海を越えて見てきたものから浮かぶ空間デザインの原点
クリエイティブサロン Vol.83 堀内幸子氏

「参加型のリノベーションができたら」というオーナーの言葉から、床材をみんなで塗装して貼っていくワークショップを開催したり、改装されるオフィスを実際に使用する社員さん達が壁を塗るという試みを行ったりとユニークな“関わる”建築を提案している堀内幸子さん。「インテリアや建築、雑貨などに特に境界線を作らずに、求められたことに応えたい」
柔軟な姿勢で仕事に向かう彼女は旅好きでもある。「実は、『旅』という言葉は旅慣れた人の言葉だと思っているのですが(笑)。私は『旅行がちょっと好きな人』というくらい。でも振り返ってみると、わりと面白い旅行をしてきた様な気がしているんです」
その“面白い”旅行を、空間デザインとの関係にも触れながらお話いただいた。

堀内幸子氏

カルチャーショックを受けた上海、建築やデザインを意識したカナダ

旅行好きの母の影響で、小さい頃から夏休みになると国内での家族旅行を楽しんでいた堀内さんの初めての海外旅行は大学1回生の冬。中国語を習っていた祖母の語学の先生が企画したツアーで中国は上海に。「20年前の上海は、まだビルを建てる足場が大通りに並んでいて、今の高層ビルが建ち並ぶ町のイメージとは全く違う。人民服を着た方もたくさんいて、ノスタルジックな感じがありました」。芸大生でちょっぴり尖がった格好をしていたからか、現地では周囲から多くの視線を感じたのだそう。「大学でデザインを1年勉強してきた私としては、同時代に自分の持っている感覚とこうも違う文化があるのかとカルチャーショックを受けました」
初めての海外で衝撃を受けた堀内さんだが、改めてアルバムを見ると建築的なところも写真に収めていたのだと話す。「なにも考えていなかったと思いますが、日本で見慣れた建築とは違うものに対する無意識な目線があったのでしょうね」

デザインや建築の魅力に惹きつけられた国はカナダだった。特にケベック州のモントリオール・ノートルダム聖堂には感銘を受けた。「建築って面白い!と初めて思いました。青い空間がとても美しく、空間が人に訴えかける強さみたいなものを感じました」
また、正多面体で球を作るという構造のバックミンスター・フラーが手掛けたジオデシック・ドーム(フラードーム)などを見てまわり、このカナダの旅から建築を意識して巡るようになったという。
「ケベックの町並みも素敵でした。ここは完全にフランスで、アメリカとは全く違う雰囲気がありました。町中の色んなものが洗練されていて、一言で言えば“お洒落”。カナダは建築も良かったけれどデザインもとても面白いと思いました」

聖堂の外灯
旅行中に撮影したカナダのノートルダム聖堂の塔と外灯

サハラ砂漠の星空、神秘のオーロラ。大自然の美に圧倒された二つの国

翌年の旅はモロッコ。今でこそカラフルなモロッコ雑貨などが日本でも人気だが、当時はあまり知られた国ではなかった。その国にノープランでルートも決めずに行ったという。「生きて帰れるのかと不安があったくらい。初めて見るアラビア語は威圧的に感じるし、女性も外を歩いていない。可愛らしいパン屋さんも怖くて店の表で食べました(笑)」
そんな道中に大惨事が。「お腹を壊してフェズという町で3日間寝込んでしまったんです。その時にお世話になった家族がいて、泊めていただいた家がとても素敵で。壁材も床も美しいデザインで感激しました」
体調も落ち着いた堀内さんはサハラ砂漠を目指す。砂漠の地平線から昇る朝日を見るために、真夜中からジープを走らせる。空には満点の星。走っている車も止まっているかの様な錯覚に陥るほどの星空だった。「その時に思ったのが、自然の凄さは規模があまりにも違うということでした」

砂漠の日の出
サハラ砂漠の日の出

カナダのイエローナイフで見たオーロラも忘れられないという。観測率が高いこの地でもオーロラを観測できるのはワンシーズンに3、4回程度。「年末年始にかけて行ったのですが、観測地点はマイナス40~50度という極寒。寒さで、私のカメラが壊れるくらい。寒さに耐えながら観測していたのですが、なにも見えず半ば諦めていました。大晦日も見えないだろうと思いながら広場で観測者が集まってカウントダウンを始めたときに、オーロラが現れたんです! 幻想的な美しさはほんとうに感動しました」

サハラ砂漠とオーロラという大自然の美を体感した堀内さんは語る。「自然にしかできないものがやっぱりあるのだなと痛感。いろんなものを見て記憶しておくことは、いつか人生に役立つのでしょうね。建築やインテリアの仕事とは無関係なのかもしれないけれど、やはりなにかを蓄積しておくのは大切なのではと思います」

デザインに刺激を受けるニューヨークは、お気に入りの街

ニューヨークが大好きだという堀内さん。ニューヨークではデザインに注目しながら街歩きをするという。「ビルを眺めているだけでも楽しい。ニューヨークではとにかく歩いてまわるようにしています。ホテルも好きで、ユースホステルからデザイナーズホテルまで、気になるところは泊まったり見学したりしています。細かい部分のデザインが面白く、遊び心満載で見ていて飽きません」
デザインについてよく考えるというニューヨークでは、ガイドブックに載っていない場所へ出かけてみたりジャズを聴きに行ったりと、多くの刺激を受けるために寝る間も惜しんで旅を満喫しているようだ。

イタリア、フランス……展示会はデザインと人が交流する場所

イタリア留学経験を持つ堀内さんだが、最近では仕事で海外へ行く機会も増えたという。展示会など仕事を絡めた海外ということで話してくれたのが、イタリアの「ミラノサローネ国際家具見本市」とフランスのパリ近郊の見本市「メゾン・エ・オブジェ」だ。
「留学以降、サローネには勉強も兼ねて何度か行っているのですが、2013年にはデザイナーの喜多俊之先生のお手伝いで行きました。メイン会場は、大きな家具メーカーが集まるホールや、若手のデザイナーが出展するサローネサテリテと呼ばれるものなど様々。
喜多先生の会場は元々ライブハウスの様な夜専用の建物だったので展示自体も夕方から深夜まで開場していたのですが、それも不思議な感じがしました。街中、インテリアやデザインで盛り上がってる雰囲気がとても好きですね」
翌年は酒井コウジ氏がプロデュースする『TuTuMu exhibition in Milano〜和紙で包む展〜』に参加。和紙を使った作品を国内外のクリエイターが展示する。「現地の方との交流が有意義なので、見学するだけとはモチベーションが全く変わってきますね。後々に繋がりが深まっていくこともあって…。このときのメンバーとは今でも仲良し。お祭りみたいで楽しい思い出もたくさんできました」

一方、『メゾン・エ・オブジェ』は雑貨や小物などが多く見られる展示会。「サローネとは違って基本的に一ヶ所で開催されているのですが世界中から集まっている数に加えてスペースの広さに驚きました。8ホールあったのですが一日で歩いてまわれないほど。各ブースのデザインも凝っていて楽しめます」

和紙がテーマの展覧会風景
「TuTuMu exhibition in Milano〜和紙で包む展〜」

“その先が世界でありたい”と思いながら創造と旅を続けたい

プライベートや仕事で世界各国を旅する堀内さんだが、これまでの旅を振り返ってみると、やはり自身の“ものづくり”への原動力になっているのではないかと話す。
「旅行中は特に意識しているわけではないのですが、例えばニューヨークのビルのカラーだとか、モロッコで見た太陽でピンク色に焼けた山や大地などは記憶として残っているので、発想のヒントになっているのかも知れない。和のデザインに対しても客観的に捉えている部分があるかも。創造するときに“その先が世界でありたい”と思います」

会場風景

イベント概要

旅と空間デザイン
クリエイティブサロン Vol.83 堀内幸子氏

旅好きの母の影響か、子供の頃から乗り物に乗って出かけるのが好きで、特に建築を始めた大学生の頃からは海外も含め色々なところに出かけて行っていました。
これまでの旅の中で出会った空間やインテリア、街の空気や人とのつながりを振り返りながら、旅・空間デザイン・インテリアの楽しさや、ここ数年のインテリアの海外展示会への出展・視察などのお話などもさせていただければと思っています。

開催日:2015年08月10日(月)

堀内幸子氏(ほりうち さちこ)

建築設計事務所「RIADO」代表
一級建築士 / インテリアコーディネーター

京都芸術短期大学建築デザイン学科卒業後、いくつかの設計事務所やイタリア留学などを経て独立。店舗・住宅・オフィス・マンションなどの建築やリノベーション・インテリアデザインを手掛ける。最近はお客様や希望者を募っての参加型リノベーションも行い、過程も楽しんでいただけるような空間作りを心がけている。また、ダンボールを使った家具や照明などのデザインも行う。

https://www.riado-design.com/

堀内幸子氏

公開:
取材・文:久保亜紀子氏(Phrase

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。