デザインコンペを通して世界中にあるHidden Jewel(隠れた宝石)を見つけ出したい。
クリエイティブサロン Vol.59 Frank Zierenberg氏・髙田昭代氏

様々なジャンルで活躍するクリエイターを招き、その人となりや活動内容を聞き、ゲストと参加者、また参加者同士のコミュニケーションを深めるクリエイティブサロン。今回はドイツを拠点に国際デザインコンペを主催する団体「iF(アイエフ)」のマーケティング担当であるFrank Zierenberg(フランク・ツィーレンベルク)氏とiF日本オフィスの髙田昭代氏を招いて、海外から見た日本のデザインやiFデザインアワードと日本のクリエイターの関わりなどについてプレゼンテーション&ディスカッションを行った。

フランク・ツィーレンベルク氏と髙田昭代氏

国際コンペで高い評価を受ける日本のデザイン

ツィーレンベルク氏はドイツの大学で工業デザインを学んだ後、iFに入社。国際マーケティングを担当し、事務局のある台湾、韓国、ブラジル、ポーランド、トルコ、台北、オランダ、日本でプロモーションを行っている。氏が世界中のクリエイターやモノづくり企業との出会いを通じて感じるのは日本のクリエイティブの質の高さだという。
iFデザインアワードにおける日本初のエントリーは1970年。iFでは受賞作品の中からさらに75点がゴールドアワードとして表彰されるが、これまで日本は109点ものゴールドアワードを獲得しており、韓国45点、中国25点という数字と比較してもこの数字がいかに高いかがわかる。賞を獲るのは全体の20〜25%で、そのなかの75点にゴールドアワードが贈られるということは、受賞確率はわずか0.5%程度。にも関わらず、去年は日本からエントリーした281点のうち139点がアワードを獲得、ゴールドアワードにいたっては75点中10点が日本の作品となった。

ドイツを上回る日本のアワード受賞率

ここで過去5年間のドイツと日本のエントリー数および受賞数の推移を示すグラフが映し出された。2010年まではドイツの受賞率が日本を上回っていたが、それ以降、日本の受賞数を示す赤いグラフはドイツを超え、右肩上がりに上昇を続けており、ここ数年で日本のデザインクオリティーが急激に向上していることが窺える。
日本で最初の受賞作品は1970年のヤマギワのテーブルランプだが、iFのウェブサイトのオンライン・エキシビションではその作品はもちろん、iFが設立された1953年から61年間の受賞作品すべてが閲覧できる。国やカテゴリーごとに分けられており、非常に使えるリサーチツールとしてクリエイターたちからも好評だという。また過去3年間の作品はiFが提供している無料アプリでも見ることができる。

iFウェブサイト
Gallery | iF ONLINE EXHIBITION

小さなモノづくり企業が世界に向けて発信

次にiFが独自で行っている調査による「最も成功している日本企業」が紹介された。ランキングにはソニー、パナソニック、ブラザー、東芝、良品計画と錚々たる大手メーカーが並んでいるが、ゴールドアワード受賞企業の中には知名度が決して高くはない企業も名を連ねる。たとえば、東大阪のキャスターメーカーであるハンマーキャスターと神戸のデザイン会社がコラボしたda e casterという作品は去年、ゴールドアワードを受賞。多くのデザイナーが在籍し、予算も桁違いにあるアップルやソニーなどの大企業が賞を獲るのはある意味必然といえるが、iFでは中小企業がデザイナーと組むことで新しいものが生まれ、評価されている。ツィーレンベルク氏はそれを「Hidden Jewel(隠れた宝石)」と表現し、その宝石を発掘することこそがiFの目的だと話す。

iFウェブサイト
「da e caster」で検索

ディスカッション

参加者

アワードにエントリーすることで企業にどんなメリットがありますか? 受賞後、ブランドイメージや売上に関するリサーチはしていますか?

ツィーレンベルク氏

世界60カ国からエントリーがありすべての企業をリサーチすることは時間、コストなどの面で非常に困難を極め、できていないのが現状です。しかし、エントリーをするためには経営陣に費用対効果を示す必要があるのは理解しています。ドイツであれば受賞すればメディアで取り上げられるため広告換算価値がありますが、日本ではまだまだ難しく、今後着手して行くべき問題でしょう。今私たちが力を入れているのは受賞の事実をどのように経営資源として活用するかを企業に知ってもらうこと。また、オンライン・エキシビションやアプリだけではなく、台湾やハンブルクで実際に受賞作品を誰でも見ることができる展示施設を展開するなどの取り組みも行っています。

参加者

海外進出を視野に入れている大企業はともかく、中小企業がエントリーする理由や動機はどこにありますか?

ツィーレンベルク氏

リサーチや分析をしたわけではありませんが、私はエントリーの動機は3つあると考えています。1つは国際コンペに出展することで他社と差別化するというマーケティング戦略としてのエントリー。2つ目はチームスピリット。賞を獲ることでクリエイターやチームのモチベーションは確実にあがります。そして最後は第三者評価を得たいという欲求です。デザインの評価は数値化できません。いくらいいものをつくってもそれはすべて主観であり、その良さを証明することは不可能なのです。でも受賞の事実は自分たちのデザインの良さを外部に説明するときの武器になりますよね。企業としてもデザイナーを採用するときの判断基準になるのでしゃないでしょうか。
ただ、大企業でなくても海外に商品を流通させることは今や難しくありません。たとえば私も和紙メーカーと工業デザイナーの深澤さんがつくっているsiwa(紙和)という紙でできた鞄を日本で見て気に入ったのでオンラインで購入しているのですが、このように日本国内の企業であっても、マーケットが世界に広がる可能性は十分にあるのです。

参加者

作品の評価はどのようにされていますか?

髙田氏

iFデザインアワードはもともと家電や携帯などといったプロダクトデザインからスタートしているので、造形美を重視しています。機能はもちろん大切ですが、自動車の審査でテストドライブをすることはありませんから、200キロで走るという情報はあっても、体感する訳ではないので造形美が一番大切なのです。評価は審査員が3名1組で行いますが、ポイントをつけるのではなく審査基準に沿って議論ながら決めて行きます。もちろんそれぞれの国の文化背景の違いを考慮しながら審査をしますので、審査員の人種は基本的にはバラバラです。
造形美を基本に審査しますが、プロダクトとその中の機能を切り離しては考えられないので、デザインの中でどのようにインターフェイスが生かされているかも重要となっています。

参加者

パリで個展を開くのですが、(作品を見せながら)このように展示しようと考えています。海外の方が見たらおもしろいとおもいますか?

ツィーレンベルク氏

実用的だし、カルチャーを感じます。中の絵とプレゼンテーションのフォーマットがマッチしているので私は好きです。

参加者

日本人がよいと思うデザインと、ヨーロッパで好まれるデザインに乖離はありますか? また、日本国内における西欧スタイルの建築など実際に西欧の人がみたら違和感を感じることはありますか?

ツィーレンベルク氏

あると思います。しかし、それはどの国でも同じことが言えるのではないでしょうか。例えば私は日本食が好きで、駅で買う安いお寿司をすごくおいしいと思いますが、日本ではあれが最高のお寿司ではありませんよね。私にはなにが違うのかよくわかりません。
なにをいいと感じるかはカルチャーや国によって違いがあり、だからこそ大企業は莫大な予算をかけてリサーチを行う訳です。国によって色が与えるイメージや好まれるものもまったく違う。それをどれだけ知るかで結果が大きく変わります。クリエイターは国それぞれの基本のルールをよく理解しておくことが大切です。

参加者

今注目している国はありますか?

ツィーレンベルク氏

韓国はすごくデザインレベルの向上を感じます。サムソンなど20年前はエントリーレベルにも満たなかったのですが、今はとてもクオリティーも高く、短い期間ですごく完成度が上がったと思います。まだまだ時間はかかりますが中国も同じような感じですね。でもやはり韓国の急成長には注目しています。

日々、世界中のクリエイティブワークに触れているツィーレンベルク氏。クリエイターとはまた違った視点や見解は大変興味深く、ディスカッションは大いに盛り上がった。参加者からの質疑はまだまだ続いていたがタイムオーバーで残念ながら終了。今回のサロンでは日本のデザインレベルの高さを再認識するとともに、デザイナーや企業にとって国際コンペで賞を獲るということ、そして自分たちのデザインを世界に発信することの意味を考えるきっかけとなった。

イベント風景

イベント概要

iFが見る日本のデザイン
クリエイティブサロン Vol.59 Frank Zierenberg氏 / 髙田昭代氏

  • iFが目指すところ。
  • iF受賞作品から見るアジアとヨーロッパのデザイン事情。
  • ヨーロッパが感じる日本デザインとは。

61年の歴史を通じてiFデザインアワードでは、世界の11,700社が受賞し、33,777点の優れたデザインがアーカイブされています。このように世界各国から毎年多くのエントリーが集まり、近年は韓国、中国からのエントリーが急増している中、デザイン先進国である日本の姿がよく見えてこない。傑出したデザインやコンセプトを誇り、ポテンシャルの高い日本のデザインが世界で見えないのはなぜなのかを一緒に考えたいと思います。

開催日:2014年9月26日(金)

Frank Zierenberg氏(フランク・ツィーレンベルク)

ハノーバーで工業デザインを学んだ後、世界で最も著名なデザイン賞のひとつとして、61年の歴史を誇るiFデザインアワードを主催するiF International Forum Designに勤務。
中国でのiFデザインアワードの展開(〜2010年)、新たな分野であるパッケージアワードの創設などで活躍する。2012年からはiFの中で最も権威あるプロダクトデザインアワードの責任者となり、現在iFの海外ネットワーク(ブラジル、ポーランド、トルコ、韓国、日本)を統括するほか、国際業務を担当している。

髙田昭代氏(たかだ あきよ)

コミュニケーション・デザイナー

国際会議運営、PR / コミュニケーション事業、イベント企画制作などのマーケティング&コミュニケーション関連の仕事を経て、2007年株式会社スリーシーズを設立。以降、アジアデザイン賞(香港)日本事務局、東京国際映画祭や香港デザインセンターを中心に、クールジャパン事業などの海外関係のプロジェクトを受託し、2012年日本の若手デザイナーを海外に発信するコミュニティである「日本デザインアンバサダーズ(AODJ)」を立ち上げ、AODJの事業をプロデュースしている。2013年から国際的なデザインアワードであるiFデザインアワードの日本オフィス代表も務める。

公開:
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus

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