状を俯瞰してみると、ロボットが社会に浸透するために必要なエコシステムがまだできていないとも。「そのために研究開発、製品開発、資金調達、マーケティングなどユーザーを巻き込んでできるしくみ、成功させるためのサイクルをつくっていく必要があります」。最後にめざすこととして「先端テクノロジーでさまざまな課題を解決してピースな未来をつくりたい。クリエイターの方もネットワークに参加していただいて、いろんな人と一緒につくっていければ」と締めくくった。

イベント風景

公開日:2018月11月20日(火)
取材・文:町田佳子氏

松出晶子氏(まついで あきこ)

松出晶子氏

公益財団法人大阪市都市型産業振興センター IoT・RTビジネス推進部 プロジェクトリーダー
一般社団法人i-RooBO Network Forum 事務局長

2004年(公財)大阪市都市型産業振興センター入職。大阪市のロボットビジネス創出拠点「ロボットラボラトリー」の企画運営およびiRooBOの前身である「次世代ロボット開発ネットワークRooBO」の運営を担当し、ロボットビジネスに携わる会員企業の事業化サポートやビジネスネットワークの構築を行う。
2013年より主にテクノロジーを活用したビジネス創出や人材育成、実証実験支援に携わる。2015年12月に(一社)i-RooBO Network Forumを設立し、事務局長に就任。
2018年8月にオープンテクノロジーセンターRobo&Peaceを開設し、テクノロジーを活用した社会課題解決に向けて活動中。