「会いにいく」ことから生まれる、顔の見えるデザイン
クリエイティブサロン Vol.75 戸田祐希利氏

仏像や仏具に使われる技法を使って着色された真ちゅうのブローチや、加賀友禅の技法で染められたストールを使ったバッグ……。「暮らすひと暮らすところ」という言葉を旗印に、各地に存在する伝統的な職人の手技を生かしつつ、現代の衣食住に馴染むものづくりを手掛ける戸田祐希利さん。
地域性をとことん見つめること。そこから生まれるアウトプットが、結果的にグローバルな活動につながっていく。急速に移りゆく時代のなかで、日本の手工業を取り巻く状況も厳しさを増すなか、戸田さんが考える「Made in Japan」とは?職人との関係づくりなど、「会いにいくデザイン」をテーマにこれまでの軌跡をお話いただいた。

戸田氏

暮らしと仕事が一体化した理想の働き方を求めて

大学時代を富山県の高岡という町で過ごした戸田さん。仏像や仏具、美術品などいわゆる「高岡銅器」の産地として古くから知られる地で、学生時代から職人の仕事にふれる貴重な機会に恵まれていたという。一方、在学中に小池岩太郎の著書「デザインの話」を読んだことから、北欧デザインに憧れを持つようになる。そこで交換留学生として、フィンランドのラハティに半年滞在した経験も。

「カイ・フランクのテーブルウェアなど、日本ならセレクトショップなどで売られているようなものが、一般的なスーパーでも普通に売られていることにビックリしました。そして、誰もがデザイナーの名前を知っているし、いいものだと認識している。本に書かれていた、『虚飾のない、端正で、質朴なデザイン』ってこういうことなんだ、と実感しました」

卒業後は小さな工房で家具職人をしたり、大手家具メーカーで営業や商品開発を経験した。しかし、デザイナー、職人、そしてユーザーのあいだにコミュニケーションがほとんど存在せず、顔が見えないまま、製品が量産されていく。そんな消費者との関わり方に、次第に違和感を覚えはじめたという。自分らしい「働き方」を模索するなか、戸田さんを支えたのはエンツォ・マーリ、河井寛次郎といったものづくりの先人たちの言葉だった。

「たとえば、陶芸家・河井寛次郎の、『暮しが仕事、仕事が暮し』っていう言葉。本当にそういうことができるのかという疑問があったのですが、京都にある、彼の住まいを当時のまま保存してある記念館に行ったときに、確かにそういう生活をしていたという痕跡があった。それを見て、ああ、本当にできるんだと」

2011年に、「暮らすひと暮らすところ」という名で独立。つくり手と使い手がともに考え、それぞれの思いが響き合うものづくりができたら。そんな思いを胸に、戸田さんの活動がスタートした。

one to one BROOCH Toneシリーズ
(左)one to one BROOCH (右)Toneシリーズ
銅器への着色を専門とする職人、折井宏司さんとの出会いから生まれたプロダクト。

原点の地・高岡で、職人と銅器の未来をつくる

独立後、学生時代にお世話になった高岡に何か恩返しができたら……という気持ちで、手はじめに木工作家と組んで木の蓋がついた鋳物のトレイを制作。その経験から鋳造が分業制であることを知り、折井宏司さんという銅器着色を専門とする職人と出会う。

「折井さんの出す色はとても魅力的で、仏像や美術品のほか、オリジナル商品の花器などもつくられています。ただ、独立した技術としての固有名詞がないせいか、あまり知られていない。そこで、この技術を高岡銅器というジャンルのなかだけじゃなく、広く知ってもらえたら……と考えたことから真ちゅうのブローチが生まれました。ただ、僕がかたちを決めると僕がデザインしたブローチ、ということになってしまうので、色だけを見せることができる何か……そこで、自然石のかたちをそのまま切り出してはどうか、というアイデアが出てきました。石のかたちは同じものがふたつとないので、ひとつひとつが世界でひとつしかない、特別感のあるものとなっています」

折井さんとの仕事は、その後、「Toneシリーズ」というライフスタイルブランドにも発展。銅の色と質感を生かしたトレイやランプは、使い手の暮らしとともに、陰影や味わいを増していく。スタートから2年が経ち、デパートなどから声がかかることも増え、一定の評価を得つつあるという。


Ams, Tram, Gramのストールバッグ
加賀友禅の職人、斉藤道代さんとの出会いから生まれたバッグ。

情熱と誠意をもって、下手でもサンプルをつくる

その後、縁あって金沢で加賀友禅の染めをしている職人、斉藤道代さんと出会った。現在、斉藤さんの活動は着物ではなく、シルクストールなどの服飾品が中心。しかし、夏のあいだはストールが売れにくいという現状があり、そこで通年使える、ストールと同じ素材のバッグを制作することに。

「バッグ専門の作家や職人ではなく、染織家がつくるバッグの良さってなんだろう?と考えるところからはじめました。検討を重ねた末に、持ち手部分をストールと同じ材質にして、さらさらとシルクが肌にあたる心地よさを感じてもらえたらと」

戸田さんはこの仕事をすすめるにあたって、自らミシンで縫製したサンプルを持参したそう。

「下手でもとりあえずは、現物になるべく近いサンプルをつくってみます。かたちになったものがあると、職人さんにも、気持ちが伝わるような気がしますし、『それなら、こういうのはどう?』とコミュニケーションにも役立つんです。先ほどの鋳造なら、粘土や石膏など自分が扱える素材に置き換えて」

戸田さんにとって仕事の基本はこの「会いに行く」ということ。手間や時間は当然かかるし、わざわざ産地に足をはこんでも仕事につながらないこともあるそうだが、顔の見えないものづくりは考えられないという。
「会わずにこういうのできないですか?ってお願いしても、できないって言われちゃう場合が多いと思うんです。変な言い方ですけど、この人のためだったら、やってあげたいなと思ってもらえるよう、誠意を持って努力するといいますか……」

産地の技術を未来につなぐために、いまできること

産地と密に関わるうちに、職人の高齢化や後継者の不在により、知られることなくすばらしい技術が日本から失われていく現状を目の当たりにした戸田さん。そこで、「市場を観察して産地に伝え、産地の情熱を市場に伝える」ことを、自身の仕事として意識するようになったという。

「自分となんとなく肌が合う職人さんって、絶対どこかにいるもの。そういう人と出会って、小さなことからでも一緒にはじめることで、変わることもあるんじゃないか。職人とデザイナーが一緒に新しい価値を探すことで、産地の技術が現代の暮らしに生きるものとして、未来につながっていくんじゃないかと思うんです」

また、最終的にプロダクトをかたちにすることが終わりではなく、プロモーション戦略も含めて、完成してからがスタートだとも考えているとか。デザインという“部分”ではなく、産地の営業マンのような意識で関わる。

そこに、戸田さんの独自のスタンスと信念がある。

「ブランディングという言葉がありますが、結局は、つくり手が気持ちよく続けていきたいと思うかどうかなんですよ。そのための環境を整えたり、問題を解決したり、続けていくための土台をつくる……そのすべてが僕の仕事かな、というふうにいまは感じています。日本のなかだけで見ると、地場産業という括りで局地的になっちゃうんですけど、海外から見れば、すべてMade in Japanなんですよね。産地や伝統工芸の枠にとらわれない視点で地域性を見つめることが、結果的には、よりグローバルな発信につながっていくんじゃないかと思うんです」

イベント風景

イベント概要

クリエイティブサロン Vol.75 戸田祐希利氏
会いに行くというデザイン

肌で感じて、気持ちと身体がついてくる。作る人と使う人と一緒に考えることを意識したデザインを心掛けています。大阪を拠点とし、産地と東京を行き来しながらの活動を続けてきました。使う人とのコミュニケーションから起点と着地点をもとめて、作り手と一緒に考えています。手にとってくれた人が、産地のアイデンティティを感じて知ること。地域を見つめると、グローバルな活動につながる。地域産業や伝統技術との関わりの中で、プロダクトデザイナーとして果たせる役割についてお話したいと思います。

開催日時

2015年05月21日(火)19:30〜21:00

会場

メビック扇町 ロビー

戸田祐希利氏

1977年愛知県生まれ。富山県で家具デザインを学んだ後、2002年に家具工房に職人として在籍。2005年小泉産業入社、営業部を経て、商品開発部にて家具の企画・開発に携わる。2011年11月「暮らすひと暮らすところ」を設立。セルフ・プロデュースによるオリジナル商品を発表しながら、日常生活を起点とした商品づくりを実践している。また、国内各地手工業の作り手や売り手との関わりの中で、商品の企画・提案を行っている。

公開日:2015年06月19日(金)
取材・文:underson 野崎泉氏