圧倒的な熱量で進化を遂げる、アジアのクリエイティブの現在
クリエイティブサロン Vol.104 谷口純弘氏 / 庄野裕晃氏

アジアのクリエイティブシーンについて、あなたは何を知っているだろうか? 今回のゲストスピーカーは、2016年9月30日~10月2日に第2回が開催されるアートフェア「UNKNOWN ASIA ART EXCHANGE OSAKA 2016」のプロデューサーの二人。アーティストエージェンシーを運営する庄野裕晃氏と、FM802で「digmeout」のプロデューサーを務める谷口純弘氏が、それぞれの仕事の紹介と共に、同イベントをプレゼンテーション。アジアの最新クリエイティブを、肌で感じてきた両氏が語るアジアの現状は、私たちの想像を遥かに超えるものだった。

会場風景

アジアへのきっかけは上海万博。目の当たりにした中国のダイナミズム。

庄野裕晃氏

トークはそれぞれの仕事紹介から始まった。最初にマイクを持った庄野氏は、イラストレーターを中心とした、アーティストのコーディネイトやマネジメントを行う「vision track」というアーティストエージェンシーの代表を務める。専属アーティストのマネジメントや、クライアントのイメージに合うアーティストの提案など、企業とアーティストのマッチングや、そのプラットフォーム作りを行っている。

アジアへ目を向けるきっかけとなったのは上海万博での仕事だったという。「上海万博で『Abilia』というパビリオンのキャラクター制作や全体プロデュースの仕事に携わりました。その当時、中国は経済成長のピーク。その環境で行われるクリエイティブはとても大胆でした! お金が動く規模も大きく、日本には無くなってしまったものを目の当たりにしました」と振り返る。以降、アジアに傾倒するようになった庄野氏は、日本で行っていたアーティストエージェンシーの業務を、アレンジしアジア規模で行う「ubies」というプラットフォームを新たに立ち上げる。アーティストを見つけ出すために、シンガポールやタイ、インドネシアなどアジアを飛び回り、各国のクリエイティブ業界でキーパーソンとなる人物の元を訪ね歩いた。その人物から自国を代表するトップアーティストを推薦してもらうなど、自らの足で探し出していったという。

展開はそれだけにとどまらない。“アジアがクリエイティブで繋がり、共により良い未来を考える”をミッションに、活動のなかで出会った各国の有志によって「ASIAN CREATIVE NETWORK(ACN)」という団体を設立。情報交換や交流促進、アジアでの展覧会の開催、「ASIAN CREATIVE AWARDS」というアワードの運営など、多岐に渡る活動を展開している。

書籍「「世界を熱くするアジアンクリエイター150人」
ubies

アーティストと社会をコミットさせるFM802のビジュアルプロモーション

谷口純弘氏

次の谷口氏は、FM802が展開するアートプロジェクト「digmeout」のプロデューサー。「ただの会社員です」と笑いながらも、その仕事は大きなムーブメントを巻き起こしてきた。

谷口氏がプロモーション担当としてFM802に入社したのが1990年。音で情報を伝えるラジオが、ビジュアルでプロモーションを始めたきっかけは、同氏が手掛けた「バンパーステッカー」だった。車に貼るこのステッカーは、アメリカのラジオ局を手本にして導入したというプロモーションで、「最初は誰も貼ってくれないんじゃないか?という声が社内にもありました。では、どうすれば多くの人に貼ってもらえるか?カッコいいステッカーならば貼ってくれるんじゃないかと思ったんです」と、当時を語る。景品が当たるキャンペーンなども功を奏し、大阪を走る車の多くに貼られるほどに大ヒット。リスナーからステッカーロゴを募集するコンテストを開催するなど、洗練されたイメージと共に、ラジオ局の認知度を飛躍的に高めることに成功した。

「ロゴを募集するコンテストで約5000通の応募があったんです。その時これは何かあるなと直感しました。若者がやりたいことは音楽だけではない。ラジオ局として応援していかなければと思ったんです。そこから、FM802のビジュアルを若手アーティストに任せるようになりました」。

コンテストを重ねるごとに有望な若手アーティストが集まり、自局のプロモーションだけではなく、世界に発信したいと考えるように。そこで、2001年に発刊したのがアートブック『digmeout』。世界中で発売されたこの本の反響は大きく、音楽CDのジャケットや企業プロモーションでの起用など、さまざまなコラボレーションに発展。カンバラクニエや中村佑介、ZAnPonなどの有名アーティストを輩出し、アーティストと社会を繋げるプロモーションを作り上げていった。

さまざまなロゴのステッカー
FM802「バンパーステッカー」

大阪からアジアへ。アジアから大阪へ。誰も知らない才能を世界へ送り出す。

大阪を拠点としながら、それぞれの活動でアーティストを発掘し、世に送り出してきた両氏。そんな二人がタッグを組んで開催するのが、アートフェア「UNKNOWN ASIA 2016」だ。第1回は2015年に中之島中央公会堂を舞台に開催され、総数120組のアーティストのうち、約40組がアジアからの参加。3日間で計6448人の来場者を記録した。第2回にあたる今回は、昨年から規模を拡大。ハービスホールを会場に、選び抜かれた180組のアーティストの作品が展示される予定だ。

「このフェアで大事にしていることの1つはビジネスマッチング」と断言する庄野氏。国内外からアートディレクター、ギャラリスト、プロデュ―サーなど20名の審査員を招待する。それに加え、企業や広告代理店、プロダクションなどのクリエイティブ業界関係者50名を招き、クリエイターが作品を直接アピールできるVIPプレビューのチャンスを設けた。グランプリ受賞者には、国内外での作品発表の機会を提供。それだけでなく、審査員がそれぞれの賞を用意し、選んだクリエイターに対して、メディア露出や展覧会、コラボレーションなど、積極的なサポートが用意される。

昨年の様子をスライドと共に紹介し、各国のアーティストの作品について語っていく。どれも個性的で高いクオリティを持つ作品たちに、聴講者もだんだんと吸い込まれていった。昨年を振り返りながら、両氏が口を揃えて語ったのは”何かが起こりそうなカオス”を感じたということ。国を問わず、あらゆるジャンルの作品が展示され、さまざまな国の言葉が飛び交う会場。その光景は、まさにアジアの混沌を体現するような熱気に包まれていたという。

展覧会バナー

想像を超えていくアジアの進化。危機感と共にある日本のクリエイティブ。

「UNKNOWN ASIA」へ招待するアーティストを見つけるために、日本だけでなくアジア各国で説明会を開いてきた両氏。会場では企画の説明のほか、現地アーティストの作品にも目を通すが、毎回そのパワーに圧倒されるばかりという。国境を越えて、アジアのクリエイティブの今を感じてきた二人の言葉には、日本への危機感も透けて見えた。

「アジアの人たちは日本のアートに関心が高く、憧れのような感情を持っている。だから、アジアの若手は日本に訪れているが、日本人は海外に出て行っていない」と指摘する谷口氏。一方の庄野氏も、インドネシアを訪れた際のことを「とてもレベルが高かった。作品のクオリティが素晴らしく、展示の工夫も行き届いていた」と熱弁。ほかにも、工業地帯を改装し作られた中国深圳の現代アート、デザインが集積する巨大エリア「OCT-LOFT」という施設を例に挙げた。デザインや映像、ファッションなど、中国全土から実力のあるアーティストが集結し、世界から人が訪れているという。そんな現状を目の当たりして「このままでは日本が負けそうな気がする」とこぼす谷口氏の言葉に、庄野氏も首を縦に振る。

「アジアといっても、未だピンとこない人が多いかもしれません。けど、アジアのクリエイティブは魅力にあふれていて、行くと必ずその熱量に圧倒されるはず。一度ぜひアジアを訪れて欲しい」。日本のアーティストへ向けた、庄野氏のメッセージで締め括られた。

日本に居ながらにしてアジアの今を感じられる「UNKNOWN ASIA」。その会場には、近い未来、アジアを股にかけて活躍する、今はまだ“誰も知らない”アーティストの姿があるかもしれない。

展示会の様子
「UNKNOWN ASIA 2015」

イベント概要

UNKNOWN ASIA 2016
クリエイティブサロン Vol.104 谷口純弘氏 / 庄野裕晃氏

FM802、FM COCLOとACN(ASIAN CREATIVE NETWORK)が主催し、アジア各国から新鋭のクリエイターを集めて開催するアートフェア「UNKNOWN ASIA」。昨年第1回が開催され日本を含むアジア10カ国から120組のクリエイターが参加。3日間で6,500人を動員、大きな話題を集めました。30名以上の審査員、協賛企業による賞も提供され、アジア各国でのアートフェアや展覧会、コラボ商品の発売など、国を超えて様々な活動が拡がっています。今年は会場を大阪梅田「ハービスホール」に移しさらに規模を拡大。180組のアーティストを募集し開催の予定です。「大阪からアジアへ、アジアから大阪へ」今年も国際色豊かなクリエイターとレビュアーが集まり、交流し、まだ見ぬアジアへのチャンスを広げていくアートイベントになる予定です。この「UNKNOWN ASIA 2016」開催に先立ち、「UNKNOWN ASIA」の意図、昨年の実施報告、参加アーティストのその後のサポートのレポートなど、プロデューサーの谷口純弘(FM802 / digmeout)と庄野裕晃(ASIAN CREATIVE NETWORK / ubies)がプレゼンテーションします。

開催日:2016年7月21日(木)

谷口純弘氏(たにぐち よしひろ)

FM802 / digmeout プロデューサー

1963年生まれ。京都出身。若手アーティスト発掘プロジェクト「digmeout」プロデューサー。FM802のビジュアルにアーティストを起用し、ソニー、日産、りそな銀行、ナイキなどの企業プロモーション、アートブックの発行、国内・海外での展覧会を手がけるなど「街」と「アート」と「人」をつなぎながら多岐にわたって活動中。現在、アメリカ村のギャラリーカフェ「digmeout ART&DINER」の企画プロデュース。また、2011年5月アートギャラリー「DMO ARTS」をオープン。同ディレクター。

https://digmeout.net/

谷口純弘氏

庄野裕晃氏(しょうの ひろあき)

visiontrack / ubies プロデューサー

1969年生まれ。アーティストエージェント「visiontrack」代表。2011年 アジア発のクリエイティブ・プラットフォーム「ubies」を立ち上げ、2013年「世界を熱くするアジアンクリエイター150人」をPIE Internationalより発行。2014年にはアジア中から気鋭のクリエイター1000名、3000点を超える作品を集めた「ACN主催・ASIAN CREATIVE AWARDS」を企画プロデュース。現ACNメンバー。

http://www.visiontrack.jp/

庄野裕晃氏

公開:
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。