理論で説明できないロゴは、アートであってもデザインではない。
クリエイティブサロン Vol.56 高田雄吉氏

私たちがふだんの生活で目にするロゴは、どのようにしてつくられているのか。今回のクリエイティブサロンでは、企業をはじめ万博、オリンピックと、関西で唯一CI・ブランドデザインを専門として活躍するCID研究所の高田雄吉氏をゲストスピーカーにお招きし、ロゴ制作のプロセスや構造の解説をもとに、ロゴデザインの重要性について語っていただいた。

高田雄吉氏

ロゴに込められたコンセプトを読み解く。

NPO法人タイポグラフィ協会の理事でもあり、ブライトンホテルやリサイクルペーパーのロゴなど、およそ40年にわたり数多くのデザインを手がけてきた高田雄吉氏。「これまでもロゴに関するセミナーは何度もやっているので、今日はプロ向けにロゴロジックの話と、逆自慢話=失敗談もまじえて話そうかなと思います」。最初はチャプター形式で、「断るときはどんな時」「鼻をつままれる話」「やってはいけない」「偽物登場」「全方位的事情」など、ユニークなお題を立て、他では聞けない、ロゴデザインの現場の話がテンポ良く進められた。
次に実例をもとに、ロゴの成り立ちや制作秘話へ。まず最初にあげたのが〈ブライトンホテルズ〉。こちらのロゴには、3つの要素=コンセプトが込められているという。まずは「No.1ホテルにするぞ」という意気込みが、Bの文字の縦線に“1”として表され、「業績が上がっていく」という意味で最後の跳ねが右肩上がりになっている。そして、ゆったりとくつろげるイメージと、どんな状況でも立ちあがれるようにと、全体の雰囲気は「だるま」を思わせる安定感のあるものに仕上げられている。「自分の手法としては、幾何学的なアウトプットとハンドライティング的なアウトプットがありますが、後者の手法ではこの〈ブライトンホテルズ〉がベストです。まだ、手描きの時代に100案ほど出したのですが、物理的な労力だけでなく、考え方としても、かなり練ったものになっていると思います」

作品
〈ブライトンホテル〉ロゴ

次に2007年に創業100周年を迎えた〈山陽電鉄〉。「これまでの100年間の信頼と感謝の気持ちを垂直線と水平線で、斜めに入った線が未来への挑戦を意味し、5本のラインはレールのイメージであると同時に、5つの事業をそれぞれ表現しています」。

現在は共学になっている〈京都橘大学〉では、女子大学時代にもロゴを手がけた。その時は“橘”というビジュアルイメージにフォーカスした案を押していたが、結局はTとKのイニシャルを組み合わせた京都イメージを強調するものになった。「共学になった時に、ロゴも変更することになって、大学から依頼がありました。そこで今一度、橘の文字から家紋をイメージしたものを作成したんです。今度は採用され、初心のイメージ目標を果たしました(笑)」。日本の家紋というものは、左右対称もしくは回転対称が多く、非対称は少ない。このロゴでは家紋をイメージしながら、そこにあえて淋派や浮世絵の構図にみられる、大胆で記憶に残る非対称=アシンメトリーにデザインし、強い印象をもたらすものにしたという。


〈京都橘大学〉ロゴ

ロゴを評価する基準は、コンセプトと機能性、そして普遍性。

私たちが日常生活を送るなかで、ロゴを目にしない日はない。強く心に響くものもあれば、一瞬で忘れ去ってしまうものもある。その違いはどこにあるのだろうか。また企業やブランドにとって“顔”であるロゴの制作とは、どういうプロセスで進められているのだろうか。「会社が100あれば、100通りの理念があります。ですからぼくは、最初に会社の“過去・現在・未来”についてお聞きするようにしています。どういう歴史があって、今は何を強みにしているか、これからどこへ向かおうとしているのか。明文化されたものがなければ、聞いた話をもとに理念を言語化することもあります」。ロゴはブランドの象徴、印象に残る強さを持つものをつくりあげるためには、デザインにも“ロジック”が必要だという。社運を賭けたロゴデザインは、インパクトや見た目の良さといった単なるデザイン要素だけでなく、多方面からの基準で選ばれる。「だからそのカタチには確固たる裏付けが必要で、理論で説明できないものは、アートであってもデザインとは言えないのです」。最近ネットでは、驚くほど安いロゴ制作を見かける。その背景には、私たちが目にするロゴは一つの記号であり、それが生まれるまでのプロセスや提案力が、一般のユーザーに伝わっていないという理由もある。高田氏はロゴを評価する基準から、伝えていかないとダメだという。「まずはコンセプトがどれだけ反映されているか。次に機能性。たとえばホテルのロゴであれば、プールの底に使われる非常に大きなものから、バッジや名刺に入る小さなサイズに至るまでさまざまな場・モノに使われることになります。どんなサイズであってもきちんと視認できることも重要です」。だからプレゼンの席では、さまざまなサイズによるシミュレーションもおこなう。「さらには国際性。海外で使う場合も考えなければならない。たとえば色でいうと、香港では薄いブルーは不吉とされています。日本でもグレーの縁取りをとるとお葬式を連想されて、嫌われるのと同じです」。日本全国や海外でロゴが使われる可能性がある会社やブランドであれば、使用の際のマニュアルも制作している。ロゴに時代の空気は必要かという質問には、「企業のロゴは、今後何十年も使用することを前提につくっているので、時代の空気よりは、普遍的なものを目指しています」と語った。


〈リサイクルペーパー〉ロゴ

見たこともないものをつくる。
デザインとは、実験を繰り返すこと。

制作する際に重要となってくる、コンセプトの立て方、本質の捉え方については、以前在籍していた会社で鍛えられたという。「前にいた会社はプランニングとデザインをやっている会社で、プランナーにデザインを、デザイナーにもプランニングの経験をさせたりしていました」。そこでプランニング思考が培われた。「何案かつくる場合、デザイナーは違うものをつくっているつもりでも、人から見ると似ている場合があります。どこかに自分の造型や嗜好が現れてしまうのです。そうならないために、たとえばABCの3案を出す場合なら、Aはオーソドックスというか真面目な案、Bは女性に受けるような柔らかいもの、Cは見たことがない斬新なもの、と明確に分けるようにしています。このやり方で選考してもらうと、クライアントの求める方向性が見え、一度で決まらなくとも次のステップにつながるという利点もあります」。ロゴづくりとは、これまでになかった新しいものをつくる仕事なので、どれだけ時間がかかるか分からない。「デザインは実験に次ぐ、実験に次ぐ、実験。なので、ゴールはどこにあるかも定かではない。見積もりが難しい理由もそこにあります」。一般人から見れば、シンプルなロゴは、つくるのにたいして労力がかかっていないように見えるし、実際に「それだけ」をつくるのであれば、ここまでの苦労は必要ない。しかし完成に至るまでには、大変な数の捨てられた案がある。その中でベストのバランスを持ったものを拾い上げて決定していく。「前の事務所にいた時に、あまりに仕事が速いので、“高田は念写している”と言われたこともありましたが(笑)。実際のところ、数分でスケッチしたものが最後まで残る場合もあれば、苦しんで苦しんで100案ぐらい描いて、ようやくできる場合もある。どんな仕事でも、創造的な仕事は時間では計れない。ただ仕事なので時間の制約はある。その中でどれだけベストを尽くせるかです」。

最後に仕事のためのインプットについて語った。「学校を出てから積極的に勉強したのはサイエンスです。数値で見せることが、いちばん納得してもらえますから」。さらにいろんな人が集まる場所に精力的にコミュニケーションを図っているとも。「今もいくつかの団体に参加しています。そのなかでも日本タイポグラフィ協会では、デザインの“深度”を勉強させていただいた。それと総合デザイナー協会には、ファッションから建築、いろんなジャンルに幅広い世代のデザイナーがいます。他の分野の人の話を聞くことは、非常に新鮮で勉強になっています」。

サロン風景

イベント概要

クリエイティブサロン Vol.56 高田雄吉氏
『ロゴロジック』出版記念、逆自慢話

ロゴデザイン35年、成功の影の数々の失敗談など、著書に書けなかったあれこれ。
(『ロゴロジック―実例から学ぶロゴデザイン』 パイインターナショナル)

開催日時

2014年9月14日(日)14:00〜15:30

会場

メビック扇町 ロビー

高田雄吉氏

(有)CID研究所 代表取締役
1953年 大阪市生まれ 大阪府立市岡高等学校、大阪芸術大学デザイン学科卒業
主な仕事に、山陽電鉄CI、京都橘大学CI、ブライトンホテルCI、ダイワハウスマンションCI、主な受賞に、愛知万博誘致シンボルマークコンペグランプリ 大阪府ドーンセンターシンボルマークコンペグランプリ ウクライナエコポスター&グラフィックトリエンナーレ奨励賞(2003・2006)日本タイポグラフィ協会理事(前理事長)、日本CI会議体幹事、総合デザイナー協会理事、NYTDC会員、JAGDA会員、大阪芸術大学 客員教授

公開日:2014年10月20日(月)
取材・文:町田佳子 町田 佳子氏